ベルがアークスなのは間違っているだろうか   作:さすらいの旅人

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オラリオの歓楽街⑩

「ベル君、一体どういう事なんだい?」

 

 正座している僕の目の前に、両腕を組んで仁王立ちしている神様がいる。

 

 今いるのは【ヘスティア・ファミリア】の本拠地(ホーム)竈火(かまど)の館』で、その一階にある広いリビング。

 

 何とか歓楽街から出れたけど、本拠地(ホーム)に帰還できたのは早朝となってしった。

 

 帰って来た瞬間に僕は捕縛されてしまい、神様からの尋問を受けている。

 

「ボク達が心配して待っていたと言うのに、君はその間に歓楽街に行って、朝帰りとはねぇ~?」

 

 神様相手に嘘を吐く事が出来ない為、僕は正直に答えるしかなかった。

 

 歓楽街で充満していた甘ったるい香りはアンティを使って既に消臭した為、最初はそこへ行ってなかった事を微塵も疑ってなかった。だけど真実を言った瞬間、ヘスティア様は紙屑を見るかのような目つきで見下ろしている。その隣で軽蔑の眼差しを向けているリリも一緒に。

 

 離れたところでは男性陣のヴェルフが嘆息しており、ラウルさんは「ティオナさんが知ったらヤバいっすね」と恐ろしい事を呟いている。

 

「え、えっと、歓楽街に行ったのは勿論理由があります。帰る途中、タケミカヅチ様の女性眷族二人を見かけて……」

 

 端から聞けば言い訳にしか思われるかもしれないが、僕はそれでも理由を話す。

 

 命さんと千草さんが歓楽街へ向かっていた事を教えると、神様は意外過ぎると言わんばかりに目を見開いていた。

 

「タケの眷族(こども)達が歓楽街に行ったぁ~? 嘘じゃないのは分かるけど、あの子達がどうしてそんな場所に?」

 

「だから気になって追いかけたんです。でも結局は見失っちゃって――」

 

「それで娼婦と寝たのですか?」

 

「そんな事はしてないから!」

 

 途中でリリがとんでもない事を行ってきたので、僕は音速の勢いで首を横に振る。

 

「ならば、何故すぐに帰って来なかったのですか? ベル様なら出来た筈ですよね?」

 

 リリがこうまで疑うのは、遠回しに『どうしてアークス用の携帯端末機を使わなかったのですか?』と言っているのだ。

 

 確かにアレを使えばどんなに迷ったところでルートを自動で記録してくれるから、歓楽街から出るのは造作も無い。

 

 だけどリリとしてはそんな事よりも、今まで何度も通信したのにも拘わらずに全然繋がらなかった事に腹を立てている。僕が応答しなかったから、娼婦と寝たのではと疑っているのだ。

 

 女戦士(アマゾネス)達にずっと追いかけ回された所為で端末機を使う暇など無く、その途中で娼婦の春姫さんに匿ってもらった際に逃がしてもらった。と言う理由を述べても、今のリリは言い訳にしか聞こえないだろう。

 

 だから僕が今出来るのは、真正直な気持ちで身の潔白を訴える事しか出来ない。

 

「と、とにかくっ、変なことは一切していません!」

 

「むむぅ………」

 

 僕の叫びに神様は判断に迷っている様子だった。嘘じゃないのは分かっても、疑惑が完全に晴れていないのだろう。

 

 もし僕の電子アイテムボックスの中に収納している、ヘルメス様から貰った精力剤の事を知れば言い逃れが出来なかったかもしれない。

 

 本当なら潔白を証明する為に話すべきなんだけど、(からかい目的でも)神からの贈り物を無下にする訳にはいかないから、敢えて何も言わない事にした。

 

「……どうされますか、ヘスティア様?」

 

 リリが裁断を仰ぐと――

 

「……ベル君の言ってる事は本当だ。一応後でタケの子達にも確認を取るとしよう」

 

 ヘスティア様は深い溜息を吐きながら、そう言った。

 

 どうにか疑いが晴れたと安堵の表情を浮かべる僕だったが、神様はすぐに怒りの形相を纏い直した。

 

「ただしっ、ボク達に何の事情も話さず一人で歓楽街に行ったことは許さない!」

 

「うぐっ……」

 

 そこに関して一切否定出来なかった。確かに端末機を使ってリリに事情を話していれば、神様はこんなに怒ったりしない。僕の独断が招いた結果がこうなってしまったから。

 

「今日一日、君には罰を与える。ご近所への労働奉仕だ!」

 

「は、はぃ……」

 

 僕は項垂れながら、消え入るような声で答えるしかなかった。

 

 

 

 

 

 

「宜しいのですか、ヘスティア様? ベル様に労働奉仕なんかさせて」

 

 ベルに罰を与えた後、ヘスティアはリリを連れて【タケミカヅチ・ファミリア】の本拠地(ホーム)仮住居の長屋(タウンハウス)』へ向かっていた。そこへ向かう理由は当然、歓楽街へ行った命と千草に確認を取る為である。

 

「良いんだよ。ボクが怒っているって事を教えないといけないからね」

 

 ベルが主神思いなのはヘスティアも理解している。だけど、何の相談もせずに歓楽街へ行ってしまったのは正直言って不味かった。

 

 以前から『決して歓楽街に行かないように』と厳命していたのは、個神的に行って欲しくないだけでなく、ベルの活躍や強さを知っているであろう娼婦達が間違いなく狙うのが目に見えているから。

 

 他にも理由がある。歓楽街を取り仕切っている【イシュタル・ファミリア】の主神イシュタルが非常に厄介な女神なのだ。

 

 ヘスティアは詳しく知らないが、【イシュタル・ファミリア】は他のファミリアと違って、迂闊に手を出す事が出来ない。それは都市最大派閥の【ロキ・ファミリア】も含まれている。

 

 もしもベルが歓楽街で遊んでいたとは別に、何かしらの問題行動を起こしたとなれば、イシュタルはそれを口実に訴える可能性がある。彼女もベルがオラリオで注目されている冒険者なのを知っているから、アポロンとは違うやり方で奪おうと、美の女神である『魅了』の力を使うかもしれない。尤も、異世界(アークス)の力を持っているベルに通用するかは分からないが。

 

 昨夜にあった話を聞く限り、ベルの貞操を狙おうとしていた娼婦達が追いかけ回していたなら、イシュタルが訴えるような真似はしない筈……と思いたいのがヘスティアの心情だ。

 

 他にも考える事はあるが、取り敢えずはタケミカヅチの眷族達から歓楽街へ向かった目的を聞き出す必要がある。そう考えたヘスティアは、【イシュタル・ファミリア】の事を一旦後回しにした。

 

「ヘスティア様、リリから一つ訊きたい事が」

 

「何だい?」

 

「未遂とは言えベル様が歓楽街に行ったことを【ロキ・ファミリア】、と言うよりティオナ様が知ったらどうするつもりですか? あの方はベル様に好意を抱いていますから、何かしら理由を付けて本拠地(ホーム)に居付くような気がします」

 

「…………それもあったかぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 ヘスティアは肝心なことを忘れていた。【イシュタル・ファミリア】以上に厄介なアマゾネスがいたのを。




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