ベルがアークスなのは間違っているだろうか 作:さすらいの旅人
神様とリリが【タケミカヅチ・ファミリア】に確認を取っている中、僕は奉仕活動を行っていた。
今まで自分達の身の回りでやる事が色々あって出来なかったけど、もしかしたら神様は罰と言う方便で、ご近所付き合いをさせようと考えたのかもしれない。
僕が名前を名乗ってから、町の住人たちの悩み事や労働に手を貸していくと、あっと言う間に状況が変わっていく。
路地の清掃から始まり、魔石街灯の補填、荷物運搬……等々行い、その後には必ず感謝の言葉をもらう。
街の住民は冒険者には依頼と言う対価を差し出さなければならないが、僕が無償で手伝うと分かった途端、次々に頼もうと声を掛けている。
因みに奉仕活動は――
「いくらベルでも、あんなに沢山声を掛けられたら大変だろ」
「自分達だけ何もせずただ見てるだけなのは大変気まずいっすからね」
ヴェルフとラウルさんも一緒に手伝ってくれていた。
上級冒険者の二人もいるからか、奉仕活動の範囲が
西の大通り沿いにある、僕の行きつけとなってる酒場『豊穣の女主人』の前を通りかかった際、アーニャさんルノアさんが僕を見た瞬間に目の色を変えていたので――
「ああっ! 白髪頭、何でミャー達を見た瞬間に逃げるニャ!?」
「ちょっとぉ! 奉仕活動してるなら、私達の仕事も手伝ってよぉ~!」
あの人達から嫌な気配がした為、ファントムスキルを使って逃走する事にした。
本当なら請け負うべきなんだけど、あの店の常連になっている僕は、シルさんを含むウェイトレス達が相当な曲者揃いなのを理解している。安易な気持ちで彼女達に手を貸してしまったら最後、奉仕活動とは別に本来彼女達がやる筈の雑用まで押し付けられそうな気がしたから。
それとは別に、何故かシルさんやリューさんに会ってはいけないような気がした。アンティのお陰で娼館の香りが完全に取り切れても、何か勘付いて言及されそうな展開が浮かんだから。
朝から奉仕活動をやって数時間以上経ち、そろそろ昼食の時間だから、ヴェルフとラウルさんには一旦休憩しようと言っておいた。
二人が作業を止めて
「あれ、ベル君?」
「エイナさん……」
僕の姿を見かけたエイナさんが声を掛けて来た。
いつもだったら何の気兼ねも無く相談に乗ろうとするけど、今回ばかりは少々躊躇ってしまう。他所の【ファミリア】の簡易的な公開情報を調べるとは言え、女の人相手に昨日の歓楽街の事を話したら軽蔑されるかもしれない。
「もしかして、何か悩み事?」
「……よく分かりましたね」
「分かるよ、そんな顔をしてたら。私はキミのアドバイザーなんだから」
担当になってから数ヵ月とは言え、エイナさんには分かったようだ。
向こうが相談に乗ってくれる姿勢になっているから、僕は意を決して話そうと決心した。
「歓楽街で朝帰りぃ~?」
「で、ですから理由がありまして……!」
打ち合わせをする面談用ボックスで思い切って話したけど、エイナさんは先程の笑みから一転して軽蔑の眼差しを向けていた。
それだけでなく、整った柳眉を寄り合わせながら怒気の気配がひしひしと。
潔癖とも言えるエルフの血がある所為か、不潔と言わんばかりの様子なのは一目瞭然だ。
顔を赤らめたままのエイナさんは、途端に狼狽するように視線を左右に揺らす。
「そ、それはベル君だって男の子だし……そ、そーいうことに興味を持つのは分かるけど……で、でも、でも……」
ハーフエルフの尖った耳まで真っ赤に染まり、呟きを繰り返していく。
「や、やっぱり駄目ぇ~!?」
そして最後は両目を瞑って大声を出した。
「キミはそんなとこ行っちゃダメ!」
「あ、いや、場合によっては……」
「とにかくダメ!」
「は、はい……」
身を乗り出して来たエイナさんの凄い剣幕に、僕は頷いてしまう。
普段から姉のように振舞っているエイナさんだけど、今は幼い女の子みたいにそっぽを向いている。
歓楽街を取り仕切る【イシュタル・ファミリア】について聞きたいとは言え、やっぱり女の人に相談する話じゃなかったか。と言ってもアドバイザーのように対応する男性職員がいないから、どの道エイナさんに相談する事に変わりない。
非常に居心地の悪い空気がする中、僕は割り切ろうと尋ねる事にした。
「あの、【イシュタル・ファミリア】について教えてくれませんか。言っておきますが、これは真面目な話です」
未だに歓楽街に興味津々だと勘違いしてジロリと睨んでくるエイナさんだが、僕は決して浮ついた事じゃないと弁明する。
一方的に追いかけ回されたが、その所為でイシュタル派と思われるアマゾネス達と関わってしまった為、また絡まれるかもしれないから今度は前以て情報を知っておきたい。以前の【アポロン・ファミリア】みたいに、何かしらの理由で襲撃の可能性を考えておかなければならない事を説明する。
真剣に説明する僕に、エイナさんは【アポロン・ファミリア】の件を思い出したのか、資料用のファイルを取りに行こうと一旦部屋から出た。
そして数分も経たない内に戻って来たエイナさんは、大型の資料を机の上に置いてぱらぱらと捲る。
「【イシュタル・ファミリア】はダンジョン探索の実績、そして商業面、どちらもトップクラスの派閥よ」
エイナさんの説明に僕は耳を傾ける。
構成員のメインはアマゾネスで、男女比は一対九。知っての通り歓楽街を営み、全体収入の四割以上を占めるとまで言われているそうだ。
「戦闘員のアマゾネスは『
『Lv.5』、か。どんな人かは知らないけど、警戒しておくに越したことは無いだろう。
そう考えていると、エイナさんが予想外の台詞を口にした。
「何でも、あのヴァレンシュタイン氏も負けかけたことがあるらしいよ」
「えっ!?」
『Lv.6』のアイズさんが負けそうになったって……一体どういう事なんだ?
「と言っても、もう何年も前の話よ。当時はジャミール氏の方がレベルが高かったし」
「そうでしたか」
確かにそれなら納得が行く。『Lv.6』になった今のアイズさんが格上だから、余程の事態が起きない限り負ける事は無い。
とは言え、片思い中の人物を引き合いに出された事で、僕は【イシュタル・ファミリア】が【ロキ・ファミリア】に匹敵する大派閥だと言う事を痛感した。
「あの、アイシャさんっていう
「アイシャ・ベルカは有名だよ。『Lv.3』だけど、ランクアップ間近って言われてる」
ランクアップ間近、か。恐らくあの人は僕が自分と同じ『Lv.3』の他、自分達のテリトリーである歓楽街なら捕まえれると確信して執拗に追いかけ回したんだろう。あの時の僕はあそこの空気に当てられた所為で気配や足音が完全に漏れていたから、危うく捕獲されそうになったのは事実だけど。
「もう一人の
資料を逐一確認しながらエイナさんはそう告げた。
非戦闘員、か。それはつまり『
確かにそれは充分に有り得るだろう。春姫さんは人身売買をされてオラリオに流れ着いた身だ。そんな彼女が
考える仕草をする僕に、エイナさんは「何か気になるの?」と尋ねられるも、咄嗟に単なる確認だと言葉を濁しておいた。
「あのね、ベル君。これは余り大きな声で言えないんだけど……」
すると、エイナさんは突然ある話を切り出して来た。
「五年ぐらい前にね、【イシュタル・ファミリア】は、複数の【ファミリア】から訴えられたの。『団員達の力が、ギルドに報告されているレベルを遥かに上回っている』、って」
「実力を偽ってたって事ですか?」
「ギルドが確認の為に調査を入れたけど、結果は白だった。でも、それだけじゃ終わらなかったの」
抗議でもしたのかと予想する僕だったが、それを裏切るようにエイナさんは告げた。
「神イシュタルは訴えた【ファミリア】を訴え返し、
「ッ!?」
女神イシュタル様がとんでもない事をやったにも拘わらず、まだ続きがあった。
「更にギルドにも罰金を要求してきたの。沢山の秘匿情報がギルドに流出したから、って」
「ギルドからお金を……?」
「うん。それ以来立場の弱くなったギルドは、歓楽街で行われることに口出し出来なくなったの」
ギルドが、と言うよりギルド長のロイマンさんが何も言えなくなってしまう程なのか。
もしかしてアイシャさん達はそれを知っているから、あんな拉致も同然の行いを平気でやれたのかもしれない。仮に僕が【イシュタル・ファミリア】に抗議したところで、弱味を握られてるギルドは手出し出来ないだろうと。
「ベル君、【イシュタル・ファミリア】は以前君が倒した【アポロン・ファミリア】と違って、見た目の強さ以上に怖い派閥だよ。君が懇意にしてるあの【ロキ・ファミリア】よりも、ね」
強さだけでなく、薄気味悪さを訴えるエイナさんは僕に釘を刺してきた。
敢えて【ロキ・ファミリア】を出したのは、フィンさん達ですら迂闊に手出しできないほど厄介な相手、と言う忠告をしたのだろう。
「……と言う事は、ギルドは歓楽街の中で何が遭っても……」
確認の意味も込めて問う僕の問いに、エイナさんは目を伏せた。
「……うん、静観の構えだよ。例え把握しても――決定的な証拠を掴まない限り、取り締まることは出来ないと思う」
やっぱりか。
もし僕が【イシュタル・ファミリア】と何かしらの騒動が起きても、ギルドを当てにする事は出来ないようだ。
フィンさんならある程度は協力してくれるかもしれないけど、状況によっては今の関係を打ち切られてしまう可能性があるから、迂闊に助力を求めてはいけない。もしティオナさんが知ったら、絶対ややこしい事になるのが容易に想像出来る。
取り敢えず僕からは迂闊に歓楽街へ近付かないようにしておこう。同時に向こうから理不尽な理由で襲撃してこないことを祈る。もしそうなればスキルを発動した怒髪天状態のリリが報復として、何の躊躇いもなく
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