ベルがアークスなのは間違っているだろうか 作:さすらいの旅人
「………ふぅっ、やっと終わったぁ」
アンタレスの本体が消滅した為か、今まで僕達が斬り落とした部位が全て灰となって霧散していた。念の為に周囲を確認するも、アンタレスや眷族の蠍型モンスターの気配が一切感じられない。全て終わったと認識した僕は安堵の息を漏らした。
今まで
二人の気遣いに感謝しながらも――
「約束通り、矢を使わずにアンタレスを倒しました。これでもう貴女を縛るものはありませんよ、アルテミス様」
「あ、いや……その……」
思ったままの言葉を告げると、アルテミス様は赤面しながら動揺していた。僕が本当に約束通りの事をしたから言葉が出ないんだろう。
「ぶ~……何か見てて面白くない~」
「……何だろう、この気持ち……」
僕とアルテミス様の会話を見守っていた二人が、何故か面白くなさそうな表情をしていた。
疑問を抱いた僕が声を掛けようとするも、途端にアルテミス様が両膝を付き、手を伸ばして横たわっている自身の本体に触れようとする。その直後、思念体のアルテミス様が光の粒子となって消えていく。
「アルテミス様!」
「「ッ!」」
突然の事に僕達が焦るが、彼女は首を横に振りながら告げる。
「心配するな。役目を終えた
告げている途中に思念体のアルテミス様は消えてしまい、それらの粒子は全て本体のアルテミス様へと吸い込まれていく。
彼女の本体から発している淡い光は徐々に弱まっていき、そして完全に失うと――
「ッ……ここは……?」
アンタレスに取り込まれ、閉ざされていたアルテミス様の双眸がゆっくりと開いた。
僕達が驚愕している中、朧げな表情で上半身のみ起こす。その直後、僕の方へと視線を向ける。
「……まさかこのような事になるとは思いもしなかった……アンタレスに喰われた私を……救ってくれる者がいたなんて……」
「アルテミス様……」
思わず目線を合わせるように僕がそっと両膝を下ろすと、彼女は両腕を伸ばして……そのまま僕に抱き付いてきた!
「ちょっ! あ、アルテミス様……!?」
「ありがとう。私の愛しい
動揺する僕を余所に、アルテミス様は感謝の言葉を述べていた。
って、すっごい今更だけど素っ裸だった! そのアルテミス様が僕に抱き付いている光景は物凄く不味い!
ただでさえアイズさん達に見られているのに、こんな所を他の人達に――
「こらぁ~~~~! 僕のベル君に抱き付くんじゃないアルテミス~~~~!!」
と思いきや、遠くで戦いを見守っていた神様達が此方へ向かってきた。特に神様が憤慨しながらも、アルテミス様を見ながらも涙を流すと言う器用な事をしている。
その後は誰もが安堵していた。
駆け付けた神様が僕ごとアルテミス様に抱き付き、わんわんと大泣きしていた。アルテミス様を助けてくれてありがとうと、僕にお礼を言って。
ヘルメス様はアンタレスを矢以外で倒す事は全くの予想外だったみたいで、只管僕に感謝の言葉を送り続けていた。同時に僕のファンになったから、これからも応援させてもらうと。まぁその後、全裸のアルテミス様を見て夢が叶ったと僕に思いっきり感謝をした直後、アスフィさんからの強烈な
そのアスフィさんは全裸のアルテミス様に自身が纏っているローブを着せた後、いきなり僕に謝罪してきた。理由は矢を抜いた僕が初めからアンタレスを倒せる訳がないと侮っていたそうだ。僕自身も不死身のアンタレスを倒すのは絶対無理だと思っていたのは内緒にしておく。
最後にリューさんは力になれないで申し訳ないと謝った後、ちょっとした苦言を呈された。裸の女神様と抱き合うのは良くないと。そこは否定出来なかったので甘んじて受け入れている。
駆け付けた方々の対応を終え、アンタレス討伐とアルテミス様救出を完遂した僕達は遺跡から出ようと地上へ戻る。本当は【アルテミス・ファミリア】の遺体を地上で埋葬する為に運びたかったが、人数が多かったので断念せざるを得なかった。後ほど【ヘルメス・ファミリア】の団員達に運ばせるとヘルメス様が仰ったので、取り敢えずは身形を正すだけに留めておいた。
地上へ戻り、遺跡を出る途中に変化が起きていた。僕達がアンタレスの元へ向かってる道中、異界化していた元凶の肉網と楕円形の卵、そして残りの蠍型モンスターが全て無くなっていた。大量の灰と数多くの魔石だけを残して。アルテミス様曰く、『アレ等は全てアンタレスが創り出したものだから、その主が死ねば消える定め』らしい。それを聞いたヘルメス様やアスフィさんは安堵していた。【アルテミス・ファミリア】の遺体を、何の障害もなく運び出す事が出来ると。
そして僕達が漸く遺跡から出ると、いつの間にか夜だった。この遺跡に入ったのが早朝だったけど、色々な事があり過ぎて時間の感覚がおかしくなっていたようだ。僕だけでなく、誰もが疲れ切った表情だった。特にアルテミス様はアンタレスに取り込まれた事もあって、未だに一人で歩く事が出来ない状態なのでリューさんに支えられている。
一番辛いのはアルテミス様だと分かっている僕達は、一刻も早く【ヘルメス・ファミリア】の野営地に連れて行こうとするが、突如地面が揺らいだ。
「え、な、何!?」
「地震……!?」
突然の事にティオナさんとアイズさんが驚きながらも周囲を見渡す。僕もアンタレスのモンスター残党が出現すると思って警戒するが、それらしきモノは一切なかった。
でも、この地震と嫌な気配はなんだ? まるで何か起きそうな前兆の気がする。
「まさか……ッ!」
「アルテミス様? ………なっ!」
すると、アルテミス様が夜空を見上げた。支えているリューさんも見上げた直後に驚愕の声を漏らした。
その反応を見た僕達も倣って夜空を見上げた先には、三日月を模した巨大な弓矢が地上へ向けられている。しかも射る寸前みたく放たれようとしている。
「う、嘘だろ……何で……!」
「神様、アレは一体……?」
驚く神様に僕が問うと――
「『アルテミスの矢』だ」
ヘルメス様が代わりに答えた。驚愕な表情となりながらも更に教えようとする。
「純潔の女神であるアルテミスが放つ、天界最強の矢。アレが地上に放たれた瞬間、間違いなく下界が吹き飛ぶぞ……!」
聞きたくもなかった最悪の展開を教えるヘルメス様に、この場にいる誰もが戦慄した。
「何で!? どうして!? 元凶のアンタレスはアルゴノゥト君が倒したのに、何でアレが発動するの!?」
ティオナさんの叫びは誰もが疑問に思っていた。
勿論僕もアンタレスを倒せば全て終わると思っていた。あの肉網や蠍型モンスターが全て無くなって終わったと確信したと思いきや、こんな展開になるなんて思いもしなかった。
神様達も僕と似たような事を考えていた筈だ。そうでなければ、あんな驚愕した顔を見せたりはしない。
誰もが驚愕している中、アルテミス様は何か気付いたようにハッとする。
「そうか。本体の私がアンタレスと分離した事で、私との繋がりが断たれたアルカナムは制御を失って完全に暴走しているんだ!」
「何だって!?」
アルテミス様の発言に神様が再び驚愕した。同時に僕は後悔する事になる。
それはつまり、アンタレスを取り込んだアルテミス様をフォトンで分離させた僕の失態だ!
何て事だ! 僕のやった事は却って下界の人々を消滅する為の手順をだけじゃないか!
「アルテミス、あの『矢』を早く止めてくれ!」
「無理だ。アレはアンタレスによって作り出された力……既に繋がりが断たれている私に、もう止める事は出来ない……!」
止めてくれと懇願する神様だったが、非常に申し訳なく口にするアルテミス様。
「不味い。あの完成された弓矢を見る限り、もう放たれる寸前だ……! このままだと……」
再び最悪の展開を告げるヘルメス様に、誰もが打つ手は無いと徐々に諦観して顔を俯かせていく。
しかし――
「いや、まだ止める方法はある!」
アルテミス様の台詞に全員が俯いていた顔をあげた。途端に彼女はこう叫んだ。
「ヘスティア、ヘルメス、今すぐに私を送還するんだ! あの弓矢は元々私のアルカナムだから、私自身さえ送還されれば消滅する筈だ!」
「そ、そんなの出来るわけが……!」
「本当にそれで消滅するのか? 力の繋がりが断たれていると言ったのは君自身だ。俺達が送還させたところで、結果は変わらないんじゃないかい?」
会話を聞いていた僕達は愕然とした。やっとの事で助け出したアルテミス様を、ここで送還させるなんて出来なかった。神様は勿論の事、最初は彼女を送還するしか方法はないと提案していたヘルメス様でさえも。
アルテミス様が下界の人間の僕達でなく、神様達に送還させるのは、神殺しをさせない為の気遣いなのだろう。元々は『矢』で僕に殺させようと……ん?
ちょっと待て。今更思い出したんだけど、僕が所持している『オリオン』と言う矢は、確か神々をも殺す武器と呼ばれていた。
………試してみる価値はありそうだ。このまま何もしなければ、あの矢が放たれて下界が吹き飛んでしまう。加えてアルテミス様を送還させたところで、本当に助かるなんて保証はない。ここはいっそ勝手ながら、最後の悪足掻きをさせてもらう。
僕はそう思いながら、電子アイテムボックスに収納していた矢を取り出すと、途端にアルテミス様達が此方へ振り向いた。
「オリオン?」
「ベル君、一体何を?」
「! ベル君、君がやらなくても……!」
ヘルメス様だけが何か気付いたように叫ぶも、察した僕は否定するように首を横に振った。
「違いますよ、ヘルメス様。僕は最後の悪足掻きをしに行くだけです」
「悪足掻き、だって?」
鸚鵡返しをするヘルメス様に僕は頷いた。
「ええ。アルテミス様を送還するのは、僕の悪足掻きが失敗した時の最終手段にして下さい。では……」
「ベル君!」
「オリオン!」
「アルゴノゥト君!」
僕が突然ファントムスキルで姿を消した事に、神様とアルテミス様にティオナさんが揃って叫んだ。
本当に凄くどうでもいいけど、三人の呼び方って全部僕なんだよなぁ。
「この辺で良いか」
遺跡の高い所へ移動し、ファントムスキルを解除した僕は姿を現す。
下にいる神様達が僕に向かって何か叫んでいるけど、敢えて気にせずに上空へと視線を向ける。それと同時に、僕が手にしている矢にフォトンを注ぎ込む。
すると、まるで感じ取ったかのように上空の弓矢が反応を示していた。矢の穂先が僕がいる方へと向けている。
矢の存在、もしくはフォトンに反応したのかは分からないが、どちらにしても好都合だった。もし此処とは違う方角で矢を放たれたら、それを追うように狙わなければいけなかったので。
心置きなく狙いを一点集中できると思いながら、僕は体内にある全てのフォトンを矢に注いだ。
それに呼応するかのように、矢から穢れがない純白の光を輝かせている。まるで僕の力とアルテミス様の力が融合していくように。
「チャンスは一度だけ。この一撃に全てを賭ける……!」
僕が投げる構えを取ると、矢から発せられる光の輝きがどんどんと強くなっていく。そして光が収束するように形付いて、巨大な矢へと変貌する。
正直言って、本当にこれで上手くかなんて全く分からない。もしかすれば失敗するかもしれない。自分のやる事が無駄な抵抗かもしれない。そんな不安が僕の頭を何度も何度もよぎる。
だけど、最後までやると決めた以上放り出すわけにはいかない。それはアークスとなった僕の誓い、と言うよりキョクヤ義兄さんの教えだ。
この世界にいないキョクヤ義兄さん、そしてストラトスさん。勝手ではありますが、力を貸して下さい! 僕はどうしても、この生まれ故郷の世界を守りたいんです!
――全く、どこまでも困った奴だ。俺の闇が必要なら遠慮なく言え。命懸けで戦う
――恐縮です、ベル君! 私の憧れのあの人みたいに世界を救ってください!
気のせいだろうか。どこからか二人の声が聞こえたような……取り敢えずは素直に受け取っておくとしよう。
そして僕の体内フォトンを全て注ぎ終えると、矢も凝縮された力の塊となった。上空にある弓矢に対抗出来るかは分からないけど。
直後、タイミングを計ったかのように上空の弓矢が放たれた。そのまま此方へと向かっていく。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああッ!」
放たれた巨大な矢に対抗する為に、僕はやり投げの要領で助走しながら叫び――
「いっっっっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!」
夜空に向かって矢を投擲した。
フォトンで強化した巨大な矢と、アンタレスによって作られた巨大な矢が激突する。
そして――――
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