ベルがアークスなのは間違っているだろうか 作:さすらいの旅人
「昨日はごめんなさい。私としたことが取り乱し過ぎちゃったわ」
「いえ、お気になさらず」
時刻は深夜。
オラリオ中央、白亜の巨塔の最上階にある部屋で『美の神』フレイヤが、巌のような巨軀を誇る
フレイヤが謝っているのには理由がある。昨夜、とある事情により極度の錯乱状態に陥っていたのだ。普段から冷静沈着な『美の神』を知っている他の神々であれば、余りにも信じられないと疑ってしまう程に。
それとは別に、オッタルは彼女が元に戻った事に安堵していた。もし
最上階で起きた出来事を知っているのは彼以外に、待機していた女性従者二名のみ。昨夜の件は絶対外に漏らさないように誓ったのは言うまでもない。
「オッタル、
豪奢な作りをした椅子に腰かけているフレイヤは、オッタルに命じた。
普段の彼女であれば
本当なら
「フレイヤ様、その、少しばかり報告がありまして……」
大切に保管されている
「……ふぅっ。何かあったのかしら?」
グラスに入ってる
「ミアを通じて、神ヘルメスからの情報では――」
錯乱状態になっていたフレイヤは話が出来る状態でなかった為、オッタルが代理として聞く事になった。ベル・クラネルが、女神イシュタルに目を付けられたと言う情報を。
今の彼女にそれを話すのは正直不味いのだが、必ず送るようにと
オッタルがミアより聞かされた内容を一字一句間違う事無く伝えた後――
「………は?」
案の定、静謐な美貌を再び歪ませるフレイヤだった。
昨夜のような錯乱状態にはなっていないが、間違いなく機嫌を損ねる情報なのはオッタルも重々承知している。だが伝えなければ後々面倒な事になってしまうから、厳罰を覚悟で報告せざるを得なかった。
「あの
一通りの報告を聞いたフレイヤは、一気に機嫌が悪くなったのは言うまでもない。もしこの場にヘルメスがいたら、問答無用でしばき倒しているだろう。
彼女は、くるくると己の銀髪を指で巻きながらも、イシュタルがそう動くのは仕方のない事だと思っていた。
「やっぱりあの時、余計な口出しをせずに静観すべきだったわね」
らしくない失態を犯したと嘆息するフレイヤ。
ヘルメスからの情報とは別に、イシュタルがベルを自分のモノにしようとする動機が、主に自分に対する当てつけだと察している。
以前の『
決定的な証拠が無くとも、フレイヤはイシュタルを一切躊躇わらず天界へ送還させる。しかしアレでも一応は【イシュタル・ファミリア】の主神で、オラリオの経済を支える大派閥なので、問答無用で潰せばギルドが絶対黙っていない。尤も、向こうから戦争を仕掛けてくるのであれば話は別になるが。
オッタルが眉間に力を入れて押し黙る様子に、再び
「イシュタルが馬鹿なことをしなければいいのだけど」
「……かの兎を襲う、と?」
「あの子の実力を考えれば問題無いわ」
ベルは現在『Lv.3』になっているから、【イシュタル・ファミリア】が襲撃したところで問題無いと踏んでいる。例え『Lv.5』のヒキガエルみたいな醜い女団長がいても、格上殺しの実力を持つベルであれば倒せるだろうと確信している程だ。
だが眷族とは別に、イシュタルが自ら動き出すのであれば話は別だった。『魅了』は簡単に抗えるモノではないと、彼女と同じ『美の神』であるフレイヤは充分に理解しているから。
もしも骨の髄まで魅了されたベルを見た瞬間、彼女は絶対に正気を保つことは出来ないだろう。イシュタルをただ天界へ送還させるのではなく、『
「ベル・クラネルを、此方が先に
「……それはまだ、待ちなさい」
オッタルの提案に、フレイヤは一瞬頷きそうになるも、頑なに退けた。
詫びようとする従者を咎めない彼女は、窓の外に目を向ける。
だけどすぐに、フレイヤは長し目でオッタルの顔を見上げてこう言った。
「イシュタル達を見張るよう、他の子にも伝えておいてちょうだい」
「畏まりました」
応答を聞いたフレイヤは、グラスに残っていた
因みにボトルにはまだ充分な量があるのだが、残った分はベルと一緒に飲もうと、再度厳重に保管するのであった。