ベルがアークスなのは間違っているだろうか 作:さすらいの旅人
(う~ん、下手に関わっちゃいけないのは勿論分かってるけど……)
タケミカヅチ様達と話をした翌日の午前、僕はギルドに向かう為に
昨日の命さんがどのような行動を取ったのかは大体想像が付く。再び歓楽街に足を運び、春姫さんがいる遊郭へ向かった筈だと。それは当然僕だけでなく、その場にいた神様やリリやヴェルフも同様に。
更に、リリはこうも推察した。会えたところで、絶対に命さんが望む展開にはならないと断言した程だ。
何故そこまで言い切れるのかと僕が訊いたところ――
『娼婦に身を落としたなんて昔の知り合いに見られたら、途轍もなく恥ずかしい気持ちになるからです。春姫様と言う方がリリと同じ事を考えているのであれば、必ず他人の空似だと言って拒絶するかもしれません』
と、女性ならではの視点での理由を述べてくれた。
確かにと頷くヘスティア様だけでなく、男の僕達も充分に納得出来るものだった。
リリの推察通りであれば命さんは今頃、タケミカヅチ様や桜花さん達の前で物凄く落ち込んでいるだろう。何とかしてあげたいけど、こればっかりはどうしようもない。
春姫さんは現在【イシュタル・ファミリア】に所属する眷族の扱いになっている。彼女が違法手段でオラリオに売られたとギルドに訴えたところで、証拠不十分として打ち切られてしまう。加えて中立である筈のギルドでも迂闊に手が出せないとエイナさんが教えてくれたので、全く当てにならないと考えた方が良い。
何とか穏便に済ませる方法が無いかと考えながら、歩きながら
「や、やぁ。ベル君」
「……ヘルメス様?」
こそこそと物陰に隠れていたヘルメス様が、まるで気を窺っていた感じで目の前に現れた。
何か妙に焦っているような感じが見受けられるけど、そこは敢えて気にしないでおく。
「あ、そうだ。一昨日にくれたコレは今の内に返しておきます」
「え?」
(ヘルメス様に見えないよう)電子アイテムボックスから精力剤が入ってる小瓶を取り出し、即座に手渡した。
「あ、あ~、そうかい? や、やっぱりお気に召さなかったみたいだねぇ、あははは……」
素直に精力剤を受け取ったヘルメス様は、すぐにズボンのポケットに仕舞い込む事に、僕は妙な違和感を覚える。
この男神様と知り合いになったばかりだけど、妙に素直過ぎて逆に怪しく思えてしまう。一昨日の歓楽街では凄く親しげに話しかけてきただけでなく、精力剤を渡しながら僕を揶揄っていたから。
「ところでベル君、最近何か物騒な目に遭わなかったかい?」
「一昨日ヘルメス様の所為で、沢山のアマゾネス達に追いかけ回されましたよ」
「それは災難だったね」
「……ヘルメス様、今の僕は【ヘルメス・ファミリア】と
「すいませんでした!」
僕は笑みを浮かべながら
因みにキョクヤ義兄さんから、『愚かな発言を宣う莫迦には相応の報いを与えた方が良い』と教えられた。あの時は余りにも過激だと思っていたけど、今になって必要な事だと改めて理解する日が来るとはね。
「な、何か困ってる事があれば、俺が相談に乗るよ?」
僕を怒らせた罪滅ぼしなのか分からないけど、ヘルメス様は頭を上げながらそう言ってきた。
「でしたら、【イシュタル・ファミリア】について聞きたい事があります」
勿論誰にも言わないのを条件として、と僕は付け加えた。
それを聞いたヘルメス様は、脱いだ帽子を胸に当てる。
「分かった。ベル君の話は決して誰にも言わない、
「……その言葉、本当に信じて良いんですね?」
「勿論だとも」
嘘偽りないと断言してくるヘルメス様に、僕は一先ず信じることにした。
☆
場所を変えようとヘルメス様が言ったので、ある喫茶店に案内された。
喫茶店『ウィーシェ』は中々
「なるほど……訳ありな娼婦、ね」
一通りの話を聞いたヘルメス様は、出された紅茶で一度口を湿らせる。
本当は春姫さんがタケミカヅチ様達の知り合いと言いたかった。けれど他所の神様に教えてしまえば、場合によって弱味を握られてしまう事態になりかねないので、敢えて僕が偶々裏事情を知れたと言う筋書きにしてある。春姫さんの事情を知れたのは本当に偶然だから、別に嘘は吐いていない。
「その娼婦を強引に娼館から連れ出すのはお勧めできない。確実に抗争になる」
抗争になったら【ヘスティア・ファミリア】はただじゃ済まない、そう語るヘルメス様に僕は頷いた。
同じアークスのリリは大丈夫だと思うけど、神様やヴェルフ達を巻き添えにしてしまう状況になるのは不味い。
ヴェルフは
だけど僕達とは別に、【タケミカヅチ・ファミリア】が一番危ういかもしれない。特に命さんがタケミカヅチ様達の制止を振り切って春姫さんを救い出そうと、【イシュタル・ファミリア】に無謀な突撃をしそうな気がする。
「ベル君も知ってると思うけど、基本、【ファミリア】の内情には不干渉だ。いくら裏事情を知ったからと言って首を突っ込む行為は、どちらの為にもならない」
はっきりとした口調で告げるヘルメス様に、僕も内心同感だった。
確かに春姫さんが人身売買と言う違法行為でオラリオに売られたところで、正式な【ファミリア】の眷族として扱われている。そこを第三者が口出しをする権利が無いのは明々白々だ。
「――だけど、相手が娼婦なら話は変わってくる」
すると、突然ヘルメス様が打って変わって声を明るくさせた。
何かあるのかと思って耳を傾ける僕に、悲観を吹き飛ばすような笑顔を向ける。
「娼婦は『身請け』が可能なのさ」
「『身請け』、ですか?」
「大金と引き換えに娼婦を引き取るという歓楽街の習わしだ。この方法で成功した事例はよくある」
僕が余り知らないと思ったのか、ヘルメス様は身請けについて簡単に説明してくれた。
娼婦を商品として扱う内容に嫌悪感を抱きそうになるけど、命さんが聞けば確実に食いつきそうだ。
「……習わしとは言え、あの
裏事情がある娼婦を手放せば機密情報が洩れてしまう可能性がある。もし春姫さんの件が外に知れ渡れば猶更に不味いだろう。
僕の意見にヘルメス様は、そんな危惧も問題無いとばかりに笑ってみせる。
「立ち位置によるけど、ベル君が話した娼婦が非戦闘員なら問題無い筈だ。それにイシュタルは、
(だと良いんだけど……)
ヘルメス様はこう言ってるけど、僕は未だに疑念が晴れなかった。
【イシュタル・ファミリア】は過去に訴えた派閥を滅ぼしただけでなく、秘匿情報が流出されたと言う理由でギルドにも罰金を要求した経緯がある。そんな恐ろしい派閥に春姫さんの身請けの要求をすれば、果たして簡単に許可してくれるだろうか。
「因みに、身請けの金額はどれくらいですか?」
「娼婦の位にもよるけど……相場は大体二、三〇〇万ってところかな?」
百万単位の大金に思わず少し目を見開く。
だけど、それくらいの金額なら僕一人でも充分に払える。
【ヘスティア・ファミリア】の資金とは別に、電子アイテムボックスに収納してる僕の所持金は一〇〇〇万ヴァリスは軽く超えている。【アポロン・ファミリア】からの賠償金、【ロキ・ファミリア】の遠征依頼による高額報酬、フィンさんから
取り敢えずタケミカヅチ様達に教える前に、ヘスティア様やリリに相談するとしよう。今回ばかりは流石に僕一人で決められるモノじゃないから。
「もし良かったら、その娼婦のことを教えてくれないかな? 俺も機会があれば、イシュタルに探りを入れてみよう」
善意で力になろうとヘルメス様が仰るから、僕は教える事にした。
「名前は春姫さんと言って、僕よりちょっと年上の
「……
名前と種族を告げると、ヘルメス様は目を見開いて、ぽつりと呟いた。まるで純粋に驚愕したような表情で。
「どうかしましたか?」
突然の変わりように僕が声を掛けると、ヘルメス様は静かに言葉を紡いだ。
「運び屋として、依頼主の荷物や情報を明かすのはご法度。オークションの時に言ったように、俺はベル君のファンだ。故に話しておくよ」
突然の台詞に僕が訝ると、ヘルメス様は告げた。
「ベル君と歓楽街で会ったあの日、俺はイシュタルのもとにある荷物を運んでいた。『
「殺生、石?」
全く聞き覚えの無いアイテムの名称に、僕は首を傾げる。
一体どういうモノなのかを聞こうとする瞬間、店に新たな客が入って来た。
「俺が言えるのはここまでだ。じゃあね、ベル君」
まるでタイミングを見計らったかのように、ヘルメス様は椅子から立ち上がってそう言った後、(僕の分も含めた)会計を済ませて一人で店を後にする。
(何か知ってそうな感じがしたな)
態々アイテムについて教えてくれたのは、
一度神様に聞く必要があると思った僕は、僕は店を後に――
「ん? 誰かと思えばベルじゃないか」
「リ、リヴェリアさん!?」
「丁度良い。ラウルが其方で上手くやれているか聞きたいと思っていたところだ」
「あ、いや、僕は用事がありまして……!」
した瞬間、リヴェリアさんとバッタリ会ってしまうのであった。
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