ベルがアークスなのは間違っているだろうか 作:さすらいの旅人
急遽【タケミカヅチ・ファミリア】と同行する事になった僕は、あっと言う間に14階層に到着した。
桜花さん達は複雑な表情になりながらも、文句は一切無いみたいで、足手纏いにならないよう頑張ると言って一緒に戦っている。
その中で一番奮戦してるのが命さんで、僕以上に一人でモンスターに立ち向かっていた。春姫さんの件があるからか、少々無理をしてるように見えるけど、そこは敢えて触れない事にしてる。
「命、先走り過ぎだ!」
「そうだよ! 無茶は駄目だよ!」
「も、申し訳ありません!」
僕が言わなくても、桜花さんや千草さん達が注意するので問題無かった。
命さんも自覚しているのか、すぐに引き下がって他の人に任せようとしている。
「――止まってください」
すると、落ち着き始めている命さんが、何かを感じ取ったかのように鋭く振り返った。
彼女の発言に桜花さん達も警戒してると、それが正解だと言うばかりに、遥か後方に空いていた横穴から、ぬぅ、と。
以前に戦った虎モンスターが二体現れた。
「あれは『ライガーファング』……!」
「嘘……此処は14階層の筈なのに……!」
予想外の
アレは本来15階層以下に出現するけど、僕が考える限りでは下の階層から上ってきたと見るべきだろう。
此処へ来る途中に他のモンスターか、あるいは冒険者を襲ったのかは分からないけど、牙と爪が真っ赤に血染めしている。剛毛を逆立てる巨大な虎は僕達へ唸り声をあげているから、相当気が立っているのが分かった。
それにしても、よく気付いたな。僕もそれなりに周囲を警戒してたとは言え、あんな遠くからの探知は出来ない。もしかしたら命さんは探知系の『スキル』を持っているんだろう。
「二体同時とは厄介な……!」
どうやら【タケミカヅチ・ファミリア】も交戦済みのようだ。
刀を構えて音を鳴らす命さんの発言からして、一体を相手にするだけでも相当苦労していたと見受けられる。
桜花さんや千草さん達も、それぞれ得物を持ち構えている中、僕はファントムスキルで姿を消し――
「ふんっ!」
「ガァァッ!?」
一体目のライガーファングの真横から出現してから、既に手にしていた
突然の奇襲で一体目は倒れて絶命したけど、二体目の方は僕を見た途端に襲い掛かろうとする。
「グガァァァァァ!」
「遅い!」
「ガギャッ!」
二体目のライガーファングは口を開けながら突進を仕掛けるが、僕は躱しながらカウンターとして居合斬りをする。
「グッ、ガァッ……!」
カウンターを受けて倒れるライガーファングだが、さっきの一体目と違って致命傷ではなく生きていた。
それでも僕に襲い掛かる為に立ち上がろうと――
「黄昏の果て、
僕が詠唱を口にしながら
「……ふぅっ。皆さん、お怪我はありませんか?」
『…………………』
二体の虎モンスターを倒し、周囲に他のモンスターの気配が無い事を確認した僕は桜花さん達に声を掛けた。
けど、向こうはまるで鳩が豆鉄砲を食ったような顔になっている。
「さ、流石は【
「『Lv.3』なのは分かってるんだけど、自信失くしちゃうよぉ……」
「くっ、自分もベル殿のように強ければ……!」
引き攣った笑みを浮かべる桜花さん、意気消沈している千草さん、自身の不甲斐無さを嘆く命さん。他の人達も三人と似たような反応だ。
僕は如何すれば良いんだろうか。いつもだったらリリやヴェルフが助け舟を出してくれるんだけど、今回は
☆
ベルと【タケミカヅチ・ファミリア】がいる場所から離れた通路の奥。
とある
「首尾は?」
「上々……とは言い難いな」
長身のアマゾネスであるアイシャの問いに、偵察に向かわせた灰髪のアマゾネス――サミラは微妙な表情となっていた。
「何かあったのかい?」
「連中が来ると思ってたら、例の奴が一人だけで来やがった。まぁこっちとしちゃ好都合なんだが、その後から何故か別の【ファミリア】と行動してるんだよ」
「別の【ファミリア】だって? アルベラの連中が私達に黙って、妙な真似はしない筈なんだがねぇ」
【ヘスティア・ファミリア】に
都市経済の一端を支える筈の巨大商会が一派閥の要請をすんなり受け入れる事は出来ないのだが、これには勿論理由がある。アルベラ商会の上層部を含めた商人達は殆どが男ばかりで、歓楽街の娼婦達による優遇接待をされ続けたら……ここから先は言うまでもない。
それ故に彼等はイシュタルから色々な意味で世話になってる為、向こうから要請をされたら受け入れるしかなかった。下手に断ればイシュタルの機嫌を損ねるだけでは済まされず、【イシュタル・ファミリア】からの恐ろしい報復を受ける事になってしまう為に。
「ソイツ等の派閥は分かったかい?」
「いいや、全く知らねぇ連中だった。ただ全員の身形は極東の衣服だったぜ」
「極東の衣服……ああ、もしかしたら【タケミカヅチ・ファミリア】かもしれないね」
アイシャは途中で思い出した。数日前に遊郭の大部屋で待機させていた春姫を見た瞬間、慌てるように声を掛けた極東の衣服を身に纏う黒髪少女を。
その少女は知り合いだったと証明するように『春姫殿!』と叫んでいたが、当の
偶然目撃したアイシャは何か面倒な事になると思って春姫に会った黒髪少女の詳細を軽く調べたところ、【タケミカヅチ・ファミリア】の眷族だと判明する。その時点で興味を失ったのか、もう如何でも良いように放置することにした。だから彼女はベルと同行してる集団が、あの時に調査した派閥だと分かったのだ。
「【タケミカヅチ・ファミリア】? あんまり聞かねぇ派閥だな」
「取るに足らない弱小派閥だ。サミラが知らないのは無理もないよ」
実際に【タケミカヅチ・ファミリア】は零細なので、【イシュタル・ファミリア】と比べるまでもなかった。眷族の人数やレベル、そして財力も。
「予想外の連中がいるとしても問題無い。寧ろ、此方としては好都合かもしれないね」
「どういう事だ?」
サミラの問いにアイシャは「後で分かるよ」と言った後、身に纏ってる外套を揺らしながら、集団の中央にある物資運搬用の大型のカーゴへ向かう。その鋼鉄箱の蓋に手をかけて、開けようとする。
「春姫、準備しな」
カーゴの中には、座り込んだ
動きやすい和装を身に纏い、頭から羽衣に似た防具を被ってる事で、狐の耳や尻尾も見えないよう完璧に隠されている。
何故ここまで徹底した隠蔽をしているのかは、【イシュタル・ファミリア】しか知らない。
「……冒険者様を、襲われるのですか?」
「そうさ。前にも言った通り、お前は知らなくて良い」
少女の疑問を事前に一蹴したアイシャは、腕を取って立たせ指示を出す。
「いつも通りやりな、いいね」
「……分かりました」
逆らう事が出来ない少女はうつむき、静かに身を引いた。
「アイシャ、そろそろ来るぞ!」
「……行くよ、お前達。予定外の連中は適当に遊んでやりな」
帰還してきた偵察の声を聞いたアイシャが呼びかけると、アマゾネス達は各々の得物を装備した。
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