ベルがアークスなのは間違っているだろうか   作:さすらいの旅人

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オラリオの歓楽街⑰

「――なんだ?」

 

 どうにか元気づけた桜花さん達と一緒に食糧庫(パントリー)へ向かってる最中、僕は異変と思われる音響に耳を向ける。

 

「モンスターの叫び声に……足音」

 

「おい、まさか……!」

 

 命さんが呟いた後、桜花さんが嫌な予感が走るように目を見張る。

 

 これには僕も覚えがあった。

 

 モンスターの群れと思われる鳴き声に、此方へ近付いてくる複数人の走音。前の冒険者依頼(クエスト)であった『怪物進呈(パス・パレード)』の前兆と全く似ている。

 

 あの時は風と雷の略式複合テクニック『レ・ザンディア』で片付けたけど、【タケミカヅチ・ファミリア】の前で見せるのは少々不味い。リリからも他派閥の前では使わないよう釘を刺されているからね。

 

 でも、いくら他派閥に情報を与えてはいけないからと言っても、桜花さん達が死んでしまったら元も子もない。それで後悔するなら、僕は迷いなく略式複合テクニックを使わせてもらう。

 

 僕がそう決意してると、視線の先から外套を被った冒険者達とモンスターが姿を現わす。

 

「前方からだと? アイツ等この先にある食糧庫(パントリー)からやって来たのか?」

 

 僕達の進路方向から押し寄せてくる人とモンスターの一団に、桜花さんが疑問を呈しながら得物を構える。

 

「皆さん、ここは一旦引き返しましょう! 数が多過ぎます!」

 

 僕が出した指示に、他派閥の桜花さん達は一切反対することなく迅速に行動した。

 

 本当なら『レ・ザンディア』で一気に片付けたいところだけど、外套を被った冒険者達にも被害を受ける為に使えない状況だ。

 

 それとは別に、不審な点がある。あの人達は『怪物進呈(パス・パレード)』をしてるのは確かだけど、先日の冒険者達と違って焦りが全く感じられない。まるで僕達が此処に来るのを見計らって仕掛けたんじゃないかと。

 

 そんな疑問を余所に桜花さん達と一緒にもと来た道を逆走してると、広い十字路に逃げ込んだ瞬間、更なるイレギュラーが発生。

 

 僕達を挟む形で、左右の道から更に別の冒険者と怪物の集団が雪崩れ込んで来た。

 

「何で二方向から!?」

 

 更なる『怪物進呈(パス・パレード)』によって千草さんの悲鳴が響き渡る。

 

 やはりこれは決して偶然なんかじゃない。明らかに此方を狙っていると見るべきだ。

 

 ならば僕のやるべき事は――

 

「皆さんは先に行って下さい!」

 

 桜花さん達が完全に退却するまで殿を務めるしかない。

 

「待てベル・クラネル! 俺達にお前を置いて逃げろと言うのか!?」

 

「そうです、ベル殿! 此処は自分達も一緒に戦います!」

 

 予想通りと言うべきか、桜花さんや命さん達も僕と同じく走っていた足を止めて即座に反対してきた。

 

 二人だけでなく、千草さん達も同様に戦う意思を見せている。

 

「すいません、こんな事は言いたくないんですが……この状況で貴方達と一緒に戦うより、僕一人の方が非常に効率が良いんです」

 

『!!』

 

 僕の台詞は【タケミカヅチ・ファミリア】に足手纏いだと言ってるも同然だった。

 

 普段ならこんな失礼な事は絶対言わないけど、こんな異常事態(イレギュラー)が起きたら気遣っている場合じゃない。キョクヤ義兄さんなら迷いなく言うどころか、『貴様等は邪魔だ』と容赦無く言うだろう。

 

 だから僕は心を鬼にして、桜花さん達を前にハッキリ断言させてもらった。これで完全に嫌われたかもしれないけど、事を終えたら全力で謝るつもりでいる。

 

「………すまない、此処は任せる。その代わり、後でちゃんと戻ってくるんだぞ!」

 

「勿論です!」

 

 決断してくれた桜花さんに僕は力強く頷いた。

 

「ま、待ってください、桜花殿!? 自分達がそのような事をすれば……!」

 

「俺は団長としてお前等を守らなければならないんだ!」

 

「……!」

 

「それでも外道って言うなら、後で好きなだけ罵ってくれ」

 

 団長としての決断を下すだけでなく、感情を押し殺して言い切った桜花さんに、命さんは何も言い返せなくなっている。

 

 まるで以前の自分みたいだ。

 

 僕が新米アークスだった頃に惑星探索をしていた際に緊急事態が発生し、その時に先輩として同行したアークスから先に逃げろと言われた。そんな事は出来ないと一緒に戦おうとしても、結局は有無を言わさずに逃げるよう言われてしまい、無力な自分を嘆きながら従った。その後に僕がシップに戻って本部に報告し、キョクヤ義兄さんも含めた他の先輩アークスが救援に駆け付けた事で何とか全員助かった。

 

 出来れば命さん達にはダンジョンから脱出した後、【ヘスティア・ファミリア】に報せて欲しい。その中で僕が一番頼りになるリリが駆け付けてくれれば、状況を立て直す事が出来る。

 

「行くぞ、命!」

 

「……ベル殿、御免!」

 

 決心した命さんは謝罪をした後、桜花さん達と一緒に上層へ向かっていく。

 

 それを確認した僕はこれで心置きなく戦えると――

 

「はぁっ!!」

 

『!?』

 

 僕が抜剣(カタナ)を連続で振るうと、フォトンの斬撃が追跡者達へ襲い掛かろうとする。

 

 咄嗟に躱す外套の集団とは別に、モンスターの一団は殆ど斬り裂かれて絶命していく。

 

「此処から先へは行かせない!」

 

 まるで予想外の反撃を受けたかのように、冒険者達だけでなく残ったモンスター達も動きを止めていた。

 

 それでも僕は全く気にせず、改めて武器を構える。

 

「【亡霊兎(ファントム・ラビット)】ベル・クラネル、いざ参る!」

 

 アークスとしてでなく、オラリオの冒険者として挑もうとする僕は単身で突撃していく。

 

 

 

 

 

「くっ、コイツ!」

 

「やっぱり強い……!」

 

「と言うか、本当に『Lv.3』なの!?」

 

 ファントムスキルを使って先に怪物の群れを一通り片付けた後、僕は次に外套の集団と交戦している。

 

 戦って分かった事がある。

 

 一つ目は先程まで正体不明だったけど、何人か僕の斬撃で外套の一部が切れた事で女性だと判明した。しかも褐色肌の女戦士(アマゾネス)ばかりだから、残りも全員同じと見るべきだろう。

 

 二つ目に僕が相手をしてるアマゾネスは【イシュタル・ファミリア】にいる娼婦達だった。歓楽街で突然の走戦(デス・レース)をされていた時、僕を執拗に追いかけていたアマゾネス達が此処に数名いるから。

 

 今のところ分かったのはこの二つだけで、仕掛けた理由までは分からない。僕が上手く逃げ(おお)せたことに腹を立てて襲い掛かってきたにしても、『怪物進呈(パス・パレード)』を仕掛けてまでやるなんて余りにも悪質が過ぎる。

 

 他にも気になるのは、僕が食糧庫(パントリー)を来る事をこの人達は一体どうやって知ったのだろうか。今回の冒険者依頼(クエスト)はギルドを通してると言っても、あくまで僕を指名したもので外部には決して知られていない。けれど【イシュタル・ファミリア】は僕が此処へ来るタイミングを見計らうように仕掛けてきたとなれば、誰かが情報を流したと言う事になる。

 

 神様とリリとヴェルフだけでなく、【ロキ・ファミリア】のラウルさんは絶対有り得ない。対応したギルド職員のエイナさんも決して吹聴なんかしない筈だから、残るはアルベラ商会と言う事になる。

 

 アルベラ商会が【イシュタル・ファミリア】に情報を流した証拠が見付かった瞬間、リリが笑顔のまま装備した大砲(ランチャー)を容赦無く撃って……止めよう。本当に現実になりそうで怖くなってきた。

 

 っと、そんな事は後回しにして目の前の方に集中しないと。

 

 僕に襲い掛かってくるアマゾネス達は何人か倒したけど殺してはいない。恐らく食糧庫(パントリー)の奥に、まだ他にもいると見て良いだろう。

 

「一応訊きますけど、まだやる気ですか?」

 

 目の前にいる人達は『Lv.3』でも、アークスのスキルも使っている僕の敵じゃない。

 

 とは言え、向こうは僕に勝つ為の算段を立てた上で挑んでるだろうから、油断など以ての外だ。

 

「なら今度は私が相手だよ!」

 

「なっ!」

 

 すると、僕の視界に飛び込んでくるのは、空中を舞う黒の外套。

 

 まるで蝙蝠みたく裾がはためき、フードの奥から細められた瞳と眼が合う。

 

 思わず硬直した僕に、空中から褐色の長脚が放たれた。

 

「危なっ!」

 

 蹴り上げの攻撃に、間一髪でファントムスキルで姿を消して回避する。

 

「ちっ。相変わらず厄介なスキルだねぇ。まるで本当に幽霊(ゴースト)を相手にしてるみたいだよ」

 

 躱された事に舌打ちをした追撃者は、黒の外套を脱ぎ捨てる。

 

「やはり貴女もいましたか」

 

 襲撃者が【イシュタル・ファミリア】であれば、あの人も当然いるだろうと既に予想していた。

 

 踊り子じみた紫紺の衣装、長い黒髪と美脚、そして片手で持った大型武器。

 

 アマゾネスの女傑――アイシャさんは僕を見てニヤリと笑う。

 

「早い再会だったね」

 

「一体どう言うつもりなんですか? この前の仕返しにしても、いささかやり過ぎかと」

 

「まぁ、そう考えるのは無理もないね」

 

 アイシャさんはそう言いながら、大型武器の切っ先を僕へ向けてきた。

 

 初めて見る巨大な朴刀。

 

 握る柄が長く、片刃の刀身は反りを有している。

 

 僕がハンタークラスの時に使っていた大剣(ソード)に似た両手武器でありながら、ああも片手で軽そうに持てるのは相当な力があるという証拠だ。

 

「こんなの私の趣味じゃないけど、女神様を恨む事だね。それか――」

 

 僕はある事に気付いた。外套を脱いだ褐色の肌、と言うより彼女の全身が無数の光粒が包み込んでいる事に。

 

 何だ、アレは。身体がうっすらと光っているのか?

 

「――女神様に狙われた、自分自身の迂闊さを呪うんだね」

 

 直後、アイシャさんが先程までと打って変わるほどの加速を見せる。




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