ベルがアークスなのは間違っているだろうか   作:さすらいの旅人

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本日は連続投稿です。


オラリオの歓楽街⑱

 一瞬で正面に迫ったアイシャさんの大朴刀が僕を両断せんとしており、急に速くなった所為でファントムスキルを発動しないまま抜剣(カタナ)で攻撃を受け流す。

 

 刃と刃の間から生じる火花が舞い散らす寸前、先程見せた槍みたいな長脚の蹴りが僕の胸部を捉えようとする。

 

(急に速くなったっ――!?)

 

 蹴りが当たる寸前に辛うじてファントムスキルで躱した僕が再び距離を取るも、アイシャさんは仮借なく躍りかかった。

 

 抜剣(カタナ)で応戦する僕の斬撃と、突っ込んでくるアマゾネスの速撃がぶつかり合う。

 

 アイシャさんは同じアマゾネスであるティオナさんに比べれば純粋な力や速度が劣っていても、それを補う技量が目を見張る。見るからに重そうな大朴刀を片手で軽々と持つだけでなく、まるで円舞のごとく斬撃を振るい、さっきまで戦っていたアマゾネス達とは一味違う。

 

 だけど、それとは別に腑に落ちない事があった。

 

 歓楽街でやりあった走戦(デス・レース)での速度――『敏捷』が今とは大違いだ。

 

 この人は『Lv.3』でランクアップ間近だとエイナさんが言っていたけど、今はそう思えない。明らかにそれ以上の力量を感じ、もしかしたら『Lv.4』ではないかと思っている。

 

「言っておくけど、私は『Lv.4』じゃないよ」

 

 考えを読んだかのようにアイシャさんが剣撃とともに言葉を発する。

 

 重い斬撃でありながらも、僕はフォトンを纏わせてる『フォルニスレング』で受け流し、負けじと言わんばかりの反撃を仕掛ける。

 

「ぐっ! やるじゃないか……!」

 

 僕の反撃を大朴刀で受け止めるアイシャさんは若干怯んでも、すぐさま好戦的な笑みを浮かべていた。

 

 確かにさっきまで戦っていたアマゾネス達より強い。でも、あくまでそれだけ。

 

 アークスの力の源であるフォトンも使っていることもあって、自分よりレベルが上の相手でもそれなりに戦える。

 

 今の僕は『Lv.3』にランクアップしてるから、全力で戦えば『Lv.5』の第一級冒険者相手でも引けを取らない。

 

 如何にアイシャさんが『Lv.3』と実力を偽ってる『Lv.4』だったとしても……ん? 実力を偽ってる?

 

(確かギルドで聞いた時に……)

 

 戦いを続けながらも、僕は思い出した。五年前に【イシュタル・ファミリア】が複数の【ファミリア】から実力を偽って訴えられたにも拘わらず、ギルドが調査しても結果は白であった事を。

 

 アイシャさんの実力は明らかに『Lv.3』ではない為、頭の片隅に置いておいた情報が思い浮かんだ。

 

 例え僕が訴えたところで結局は無意味になるどころか、向こうは報復として【ヘスティア・ファミリア】を滅ぼそうとするのが目に見えている。

 

 何かしらの証拠を掴まない限り、この謎はずっと闇のままだ。

 

「随分余裕じゃないか。私と戦いながらも考え事をするとは」

 

「……………………」

 

 抜剣(カタナ)と大朴刀による剣劇を何度も繰り広げた後、僕とアイシャさんも一旦後退して距離を取った。

 

 戦いは一見互角のように見えるも、僕の方に分がある。

 

 それは当然アイシャさんも気付いていた。あの人は余裕そうな笑みを浮かべても、少々焦っていると悟らせない為の演技をしてるだけに過ぎない。

 

「嘘……!」

 

「あのアイシャが……」

 

「ど、どうしよう。このままじゃ……!」

 

 同時に見守っている他のアマゾネス達も、信じられないと言わんばかりに驚愕の表情になっている。

 

 あの様子から察するに、僕が負けじと押しているのが余りにも予想外だったんだろう。

 

 同じ『Lv.3』なのにそこまで信頼があるとなれば、アイシャさんはランクアップに等しい何かしらの強化(ブースト)が施されていると考えるべきかもしれない。

 

(そう言えば、あの光粒を纏った瞬間に力や速さが急に……まさか!)

 

 断定は出来ないけど、アイシャさんの実力が圧倒的に上がった理由が分かったかもしれない。

 

 それを確かめる方法として、僕は抜剣(カタナ)を鞘に納めて居合の構えを取って――突進を仕掛ける。

 

「良いねぇ! この前みたいに逃げるんじゃなくて、向かってくる方が私は好きだよ!」

 

 突進する僕にアイシャさんはまるで大歓迎と言わんばかりな表情で大朴刀を構えた。

 

 彼女の武器が勢いよく振り下ろした瞬間、僕は再びファントムスキルを使って姿を消す。

 

「おいおい! この状況で姿を消すなんて野暮にも程があるじゃないか!」

 

 気配までも消えた事で抗議するように叫ぶアイシャさん。

 

「アイシャ、後ろだよ!」

 

 僕がゆっくりと背後から姿を現わしたのを見た他のアマゾネスが叫ぶも、既に遅かった。

 

「浄化せよ、アンティ!」

 

「ッ!?」

 

 魔法(テクニック)を使うのが予想外だったのか、アイシャさんは振り向きながらも即座に僕から距離を取ろうとする。

 

「な、何だいこれは!?」

 

 回避した筈のアイシャさんだけど、彼女が纏う光粒とは別の柔らかく淡い光が包み込む。

 

 そしてアンティの光が消えるも、一緒に纏っていた筈の光粒も霧散していく。

 

「おいおい嘘だろ!?」

 

 アイシャさんだけでなく、他のアマゾネス達も狼狽していた。

 

「貫け、闇の牙! ローゼシュヴェルト!」

 

「ぐぅっ!」

 

 この隙を狙おうと、僕は距離を取って強力な突き攻撃を行う抜剣(カタナ)ファントム用のフォトンアーツ――ローゼシュヴェルトを使った。

 

 アイシャさんが辛うじて大朴刀で受け止めるも、衝撃まで防ぎきれなかったように吹っ飛んでダンジョンの壁に激突する。

 

「がはっ!」

 

『アイシャ!』

 

「……やっぱり、そう言う事でしたか」

 

 壁が背中に激突したアイシャさんが口から少量の血を吐いた事でアマゾネス達が心配の声を出している中、僕は確信したようにこう言った。

 

「あの光粒の正体は、貴女の実力(ちから)強化(ブースト)する為の魔法だったんですね。ランクアップするほどの強力な支援魔法、と言うべきでしょうか」

 

『ッ!』

 

 僕の推測に大朴刀を地面に刺しながら立ち上がるアイシャさんだけでなく、他のアマゾネス達も正解だと言わんばかりに目を見開く。

 

 光粒が支援魔法であるなら、それは即ち魔導士が魔力を使って強化させたと言う事になる。それを確かめようと、僕はその魔力をフォトンで浄化する為に、状態異常を治療する光属性テクニックのアンティを使った。

 

 フォトンは本来ダーカーの汚染を浄化する為のエネルギーになっている。だけど僕が魔力を浄化しようと考えた事で、アイシャさんが纏っていた光粒を状態異常とフォトンが認識して取り払ってくれた。消せるかどうかは、もう殆ど賭けに等しかったけど。

 

 光粒が消えた後に改めて実力を確かめようと、突き技のローゼシュヴェルトで試した結果、状況が一変するように吹っ飛んで壁に激突して今に至る。

 

「さっきの突きは貴女でも充分に防げた筈なのに、僕が支援魔法の効果を打ち消した所為で出来なくなってしまった。違いますか?」

 

「………全く。此方の切り札を打ち消す魔法まで持ってるなんて、お前は一体どれだけ出鱈目なんだい……!」

 

 僕の問いに答えないアイシャさんだけど、忌々しそうな表情で悪態を吐いてきた。

 

「それで、どうするつもりですか? 僕としてはこのまま退いてくれれば、今回の襲撃は無かった事にしますが」

 

 もしこの場にリリがいたら、絶対容赦しないだろう。

 

 前に『怪物進呈(パス・パレード)』を仕掛けた冒険者達と同じく、【冥怒聖女(バーサク・フィアナ)】を発動したリリはアイシャさん達を徹底的に叩きのめすと断言出来る。それどころか【イシュタル・ファミリア】を訴えて慰謝料を請求する等々、落とし前を付けさせようとする光景が容易に想像出来てしまう。

 

「そうしたいのは山々だけど、私達はお前を何としても連れて来るよう女神様に命じられてるんでね」

 

「いくら僕でも、其方の都合に付き合う気などありません」

 

「だろうね。でもお前は絶対に来なければならないんだよ」

 

 支援魔法が打ち消されてもアイシャさんが未だに余裕を見せてる事に、僕には全く理解出来なかった。

 

「さっきお前が逃がしていた連中は、確か【タケミカヅチ・ファミリア】だったね」

 

「……それが何か?」

 

「ベル・クラネル。今すぐ武器を収めて投降しなければ、地上に待機してるウチの連中が【タケミカヅチ・ファミリア】に総攻撃を仕掛ける手筈になっている」

 

「っ!?」

 

 思わぬ発言をした事で僕は思わず目を見開いてしまった。

 

「あの人達は関係無いでしょう!」

 

「関係あるよ。お前が奴等と一緒に行動してるところを、私達に知られてしまった時点でね」

 

「くっ……!」

 

 本当なら僕はこの後、【タケミカヅチ・ファミリア】と合流する予定だった。

 

 しかし、このままアイシャさん達を倒してしまえば、地上に帰還してる桜花さん達に被害が及んでしまうことになる。

 

 加えて【イシュタル・ファミリア】は大派閥でもあるから、どんなに僕が訴えたところで聞く耳を持たないだろう。中立であるギルドですら五年前の件で逆らえないから、何か起きても静観の構えを取るのが目に見えてる。

 

 出来ればすぐにでもリリに連絡して桜花さん達の保護を頼みたいけど、この状況でそれは叶わない。

 

「さぁどうするんだい、【亡霊兎(ファントム・ラビット)】。自分を守るか、仲間を見捨てるか、どちらを選ぶかはお前の自由だよ」

 

「…………僕が投降すれば、本当にあの人達に手は出さないんですね?」

 

「勿論さ」

 

「………もし約束を違えたと分かった瞬間、僕は貴女を絶対に許しません――!」

 

 僕は投降の意思を示すように抜剣(カタナ)を鞘に納めた後、すぐ地面に放り投げた。

 

「交渉成立だね。お前等、ソイツを縛りな!」

 

 アイシャさんが指示を出すと、他のアマゾネス達は即座に動いて僕を拘束しようとする。

 

「ベル・クラネル。投降した以上、姿を消すスキルは使うんじゃないよ。分かってるね?」

 

「………………」

 

 遠回しに警告するアイシャさんに僕は何も言えなかった。

 

 僕がファントムスキルを使って逃げ出したら約束を違えたと見なして、桜花さん達を襲撃するつもりだ。

 

「だから、暫くの間は意識を失ってもらうよ」

 

 アイシャさんがそう言った直後、背後から僕の全身を覆い尽くすほどの巨大な影が出現した。

 

「!」

 

 拘束されても振り向けたその先には、禍々しい巨大な怪物がいた。

 

 二(メドル)を超える巨軀が、棍棒のような太腕を背に溜めて、弩砲の如き拳弾が僕の腹に叩きこまれる。

 

「がっっっ!?」

 

「ゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲッ!!」

 

 隙だらけとなっていた僕は余りの衝撃に吹っ飛んでしまい、そのまま壁に激突して埋もれてしまい、そのまま意識を失ってしまった。

 

 

 

 

 

 

「お前等、ズラかるよ!」

 

 意識を失ったベルを確認したアイシャは、用が済んだと言わんばかりに撤収命令を出した。

 

「おいアイシャ、遠くから見ていたがお前にしては随分梃子摺っていたじゃないかァ。初めからアタイを行かせれば、大して時間を掛けずに済んだのによォ」

 

「五月蠅いよ、フリュネ」

 

 迅速に動くアマゾネス達の中で、巨女のフリュネだけは動かずアイシャと言い合っていた。

 

 すると、ベルを大型カーゴに詰め込まれていくを目にした春姫は、震えながら唇を開いた。

 

 それとは別に、一部のアマゾネス達は意識を失ってる彼に熱烈な視線を送っており、コソコソと「後で味見しちゃおうか」と話し合っている。

 

「アイシャさん……私達の標的は、あの方だったのですか?」

 

「……そうさ。イシュタル様の命令でね」

 

 アイシャの返答に、狐人(ルナール)の少女は力が抜けて嘆きの表情になって崩れ落ちていく。

 

(それにしてもあの坊やの殺気、とんでもなかったね)

 

 ベルが意識を失う前、少年とは思えないほどの殺気を受けたアイシャは思わず身震いしてしまった。あれ程の殺気を放つのは、相当過酷な戦闘をしなければ身に付かないモノだと。

 

 今はまだ『Lv.3』だが、もし『Lv.5』以上になれば果たして自分は意識を保っていただろうかと自問してしまいそうだった。

 

「ねぇアイシャ」

 

「何だい」

 

 春姫を無理矢理立たせ、地上へ帰還している最中、今いる集団の中で小柄なアマゾネス――レナがアイシャに訊ねてきた。

 

「【亡霊兎(ファントム・ラビット)】と戦ってる最中、えっと……【タケミカヅチ・ファミリア】だっけ? その派閥を襲撃するって、打ち合わせの時に無かった筈だよね?」

 

「アレは私が咄嗟に考えたハッタリだよ」

 

「え、そうなの?」

 

「ああ。万が一の場合に備えて、サミラの報告にあった連中を利用できるかもしれないと思ってね」

 

 その結果、アイシャが【タケミカヅチ・ファミリア】を脅しの材料として使った事で効果は覿面だった。

 

「あの坊やは実力があっても、心理戦の方はまだまだ未熟だね」

 

 大型カーゴを見ながら付け加えるアイシャは、まるで安堵するようにそう言っていた。

 

 しかし、彼女達は知らない。【ヘスティア・ファミリア】の中で真に恐ろしい眷族がもう一人いる事を。




桜花達を利用された事で投降するしかなかったファントムベルでした。

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