ベルがアークスなのは間違っているだろうか   作:さすらいの旅人

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今回は幕間的な話です。


オラリオの歓楽街⑱.5

 場所は変わって地上。

 

 時刻は既に夕刻に迫っており、【ヘスティア・ファミリア】の本拠地(ホーム)竈火(かまど)の館』では、冒険者依頼(クエスト)に行った団長のベルが未だに戻ってこない事に誰もが疑問を抱いていた。

 

「遅いなぁ、ベル君」

 

「そうですねぇ。もうとっくに帰って来てもおかしくない筈なんですが」

 

 バイトから戻ってきたヘスティア、『ノームの万屋』の店主の世話を終えて帰ってきたリリだが、未だに帰って来ないベルに何か遭ったのではないかと心配の声を上げていた。

 

 今回の冒険者依頼(クエスト)ではダンジョン14階層にある素材を集めるだけなので、『Lv.3』となったベルが単身(ソロ)でも問題無くやれる筈。仮に何かしらの緊急事態(イレギュラー)が起きたとしても、リリが持っているアークス用の端末機に連絡を入れるよう言った。それが未だに無かった為に気にしなかったのだが、一切音沙汰がないのが実状だった。

 

「ヴェルフは今日ずっと本拠地(ホーム)にいたけど、ベル君が一度戻って来たとかは?」

 

「いや、それはねぇな。もしそうだったら、アイツは戻ってきたら必ず俺に一声掛けてくる筈だ」

 

 【ロキ・ファミリア】へ報告+用事を終えて戻って来たラウルが、本拠地(ホーム)の裏側で完成した鍛冶工房の整理をしていたヴェルフに確認を取っても否の返答が返って来た。

 

 この場にいる誰もがベルの実力を疑っていなく、大体昼過ぎに戻って来るだろうと予想していた。しかし、夕刻となった今でも戻って来ないのは明らかにおかしい。

 

「ベルがどっかで寄り道するにしても……なぁ」

 

 思わず歓楽街の事を口にしようとするヴェルフだったが、途中で何か言い淀んでいた。

 

 それは当然と言えよう。大広間にはヘスティア達だけでなく、一人の客がいるのだから。

 

「えっと、ロキの所のハイエルフ君。そろそろ自分の本拠地(ホーム)に戻った方が良いんじゃないかな?」

 

「そうっすよ、リヴェリアさん。団長やアリシア達も心配してるかもしれないっすよ」

 

「ふむ、確かにそうかもしれないな」

 

 大広間のソファに座っている客人――リヴェリア・リヨス・アールヴがいる事で、ヘスティア達は少しばかり対応に困っていた。

 

 【ロキ・ファミリア】副団長が何故此処にいるのかと言うと、彼女はベルに用があって来たのだ。頼まれていた調べ物――『殺生石』についての情報を教える為に。どのタイミングで彼に会おうかと考えていた際、フィンに報告を終えたラウルが『竈火の館』へ戻ろうとしたのを見て、これを機に自分も同行すると言って今に至る。

 

 しかし流石にこれ以上長居するのは不味いので、また次の機会にしようと立ち上がった瞬間――

 

 

 ガンガンッ! ガンガンッ!

 

 

 すると、呼び鈴だけでなく玄関扉を叩く音も聞こえた。

 

 明らかに何か起きたと思われる状況を察したように、ヘスティア達は嫌な予感が過るのは無理もなかった。

 

 

 

 

 

「正体不明の一団に襲われた?」

 

「桜花達の話によると、途中で会ったベルと一緒に中層の食糧庫(パントリー)へ向かってる最中、ソイツ等が『怪物進呈(パス・パレード)』を仕掛けたらしい」

 

 ヴェルフが出迎えて慌ただしく大広間に入って来たのは、主神も含めた【タケミカヅチ・ファミリア】一同だった。

 

 代表してタケミカヅチが大まかな話をしていた。因みにこの場には【ロキ・ファミリア】のラウルとリヴェリアもいる事に疑問視されるも、二人の事を気にしないようヘスティアが事前に言ってある。

 

 正体不明の一団に襲われたにも拘わらず、桜花達だけが無事に帰還してベルが何故戻っていないのかを訊ねると、そこから先は桜花達がその時の状況を話した。自分達を逃がそうとベルが殿を務めた事も含めて。

 

 聞いていたリリはベルの判断に内心納得した。確かに『Lv.2』の桜花達がいても、却って足手纏いになってしまうだろうと。

 

「それで、その後は一体どうなったんですか? ベル様の事ですから、桜花様達と合流してもおかしくないんですが」

 

 襲撃者が正体不明であっても、ベルの実力を考えれば第一級冒険者が複数いたところで、ファントムクラスのスキルを使えば途中で逃げ果せる事も出来た筈。もしくは彼一人だけでも倒せる相手だったかのどちらかになるが。

 

「俺もそう思って地上で待っていたんだが、結局は戻ってこなかった……!」

 

 大変悔しそうに言う桜花に、ヘスティア達は何とも言えない表情になった。

 

 彼の性格を考えればベルと一緒に戦いたかったかもしれない。だけど団長として団員達を守らなければいけない立場である為、それが出来なかった事が一番無念だったのだろうと察している。

 

「お前達やベルを襲った襲撃者達に心当たりはないのか?」

 

 一緒に聞いているリヴェリアは第三者の立場なので口を挟める立場では無いのだが、桜花達だけでなく、ベルも一緒に襲われたとなれば黙ってはいられなかった。

 

 ハイエルフからの問いに、命が恐る恐ると言った感じで答えようとする。

 

「もしかしたら【イシュタル・ファミリア】ではないかと……」

 

「何だって!?」

 

 答えた命にヘスティアが一早く反応した。それは彼女だけでなく、リリ達やラウルも同様に。

 

「命、そう思った理由は何だ?」

 

「えっと、あの襲撃者達から香水と思われる甘い匂いがしてたのです。以前に行った歓楽街で嗅いだ匂いと同じでしたので」

 

「あっ、言われてみれば確かに……!」

 

 タケミカヅチからの問いに、命は以前に訪れた歓楽街にいる娼婦達から発する匂いと似ていた事を言うと、その時に同行していた千草も思い出したかのようにハッとした。

 

「歓楽街だと? そのような所へ行っていたとは……」

 

 如何に相手が他派閥でもハイエルフのリヴェリアとしては、歓楽街と言う場所は嫌っている事もあって眉を顰めていた。もしもアイズがそんな所へ行ってると分かった瞬間、有無を言わさず連れ戻しているだろう。

 

「犯人がイシュタルの眷族(こども)であれば、桜花達やベルを狙う理由が益々分からんな。ヘスティアの方では、何か心当たりはないのか?」

 

「う~んっ、それなんだけどねぇ……」

 

 タケミカヅチが話を戻そうとヘスティアに問うも、肝心の彼女は大変言い辛そうだった。

 

 此処でベルも訳ありで歓楽街へ行っていたと口にすれば、今度こそリヴェリアが黙っていないのが目に見えていたから。

 

 その空気を察したのか、ハイエルフはラウルの方へ視線を向ける。

 

「ラウル。まさかとは思うが、ベルも歓楽街に行ったのではないだろうな?」

 

「えっ!? あ、いや、その……!」

 

(ラウル様、それじゃバラしてるも同然ですよ)

 

(ラウル、お前なぁ……)

 

 しどろもどろになるラウルを見た事で、リリとヴェルフが呆れの視線を送っていた。

 

「……はぁっ。どうやらこれ以上は聞かない方が良さそうだな」

 

 リヴェリアは当然気付くも、自分を気遣うヘスティア達を見た事でもう触れない事にした。

 

「リヴェリア様。他派閥である貴女様の視点から見て、イシュタル様がベル様を狙おうとする理由は何か思いつきますか?」

 

「考えられるとしたら、自分の手駒にすると言ったところか」

 

 リリが問うと、リヴェリアは可能性が最も高い候補を挙げた瞬間、ヘスティアが真っ先に反応する。

 

「ベル君は絶対断るに決まってるよ!」

 

「それは私も同感だ。しかし美の女神イシュタルであれば、ベルの意思を強制的に捻じ曲げる手段がある事を、神ヘスティアは知っているであろう?」

 

「ッ! 『魅了』か!」

 

 答えを出したヘスティアにリヴェリアは頷き、この場にいる者達もそれを聞いて一切否定出来なかった。

 

 現在のオラリオは【亡霊兎(ベル・クラネル)】が一番の注目を浴びており、他派閥の主神達は一切懲りる事無く何度も勧誘している。結局は幽霊の如く姿を消して撒かれているから失敗続きだが。

 

 いっそのこと『魅了』を使おうと考える美神も当然いたが、流石にそこまでするだけの度胸は無い。そんな事をしてしまえば他の神々どころか、他派閥の各【ファミリア】も当然黙っておらず報復行為を行うのが目に見えているから。特に【ロキ・ファミリア】に所属する某アマゾネスが普段の天真爛漫から悪鬼羅刹の如く怒り狂うだろう。

 

「もし本当に実行するのであれば……その女神様とは、ちょっとOHANASHIをする必要がありますねぇ~」

 

「「ッ!?」」

 

 まだ仮説にも拘らず、リリが少しばかり怖い笑顔になるのを見たヴェルフとラウルは思わずビクッと反応してしまう。少し前に起きた出来事を思い出しながら。

 

 二人の反応にヘスティア達は少々気になるも、敢えて気にしない事にした。

 

(繋がらないかもしれませんが、一度ベル様に連絡してみましょう)

 

 そう考えたリリは適当な理由で一旦席を外そうと大広間から出た後、周囲を確認してから端末機を取り出して通信機能を起動する。




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