ベルがアークスなのは間違っているだろうか 作:さすらいの旅人
「俺からの報告は以上だ。
「分かった。ご苦労だったな、ヘルメス」
アンタレス討伐の
全ての事後処理を終えたヘルメスはオラリオへ戻り、真の依頼主であるギルドの主神――ウラノスがいるギルドの地下『祈祷の間』にいる。
ウラノスは終始黙したまま一字一句逃さず報告を聞き入った後、
「まさか、このような展開になるとは予想だにしなかった。ベル・クラネルが『矢』を使わず、あの強大なアンタレスを倒すとは。それどころか喰われたアルテミスをも救い、天界最強と呼ばれる『アルテミスの矢』も退かせるとは考えもしなかった……」
「ああ、直接見た俺も本気で驚いたよ」
神のウラノスやヘルメスですら、『矢』を使わなければアルテミスを取り込んだアンタレスを倒すしか方法はないと考えていた。しかし、それはベルによって完全に覆された。最早これは英雄以上の偉業だ。
もしも【ロキ・ファミリア】団長の【
今回の
「ハッキリ言ってベル君の力は完全に異常だよ。彼が一体どうやってあれ程の力を得たのか知りたいね」
「確かに。ベル・クラネルの力は明らかに『
「俺もそう考えていた。あとこれは何一つ確証すらない俺の勝手な推測なんだが、もしかしたら彼……異世界に渡ったんじゃないかな。そうでも考えないと、あの出鱈目な力は到底納得出来ない」
「……かもしれんな」
ヘルメスの推測にウラノスは難しい顔をしながらも頷いた。普通に考えて異世界に渡るなど神々ですら許される行為ではない。それは下界にいる人間も含めて。
しかし、ベルが使う力は明らかに未知であり、異世界から得たものであるなら納得するしかない。そんな事を他の神々が知れば、どんな行動に出るのか容易に想像出来る。
「ヘルメス、間違ってもそのような推測を言い触らすでないぞ」
「分かってるって。折角アルテミスを救ってくれた恩を仇で返す気なんて微塵もない。さっきの推測は俺の心の内に留めておく」
ウラノスは厳しい表情で釘を刺し、当然と言わんばかりに頷くヘルメス。万が一にそんな事をしてベルがオラリオからいなくなってしまえば、とんでもない総スカンを喰らう事になってしまう。特にベルに対して熱烈な感情を抱いているフレイヤから、送還覚悟の折檻が待っているので。
「とは言え、ベル君の力は物凄く気になるよ。アレ以外にも、四十以上の魔法が使えるって聞いた時は――」
「それは本当か、神ヘルメス」
「おわっ!」
すると、どこからか第三者の声がした事でヘルメスが吃驚した。声がした方へ振り向くと、そこには全身を黒衣で包まれた者がいた。
明らかに怪しい侵入者だと思われる存在だが、この場にいるヘルメスは良く知っている。目の前の人物は魔導師『
「ベル・クラネルが使う魔法は
「ま、待つんだ賢者! 今の君ちょっと怖いから。一先ず落ち着こうじゃないか!」
物凄く饒舌になりながら両肩を掴んでくるフェルズにヘルメスは恐怖した。フェルズの身体や顔は黒衣で覆われて見えないが、肉を覆っていない骸骨姿である事を知っている。それ故に目の辺りからギラリと赤い光を発しているので、ヘルメスはまるでモンスターに襲われるような恐怖の感覚に陥っていた。
「落ち着く? 何を言っているんだ、神ヘルメス。私は冷静だ。冷静でなければ、ベル・クラネルが使う魔法を知る事は出来ないだろう。あと今の私は『愚者』だ。さて、そんな事はどうでもいいから早く教えてくれ。貴方が見たベル・クラネルの魔法を!」
「ウラノス、助けてくれ! 賢者が乱心してる!」
「……すまないが、今のフェルズは私でも止められそうにない」
そう言いながら視線を逸らすウラノス。どうやら助ける気はないようだ。
その直後――
「さぁ神ヘルメス! 教えてくれぇ!」
「だ、誰か助けてぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
フードが取れて骸骨頭を晒すフェルズに、ヘルメスは更に恐怖が増して悲鳴をあげるのであった。
☆
場所は変わって【ロキ・ファミリア】の
ティオナとアイズ、そしてベルとヘスティアはヘルメスと違って一日早くオラリオへ戻っていた。
二人が
感動的なシーンとなったのも束の間で、我らが
長い説教を終えた後、フィンは二人から
まず最初にベルがアイズとティオナに貸した武器の形状、並びに武器に搭載されている能力について二人は語り始める。
アイズの武器はサーベル型でありながらも、その剣自体に魔力が付加されている為、『
ティオナの武器は魔力は無いが、アイズの武器と同じく手にした途端に力が沸き上がった。後になってベルから教えてくれたが、ティオナが使っていた武器は、装備している最中に一定時間経つと完全回復すると言うずば抜けた能力も持っているらしい。これを聞いたティオナは、アンタレスのレーザー攻撃を受けても平気だった理由が分かった。
武器の話をして早々、フィンは物凄い頭痛に襲われた。本当に痛いわけではないが、ベルが二人に貸した武器が途轍もなく非常識極まりないモノだったので、敢えてフリをしているだけだ。ついでにこの場にいないベルに物凄く問い詰めたかった。いくら二人と仲が良いとは言え、他派閥の人間にそんな凄い武器をホイホイ貸してもいいのかと。
因みにこれを聞いていたリヴェリアは内心非常に羨ましがっていた。自分の時は遠征でベルからあの杖――ゼイネシスクラッチをまともに使ったのは一回きりでの僅かな時間に対し、アイズとティオナはそれ以上に使っていた。もう少し説教の時間を長めにすれば良かったと後悔している。例えそうなっても、フィン達が流石に止めようとするが。
序盤の武器話で既にお腹一杯気味になっていたフィン達だったが、続いて今回の
アンタレスがアルテミスを喰らって『
そんなチート同然の事を仕出かしていたモンスターをベルが倒しただけでなく、取り込まれたアルテミスを救出し、更には暴走した『アルテミスの矢』を退けた。これには流石のロキも度肝を抜かれるどころか、フィン達ですら言葉を失う始末。アンタレスに強力な魔法を連続で使って倒したとリヴェリアが聞いていた際、『……神ヘスティアは私を受け入れてくれるだろうか』と本気で
それとは別に、フィンはベルに初めて嫉妬の念を抱く事になる。
余りにも濃密過ぎる内容に、ロキはヘルメスの意見に賛成するように、アイズとティオナに報告した内容を決して口外しないよう緘口令を敷いた。ベルの功績とは別に、今回の要因に神が大きく関わっている。下手に知れ渡れば色々と不味い事になると、ロキは改めて認識した。
そして報告を終えたアイズとティオナは執務室から出て、フラフラしながらも部屋へ戻ろうとする。
「や、やっと解放されたね……あたしもうクタクタだよ~」
「私も……特にリヴェリアのお説教で……」
(精神的に)瀕死状態となってる二人が移動している中、声を掛けようとしている者達がいた。
「アイズさん、大丈夫ですか?」
「リヴェリアに相当絞られたみたいね。遠くからでも聞こえてたわよ」
心配するレフィーヤに、察したように言うティオネ。
普段から仲の良い二人が来た事に、アイズとティオナは気が緩んだように笑顔を見せる。
「それで今回はどんな
「あ、ごめん。ロキやフィンから誰にも言うなって言われてるから無理」
「……そう。団長が指示したなら従うしかないわね」
心配させた罰として事の顛末を聞き出そうとするティオネだったが、フィンの名前が出た事で引き下がった。普段からフィンに従順なティオネを知っているので何かと便利な言葉である。
けど、ティオナとしては流石に全部教えない訳にはいかなかったので、ある事を教える前に問おうとする。
「ねぇねぇティオネ、あたしがいない間は一人で寝てたの?」
「はぁ? 当たり前でしょ。アンタがいなくて静かに眠れたわよ」
と言ってるティオネだが、実は妹がいなくて寂しがっていた。最初の数日は問題無かったが、一週間以上経った後から段々と部屋の中がガランとしてる中、『さっさと帰って来なさいよ、バカティオナ』と何度も呟く程に。
そんな姉の心情に全く気付いていないティオナは、得意気な表情でこう告げた。
「へっへ~ん。アタシね、今回の
「………………………はぁ!?」
「ええ!?」
何を言ってるのかと理解出来なかったティオネだったが、漸く頭が理解して叫んだ。その直後にはレフィーヤも一緒に。
「ベ、ベルと一緒に寝たって……それ本当なの? 嘘じゃないわよね?」
「本当だよ~。同じテントでアルゴノゥト君と一緒に寝てすっごく気持ちよかったよ~」
「!!!」
ガーンとショックを受けるようにティオネは口を大きく開けながら石化した。同時に圧倒的な敗北感に襲われている。
自分はティオネより先に恋を知り、必死に愛する
だと言うのに、恋をしたばかりの
しかしティオネからすれば、『一緒に寝た=子作り』と言う方程式が成り立っていた。つまり勝手に飛躍して勘違いしているだけだ。そして――
「団長ぉぉぉぉぉおおおおおおおおお! 私達もティオナとベルに負けずに子作りををををぉぉぉぉぉぉぉ!!」
「ちょっ、どうしたのティオネ!?」
一刻も早くフィンと子作りしようと、ティオネは全速力で執務室へと向かった。それを見たティオナは嫌な予感がしたのか、疲れた身体に鞭を打ちながらも暴走するティオネを追いかけて行く。
因みにロキ達と会議をしているフィンは突然親指が疼きだし、更には全身から悪寒が走っていた。ティオネの叫びが聞こえた瞬間、物凄く嫌な予感がしたので速攻で執務室の窓を開けて逃走した。その直後、いきなりドアが開いてティオネが逃げたフィンの後を追う。それらを見ていたロキとリヴェリアとガレスは何となく察し、逃走するフィンの成功を願っていた。
さて、それはそうと残されたアイズとレフィーヤの方も少しばかり問題が起きようとしている。
「あ、あの、アイズさん。さ、さっきの話は本当なんですか? ティ、ティオナさんが、ベル・クラネルと一緒に寝たって……!?」
「うん、本当だよ」
「はわわわわわ! な、何て破廉恥な!」
事実を言うアイズに顔を赤らめるレフィーヤ。同時にこの場にいないベルをとんでもないケダモノだと内心罵倒する。
しかし――
「私も一緒にベルと寝てたから」
「…………………へ?」
再びアイズがとんでもない事を口にした事で、レフィーヤの思考が突如停止寸前となった。
そこから先は色々と凄い事になるのだが敢えて伏せておく。敢えて言うのなら、レフィーヤがティオネ以上に暴走したとだけ記しておく。
☆
そして、一番の功労者である【ヘスティア・ファミリア】の
「頼むヘスティア、この通りだ! 一年、一年だけで良い! どうかオリオン……ではなくベルを私のファミリアに
「ダメだダメだぁ~~! いくら
「ちょ、お、お二人とも、どうか落ち着いて下さい……」
必死に土下座して懇願するアルテミスにヘスティアは却下し、それを見ていたベルがどうにか宥めようとしていた。
いきなりの展開に誰もが不思議に思われるだろう。
簡単に説明すると、【ヘルメス・ファミリア】と一緒に事後処理を終えたアルテミスは再びオラリオへ訪れ、【ヘスティア・ファミリア】の
そういう事が起きた為に、ヘスティアは頑なにアルテミスのお願いを拒否している。彼女としても未だに【ファミリア】がベル一人だけなので、例え期間限定でも漸く出来た眷族を手放したくないので。
アルテミスがベルを眷族に迎え入れたい理由は当然ある。思念体の記憶を継承された事もあって、今まで経験しなかった恋を知った。その為に愛するベルと一緒なら、【アルテミス・ファミリア】を再建する事が出来ると。死んだ眷族達に対する償いではないのだが、新しい眷族を迎え入れる際は、恋と言う素晴らしいものを教えようと。
しかしヘスティアからすればそんなの知った事ではなかった。自分だってベルの事が大好きだから、他の女に取られたくない。ただでさえティオナやヴァレン何某が急接近して厄介だと言うのに、これ以上ベルに迫る女は増えて欲しくないので。
そんな中、一人の
「中々面白い事をしているじゃない。オッタルもそう思わない?」
「……私にはお答えしかねます」
バベルの塔の最上階でフレイヤが鏡を使って覗き見をしていた。
「あの恋愛アンチなアルテミスをあそこまで
「フレイヤ様、まさか……」
「うふふふ……そろそろ私も、あの子にアプローチをして迫ってみようかしら」
アルテミスの行動に少しばかり警戒するフレイヤが、本格的に動き出そうと考え始めていた。
劇場版『オリオンの矢』はこれにて終了です。次回からは本編更新となる予定です。
今までお付き合い頂いてありがとうございました。
因みにこの話は本編に一切影響しません。
感想お待ちしています。