ベルがアークスなのは間違っているだろうか 作:さすらいの旅人
ベルがアルベラ商会からの
その一方で、ラウルは定期報告の為に【ロキ・ファミリア】の
久しぶりに戻った館の中は相変わらず慌ただしく、多くの団員達が忙しそうに行き交っている。
規模の小さい派閥ではまず見られない光景に、ラウルは改めてという巨大派閥の忙しさを実感していた。
やがて団長室へと通されたラウルは、執務机の向こう側に座るフィンと向かい合う。
「まだ一週間程度だけど、向こうの暮らしはどうだい?」
執務室の椅子に座っているフィンが、目の前にいるラウルに【ヘスティア・ファミリア】と上手くいっているか聞いていた。
その表情は普段通り穏やかで、まるで弟を気遣う兄のようですらある。
「それなりにやってるっす。のんびり出来る時間があって快適……あっ、べ、別にサボってる訳じゃないっすから……!」
問題無いと言いながらも思わず本音が出てしまうラウルは、しまったと言わんばかりに肩を震わせながら慌てて弁明する。
口にした瞬間、自分で失言だったと気付いたのだろう。ただでさえ普段から墓穴を掘る事の多いラウルらしい反応だった。
しかし、フィンは全く気にしていないように笑みを崩していない。
「分かってるよ。ウチは向こうと違って規模が大きいから、色々やる事があり過ぎて大変なのは僕も自覚してる」
事実、【ロキ・ファミリア】の幹部候補でもあるラウルは、日頃から雑務や連絡役、遠征準備など様々な仕事に追われている。
単純な戦闘能力だけならともかく、組織運営の負担という意味ではかなり苦労している方だった。
「そ、そっすか」
怒られなかった事に安堵したのか、ラウルは小さく胸を撫で下ろした。
ラウルが普段から大変苦労している事を知っているのか、フィンは理解を示しているように一切咎めようとはしなかった。
むしろ、丁度良い骨休みになって良かったとすら思っている程だ。最近のラウルは何かと仕事が集中していた為、少し環境を変える意味でも今回の出向は悪くないと考えていたのである。
「ところで話は変わるけど、この前ベルが無償の奉仕活動をしていたようだね」
優しい笑みから一変したフィンが、先日に得た情報の確認をしようと問う。
団長としての顔に切り替わったのだろう。穏やかさはそのままだが、瞳には鋭い知性が宿っていた。
「あ、やっぱり知ってたっすか」
ラウルは苦笑する。何だかんだでフィンの情報網は非常に広い。
特にベルのような注目人物の話となれば、耳に入らない筈がなかった。
「まあね。でも一体何があったんだい? 注目の【
ベルは今もオラリオ中から注目の的になっている有名な冒険者だ。
大派閥の幹部達ですら関心を抱く存在であり、その一挙手一投足が話題になる。
そんなベルが見返りも求めず奉仕活動に参加していたとなれば、何か事情があると考えるのが自然だった。
「………すいません、これは【ヘスティア・ファミリア】の問題なので」
そう言ってラウルは視線を逸らした。
事情を知っているからこそ話せない。話した瞬間に面倒事が拡大する未来しか見えなかったからだ。
「そう言われると余計気になるけど……まぁ、これ以上は聞かないでおくよ。ただ……」
「?」
疑問符を浮かべるラウルだが――
「何故か分からないけどティオナが嫌な予感がするとか言ってて、ベルに会いに行こうとしてたんだよね」
「ッ!」
フィンの言葉を聞いた瞬間、一気に顔を青褪めそうになった。
心臓が嫌な音を立てる。
事情を知っているラウルとしては、絶対ティオナに知られて欲しくない気持ちで一杯だ。
下手をすれば某姉みたいな展開になると容易に想像しているから。いや、容易に想像出来るどころか、ほぼ確実にそうなると言っても良かった。
過去の数々の出来事を思い出しながら、ラウルは内心で必死に首を横へ振る。
(駄目っす……マジで駄目っす……!)
もし真相を知ればティオナは確実にベルを問い詰める。
そして周囲を巻き込みながら大騒動へ発展する未来しか見えなかった。
「ラウル、素直なのは良い事だけど、もう少し感情をコントロールする術を持った方が良いよ」
「……き、肝に銘じておくっす」
もはや何も言い返せない。図星だったからだ。
ラウルは気まずそうに頬を掻きながら頷いた。
そんなラウルを見て、フィンは苦笑を浮かべる。魔がありながらも素直に頷くラウルに、フィンは内心不安な気持ちだった。
(ラウルの反応からして、もしかしたらベルはティオナが危機感を抱くような所に行ってたかもね。例えば……歓楽街とか、ね)
あくまでそれはフィンの予想に過ぎない。
だが、ラウルの反応は分かりやすすぎた。何かしら女性絡みの問題である事までは容易に察する事が出来る。
そしてもし予想が大当たりであれば、確実にティオナは暴走していただろう。それどころか、自分もラウルと同じくに出向するとか言い出していたかもしれない。もっとも、その場合は周囲が必死になって止めるだろうが。
ラウルが一通りの報告を終えた後も、アキ達の仕事を少し手伝った事もあり、気付けば思った以上に長居してしまっていた。
そろそろ戻らなければならない。そう思いながらの本拠地《ホーム》へ帰ろうとしたのだが――
「あのぅ、どうしてリヴェリアさんも一緒なんすか?」
館の入口付近でラウルは引き攣った笑みを浮かべた。
何故なら、副団長であるリヴェリアが当然のような顔で同行しようとしていたからである。
周囲の団員達も驚いている様子はなく、どうやら本人は最初からそのつもりだったらしい。
「この前頼まれていた調べ物が漸く判明したから、ベルに教えようと思ってな」
リヴェリアは落ち着いた口調で答える。その表情は普段通り冷静そのものだった。
「あぁ、そういう事っすか」
団長や副団長クラスともなれば、忙しくても調査依頼を忘れる事はない。
ラウルは一応納得した。
「でも調べ物って一体……」
しかし気にならない訳ではない。
ベルがリヴェリアへ頼んだ内容などそう多くはないからだ。
「『殺生石』と言うアイテムについてだ」
「え?」
予想外の単語だった。
何故リヴェリアがその名前を知っているのか。
ラウルは思わず目を丸くする。
そんな彼の反応を見たリヴェリアは僅かに眉を上げた後、
「ベルに調べると約束したからな」
と軽く説明した。
後からベルから聞いたと答えてくれた事でラウルは納得する。
同時に、ベルがわざわざリヴェリアへ頼むほどの内容だったのかと少し興味も湧いていた。
もっとも、その答えはこれからへ戻れば自然と分かる事になるのだった。
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