ベルがアークスなのは間違っているだろうか 作:さすらいの旅人
本編更新途中ですが、急遽ダンメモシリーズを載せる事にしました。
グランド・デイ イヴ①
それは少し昔の物語。
それは尤も新しい、偉大な伝説。
古の時代、地の底より現れし獣が、この地を滅ぼした。
その体躯、夜の如く。その叫び、嵐の如く。大地は我、海は哭き、空は壊れゆく。漆黒の風を引き連れし、絶望よ。
なんと恐ろしい、禍々しき
そして、約束の地より、二つの柱が立ち上がる。光輝の腕輪をはめし雄々しき
見るがいい。光輝の腕輪が止みを弾き、白き衣が夜を洗う。眷族の剣が突き立った時、黒き
漆黒は払われ、世界は光を取り戻す。嗚呼、オラリオ。約束の地よ。星を育みし英雄の都よ。我らの剣が悲願の一つを打ち砕いた。
嗚呼、神々よ。忘れまい、永久に刻もう。その二柱の名を――其の名はゼウス。其の名はヘラ。称えよ、彼等が勝ち取りし世界を。
受け継ぐがいい、彼等が残した希望を。
それは最も新しい神話であり、英雄譚。
世界に希望をもたらした、偉大な日。
そして、それは明日。
今日は『グランド・デイ』の
かつて二柱の神が遺したこの平和な世界を、そして英雄が生まれるこの街を――目一杯楽しむ日である。
「『グランド・デイ』かぁ……」
どうも、ベル・クラネルです。
今日はオラリオの最大イベント『グランド・デイ』の
と言っても、この街に来たばかりの僕には今回のイベントについてよく分かっていない。神様――僕の主神であるヘスティア様曰く『凄いお祭り』だそうです。
因みにその神様はバイトでいない。こう言ったお祭りは一番の稼ぎ時である為、休みを取ろうとした神様に店長さんが断固拒否し、強制的に連行されてしまったのだ。本当なら僕は神様と一緒に祭りを見に行きたかったけど、仕方なく一人で行く事にした。
けれど一人じゃ味気ないからリリやヴェルフを誘おうとしたけど、二人も無理だった。ちょっとした事情がある為に今日は不参加だと。(※あくまで作者の都合です)
だったら【ロキ・ファミリア】のティオナさん達ならと、つい先ほど
折角のイベントなのに、今日は何だか運の無い日だ。
まぁ取り敢えず、沢山の屋台を回って色々な食べ物を買うとしよう。バイトから戻った神様と食べる約束をしてるので。
よし、それじゃあ行ってみよう!
「い、いらっしゃい、いらっしゃい……」
屋台にある美味しそうな食べ物を買っては電子アイテムボックスに収納、と言う繰り返しを行っていた際、知っている店員がいた。
その人は【タケミカヅチ・ファミリア】の団長――桜花さんだ。とてもぎこちない接客をしている。
「桜花さん?」
「うっ……ベ、ベル・クラネルか。見ての通り、ジャガ丸くんを……ひとつ、どうだ?」
「は、はい……」
余りにも買う気がしない接客な為に、僕はどうすればいいか判断に迷ったが、一先ず買う事にした。
神様だったらハキハキと元気のいい接客をしてるけど、桜花さんは全くの正反対だ。
「何で桜花さんがバイトをしてるんですか?」
「タケミカヅチ様に頼まれてな……今日は稼ぎ時とか、なんとかで……」
ああ、なるほど。
『グランド・デイ』は稼ぎ時なイベントな為、タケミカヅチ様は団員の桜花さんもヘルプで頼んだのか。
「じゃあ、そのタケミカヅチ様は?」
「アルバイト先の屋台でも特売をすると言う話になって、そっちに駆り出されていった。今はヘスティア様の屋台と競っているところだ」
「そうでしたか……」
確か神様のバイト先の店長さんも特売日にするって言ってたな。どこの屋台も似たような事をしてるようだ。
「と言う事は、この屋台はファミリアで店を出しているんですか?」
「ああ、今日はもう、なんだってアリらしい。ただ、そのせいで揉め事も起きたりするが……」
「揉め事?」
桜花さんが気になる事を言った為、僕は思わずその単語を鸚鵡返しをした。
それを聞いて頷いた桜花さんは、とある方へ指す。
「おい、アミッド……『グランド・デイ特性
「その、一応、記念の粗品もつけるつもりです……」
抗議してるナァーザさんだが、申し訳なさそうな表情で言い訳染みた事を口にする【ディアンケヒト・ファミリア】のアミッドさん。
「ふはははは! 豪華であろう! ではな、貧乏人どもぉ!」
ディアンケヒト様が高笑いをしながら、悔しがるナァーザさんを尻目にアミッドさんを連れて何処かへ行ってしまった。
「クソジジィ……こうなったら、ベルに不評だったって噂を流してやろうかな……。今のベルは注目の【
「勝手にベルの名を使って利用するでない、ナァーザ。しかし、ディアンケヒトに逆らえず、アミッドも気の毒だな……」
「……なんで商売敵の心配、するんですかっ!」
「いたたたたたっ、つねるなっ、つねるなナァーザ!」
ナァーザさんが何故か僕の名前を口にしていたけど、ミアハ様の台詞に反応して痴話喧嘩らしき事をしているのであった。
…………取り敢えず、あそこに僕が加わったら面倒事になりそうだから、見なかった事にしておこう。
「本当に、揉めてますねぇ……」
「極東では、祭りに喧嘩はつきものと言うからな。ある意味、風物詩みたいなものだ」
僕が思った事を口にすると、桜花さんがまるで見慣れた光景のように言った。
この人の故郷ではそれが当たり前なんだろう。
僕がアークス船団にいた頃、キョクヤ義兄さんやストラトスさんとお祭りを楽しんだけど、あんな事は全く起きなかった。もしも屋台で違法的な営業をしていたら、保安部に即座に取り押さえられる決まりとなっている。
思い出してると、またしても二人に会いたい気持ちになっていく。ホームシックってやつかな。
「まあ、せっかくの祭りだ。楽しんだ者勝ちだろう」
「そうですね」
確かに祭りは楽しんだ方が良い。だから此処は思考を切り替える事にしよう。
それと大変失礼だけど、この屋台のジャガ丸くんの売れ行きが芳しくないような気がする。桜花さんの接客が改善されない限り。
流石にそんな指摘は出来ないから、桜花さんには『頑張って下さい』と言って別れた。
歩きながら思い出したけど、『豊穣の女主人』も何か売ってるのかな?
あそこは屋台をやらなくても、ミアさんが作る料理で充分に売れるから――
「バカヤロー! こんなもん食えるか! 離せ、こらぁぁぁっ!」
すると、男性冒険者が何かから逃げるように必死になっていたのが聞こえた。
思わず振り向いた先には、ついさっき考えていた『豊穣の女主人』の屋台を発見する。
「うニャ~、逃げられたのニャ。せっかくのカモだったのにニャア……」
「むむ、新しいカモを見付けたニャ! お~い、少年! こっち来るニャ~!」
逃げられた事に残念がるアーニャさんに、僕を見た途端に来いと言ってくるクロエさん。
カモって何ですか? 何か絶対に良くない物を売ろうとしてるのが丸分かりなんだけど……。
本当だったら素通りしたいけど、僕の行きつけな店となってるウェイトレスからのお呼びだったので、取り敢えず行く事にした。
「な、なんですか?」
「豊穣の女主人特別メニューを販売してるんだよ。さぁ買っていって! むしろ全部買って!」
僕の問いにルノアさんが笑顔で僕に商品を買うよう催促してきた。
全部買えと言う時点で既におかしい。こんな言い方をするって事は、絶対に何か裏がある筈。
そう考えるのは、キョクヤ義兄さんから常に相手の言動の裏を読むようにと教えられてるからだ。この教えが無かったら、僕は絶対に何度か騙されているだろう。
「その前に特別メニューって、なんですか?」
「ふふふっ♪ よくぞ聞いてくれましたー。特別メニュー第一弾はこれです!」
改めて問うと、今度はシルさんが僕に商品を見せようとする。
「がっつりいきたいあなたにお勧め! ベヒーモス丼でーす♪」
「ベ、ベヒーモス丼?」
………何コレ?
真っ黒い米の上に、真っ黒い何かが敷き詰められているんだけど……。これって食べ物なの?
「滋養強壮にいいようです」
何故か無表情でベヒーモス丼についての効能を言うリューさん。
いやいや、とてもじゃないけど滋養強壮に良いとは全然思えない。
「他にもこちら! ホッとするひと時をあなたに! ベヒーモスティー!」
僕の考えを余所に、シルさんは次の商品を出してきた。
……単なる真っ黒い飲み物だね、コレ。完全に汚水じゃないのかな?
「滋養強壮にいいようです」
またしても同じ事を言うリューさんにツッコミを入れようとするも、シルさんが更なる商品を見せる。
「更にこちら! 小腹が空いた時の味方! ベヒーモスクッキー!」
「…………………」
ベヒーモスクッキーとやらを見て、僕はもう完全に絶句していた。
真っ黒い何かの欠片が真っ黒い袋に放り込まれて、真っ黒いリボンが結ばれている。
明らかに消し炭としか言いようがない物を見せられたのだから、誰だって絶句する筈だ。
「………滋養強壮にいいようです」
「リューさん、それはもう言わなくて結構ですから」
絶対嘘だと誰でも分かる。
シルさん達には申し訳ないけど、買う気なんか毛頭無い。ついさっき男性冒険者が逃げ出した理由がよく分かったから。
「いいから買うニャ! 折角の新メニューなのに全然売れないニャ!」
「当たり前です!」
アーニャさんの台詞に思わずツッコミを入れてしまった。
と言うより、こんなの好き好んで買う人何か絶対いないと僕だって断言出来る!
「まぁわかるっちゃわかるけどねぇ。ベヒーモスだからって全部真っ黒にしなくてもさぁ」
「でしたら普通の商品にして下さいよ!」
今度はルノアさんの台詞にツッコミを入れてしまう。
「食い物に見えないニャ! こんなのミャーでも買わないニャ! というわけで、少年が買うニャ!」
「そんなの嫌ですよ!」
自分が買いたくない物を人に押し付けるなんて最悪にも程がある。
もしキョクヤ義兄さんがいたら、確実にキレてるだろう。闇の洗礼を与えてやると言いながら。
「えぇ~、ベルさん、買ってくれないんですかぁ?」
「……因みにクッキーはいくらするんですか?」
悲しそうな表情をするシルさんに、取り敢えずと言った感じで尋ねてみると――
「はい、ベヒーモスクッキーですね。お値段1800ヴァリスです♪」
「すみません。それでは失礼します」
明らかにぼったくり同然の料金だったので、僕は笑顔のままファントムスキルを使って姿を消す事にした。
「あっ、ベルさん!?」
「ああっ! 白髪頭が消えたニャ!」
「忘れてたニャ! あの少年、
「ちょっとぉ~! 消える前に一つくらい買ってよ~!」
「………………………滋養強壮にいいようです」
シルさん達が叫んでいたが、僕は敢えて無視してスキルを維持したまま去って行った。
どうでもいいんだけど、何でリューさんは壊れた機械みたいに同じ事を言ってるんだろうか。
感想お待ちしています。