ベルがアークスなのは間違っているだろうか 作:さすらいの旅人
「ふぅ……危なかったぁ」
暴動が本格的になる前に、美女コンテストの会場から逃走するのに成功した僕は安堵の息を漏らす。
今更言うのは何だけど、声援で決めるのは大きな間違いだった。人は熱狂してしまうと感情的になるほど自分を抑える事が出来なくなってしまう。異様な盛り上がりを見せていた観客達が正にソレだ。
ヘルメス様はそこまで考えなかったんだろうか。まぁ、この世界にいる神様の大半は娯楽を求めてるから、多分どっちでも良かったのかもしれない。大会委員長でありながらも、無責任にもこっそり逃げ出したのだから。
ああ言う無責任な神様とは関わらない方が良いと改めて理解した。僕が信用出来るの神様は、ヘスティア様にミアハ様、タケミカヅチ様とゴブニュ様、最後は……ロキ様ってところか。今のところは五柱だけど、今後も増えるといいな。
そう考えながら街を回っていると、さっきまでと違う店がある事に気付いた。同時に見覚えのある
「アキさん?」
「あら、ベルじゃない」
僕が
「奇遇ね。君も屋台巡りしてるの?」
「ええ、まぁ。さっきまでちょっとした暴動に巻き込まれそうになってましたが……」
「暴動?」
気になる様に鸚鵡返しをしてくるアキさんに、僕はついさっきあった美女コンテストについて軽く話した。
あそこには【ロキ・ファミリア】の人達も参加してるから、当然この人も知ってる筈だと思いながら説明してる。
僕が一通り話すと、アキさんはまるで予想していたかのように苦笑する。
「やっぱりそんな気がしてたのよねぇ。逃げて正解だったわ」
「逃げて、って。もしかしてアキさんも参加する予定だったんですか?」
「遠くからロキが凄く張り切ってたのが見えて嫌な予感がしたのよ。絶対に碌な事じゃないってね」
「あはは……」
心底嫌そうに言うアキさんに僕は苦笑するしかなかった。
都市最大派閥の主神であるロキ様は団員からの信用が余り無さそうだ。と言っても日常方面に関しては、だけど。
そう考えるとリヴェリアさんはさぞかし苦労してるだろう。己の主神に騙された感じで美女コンテストに無理矢理参加させられていたからなぁ。
慰めにはならないけど、僕の
「そう言えば、ラウルさんは一緒じゃないんですか?」
一旦話題を変えようと、相方であるラウルさんの事を訊いた途端、アキさんは何故か嘆息している。
「何でベルまで私とラウルを一緒にしてるのよ」
「いえ、何となくそう思っちゃって……」
遠征時には必ずと言っていいほど、ラウルさんとアキさんは常に行動していた。
それを見た僕は思わず普段から一緒なんだろうと思っていたが、案外そうでもなさそうだ。
「この際だからベルにも言っておくけど、私とラウルは決して恋仲じゃないから。単なる同期で腐れ縁みたいなものよ」
「そ、そうなんですか……」
本当に腐れ縁、なのかな?
僕から見ればラウルさんとアキさんはお互いに信頼し合ってるように思えてしまう。と言っても、第三者である僕の邪推に過ぎないから止めておこう。
「まぁ恋仲と言えば、君は君で大変よね。あのティオナにすっごく愛されてるんだから」
「あ、あははは……」
途端に少々気の毒そうに言ってくるアキさんに僕は苦笑せざるを得なかった。
本音を言うと、会場で暴動に巻き込まれる際、そのティオナさんから逃げたい気持ちもあったのだ。
もしあのまま残っていたら、あの人は間違いなく凄い勢いでもう接近して僕に抱き付いてくるだろう。そう予感したから、こうして無事に避難した。
「ねぇベル、いっそのこと【
「折角ですけど、お断りさせて頂きます」
「そう。残念だわ」
誘ってくれたアキさんには悪いけど、僕はどこの【ファミリア】にも
尤も、この人も僕が簡単に首を縦に振る事は分かっていたみたいで、すぐに引き下がっている。
「だったら今度一緒にダンジョン探索でもどうかしら?」
「それでしたら喜んで」
アキさんが僕をパーティに誘う理由は何となく分かる。恐らく帰還する際、ダンジョンによって身体に染みついたモンスター臭をアンティで消して欲しいんだろう。
確かに体臭は女性冒険者にとって大変な悩みだ。常に清潔でありたい気持ちは僕も理解出来る。以前の遠征では、アキさんだけでなく【ロキ・ファミリア】の女性団員の殆どが清潔にして欲しいと頼まれたのだから。
「あ、言っておきますけど、探索中に僕の武器を貸して欲しいとかは無しですからね」
「分かってるわよ。別に私はそこまで求めてなんか……あっ」
すると、何か思い出したかのような表情になるアキさん。
「ちょっと聞きたいんだけど、ベルは闘技場に行かなくて良いの?」
「闘技場って……。そこで何かやってるんですか?」
アキさんの質問を逆に質問で返した。
「え? 『
僕の質問に物凄く意外そうな表情となるアキさん。
聞いてみると、『大剣闘祭』はギルド主催である
「へぇ~、そんなイベントがあったんですね。初めて知りました」
「私はてっきりベルにも声が掛かると思っていたんだけどね」
「いやいや、僕みたいな未熟な冒険者なんかに――」
「ベル、謙遜も過ぎると嫌味にしか聞こえないわよ?」
「――すみませんでした」
冒険者になって一年も満たしてない僕が有名なメインイベントに参加出来る訳がないと言おうとしたが、アキさんが途中から睨んだので即座に謝った。
この人、時々だけど怖いんだよなぁ。温厚な人ほど怒らせると怖い、と言うのは間違いなくアキさんに該当するだろう。
「別にそこまで謝らなくても良いんだけど」
「す、すいません。何か、つい……」
ここ最近だけど怒った女性を見た途端に謝ってしまう。明らかに自分に非があると考えただけでそうなっちゃうんだよなぁ。理不尽に怒ってくるレフィーヤさんは別だけど。
「それよりも、その『大剣闘祭』には興味ありますね。僕、ちょっと行ってみようと思います。それでは」
「あっ、ちょ! 今から行っても……!」
メインイベントが気になった僕はアキさんに別れを告げて去って行った。
それと何故か分からないけど、此処から早く離れた方が良いと僕の直感が告げている。特に不安な事に関しては。
「あ~あ、行っちゃったわね……アレは大人気の催しだから、今から行っても席はないと思うんだけど……」
止めようとするアキだったが一足遅く、ベルは既に去ってしまった。
メインイベントである『大剣闘祭』は有名冒険者達が戦う際、観客の中には外国の大使も含まれている。周辺諸国にオラリオをアピールする物でもある為、本気で戦う事は出来ない。
今更だけどアキは考えた。もしもベルが『大剣闘祭』に出場したら、実はとんでもない事になるんじゃないかと。特にベルと戦いたがってる節が見受けられる【
「まぁ、ベルは不参加だから大丈夫ね」
「アルゴノゥト君が何だって?」
「うわぁっ!」
考え事をした所為か、背後から声を掛けてくる事に今更気付いたアキが思わず悲鳴を上げてしまった。
振り向くと、自分の同僚であるアマゾネス姉妹――ティオナとティオネだった。
「び、びっくりしたじゃない、二人とも!」
「ちょっとアキ、私は何も言ってないわよ?」
憤慨そうに言うアキにティオネが突っ込む。あくまで声を掛けたのはティオナなので。
その突っ込みに敢えて気にせず、態とらしい咳払いをしながらもアキは尋ねる。
「そ、それよりも貴女達、コンテストの方はどうしたの?」
「収拾つかなくなったから勝手に出てきちゃったわ」
「面倒くさくなっちゃってさ~。最後の方はもうわけわかんなかった」
アマゾネス姉妹から話を聞くも、要は
ベルから一通りの話を聞いてはいたけど、やっぱり美女コンテストに参加しなくて良かったとアキは心底分かった。同時に本当に碌な事をしない主神だと思いながら。
すると、ティオナは突然質問をしてきた。
「そんな事よりもさ、アルゴノゥト君見なかった?」
「アルゴノゥト……ああ、ベルの事ね」
アキは何故英雄譚に出てくる名前なのかと一瞬疑問に浮かぶも、すぐにベルの事だと分かった。ティオナがベルにそう呼んでいたのを思い出したので。
「ついさっきまで一緒だったわ。話ついでに、一緒にベルとダンジョンに行こうって約束も取れて――」
「何ソレ! ちょっとアキ、それ詳しく説明して!」
(あっ、しまった!)
迂闊な発言をした事に気付くも遅かった。
ティオナはベルにゾッコン中であり、以前あった【カーリー・ファミリア】の件で一層惚れ込んでいた。他のアマゾネスがベルに迫ろうとしていた際、物凄い勢いで阻止していたのだから。
アマゾネスの性と言うか、今のティオナはティオネと同様に恋愛真っ盛り中だ。その当人であるベル、ついでにフィンとしては非常に困っているが。
因みにベルが何故かアキから逃げるように退散したのは、ティオナが来そうな予感がしていた為だった。あと少し遅かったら確実にティオナと遭遇し、即行で抱き付かれるだけでなく、ずっとくっ付いたまま行動する事になっていただろう。そうなれば姉のティオネが段々とフラストレーションが溜まり、フィンに猛アタックしていた可能性が充分に考えられる。
根掘り葉掘り聞こうとするティオナに、アキは少々ウンザリしながらも正直に話している。同時に疚しい事は一切してないと証明する為に。
ベルが闘技場に向かった事を訊くも、元から行く気が無かったティオナはどうしようかと迷うのであった。
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