ベルがアークスなのは間違っているだろうか   作:さすらいの旅人

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グランド・デイ イヴ⑧

 不満を露わにしてる観客達が闘技場から去って行き、『大剣闘祭』は漸く本当の意味で終わる事となった。飛び入り参加となった僕とレフィーヤさん、そしてオッタルさん達は未だに舞台に残っているが。

 

「誰が殺し合いをしろと言ったぁぁ!!」

 

 ギルド長――ロイマンさんが大層お怒りで怒鳴り散らしていた。

 

 僕とレフィーヤ以外、全く反省した様子を見せていない。それどころか如何でもいいように聞き流している。

 

「単なる手合わせだ。殺し合いではない」

 

「糞真面目な顔で言うな!」

 

 一応オッタルさんが否定するも、即座に突っ込み返すロイマンさん。

 

 【猛者(おうじゃ)】相手にそこまで言えるギルド長はある意味凄かった。普通の人ならそんな度胸は無いだろう。

 

「お前等が考えなしに暴れた所為で、大使殿が泡を吹いて倒れたんだぞ!?」

 

 まだまだ言い足りないのか、ロイマンさんが立て続けに状況の悲惨さを教えてきた。この人からすれば、非常に不味い事態だったんだろう。

 

「オラリオの力を見せるのが目的だったんじゃろ? 何も問題ないではないか」

 

「見せすぎているのだ、大馬鹿者!」

 

 文句を言われる筋合いは無いとガレスさんは反論するも、ロイマンさんがまたしても突っ込み返した。

 

 話を聞いてない僕は察した。恐らくイベントに参加していたこの人達に本気でやらないよう強く念を押したのかもしれない。

 

 それが叶わなかったどころか、最悪の事態に陥ってしまい、ギルド長にとっては目も当てられない大失態なんだろう。

 

「意識を刈り取ってどうする!! 止めろと散々命じただろうが!」

 

「では、次からはご自分で参戦して止めて下さい。我々の苦労が少しは分かる筈です」

 

「それが出来たらやっておるわ!!」

 

 怒鳴るロイマンさんに段々嫌気が差したようで、水色髪の女性が自分でやれと言い返した。

 

 確か【ヘルメス・ファミリア】団長のアスフィさん、だったかな? この人からラウルさんみたいな苦労人気質を感じられる。美女コンテストの主催者であるヘルメス様が平然と逃げ出す行為をしたから、相当貧乏くじを引かれてるのかもしれない。

 

「何故加減というものが出来んのだ、お前達はぁ!?」

 

 僕から言わせれば人選を間違えているんじゃないかと思う。いくら強くて有名であっても、最初からルールを守らない人にきつく言ったところで意味が無い。特に自分勝手に動いていたベートさんが正にソレだった。

 

「あー、うるせぇうるせぇ。戦えもしねえ、雑魚でもねえ野郎がごちゃごちゃと。仕方ねえだろ?」

 

「私達は……冒険者だから」

 

 鬱陶しそうに言うベートさんと、苦しい言い訳をするアイズさん。

 

「体のいい言い訳に使うんじゃなぁぁーーい!!」

 

 それは確かに。

 

 この時ばかりは僕もロイマンさんの激しい突っ込みに内心同意する。

 

 そう思ってると、今度は僕に視線を向けてきた。

 

「あとベル・クラネル! お前は何故勝手に参戦した!?」

 

「いや、僕は巻き込まれただけでして……」

 

 オッタルさん達が本気で戦おうとしてる最中、突然の衝撃によって観客席から落ちてしまった事を説明した。

 

 けれど、ロイマンさんは聞いても納得してくれない。それどころか更に激昂している。

 

「だったらさっさと退場すれば良かったではないか!」

 

「そうしようと思ってましたけど、戦わざるを得ない状況になってしまいまして……」

 

 観客達からの声援以外に、僕が逃げれなくなった元凶へ視線を向けるも、当の本人――オッタルさんは全く素知らぬ表情のままだ。

 

「んなこたぁ如何でも良い。おいベル、続きやるぞ」

 

「はい?」

 

 すると、ベートさんの発言に僕は戸惑いの声を出した。

 

「猪野郎と()ったなら今度は俺の番だ」

 

「いや、もう『大剣闘祭』は終わったんですから……!」

 

「ダメです、ベートさん。私がベルと戦います」

 

「何でアイズさんまで!?」

 

 イベントが終わったにも関わらず、ベートさんとアイズさんは僕と戦いたがっていた。

 

 いや、僕としては願ってもないですけど、この状況でそんな事を言ったら――

 

「いい加減にしろぉぉーー!」

 

 ロイマンさんの怒鳴り声が闘技場に響き渡ってしまったのは言うまでもない。

 

 因みにフィンさんとガレスさんがどうにか二人を抑えた事で、何とか止める事が出来たのであった。

 

 

 

 

 

 

「はぁっ……。急にどっと疲れた」

 

 やっと闘技場から出れた事に僕は安堵の息を漏らしていた。今は自身の本拠地(ホーム)へ向かっている最中だ。

 

 フィンさん達はイベントの後処理があるとかで、まだ残っている。関係者じゃない僕とレフィーヤさんは、ロイマンさんから小言を言われた後、こうして解放されたと言う訳である。

 

 因みにレフィーヤさんとは既に別れている。寄るところがあると言って。尤も、それは僕と早く別れたい為の口実なのかもしれないが。

 

 まだ前夜祭(イブ)なのに、ここまで疲れる事になるなんて……。本番である明日はそれ以上に大変な事にならなければいいんだけど。

 

 そう思いながら歩いていると――

 

「ベルくーーーーん!」

 

「ん? あ、神様」

 

 僕の主神であるヘスティア様の声がした。

 

 気付いて振り向くと、ポフンと僕に抱き付いてくる。凄い勢いで突進してくるティオナさんと全然違うから、容易に受け止める事が出来た。

 

「ゴメンよぉベルく~ん! 本当は今日一緒に回る予定だったのに~!」

 

「仕方ないですよ。今日は稼ぎ時だったんですから」

 

 少々涙目になってる神様を僕はどうにか宥めていた。

 

 知っての通り、バイト先であるジャガ丸くんの屋台は大忙しだった。無理言って休みを取ろうとしていた神様に、店長さんが容赦無く仕事優先と言われてしまい、強制的に連行されてしまった訳である。

 

「明日はどうなんですか?」

 

「そこは大丈夫! 今日みっちり働きまくったから、どうにか店長からOKを貰えたよ!」

 

「流石です、神様」

 

 てっきり明日も強制連行されるかと予想したが、神様の頑張りで明日は一緒に行けるようだ。

 

 神様だけでなく、リリとヴェルフも一緒だ。だから明日は四人で行動する事になる。

 

「ところでベル君。どうして君、その格好になってるんだい?」

 

「ああ、これはですね……」

 

 普段着姿であった筈の僕が、戦闘服『シャルフヴィント・スタイル』を身に纏ってる事に神様は疑問を抱いていた。

 

 それを聞いた僕は闘技場で起きた事を説明をしようとする。【フレイヤ・ファミリア】のオッタルさんと戦わざるを得なかった状況も含めて。

 

 

 

 

 

 

(とんだ茶番に付き合わされたな……)

 

 ベルとレフィーヤが闘技場から出て少し経った後、『大剣闘祭』の後処理を漸く終えた関係者達は解散した。

 

 イベントに付き合わされた【フレイヤ・ファミリア】の団長オッタルは、用が済んで早々に主神(フレイヤ)の下へ向かっている。【亡霊兎(ベル・クラネル)】と手合わせした報告をしようと。

 

 ほんの短い時間であったが、今回の手合わせは非常に驚かされた。不覚を取ったとは言え、まさか自身の得物を破壊されるとは思いもしなかったのだ。

 

 一応言っておくと、『Lv.7』のオッタルが使う大剣は相応の業物である。妙な技を使ったとはいえ、それを現在『Lv.3』のベルが折ったのは充分称賛に値する。レフィーヤを含めた他の『Lv.3』の冒険者に出来るかと問われたら、『出来ねぇよ!』と即座に否定されるだろう。

 

(コレを見せれば、フレイヤ様はさぞかしお喜びになるだろう)

 

 オッタルは未だに折れた剣を手にしていた。ベルがやったと言う証拠を見せる為に。

 

 普段から使ってる武器が折られた事で不快になるのだが、今回ばかりは別だった。寧ろ喜ぶべき事であろうと思っている。

 

(何れは奴の本気を見てみたいものだ)

 

 今度はちゃんとした手合わせで、本気のベルと戦いたいとオッタルは考える。フレイヤの隣に立つ資格があるのかとは別に、一人の武人として戦ってみたいと。

 

 そう思いながらバベルに辿り着き、そのまま最上階へと向かう。

 

 因みに『女神の付き人』と呼ばれる侍女頭(ヘルン)にフレイヤがいるかを確認するも、予想通りいるみたいだ。何故か自分を見て気の毒そうに見ていたが。

 

「ただいま戻りました」

 

「お帰りなさい、オッタル」

 

 オッタルが相応の礼儀作法で部屋に入室すると、椅子に座っていたフレイヤが途端に立ち上がった。

 

 そして彼女と目が合った瞬間――恐怖が走った。

 

(何故フレイヤ様がお怒りに……!?)

 

 ツカツカと近づいてくるフレイヤは笑みを浮かべているが、目は全く笑っていなかった。

 

 嘗てない非常時にオッタルは困惑している。何故こうなっているのかが全然分からないのだ。

 

 何か不快な事をしたと言うのなら、甘んじて罰を受ける。しかし、オッタルには全く心当たりがないので只管戸惑うばかりだった。

 

 頭の中で心当たりがないかと必死に思い浮かべるも、接近してきたフレイヤがオッタルの頬に触れる。

 

「聞いたわよ。『大剣闘祭』であの子と戦ったみたいね」

 

(それだったか!) 

 

 フレイヤが怒っていた理由をオッタルは漸く理解した。自分がベル・クラネルと戦っていた件である事に。

 

 しかし、そうしたところでもう遅い。今はこのお方に何を言っても無駄だろうと悟ったから。

 

「どうしてあの子が闘技場に来てた事を報せなかったのかしら?」

 

「………失礼ながら、私が気付いたのは催し物の真っ最中でしたので……」

 

「ふ~ん、そう……」

 

 気付いてもすぐに報告出来なかったと暗に伝えるが、それでもフレイヤの表情は全く変わらない。

 

「だとしても、貴方だけ楽しめて羨ましいわねぇ。思わず嫉妬しちゃいそうなくらいに、ね」

 

「…………………」

 

「うふふ。ねぇオッタル、今夜は此処で私とOHANASHIしましょう。ジックリと聞かせてもらうわよ♪」

 

「…………はい」

 

 【猛者(おうじゃ)】オッタルは敬愛する主神の命ならば、どんな苦難な事が起きても平然と立ち向かうだろう。

 

 だが、今の彼はほんの少しばかり逃げ出したい気持ちになっていた。この後に行われるフレイヤとのOHANASHIは、肉体でなく精神的にとことん追い詰められるだろうと既に予測していたから。

 

 因みにオッタルがこうなる事をアレン達も知っている。いつもなら普段フレイヤの隣にいる事に気に食わないと常々思っているのだが、今回ばかりはほんの僅かながらも同情していた。それを口にする事は絶対に無いが。




取り敢えず『グランド・デイ イヴ』はこれで終了です。

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