ベルがアークスなのは間違っているだろうか 作:さすらいの旅人
これは短編なので、あと1~2話出したら終わります。
前編
初めまして。僕の名前はベル・クラネルです。
田舎でお爺ちゃんと二人暮らしだったんだけど、現在オラクル船団にいます。どうして僕が見知らぬ場所に飛ばされたのかは、何年経っても未だに分かりません。
色々な経緯はあれど、見知らぬ僕を家族として引き取ってくれた人がいた。その人は後に僕の義兄――家族となってくれたキョクヤ義兄さん。
キョクヤ義兄さんは凄く優しくて頼れる人なんだけど――
「ベル、今のお前は《亡霊》になる資格はない。故に俺の対となる“白き狼”の名も与えられん」
「え……? どう言う事なの、キョクヤ義兄さん? 僕も一応、ファントムクラスにはなれる筈なんだけど……」
「お前の抱える闇は未だ脆く儚い。そんな脆弱な奴に《亡霊》を語るなど笑止。俺の影を蝕むほどの闇を見出せぬ限りな」
「え~っと……つまり、『今の僕だとファントムになるには実力不足だから腕を磨くように』って言いたいの?」
「ほう。未だ脆弱な闇を見せても、理解は出来ているようだな。その理解力に免じて、《亡霊》の力の一部を使用する事を認めよう。それでお前の抱える脆弱な闇から、何もかも蝕む暗黒の闇へと染めてみせよ」
「……ごめん、キョクヤ義兄さん。必死に理解しようとしてるんだけど、もう途中から何を言ってるのか分からなくなってきた」
「何だと? 何たる事だ、ベル。俺と血の盟約を結んで我が半身となっておきながら、六年の歳月が経っても未だ理解出来ないとはどういうことだ? 嘆かわしいにも程があるぞ」
「え、えっと、それは……僕がまだファントムの事をまだ理解してないかと………じゃ、だめかな?」
「……ふん、まあいい。力の一部とは言え、お前が《亡霊》を使えば今後は理解出来る筈だ。それまで待つとしよう」
「う、うん、頑張るよ。じゃあ僕、この後にストラトスさんと訓練をやるから――」
「待て。何故あの正義に囚われた『ヒーロー』と馴れ合おうとする?」
「え? だってキョクヤ義兄さん、この後にクエスト行くんでしょ?」
「――予定変更だ。これから《亡霊》になろうとする我が半身に、余計な光を混濁させる訳にはいかん。そうならないよう、今日は俺が闇を染める術を教えてやろう。ほら、行くぞ」
「ちょ! 僕はストラトスさんと訓練やるって……!」
――嘗て大きな事件が起きた影響なのか、今は義弟の僕でも理解出来ない程の高度過ぎる言葉を好んで使う人となってしまった。
キョクヤ義兄さんから数々の特訓を受けた結果、晴れてメインクラス『ファントム』になれたと同時に“白き狼”の異名を授かる事が出来た。キョクヤ義兄さん曰く『まだまだ俺には届かぬ闇だが、更なる闇を見せてくれる事を期待しよう』だって。どう言う風に見せれば良いのかは分からないけど。
そして訓練を兼ねたクエストをやろうと惑星へ向かう際、緊急事態が発生した。クエスト中に突然、オラクル船団へ来る前に住んでいた田舎へ戻れたという緊急事態が。
僕が帰って来た事に村の人達は驚くも、その中にはお爺ちゃんはいなかった。聞いた話だと、僕が行方不明になった数年後、事故で亡くなったらしい。
それを聞いた僕は酷く悲しみ、そして申し訳ない気持ちになった。やっと田舎に帰って来たのにお爺ちゃんが亡くなっていた事に。自分の所為でお爺ちゃんを死なせてしまった事に。
そんな中、自分の家に戻った際に手紙を見付けた。お爺ちゃんが書いたと思われる
手紙の内容は自分を心配している事についてたくさん書かれていたが、最後の辺りには気になる内容が綴られていた。『迷宮都市オラリオには、数多くの冒険者がいる。もしもお前が出会いを求めるなら、そこへ行ってみるといい』と。
お爺ちゃんを死なせる原因を作ってしまった僕としては、せめてもの親孝行としてオラリオへ行く事へした。本当ならキョクヤ義兄さん達がいるオラクル船団に戻らなければいけないが、通信が全く出来ない今の状況ではどうしようもなかった。
☆
迷宮都市オラリオに来たのは良いんだけど――
「出てけ! お前みたいなひょろいガキに用はねぇ!」
「あっち行きな! 何の役に立ちそうもない穀潰しなんざ邪魔なだけだよ!」
「掃除係としてなら雇ってもいいぜ? ギャハハハ!」
「お前みたいな怪しい奴を入れる訳がないだろう! さっさと立ち去れ!」
誰も僕をファミリアに迎えようとしてくれなかった。
「……はぁっ。やっぱり僕って弱そうに見えるんだね」
冒険者になるには神様のファミリアに入る必要があるって聞いた。だから僕は冒険者になろうと、求人を出しているファミリアの人達に片っ端から声をかけてチャレンジした。
どの人達も僕を見た目だけで判断したのか、どんなにアピールしても全然ダメ。挙句の果てには怪しい奴だと思われたし。
僕はこれでも巨大エネミーを一人で倒せる自信はある。例えば龍族のヴォルドラゴンとかクォーツ・ドラゴン、更にはドラゴン・エクス等々と。尤も、キョクヤ義兄さんから序章に過ぎないと言われたけど。
でもまぁ、キョクヤ義兄さんはこう言ってたね。
『お前の影に潜む闇の力を感知しないのは、愚者の烙印を押された憐れな雑兵だ。それすら理解出来ぬ者は即刻捨て置け』
何を言ってるのかは分からないと思うけど、要するに外見だけで判断する人はまともに相手をするなって事らしい。
確かにそうかもしれない。もし無理言ってファミリアに入ったところで、碌な扱いをされないのは何となく分かっていた。
しかし、有名なロキ・ファミリアにまで断られるとは思いもしなかった。あそこはどんな相手でも入団テストを受けれると聞いたのに、まさか門前払いされるなんて。これには僕も流石にショックだった。
オラリオで冒険者になれないなら、この都市から少し離れた港町へ行ってみるのも良いかもしれない。もうオラリオに対してのイメージが崩れてきてるし。
だけど、田舎の家に残された僅かな路銀が無くなりかけている。オラリオから出ていくにしても、先ずはどこかのお店でアルバイトをして稼がないといけない。
そう考えながら街中を歩いていると――
「ねぇ君ぃ! 良かったらボクのファミリアに入らないかい!?」
神様と思われる人からの勧誘によって、アルバイトをする必要がなくなってしまった。
その神様の名はヘスティア様で、どうやらファミリアに入ろうとする冒険者候補の人達に悉く断られていたらしい。
この時に僕は思った。僕と目の前にいる神様の状況が凄く似ていると。
「分かりました。僕で良ければ、喜んで入ります」
「本当かい!? やったぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
けど、それはそれとして僕からすれば渡りに船だった。僕を迎え入れてくれる神様に敬意を示す為に、快くファミリアに入ると返事をした。
神様は凄く嬉しそうだ。いつものように断られると思ったらしい。
そして神様に案内された先は古い教会だった。どうやらこの教会が神様の住居らしい。
色々と突っ込みどころがあるけど、今の僕には贅沢な事を言える立場じゃない。僕をファミリアとして迎えてくれた神様の役に立つ為、たくさんお金を稼げばいい話だから。
そして僕が
因みに――
「ええっ!? な、何なんだい、このスキルは!?」
眷族になった直後、いきなりスキルが発現していたみたいだった。
多分だけど、それは僕のクラス――ファントムに関する事かもしれない。
☆
神様がいるヘスティア・ファミリアに入団して半月が経った。今はダンジョン探索をしていて、モンスターと戦っている。
初日にはファミリアに入った後、ギルドへ行って冒険者登録をした。その時の担当者はニューマン、じゃなくてハーフエルフのエイナ・チュールさんで、冒険者としての講習が特に凄かった。
冒険者としての必要事項や、ダンジョンの危険性についての話がメインだった。そこで一番に言われたのが『冒険者は冒険しちゃダメ』と言う矛盾した名言だ。
尋ねてみると、どうやら冒険者の生存率を上げるためらしい。ダンジョンに行く冒険者は、モンスターの襲撃や罠によって命を落とすのが当たり前の状況になっているらしい。冒険をした冒険者の末路だと。
だから新人冒険者達に早まった真似をさせないよう、エイナさんは口を酸っぱくしながら言っている。せめて自分の担当冒険者には、必ず生きて帰って来てもらうようにと。
エイナさんの言ってる事は間違ってはいないと思うので、僕は言う通りにやる事にした。
と、思っていたんだけど――
「よ、弱過ぎるよぉ~……」
遭遇したダンジョン上層のモンスター――ゴブリンやコボルドと戦った結果、物の見事に瞬殺だった。素早く間合いを詰める格闘攻撃を行うファントムカタナのフォトンアーツ――シュメッターリングの攻撃中に。
余りにも弱過ぎて拍子抜けだった。警戒して全力で行こうと決心した結果がこれだ。虚しいにも程がある。
最初は弱いモンスターだから仕方ないと、自分に言い聞かせる事にした。きっと更に奥には強いモンスターがいる筈だと。
エイナさんの教えを守りながら半月経って、何とか5階層まで到達する事が出来た。歯応えのあるモンスターに少しばかり期待するも……またしても期待外れだった。
今度は大勢だったので、
「もっと下に降りてみようかな? こんなんじゃ準備運動にもならないし」
エイナさんに申し訳ないけど、ここまで弱過ぎるモンスターじゃ訓練にすらならない。嘗て演習で惑星ナベリウスにいる原生種と戦っていた方がマシだ。
もしやばいと分かれば、全力を出して逃げれば良いだけの事だ。よし、本当は行っちゃダメだけど、6階層より下まで進んでみよう!
そう思った僕は6階層へ向かう階段を探していると――
「ヴヴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!」
「ん? あれって確か……」
ダンジョン中層で現れる代表のモンスター『ミノタウロス』が何故かいた。しかも何か焦った感じがする。
どうしてあんなモンスターが上層にいるのかは分からない。けれど、これは僕にとってチャンスだった。
「これは……やっと本気を出せるかもしれない……!」
柄にもなく僕は高揚した。強いモンスターと戦う事が出来る事に。不謹慎に思いながらも
構えを見たミノタウロスは、僕に向かって威嚇の唸り声をあげる。どうやら向こうも僕を敵として認識してくれたようだ。
「来い。僕の影に潜む闇の力を見せてやろう!」
思わずキョクヤ義兄さんみたいな事を言って駆け出すも――
「ヴォ!? ヴォオオオオオオオオオオオオッ!?」
「なっ……!」
すると、何故かミノタウロスの身体が斬り裂かれていた。
言うまでもなく僕は何もしていない。でも原因は分かる。何故ならミノタウロスの背後からサーベルと思われる剣先が見えたから。
その剣はあっと言う間にミノタウロスの身体をバラバラにしていく。僕から見ても凄い速さだ。
速い斬撃に思わず見惚れてしまった所為で、僕は身体を斬り裂かれて吹き出しているミノタウロスの血を浴びてしまう。
「……あの、大丈夫ですか……?」
そしてミノタウロスがバラバラになると灰と化していき、目の前には女性が立っていた。腰まで届いている金髪の綺麗な女の人が。
僕が彼女の余りの美しさに見惚れていると――
「えっと、影に潜む闇とか聞こえたんですけど……もしかして
「っ!」
その問いをされた瞬間、僕の心が羞恥心でいっぱいになってしまった。
き、聞かれてしまった! よりにもよって、いつもキョクヤ義兄さんが言ってた恥ずかしい台詞を……!
そして僕は次の瞬間――
「ほあああああああああああああああああああああっ!!」
あまりの気恥ずかしさに、その場から逃げ出した。
最悪だぁぁぁぁ~~~~~~~~!!!!!!!!!!
中二病の台詞を考えるだけで大変です。