ベルがアークスなのは間違っているだろうか 作:さすらいの旅人
今回はフライング更新とします。
僕も僕で再びダンジョン探索を行っていた。尤も、一昨日はお祭りの翌日と言う事もあって、敢えてダンジョンに行かなかった。僕がシルバーバックや植物モンスターを倒したのを知った神々が騒いでいたから。なので仕方なく
因みに神様は用事があって、一日も
そして二日経つと僕の噂がある程度落ち着いた。なので今日は今朝から久々のダンジョン探索を開始した。僕が
『ベル君、今日はいつも以上に気を付けるんだよ』
と、凄く真面目な顔で言われた。僕は内心不思議に思いつつも、神様からの言葉に『はい!』と力強く返事をした。
ダンジョンについて早々、僕は今までの遅れを取り戻そうと、襲い掛かってくる上層モンスターをひたすら倒し続けた。それが作業同然だと分かってても。
半日以上もダンジョンに籠ってモンスターを狩り続けた結果としては、中層手前の12階層まで進んだ。『決して6階層以降は進まないように』と言われたエイナさんの約束を破っている。
相変わらず上層モンスターは弱かったけど、10階層以降はそれなりの訓練が出来た。あそこはモンスターがかなりの集団で来るので、ファントムクラスの真価を漸く発揮する事が出来た。
本気で戦えるモンスターがいなくても、僕の訓練には丁度良かった。暫くの間は中層手前の階層でお世話になろうと。
本音を言えば中層に行きたいけど、ただでさえエイナさんの約束を破ってる状態だ。なのでエイナさんから中層進出許可を出すまでは行かないと自己完結する。
久々のダンジョン探索でモンスターを狩り続けた事により、大量の魔石を得る事になった。持ち運ぶのは凄く大変だけど、生憎僕にはアークス専用のアイテムボックスがある。なので全て収納した後、大して苦も無くダンジョンから帰還した。
魔石を換金しようとギルドへ行くと、そこには運良くエイナさんがいなかった。もし鉢合わせたら絶対に問い詰められるので、僕は彼女と会う前に早く済ませようと換金所へ向かった。魔石を換金したら………何と5万ヴァリス以上だ。5~6階層で稼いだ額とは格段に違う額だった。
予想外の金額に思わず舞い上がりそうになるも、エイナさんの姿を確認した直後、僕はすぐに退散する事にした。僕が稼いだ金額を知ったら、尋問と言う名のお説教をされるのを分かっていたので。
「~~♪」
エイナさんから逃れる事に成功した僕は、鼻歌交じりで神様がいる
「今日は久々だったから遅くなっちゃったな……。そうだ、明日は神様に恩返しをしよう」
いつもより帰宅する時間が遅くなったので、豪華な食事が出来るお店に行こうと決めた。神様はきっと喜んでくれるはずだ。でも先ずは遅くなった事を謝らないとね。
そう思いながら僕と神様が住んでいる
「……………………え?」
僕は言葉を失い、呆然と立ち尽くした。
何故なら、僕の目の前には……
「………か、神様………神様ぁぁ!!」
立ち尽くしていた僕だったが、すぐにあの中にいると思う神様を救おうと駆け付ける。
神々は下界へ来る時には神の力を制限されてしまい、ほぼ普通の人間と変わらない状態になっている。だから非力な神様が
即座に瓦礫の山を払おうとする僕は――
「ベル君! ボクはここだよ!」
「っ!」
すると、少し離れた場所から神様と思わしき声が聞こえた。思わず足を止めて振り向くと、そこには無傷な神様がいた。
「ご無事でしたか、神様!?」
「それはこっちの台詞だよ! 君がいきなりあの中に入ろうとしたんだからさ!」
「ご、ゴメンなさい! 神様がいると思い込んで、すぐに助けようと……!」
「……そ、そうか。ボクを助けようとしてたんだね」
僕の台詞に神様が妙に嬉しそうな顔をしている。僕、何か変なこと言ったかな?
「それより、一体何が起きたんですか?
僕は無残な姿となっている
「おのれ、よくも僕とベル君の愛の巣を……!」
「? 何の事ですか?」
愛の巣とか訳の分からない発言をする神様に僕は首を傾げる。神様って時々おかしな事を言うから、少しついていけない。
僕の問いに神様はハッとしたのか、咳払いをしながら気を取り直すように話す。
「あ~……もう犯人の目星は付いているよ。証拠は無いけど間違いなくアポロンと、そのファミリアの仕業だ」
「アポロン?」
神様の言い方からして、恐らく相手は神々の一人だと思う。
自分の生まれ育った世界に帰って来たとは言え、僕はオラリオに住まう神々の事はまだ把握してない。
だけど、神様の顔を見ると分かる。凄く不快そうな顔をしながらアポロン様の名を言うって事は、ロキ様と同様に仲がよろしくない神だと。
「そのアポロン様が、どうしてこんな事をしたんですか?」
「ベル君を欲しがってるんだよ、あの変態は」
「………………はい?」
いきなり意味不明な事を言う神様に僕は再び首を傾げる。そんな僕の反応を余所に、神様は理由を説明する。
一昨日に神様が
神の宴は数日前、【ガネーシャ・ファミリア】主催で行われていた。普通に考えて、一週間も経っていないのに神の宴をやるのは余りにも早過ぎる。
けれど、
主催したのは【アポロン・ファミリア】で、その主神である男神アポロン様が神様に招待状を送ったらしい。必ず参加するようにと。神様は欠席するつもりみたいだったけど、相手の神様と知り合いだったのか、仕方なく参加する事にしたそうだ。
神様が食事に専念してる最中、アポロン様が声を掛けたようだ。『ベル・クラネルをくれないか?』と。説明を聞いてる最中、僕は何故か悪寒が走ったのは気のせいだろうか。
速攻で断る神様に、アポロン様はそれを予想していたのか――
『ならば仕方ない! 我が『アポロン・ファミリア』は君に
と、声高々に申込宣言をしたそうだ。更にはその場にいた他の神々は一切止めず、面白可笑しく見ていたと神様が言っていた。
けれど、それは双方の主神の同意を得なければ開始する事が出来ない戦いでもある。神様は当然知っているので再度断ると、アポロン様はそれすらも見越していたようにアッサリと引き下がった。
アポロン様の不可解な行動を神様は不審に思いながらも、速攻で会場を後にした。どうやらこの前の
その翌日である今日、アポロン・ファミリアと思われる多くの冒険者達が、僕達の
「そんな……!
神様からの説明を一通り聞いた僕は、怒りを露わにして荒々しく言い放つ。
「ボクもまさかここまでやるとは予想もしなかった。でも思い出したよ。アポロンが物凄く執念深い性格だって事をね」
「執念深い?」
「ああ。ボクが天界にいた頃、アポロンにしつこく迫られた事があってね。他の神達もアポロンに迫られて凄くウンザリ気味だったんだ。あっ! 言っておくけど、今のボクとアポロンは何の関係は持ってないから決して誤解しないように!」
「は、はぁ……」
後半部分を矢鱈と強調している神様に、僕は取り敢えず頷いておくことにした。
「その執念深い性格は下界に来ても大して変わらなかったみたいだね。ベル君が欲しい為に、ファミリアの子供達を使ってまでやるなんて……!」
「えっと、一つお聞きしたいんですが……そもそもアポロン様はどうして、僕を狙っているんですか? もしかして、他の神様達と同様に、僕の力目当てですか?」
この前のモンスター脱走時に、僕がシルバーバックを倒したのを目撃した神々がこぞって勧誘をやろうとしていた。恐らくアポロン様もその一人と見ていいだろう。
「それもあるね。でも一番の理由は……ベル君に一目惚れしたそうだ」
「…………はい?」
おかしいな、耳が変になったかな? 僕の記憶が確かなら、アポロン様は男性の筈じゃ……。
「さっきも言ったけど、アポロンは変態なんだ。惚れた相手が同性の男相手でも構わず愛の告白をする重度の変態でね」
「いぃ!?」
アポロン様の性癖を聞いた瞬間、僕は悪寒が走ると同時に鳥肌が立った。さっきまでの怒りも一気に霧散している。
亡くなったお爺ちゃんの手紙には『出会いを求めるならオラリオへ行ってみろ』と言われて来たけど、僕としては流石にそこまでは求めてない。僕は普通に女の子が好きなノーマルだ!
「じょ、冗談じゃありません! 僕にそんな趣味は無いですし、大好きな神様以外のファミリアに移る気なんか微塵もありません!」
「はにゃっは!?」
「か、神様!?」
いきなり神様がダメージを受けたみたいに倒れたので、僕はすぐに介抱する。
「大丈夫ですか!? もしかして怪我をしてましたか!? すぐにレスタで――」
「べ、ベル君が……大好きって……。やっぱりボクとベル君は、相思相愛だね……ウヘヘヘ……」
「神様、何をブツブツ言ってるんですか!? 聞こえませんから!」
一体神様はどうしたんだ? 今の僕はキョクヤ義兄さんみたいな難しい言葉を使ってないのに……。
☆
昨日は後ろめたい事があってエイナさんに会い辛かったが、僕の代わりに神様が昨日の事を話してくれた。襲撃者はアポロン・ファミリアも含めて。
一連の話を聞いたエイナさんは信じてくれたのか、すぐに上層部へと掛け合ってくれた。しかし、結果としてはダメだった。アポロン・ファミリアが襲撃した決定的な証拠が無いからと。
神様がこの目で見たと目撃証言をするも、ギルドは動いてくれないみたいだ。いくら相手が神でも、第三者からの証言でなければ成立しないらしい。
それに加えて、僕たちヘスティア・ファミリアは結成されたばかりなので、ギルドからの信用は無いに等しい。益してや大して名を上げてない零細ファミリアだから、他所のファミリアを陥れる為の狂言だと逆に疑惑を掛けられている。
ギルド上層部の判断を聞いた神様は当然憤慨した。だけど向こうは聞く耳持たずで、取り合ってもくれない始末。その場にいたエイナさんは非常に申し訳ないと言わんばかり表情で、何度も何度も僕と神様に謝ってくれたのが救いだ。
もう此処は当てにならないと判断した僕達はギルド本部を去り、神様はある場所へと行く事にした。アポロン・ファミリアがいる
「やあヘスティア、君が此処へ来るなんて珍しいね。一体何の用かな?」
「白々しい! そっちから僕達の
「止めて欲しいなぁ。何の証拠も無いのに我々を疑うとは」
アポロン・ファミリアの
僕達が訪れた事をまるで分かっていながらも、突然の来客を持て成すように言ってくる。神様がすぐに言い返すも、アポロン様は素知らぬ顔だ。
「それで、用件は何だい? 見ての通り私は多くの子供達を抱えてて、色々と忙しい身なのだ。たった一人の眷族しかいない暇神の君とは違ってね」
「っ……」
自分の戦力をまるで見せ付けるように言うばかりか、神様をバカにした発言をするアポロン様。それに反応するように、アポロン様の眷族達の中には嘲笑しているのがいる。けれど、嘲笑しないどころか何故か凄く恐れているような感じがする髪の長い女性がいた。しかも僕の方を見ながら。
不機嫌な顔をしてる神様は更にムッとするも、すぐに切り替えて抗議しようとする。
「アポロン、君は今後もちょっかいを掛けるつもりなのかい? ベル君を手に入れる為に」
「先程から何を言ってるのか全くもって分からないなぁ。こちらは全く身に覚えが無いと言うのに。嘗て君と愛を囁き合った仲とは言え、一方的に言われるのは流石に心外だ」
「何が愛を囁き合った仲だぁ! ボクは既に断っているのを知ってる筈だろ!?」
「か、神様、落ち着いて下さい……!」
アポロン様の言葉が癪に障るのか、神様は再び冷静さを失って怒鳴り散らしていた。
神様を宥めている僕に、アポロン様は興味深そうに見てくる。
「ほう、君は冷静だね。そこのヘスティアとは大違いだ。こんな可愛い子がヘスティアの眷族とは、さぞかし苦労が絶えないだろうねぇ。私の所へ来れば、思いっきり可愛がってあげるのに」
嫌らしい笑みを見せながら悍ましい発言するアポロン様に、僕は思わず身震いしてしまった。神様の言う通り、この方は相手が自分と同じ男でも本当にお構いなしのようだ。
この場にキョクヤ義兄さんとストラトスさんがいたら、確実にドン引きと同時に幻滅するだろう。全知全能の神が、こんな変態だったなんてみたいな。
「もう君に何を言っても無駄だって事が良~くわかったよ、アポロン。ボクは決めたよ」
「決めた? 一体何をだい?」
鸚鵡返しをするアポロン様に、神様は気にせず近くにいる男性
「そこの
「え? は、はい……」
突然の名ざしに男性
神様は彼の手袋をふんだくる様に取った後――
「ふんっ!」
「お?」
『っ!?』
アポロン様に向かって思いっきり投げた。そしてそのままアポロン様の顔に直撃する。
神様の行動にアポロン様の眷族達は驚いた顔をしている。けれど相手が神様なのか、誰も文句を言おうとはしない。
「上等だ! この前言ってた
「フフフフ……」
その発言を待っていたと言わんばかりに、アポロン様は得意顔となる。
「今ここに、神双方の合意は成った! 諸君、
『うぉぉおおおお! 待ってました~~~!』
『ギルドに
『臨時の
『漲ってきたぁぁ~~~!!』
アポロン様の発言を聞いた他所の神々が急に現れた。
と言うかこの神様達、一体どこから現れたんだ?
突然現れた神々に僕が呆れながら周囲を見渡している中、アポロン様は気にせず
☆
「すまない、ベル君! ボクの勝手な判断で、君を巻き込んでしまって……!」
「謝らなくていいですよ。僕としては、いきなり押し掛けたミアハ様に申し訳ないですし」
「気にするでない。困った時はお互い様だ」
「本当なら団長の私が追い出してるところだけど……お金さえ払ってくれるなら、何日でも滞在して構わない」
用件を済ませた僕と神様は、現在ミアハ・ファミリアの
僕達の家は既に半壊して住める状態じゃないので、どこかの安い宿で一時的に仮拠点とするつもりだった。ソレを探している際、神様の神友であるミアハ様と遭遇した。
事情を説明した後、ミアハ様は
しかし、流石にタダで住まう訳にはいかないから、僕が滞在費として1万ヴァリスを渡した。そんな大金は受け取れないとミアハ様がやんわり断ろうとする中、彼の眷族で女性
それを見たミアハ様が咎めようとするも、ナァーザさんは強引な説得で引き下がる事となった。お店の経営が大変だからと言われてしまって。
「それはそうと、此度の
確かにミアハ様の言う通り、端から見れば無謀も同然だ。僕一人だけで、百人以上いるファミリア相手に勝つのは絶対無理だろう。
だけど、僕としては問題無い。ファントムクラスである僕にとって、それこそ真価を発揮出来る戦いが出来るから。当然、一対一の戦いも出来るけど。尤も、今の僕が言っても神様やミアハ様はすぐに信じてはくれないだろう。それが嘘じゃないと分かってても。
「ではお聞きしたいんですが、アポロン・ファミリアで一番強い人は誰ですか? その人との一騎打ちならば、何とかなるかと」
「う~ん……僕は結構前から下界にいるけど、他のファミリアの事については分からないからなぁ。ミアハは知ってるかい?」
「ふむ。私の記憶が確かであるなら、あそこのファミリアはヒュアキントスと言う男の
ミアハ様が思い出しながら口にすると、一緒にいたナァーザさんもコクコクと頷いている。
あそこの団長は『Lv.3』かぁ。僕が戦った『Lv.5』のベートさんより格下なのは確かだろう。しかし、あの人は戦う前から僕を侮っていたので、本来の実力を出していないから何とも言えない。元より油断する気は無いので、僕はただ全力でやるだけだ。
「情報提供ありがとうございます。神様、もし出来るなら代表同士の一騎打ちでお願いします」
「ああ、分かった。そこは任せてくれ! ボクの交渉術で何とかしてみせるぜ!」
僕の要望に神様は力強く返事をしながら、親指をグッと上に立てた。
代表同士の一騎打ちが出来るならそれに越した事はないけど……本当に実現出来るか分からない。僕はまだアポロン様の事をよく分からないけど、神様の提案を簡単に受け入れてくれるとは到底思えないから。
なので、もしも今回の
短編なので、もう飛ばし飛ばしでやってます。
今回のベルに中二成分は大してありませんが、戦闘になったら思いっきり出す予定です。