ベルがアークスなのは間違っているだろうか 作:さすらいの旅人
あと、いつもより少し短い内容ともなっています。
「今回の勝負は代表同士の一騎打ちだ! それで決着を付けようじゃないか!」
「はっ! 何を言うかと思えば……そんなの認めるわけないだろう!」
翌日の午前。ヘスティアとアポロンはある場所で対面している。
そこはバベル30階の大広間。
もう既にお互いに勝利した時の要求は決まっていた。アポロンの場合は当然ベル・クラネルを頂く権利。ヘスティアの場合、敗者となったアポロンに何でも要求出来る権利。明らかにヘスティアの方が旨味があり過ぎる要求だが、これはアポロン自身が決めたのだった。自分が敗北する事は断じてあり得ないと絶対の自信を持っているから。
そして、会場に来ているのはヘスティアとアポロンだけでない。二人の周囲には今回の
神々は娯楽を求める為に下界へ来ている。娯楽を知った為に味を占めてしまったのか、神々の大半は自分勝手で自由奔放なキチガイと化している。真面目で良識な考えを持っていた神ですらも恐ろしく変貌している。尤も、今も良識を持った神物もいれば、下界に降りた事によって良い方向へ変わった神格者もいる。
一人目は男神ミアハ。ヘスティア・ファミリアの状況を知り、すぐに自身の
二人目は男神タケミカヅチ。極東の神でヘスティアと接点は無いと思われるが、彼はヘスティアと同じバイト仲間であり、今回の件を知って非常に心配していた。
三人目は女神ヘファイストス。彼女は以前まで下界に降りたヘスティアの保護者だった。しかし、自分の所で何もせずにぐうたらな生活を送っていたヘスティアに堪忍袋の緒が切れて追い出した。古びた教会を住まい場所と提供した後、一応はそれっきりとなっている。そして今回の襲撃を聞いて最初は凄く心配だったが、
ヘスティアと接点のある神三名の他に、面白そうだという理由以外で参加している神が他にもいた。
(アポロンめ、ウチのベートがベルに負けたのを知っておきながら……マジでええ度胸しとるやないか)
その神は女神ロキ。ヘスティアとは天界にいた頃から不仲で喧嘩ばかりの日々を送っている。ヘスティアの
自分が最初に目を付けたと言うのに、それを横からベルを掻っ攫おうとするアポロンの行為に酷く腹が立った。『ファミリアごと潰したろか』と、恐ろしく物騒な事を考える程に。
本当だったらロキはすぐに主要幹部を集めて緊急会議をする予定だったが、フィンとリヴェリアが不在なので叶わなかった。主要幹部のガレスがいても、二人だけでは会議にならないので。因みに肝心の主要幹部二人は現在、幹部のアイズやヒリュテ姉妹、そしてレフィーヤを連れて資金調達の為にダンジョンへ行っている。彼等がダンジョンから帰還したらすぐに話すつもりだ。
と言った感じで、ロキだけが一番にベルの本当の実力を知っている事になる。……だが、実はそうでもなかった。この会場にもう一人、ロキと少し似た理由で参加している人物がもう一人いる。
(アポロンったら、もう自分の物のように言うなんて……不愉快ね。あの子は私が頂く予定なのに)
その名は女神フレイヤ。フレイヤ・ファミリアの主神で、都市最高派閥のロキ・ファミリアと並ぶ最強の一角。そんな女神が此処に来ている理由はベル絡みだった。
フレイヤもロキと同様にベルを狙っている。実は彼女、以前の
そんな大それた事をした理由は……ベルに惹かれたからだ。けれど彼女はアポロンと違い、ベルの容姿以外にもあった。ベルの持つ魂の色を。
神々の中で唯一、フレイヤのみが人間の魂を見る事が出来る。それによって彼女は時折、住まいとしてるバベル最上階から暇潰しとして人間の魂を観察していた。
そんな時、彼女は偶然ベルを見つけてしまった。他の人間とは全く違う、透き通っていながらも綺麗で純粋な色をしたベルの魂を。
フレイヤは心の底から歓喜した。あんな魂は今までに見た事がないと。そして決心した。あの子は何が何でも自分の物にすると。
ベルに目を付けた彼女はもう日課となってしまったのか、ベルの魂を確認しようと何度も覗き見している。時折、自分の視線に気付いたのか、ベルが突然警戒するように自分の方へ物騒な武器を向けた事が何度もあった。美の女神である自分に武器を向けるのは、自身の眷族からすれば大罪だと激昂するだろう。尤も、フレイヤは不快どころか逆に嬉しかった。今まで自分に気付いた事なんて一度も無かったから。
更にはロキ・ファミリアの幹部――ベート・ローガとの決闘も覗き見ていた。ベルが『Lv.5』のベート相手に勝ったのも含めて。
しかし、アレがベルの全力だとフレイヤは思っていない。まだ力を隠している筈だと。
そんな時に思い付いたのが、
結果は上々と言うべきか、捕獲したモンスター――シルバーバックを瞬殺したのを見て、思った通りだと確信した。ベルには他の冒険者達とは違う異質な力を持っていると。予想外に出現した食人花をあっと言う間に倒したのも含めて。
次はどんな風に驚かせてくれるのかと思って再びベルを覗こうと思った矢先、思わぬ邪魔が入った。アポロンが騒動の慰安を兼ねた『神の宴』を主催するとの招待状が送られたから。
自分の楽しい時間を邪魔された事に、彼女は参加する気など毛頭無かった。しかし招待状には『美の女神として是非とも参加して欲しい』と、アポロンからの強い要望があったので、仕方ないと言った感じで参加する事にしたのだった。
退屈でありながらも、一通りの時間を過ごすフレイヤだったが、ここでまたしても予想外の事を知った。アポロンがベル・クラネルを我が物にしようと、主神のヘスティアに
アポロンの不愉快極まりない行動に苛立ちを抑えつつも、フレイヤは終始見守る事に徹した。ベルの実力を考えれば、アポロン・ファミリア程度なら問題無いと。
ところが、臨時の
ロキとフレイヤが共通している事は……アポロンに対する怒りだった。そして、どうやって消そうかと物騒極まりない事も考えている。
「それに団員が少ないのはヘスティアの怠慢だろう? それを理由に一騎打ち、何て都合のいい理由は罷り通らない」
「くっ……!」
アポロンの言い分にヘスティアは言い返す事が出来なかった。自分がベルを眷族に成功して以降、勧誘を全くしなくなってしまったから。
本当ならヘスティアは、ベル以外の新しい団員も勧誘するつもりだった。けれど、『大好きなベルと二人っきりの生活を過ごすのも悪くない』、と言う欲望も優先してしまった。その結果が今の有り様だ。
それを知っているアポロンは、敢えてヘスティアの提案を却下した。自分が負けるなど微塵も思ってないが、万が一に向こうの都合に合わせて負けたとなれば本末転倒になると。
しかし、だからと言って全て拒否する等と、流石のアポロンも鬼ではない。それ故に――
「では、こうしようじゃないか。この場に参加している皆の意見を募り、その提案の中からくじ引きで決めると言うのは。それならヘスティアとて文句はないだろう?」
「…………分かったよ。でも、そのくじは一体誰が引くんだい? 仮にボクとアポロンのどっちかが引くとなれば、お互い不公平だと文句を言うのが目に見えてるんだけど」
例えばヘスティアがくじを引いて、万が一にも一騎打ちとなればアポロンが文句を言うだろう。逆にアポロンが引いて、殲滅戦となればヘスティアが文句を言うだろう。
そんな分かり易い光景を予測しているから、ヘスティアは暗に自分達でくじを引くのはダメだと伝える。
「うむ、それは尤もだな。なのでここはいっそ、我々の息がかかっていない中立の神に引いてもらうとしよう。それならばお互い納得する」
アポロンもヘスティアに賛成みたいで、この場に参加している一人の神に引かせようと提案した。ヘスティアもそれに同意の意を示している。
「せやったらウチが引くで~。ウチなら文句ないやろ~?」
そんな時、今までずっと見守っているロキが挙手してきた。
「却下だ! 君みたいな無乳の疫病神にくじを引かれたら、こっちは堪ったもんじゃないよ!」
「なんやとこらぁぁぁぁ!!! 胸は関係ないやろドチビぃぃぃ!!!」
名乗り出るロキにヘスティアが即座に指をさしながら却下と同時に罵倒した。それを聞いたロキは両手でバンッと机を叩きながら立ち上がる。
神々も最初は挙手したロキなら問題無いだろうと思った。しかしへスティアと不仲だった事を思い出したので、ロキをくじ引き候補から外す事となったのは言うまでもない。
「それじゃあ、俺はどうかな?」
すると、今まで沈黙のまま見物に徹していた一人の男神が挙手をした。
その男神は普段から旅をしており、滅多にオラリオにいない。名はヘルメス。ヘルメス・ファミリアの主神で、今回は一旦旅を終えてオラリオへ戻ってきた矢先、今回の
「う~ん……まぁ、君ならいいか」
「そうだな。ヘルメスならば問題無いだろう」
ヘスティアは勿論のこと、アポロンも彼とは何の接点も無い中立の神だ。お互いにヘルメスのくじを引く事を同意する事となった。ヘスティアは内心、『何でヘルメスが?』と疑問に思っていたが。
そして用意された箱に、神々が意見が書かれた投票用紙が全て入り準備は万端となった。
因みにヘスティアは投票用紙に『一騎打ち』と書いたのは言うまでもない。同時に当たりますようにと、目の前にいるヘルメスに向かって強く願っている。
「じゃあ引くよ。どんな結果になっても、恨まないでくれよ?」
そう言うヘルメスに、ヘスティアとアポロンは頷く。もう恨みっこなしだ。
ヘルメスは内心、どっちからも恨まれるような内容にならない事を密かに願いながらくじを引く。
誰もが見守っている中、ヘルメスがくじを引いた内容は――
「げっ! ご、ごめんヘスティア。『攻城戦』だって」
「はあっ!?」
「ははは! これは良い! 公正な抽選だ! 異論は認めないぞ、ヘスティア?」
攻城戦だと知った途端、ヘスティアは口を大きく開けて驚愕し、アポロンは愉快と言わんばかりに高笑いをする。
「数ある中からソレを引くとは……」
「よりによって、一番人数が物を言う対戦形式だぞ……」
「もう最悪な展開ね……」
ミアハ、タケミカヅチ、ヘファイストスは思った事を口にする。明らかにアポロンが有利な戦いだと言う事を分かっているから。
「しかし、団員がたった一人しかいないヘスティアの所では、城を防衛するのは無理だろう。せめてもの情けとして、攻めはヘスティアに譲るとしよう」
「ぐぬぬぬぬぬ……!」
情けをかけられても、ヘスティアが断然不利である事に変わりはないのは言うまでもない。
ヘスティアは内心この場にいないベルに謝った。心の底から本当に申し訳ないと。
「あの~、ちょっと良いかな?」
そんな中、くじを引いたヘルメスが途端に意見を申し立てるように手を上げた。
「くじを引いたから文句を言う訳じゃないんだが……これは余りにも差があり過ぎる。ヘスティア側に助っ人を認めたらどうだろうか?」
「ダメだ!
こればかりは譲れないと頑なに拒否するアポロンに――
「恐いのかしら、アポロン?」
「何をそんなにビビっとるんや?」
突如、フレイヤとロキが口を挟んできた。
「フレイヤにロキ、それは一体どう言う意味だ?」
「別に。私はただ、助っ人くらいで自信が無くなるのかと思っただけよ」
「せやせや。なぁアポロン、自分とこの
「おう! そうだそうだ!」
「助っ人ぐらいは良いだろう!?」
「まさかマジで恐いんじゃないだろうなぁ!?」
(フレイヤはともかく……ロキは一体なんのつもりだ?)
最高派閥の主神であるフレイヤとロキからの思わぬ擁護に、ヘスティアは困惑気味だった。特にあのロキが自分を擁護するなんて、全くといっていい程に意外過ぎるから。
他の神々からも二人に賛成なのか、何度も『助っ人!』と声高に叫んでいる。
「ば、バカにするな! 分かった、助っ人は認めよう」
アポロンがヘスティア側の助っ人参戦を了承した事に、提案したヘルメスはしてやったりとほくそ笑む。
「但し、人数は一人だ! そして、オラリオ以外のファミリアに限る事! これでどうだぁ!?」
助っ人の条件を提示するアポロンに、この場にいる誰もがこう思った。
『せこい……』
と、物凄く呆れた顔をしながら。
色々と思うところはあれど、これにて
しかし、ミアハを除くこの場にいる神々は誰一人とて疑問を抱かなかった。ヘスティアが何故一週間にしたのかと言う疑問に。
(ベル君がダンジョンから戻ってきたら速攻で謝らないと! でもベル君、ちゃんと戻って来るのかなぁ? 訓練をする為に暫くダンジョン中層に籠るって言ってたけど……これで戻って来なかったら、それはそれで心配だよぉ)
指定した日までに戻って来るとベルは言ったが、ヘスティアは凄く不安だった。
流石のヘスティアでも、冒険者になったばかりのベルがいくら強くても、中層へ行くのはまだ早過ぎるだろうと。
今回はロキとフレイヤの心情がメインでした。
この作品では、両名ともベルを狙っていますので。