ベルがアークスなのは間違っているだろうか   作:さすらいの旅人

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番外編 戦争遊戯③

 戦争遊戯(ウォーゲーム)に向けての訓練をしようと、ダンジョンに籠って数日が経つ。既に中層に進出している僕は――

 

「吹き荒れよ、闇の風! ヴォルケンクラッツァー!」

 

『ギィッッ!』

 

 自分を取り囲んでいる複数のアルミラージに、衝撃波を伴う落下攻撃を行う抜剣(カタナ)ファントム用フォトンアーツ――ヴォルケンクラッツァーで仕留め――

 

「貫け、闇の弾丸! クーゲルシュトゥルム!」

 

『キャイィィィイイイインッッッ!!!』

 

 前方から炎を吐き出そうとする10匹以上のヘルハウンドを阻止しようと、前方広範囲に扇状の掃射を3連続行う長銃(アサルトライフル)ファントム用フォトンアーツ――クーゲルシュトゥルムで一掃し――

 

「斬り裂け、闇の衝撃波! ルーフコンツェルト!」

 

『ブモォォォォォオオオオオオオッ!!!』

 

 以前に戦い損ねたミノタウロスに、連撃を繰り出して衝撃波を飛ばす長杖(ロッド)ファントム用フォトンアーツ――ルーフコンツェルトで胴体を斬り裂いて真っ二つにした。

 

 他にもライガーファングなどの違うモンスターも現れたけど、さっき使ったフォトンアーツの他に、通常攻撃やテクニックで一掃している。

 

「はぁっ……はぁっ……はぁっ…………すぅ~~~、はぁ~~~~………ふうっ」

 

 襲ってくる大量のモンスターを一通り片付けた僕は周囲に誰も無い事を確認した後、途端に息が上がった。しかしそれも束の間で、深呼吸で整えると一通り落ち着く。

 

 中層に留まってかれこれ三日以上経ち、誰もいないエリアで休憩を挟みながら中層のモンスターを片っ端から倒し続けている。この期間で小型や大型のモンスターを合わせて、もう百匹以上は確実だろう。その証拠に、僕が持っているアイテムボックスには魔石やドロップアイテムでいっぱいだ。

 

 流石は中層と言うべきか、上層なんかより断然良い。僕の実力では中層モンスターもそこまで強くはない。だけど、出現頻度が上層とは全然違う。今までは倒した後に出現するのに少し時間が掛かってたけど、此処ではいつも以上に早く出現している。休む間もなく、という感じで。

 

 思わず前の世界で戦ったアークスの宿敵――ダーカーを思い出した。アレは倒しても倒してもキリが無いと思う程に、何度も出現していた。ダーカー討伐に参加していた女性キャスト――リサさんは楽しそうに終始笑顔のままで、ダーカー相手に長銃(アサルトライフル)で撃ちまくっていたな。正直言ってドン引きする程に。

 

『どうしたんですかぁ、ベル君? 休んでいる暇なんてありませんよぉ。だってあそこにダーカーがまだまだい~っぱいいるんですからぁ、撃ち放題ですよぉ~、うふふふふ』

 

 と、暗に休むんじゃないと脅し染みた事を言ってきたなぁ。あの人は味方だと頼もしいけど、敵に回ると凄く恐ろしい人でもある。

 

 って、今はリサさんの事を考えてる場合じゃない。過去の事を思い出してるんじゃなくて、今は戦争遊戯(ウォーゲーム)に勝つ為の訓練をしているんだ。

 

 現在は16階層でモンスターを倒し続けているけど、ここ最近の出現頻度が格段に落ちてきた。多分だけど、僕が一人でたくさんのモンスターを倒し続けているのを見て警戒しているんだと思う。

 

 僕がふと感じたモンスターの気配に視線を向けると、一匹のライガーファングがいた。普通だったら即座に襲い掛かってくるんだけど、向こうは僕を警戒しているどころか恐れている感じがした。物の試しに一歩近づくと、ライガーファングはビクッとしながら一歩下がる。それどころか、僕に背を向けて逃げてしまった。

 

「………う~ん、ちょっとやり過ぎたかな?」

 

 昨日までは獰猛に襲い掛かってきたライガーファングが、今や情けない姿となった事に僕は自分を顧みる。僕が派手にやり過ぎた所為で、あのモンスター以外も警戒している筈だと。

 

 この階層でやるのはもう無理だから、更に下の階層まで進みたいところだけど、流石に難しかった。これ以上進んでしまったら、神様と約束した指定日に遅れてしまう。

 

 まだ指定日には余裕がある。だけど、この辺りで訓練をやり続けるのはもう限界だ。モンスター達が僕に怯えているから、もう戦いにもならない。そう考えると、残された選択はたった一つだ。

 

「……もう一度行ってみようかな、17階層に」

 

 その階層には巨大モンスターの階層主――ゴライアスがいる。だけど、昨日行ってもゴライアスと遭遇する事が出来なかった。

 

 聞いた話だと、ゴライアスなどの階層主は一度倒したらすぐに復活しないらしい。再出現する為に二週間の出現間隔(インターバル)があると。僕が17階層へ行っても現れなかったって事は、恐らくその出現間隔(インターバル)が過ぎていなかったんだろう。

 

 出来れば戦争遊戯(ウォーゲーム)をやる前にゴライアスと戦いんだけど、もしかしたら無理かもしれない。指定日に余裕があると言っても、今の僕にはダンジョンに長く留まれる時間が限られているし。

 

「う~ん……ゴライアスが出てきますように」

 

 この場にいない神様に、ゴライアスが出てくるよう神頼みをした。

 

『止めるんだベル君! 君一人だけでゴライアスに挑むなんて無茶にも程があるよ!』

 

 ……あれ? なんか僕を引き留めようとする神様の声が聞こえた気が……多分、気のせいだろう。

 

 そう簡潔した僕は襲い掛からずに遠目で見ているモンスターを気にせず、17階層へと行く事にした。

 

 

 

 

 

 

 場所は変わりダンジョン18階層。そこには地上へ帰還する一団が17階層へと向かっている。

 

「ねぇフィン~、本当にアイズとリヴェリアだけ残して良いの?」

 

「やっぱり、私達も残った方が……」

 

「あのねぇアンタ達、もういい加減にしなさい。もうソレ何回も言ってるわよ?」

 

「あはは……。何度も言うけど、リヴェリアがいるから大丈夫だ。何か遭っても責任はリヴェリアに取ってもらうからね」

 

 その一団はロキ・ファミリアの主要メンバーだった。

 

 未だ深層に残っていると思われる仲間を心配するティオナとレフィーヤに、ティオネが窘めようとする。同じ光景を何度も見ている団長のフィンは苦笑しながら再度返答する。

 

 彼等は“とある事件”に遭った後、資金調達をしようとダンジョン深層へ向かっていた。一通りの魔石やドロップアイテムも集まったので、フィンは帰還しようと思っていた。しかし、幹部のアイズが深層に残ると突然言い出した。

 

 最初は渋るフィンだったが、リヴェリアの要望により許可を出す事にした。なので、フィン達は二人を残して地上へ帰還している。その途中、ティオナとレフィーヤが未だに心配して戻るべきだと何度も言っているが。

 

「もうアイズとリヴェリアに関しての話は無しにしてちょうだい。もし次言ったら本気で殴るわよ?」

 

「わ、分かったよ~。もう言わないから」

 

 拳骨の仕草をするティオネに、本気でやると分かったティオナは苦笑いをしながら従う。

 

 それを見たフィンも内心安堵していた。彼も少しばかりウンザリ気味だったので。勿論、それは顔に出さないでいる。

 

「あ、そう言えばさ!」

 

「今度は何よ?」

 

 思い出したように言うティオナに、ティオネは内心マジで殴ろうかと思いながらも確認した。

 

「あの子、今どうしてるのかな~?」

 

「あの子って?」

 

 一先ずアイズ達じゃないと分かったティオネは拳を収める事にした。ティオネの言うあの子が誰なのかを考えながら。

 

「ほら。前にベートに勝って、フィリア祭でレフィーヤを助けた白兎みたいな白髪の子だよ。名前は確か――」

 

「ベル・クラネルだね」

 

「団長……?」

 

 ティオナが思い出そうとしてると、フィンが名を告げた。珍しく割って入る様に言ってくるフィンに、ティオネが意外そうに彼を見る。

 

「そうそう、そんな名前。そのベルって子だけど、ダンジョンで全然見かけなかったよね。あんなに強いんだから、てっきり中層辺りで会えるかな~って思ってたんだけど」

 

「確かに彼の実力だけを考えれば、恐らく中層でもやっていけるだろうね。だが、彼が中層へ行くのはまだ早過ぎる」

 

「え~、どうして? ベートのこと以外でも、あの新種のモンスターを見た事ない魔法であっと言う間に倒したのに? 中層に行ってもおかしくないじゃん」

 

 『LV.1』のベルが『Lv.5』のベートに勝つのは、普通に考えてあり得なかった。如何にベートがベルを侮っていたとは言え、レベルやステイタスが余りにも差があり過ぎるから、良くて傷を負わせるのが精々だ。それは最早オラリオの常識になっている。

 

 だと言うのに、その常識をベルによって一瞬で壊されてしまった。更には『Lv.1』で絶対に太刀打ちできない食人花も、ベルが倒してしまった。それにより、ロキ・ファミリアはベルを既に『Lv.1』とは名ばかりの強者と見ている。

 

 ティオナもその一人だから、ベルの実力なら中層に来ても問題はないと言っていた。

 

「それはあくまで僕達の基準に過ぎない。如何に彼が強いからと言っても、未だ新人冒険者で何の功績も無い身だ。あのギルドがそう簡単に中層進出なんて認めはしないだろう」

 

「ええ!? 何で何で~? あの子、この前のフィリア祭で強いって証明されたじゃん! 何でギルドが認めないのさ~!」

 

「馬鹿ティオナ、少し考えれば分かるでしょう」

 

 フィンの言い分に納得出来ないティオナが抗議するも、ティオネが呆れ顔で嘆息しながら説明する。

 

「フィリア祭で起きたモンスターの脱走や例の新種モンスター出現は、ガネーシャ・ファミリアとギルドの失態でもあるのよ。それをギルドが秘密裏に処理してるのに、新種の一匹をベル・クラネルが倒したって何の功績にもならないのよ」

 

「あ、そっか……」

 

 ギルドの裏事情をロキから聞いたのを思い出したティオナは漸く理解した。

 

「まぁ、そう言う事だ。代わりに説明してくれてありがとう、ティオネ」

 

「いえいえ! これ位の事は団長の手を煩わせる必要はありませんので!」

 

 フィンの感謝にティオネは満面の笑顔を見せた。明らかに自分をアピールしている事にフィンは気付くが、敢えてスルーしている。

 

「けれど、それを抜きにしても、もし会った時には礼を言わないといけない。彼にはレフィーヤを治療してくれた恩があるからね。そうだろう、レフィーヤ?」

 

「は、はい。仰る通りです……」

 

 確認するように問うフィンに、レフィーヤは複雑な顔をしながら返事をする。

 

 傷を治療してくれた事に恩を感じているレフィーヤだが、自分が尊敬するアイズがベルに興味を抱いている。なので素直に礼を言う事が出来ない状態だった。それでも助けてくれた事には変わりないので、一通りの礼をしなければならない立場であるのだから。

 

「さて、ここからは休み無しで一気に地上へ戻るよ」

 

 17階層へ戻る通路へ足を踏み入れた途端、フィンはティオネ達に帰還の速度を上げるよう指示する。

 

 その直後――

 

 

『■■■■■■■■■~~~~~~~ッッ!!!!!!』

 

 

 通路の先からモンスターの雄叫びらしきものが聞こえた。それを聞いたフィン達は思わず足を止める。

 

「え、ちょ、今のって……!」

 

「ゴライアスじゃない! こんな時に……!」

 

 雄叫びの正体――階層主ゴライアスにに気付いたティオナとティオネは驚愕する。予想外のモンスターだと言わんばかりに。

 

「で、でも確か、前にリヴィラの人達が退治したって団長が言ってた筈じゃ……!」

 

 17階層へ訪れた際、そこにはゴライアスとの戦闘の跡があったのをレフィーヤは思い出す。

 

「恐らく、ゴライアスを退治した後の出現間隔(インターバル)が過ぎたんだろうね。それを考えると『リヴィラ』にいるボールス達が動く筈だけど……彼等は街の復興ですぐに動けない有り様だからね」

 

 先日に『リヴィラの街』で殺人事件と同時にモンスター襲撃もあった為、『リヴィラの街』は壊滅状態となっていた。だが、街の顔役であるボールスを筆頭に、住民達の迅速な行動により『リヴィラの街』は早々に復興されている。

 

 フィン達も一度リヴィラに立ち寄ったが、取り敢えずだが拠点として活用出来る状態になっている。しかし、それでも未だに復興作業に追われている状況でもあった。なので現在復興作業中のボールス達に、ゴライアスを退治する余裕がない。

 

「ボールス達が動けない以上、ここは僕達が退治するとしよう。どの道、このままゴライアスと遭遇する事になるからね。ティオネ、ティオナは戦闘準備を。レフィーヤはいつでも魔法を撃てるように詠唱の準備をしておくように」

 

「はい!」

 

「オッケ~!」

 

「わ、分かりました!」

 

 フィンは自身の得物を持ちながら、ティオネ達に指示を下す。準備を終えた彼女達を確認したフィンは前進する。

 

 そして17階層にある大広間――嘆きの大壁に到着する。

 

 

「■■■■■■■~~~ッッ!!!」

 

「はぁぁぁぁああああっ!!」

 

 

 しかし、到着するもゴライアスは既に誰かと交戦中だった。すぐに交戦している冒険者達に加勢しようとするも――

 

「なっ……!」

 

「どうして……!」

 

「う、嘘でしょ!?」

 

「な、何で、彼が此処に……?」

 

 フィン、ティオネ、ティオナ、レフィーヤはゴライアスと交戦している冒険者を見た途端、走っている足を止めていた。まるで信じられない物を見ているような目で。

 

 それは当然と言えば当然だった。彼等の目の前でゴライアスと交戦しているのが、つい先程まで話してた新人冒険者のベル・クラネルだったから。

 

「ねぇフィン! どう言う事なの!? あの子、中層に来てるよ!? ゴライアスと戦ってるよ!? 何で!? どうして!?」

 

「ちょっと落ち着きなさいティオナ!」

 

 ベルを見たティオナはもう完全に慌てており、フィンに向かって怒鳴り散らしながら捲くし立てる。それを見たティオネが窘めるが、彼女も彼女で内心冷静ではなかった。

 

 因みにレフィーヤは口を開きながら呆然としている。と言うより、もう固まっていると言った方が正しいだろう。

 

「……そんなのは僕が知りたい位だよ。だけどそれ以前に……どうして()()()()()()()()()()()()()しかいないんだい?」

 

 新人冒険者のベルが中層に行くのはまだ早いと言ったばかりなのに、その予想を見事に裏切られた。それだけでも充分過ぎる程に驚く事なのだが、今のフィンにはもっと信じられない光景を目にしている。彼の言う通り、ゴライアスと交戦しているのがベル一人だけしかいないから。

 

 本来、ゴライアスなどの階層主は冒険者達が総出で退治するモンスターだ。それはオラリオ冒険者の常識となっている。なので階層主と戦う際、決して単身で戦う愚かな事をしないのが冒険者としての鉄則(ルール)でもある。現段階でオラリオ冒険者最強である『猛者(おうじゃ)』オッタルなら、単身で挑んでも問題はないが。

 

 だがしかし、その鉄則(ルール)を物の見事にぶち壊したのが目の前に存在している。冒険者になったばかり且つ『Lv.1』のベルが、単身で中層にいる階層主のゴライアスと戦っているから。

 

 もしもベルがどこかの冒険者達とパーティーを組み、ゴライアスと戦っているならギリギリだが納得しよう。負傷した冒険者達を守る為に一人だけで戦っているのなら何とか納得しよう。

 

 フィンは必死にその可能性に賭けていたのだが………それらしき形跡が全く見当たらなかった。彼の仲間がいるのなら、その人影が全く見付からない。負傷した仲間がいるなら、その負傷者はどこにもいない。その瞬間にフィンが考えていた可能性は、無残な形で切り捨てられる事となる。

 

「……はぁっ。ベル・クラネルに色々と言いたい事はあるけど、それは一先ず後回しだ。本当なら、他の冒険者が戦っている獲物を横取りするのはルール違反だけど……今回ばかりは別とさせてもらう」

 

 フィンの言う通り、冒険者の得物を横から奪うのはルール違反なのは周知の事実だ。ギルドに知られれば(ペナルティ)を課せられる事となる。しかし、『Lv.1』の新人冒険者が、単身で階層主と戦うとなれば状況は変わる。

 

 ベルにどんな事情があって単身でゴライアスと戦っているのかは知らないが、最大派閥であるロキ・ファミリアとして放っておくことなど到底出来ない。加えて、ベルは現在ロキ・ファミリアが注目している冒険者でもあるから、こんな所で彼を死なせるわけにもいかない。

 

 

「■■■■■■■~~~ッッ!!!」

 

「っ! しまっ……ぐっっ!!」

 

 

 そんな時、ベルが剣でゴライアスの足に舞うような斬撃を繰り出していた。しかし斬撃が浅かったのか、ゴライアスは反撃と言わんばかりに開いた大きな手で振り払う。反応が遅れたベルは躱す事が出来ず、見事に直撃した。

 

「がはっ……!」

 

 ゴライアスの反撃をもろに直撃したベルは吹っ飛んでいき、そのまま大広間にある壁に激突する。




今回はベルの特訓+ロキ・ファミリアの遭遇でした。
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