ベルがアークスなのは間違っているだろうか   作:さすらいの旅人

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執筆が思うように進んでいるので、連続投稿しました。




番外編 戦争遊戯④

 17階層に着いて、階層主であるゴライアスと遭遇した僕は驚いた。自身の予想外な運の良さに。

 

 余りにも嬉しい誤算だ。これでアポロン・ファミリアとの決戦に備えた、第二段階の訓練が出来る!

 

 気持ちが昂るのを何とか抑えながら、目の前のモンスターを観察する。エイナさんから受けたモンスター講習を思い出しながら。

 

 17階層の階層主ゴライアス。全高7(メドル)近い灰褐色の巨人のモンスター。能力は推定で『Lv.4』相当。前に戦った『Lv.5』のベートさんより下だけど、僕からすれば充分に格上の存在。

 

 僕が前の世界で戦った巨大エネミーを代表するなら……惑星ナベリウスにいる『ロックベア』、もしくは惑星ウォパルの『オルグブラン』。いや、アレ等はゴライアスより小さいか。とすると同じ大きさとするなら……余り例えたくないけど、ダーカー種の巨大亀形エネミー――ゼッシュレイダか。

 

 例としてあげた巨大エネミー達だけど、見た目とは裏腹に素早い攻撃を繰り出す強敵ばかりだ。油断なんかしたら、あっと言う間に殺されてしまう。ゴライアスはどれ程の実力なのかは分からないけど、決して油断しないように挑まなければならない。アレはこれまで戦ってきたモンスター達とは桁が違う。

 

 そう思いながら僕は抜剣(カタナ)――フォルニスレングを展開し、此方を視認したゴライアスとの戦闘を開始する。

 

 最初はすぐに攻めようとせず、回避しながら攻撃を繰り出してすぐに退避する一撃離脱(ヒットエンドラン)戦法をやった。格上の相手がどういう戦い方をするのかを観察すると言う、キョクヤ義兄さんから教わった戦法だ。

 

『相手の手段も理解せず、闇雲に挑むのは愚者のやる事だ。既に暗黒の闇を得て、未熟ながらも《亡霊》となった我が半身は当然理解しているであろう?』

 

 と言う、キョクヤ義兄さん風のありがたいアドバイスをされた事がある。

 

 それはそうと、一撃離脱(ヒットエンドラン)戦法は思っていた以上に効果的だった。ゴライアスは完全に翻弄されている様子だ。動きも緩慢になって手や足を使った攻撃が遅い。

 

 この様子なら本格的に攻めても大丈夫かもしれない。その際、あの太い片足を重点的に攻めて一時的に動きを止めるとしよう。

 

 そう考えた僕は様子見から攻めに転じようと、速攻で接近してゴライアスの足へ辿り着く。

 

「闇の剣舞! フォルターツァイト!」

 

 すぐに前方を連続で斬りつける攻撃を行う抜剣(カタナ)ファントム用フォトンアーツ――フォルターツァイトで斬り裂こうとする。

 

 素早い五連続の斬撃後に、フィニッシュの斬り上げを行う連続攻撃はかなりのダメージを与える事が出来る。いくらゴライアスでも激痛の余りに動けなく――

 

「■■■■■■■~~~ッッ!!!」

 

「っ! しまっ……ぐっっ!!」

 

 しかし、僕の予想とは裏腹にゴライアスは攻撃を喰らいながらも反撃しようとしていた。

 

 反応が遅れてしまった僕は、振り払おうとするゴライアスの大きな手を回避出来ずに直撃してしまう。

 

「がはっ……!」

 

 咄嗟にガード姿勢を取ったが、凄まじい衝撃が僕に襲い掛かって吹っ飛んでしまい、そのまま後ろにある壁に激突した。

 

「~~~~~~………ごほっ……ごほっ!」

 

 痛い……! 言葉だけでは表現出来ない程に痛い……!

 

 背中は勿論の事、壁に激突した所為で全身の骨に罅が入っているんじゃないかと思うほどの激痛が走っている。

 

 それ以外にも、僕の内臓もかなり衝撃をくらっている。その証拠に、胃から何かが込み上がって来たので思わず吐き出した。出てきたのは僕の血だった。他にも此処へ来る前に口にした、消化寸前の僅かな食べ物も含めて。

 

「はっ……はっ……なんて、事だ……!」

 

 久しぶりの痛みだった。前の世界でアークスとして活動していた頃は、こんな痛みは日常茶飯事だ。巨大エネミーとの戦闘だけでなく、六芒均衡マリアさんの地獄の訓練も含めて。

 

 いや、そんな事なんかどうでもいい。僕が今一番に思ってるのは――

 

「僕は……大バカだ……! とんでもない思い違いをしていた……!」

 

 この世界のモンスター程度なら問題無く倒せるだろうと言う、僕の思い上がりに酷く腹が立った。

 

 僕が今まで戦ってきたダンジョンのモンスター達は余りにも弱過ぎた。本気を出す事なく、殆ど一撃で終わっている。その時に僕は思った。この世界のモンスターは大して強くないんじゃないかと。

 

 それでも警戒を緩めてはいけないと何度も何度も自分を戒めた。しかし上層で過ごし続けている内、徐々にソレが無くなっていった。まるで自分がダメになっていくような感じで。

 

 そんな時、突如本拠地(ホーム)が破壊された。アポロン・ファミリアの襲撃によって。そして更には戦争遊戯(ウォーゲーム)を急遽やる事に。

 

 僕も神様と同じ気持ちで怒っていたけど、それと同時に不謹慎な事を考えていた。今回やる予定の戦争遊戯(ウォーゲーム)なら、自分の全力を最大限に出せるのではないかと。

 

 しかし、弱い上層モンスターしか倒していない今の僕では身体が鈍り過ぎていたので、それを解消しようと今回中層へやってきた。訓練をする為に。結果としてはダンジョン中層のモンスターも思ったほど強くなかったが、訓練の相手には丁度良かった。

 

 そして目的のゴライアスと戦い、予想外の手痛い反撃を喰らって今はこのザマだ。失態にも程がある。

 

 こんな僕の情けない姿をキョクヤ義兄さんが見たら――

 

『何だ、その酷く情けない姿は? いつからそんな脆弱な闇を見せるようになった? 俺はそんなものを見る為にお前を《亡霊》にしたわけではないのだぞ。ベルよ、お前がその程度の存在であったと言うのならば、今すぐに《亡霊》を止める事だ。そして、「白き狼」の名も捨てよ。今の無様なお前には過ぎたるものだ』

 

 酷く失望した顔をされた上に、ファントムクラスをやめろと言われるだろうな。

 

 キョクヤ義兄さんはファントムを誇りに思ってるから、今の僕を見たら怒るのは当然だ。あの人は義弟の僕をファントムにする為に、厳しく指導していたんだから。

 

 もし今この状況でオラクル船団に帰れる展開になったとしても、僕は即座に断っているだろう。こんなみっともない僕の姿は……とても恥ずかしくてキョクヤ義兄さんに見せたくない!

 

「僕は……僕は……!」

 

「■■■■■■■~~~ッッ!!!」

 

 激痛が走る身体を鞭打つようにユラリと立ち上がる僕を見たのか、ゴライアスは止めを刺すと言わんばかりに、屈むように体勢を低くしながら拳を向けてくる。

 

 自分自身に怒っている僕は抜剣(カタナ)を持ち構えなすと――

 

「うおりゃぁああああああ!!」

 

「やらせないわよ!」

 

「っ!?」

 

 突如ゴライアスの攻撃を阻止しようと誰かが割って入ってきた。

 

 ゴライアスが僕に向かって伸ばしている腕の間接辺りに、二人の女性が攻撃を仕掛けようとしている。

 

 一人目は褐色肌の短髪な女性で、両剣(ダブルセイバー)と思わしき武器を振るう。二人目は褐色肌の長髪な女性で、双小剣(ツインダガー)らしき武器を持っている。

 

 あの二人には見覚えがある。怪物祭(モンスター・フィリア)で会ったロキ・ファミリアのアマゾネス姉妹だ。

 

「■ッ!?」

 

 二人が仕掛ける斬撃をゴライアスは当たる前に腕を引っ込めた。腕を切り落とされると直感したのだろうか、引っ込めるのが意外と素早い。それと同時に警戒をしているのか、さっきとは打って変わるように攻撃を仕掛けようとしない。

 

 そんなゴライアスの行動を予測していたのか、二人のアマゾネス姉妹は僕を守ろうと前に出ている。

 

「大丈夫、白兎君!?」

 

「ここからは私達がやるわ。アンタは怪我してるんだから、下がってなさい!」

 

「え……?」

 

 もしかしてこの二人、僕を助けようとしたのかな……? それは素直に嬉しいんだけど……。

 

「無事のようだね、ベル・クラネル。ティオネ達の助太刀が無かったら、危ないところだった」

 

「フィ、フィンさん……?」

 

 ロキ・ファミリア団長の『勇者(ブレイバー)』フィン・ディムナさんも何故かいた。近付きながら僕の姿を見たフィンさんは安堵の表情を浮かべている。

 

 それと、少し遅れながら此方へ向かってくるのがもう一人いる。あの人は確かエルフのレフィーヤさん……だったか。

 

 ……え~っと、何で有名なロキ・ファミリアがこんな所にいるのかな? 出来れば説明を求めたいんだけど。

 

「色々と疑問がありそうな顔をしているけど、それは後回しにさせてもらうよ。取り敢えず君は下がるんだ。後は僕達に任せて、前に使った治癒魔法で傷を治す事に専念してくれ」

 

「えっ、ちょっ……」

 

 何か勝手に話を進められている。それどころか、いきなり出てきたロキ・ファミリアの人達が勝手にゴライアスを倒そうとしているんだけど……何故?

 

 僕の記憶が確かなら、戦ってる最中に他の冒険者が得物を横取りするのはルール違反だった筈じゃ……。僕、間違ってないよね?

 

「あ、あのぅ……。アレは僕と戦ってる最中ですので、助太刀は――」

 

「貴方、何馬鹿な事を言ってるんですか!? 早く下がって下さい!」

 

「ええ!?」

 

 レフィーヤさんが僕を無理矢理下がらせようと、片腕を掴んで強く引っ張ってくる。

 

 そうされてる事に痛みが走った僕は、一先ず傷を治療しようとレスタを使って治療した。取り敢えず完全回復だ。

 

「ちょ、何で私にまで治癒魔法を使ってるんですか!? 私は怪我なんてしてませんよ!」

 

「あ、すみません! 僕の使うテクニック……じゃなくて治癒魔法は、自分の一定範囲内にいる人も対象となって完全回復するんですよ。それが例え無傷な人でも」

 

「………え?」

 

 完全回復した僕が光属性テクニックのレスタについて軽く説明すると、レフィーヤさんは途端に信じられないような目となる。

 

「そ、それってつまり……その治癒魔法は貴方の範囲内にいれば何人でも治癒できる、という事ですか?」

 

「は、はい、そうなりますね。因みに僕の気力次第で何回も出来ます。あと、前にベートさんに使った状態異常を治療する魔法も同様に」

 

「………嘘」

 

 ついでに光属性テクニックのアンティも同様の治療範囲魔法だと教えた。

 

 すると、レフィーヤさんが急に押し黙ってしまう。呆気にとられた表情となって。

 

 それと同時に掴んだ腕を放したので、僕はその隙に再び武器を構えながら前に出る。幸い、ゴライアスがアマゾネス姉妹に警戒しているのか、戦いは未だに再開していない。

 

「ベル・クラネル!? 何をしている! 下がれと言っただろう! それに傷は――」

 

「治癒魔法で治りました! もう既に完全回復してます!」

 

「――は?」

 

 僕が前に出た事にフィンさんが咎めるも、自分はもう元気だと証明した。それを聞いたフィンさんは何故か目が点になっている。

 

 だけど僕は気にせず、更に前へ出てアマゾネス姉妹の先に立つ。

 

「ちょ、白兎君!?」

 

「アンタ、さっきまで重傷だったのに、何でもう治ってるの!?」

 

「お二人とも! 助太刀には感謝しますが、僕がやられるまで一切手を出さないで下さい! アレは僕の獲物です!」

 

 後ろから言ってくるアマゾネス姉妹に、僕は手を出すなと力強く言い放つ。

 

「馬鹿な事を言ってんじゃないわよ! 『Lv.1』のアンタがゴライアスに勝てるわけないでしょうが!」

 

「そうだよ! ここはあたし達に任せて――んなっ!」

 

 アマゾネス姉妹が言ってる最中、僕は手にしている抜剣(カタナ)で居合切りをした。僕とアマゾネス姉妹の間の地面に向かって。

 

「その線から一歩でも先に進めば………僕は貴女達を敵と見なします。良いですね? フィンさんやレフィーヤさんも同様です」

 

 僕が本気だと言う事を証明させようと、途中から敢えて声を低くすると同時に殺気を出しながら力強く睨み付けた。キョクヤ義兄さんなりの、闇の殺気と睨みを。

 

「「………………」」

 

 僕の思いが届いたのか、先程まで騒いでいたアマゾネス二人は押し黙った。

 

「ご理解頂けて何よりです。それでは……」

 

 そう言って僕は更に先へと進み、佇んでいるゴライアスと再び対峙する。そして武器を構えて、こう言い放つ。

 

「待たせて悪かったね。さぁ、続けようじゃないか。ここから先は僕の力――暗黒の闇を全て見せてやる! そしてお前を黄泉の国へと誘おう!」

 

「■■■■■■■~~~ッッ!!!」

 

 そして再び開始された。僕とゴライアスとの第2ラウンドが。

 

 

 

 

 

 

「団長、止めなくて良いんですか!?」

 

「ん~……。本当なら止めるべきなんだが……今の彼に何を言っても無駄だろうね」

 

 ベルとゴライアスとの戦いが再開されて数分後、ハッとしたようにティオネがフィンに進言する。けれど、フィンは止める様子を見せなかった。それどころか黙って見守ろうとしている。

 

「それにベル・クラネルはロキ・ファミリア(僕たち)に向かって、あそこまで啖呵を切ったんだ。後の責任は彼に負ってもらう」

 

「しかし、だからと言ってこのまま見殺しにすれば……!」

 

 普段ならフィンの指示を遵守するティオネだったが、今回ばかり流石に従うのは無理があった。

 

 ここでもしベルがゴライアスに敗北し、更に死亡したとなれば面倒な事になってしまう。ロキ・ファミリアが黙って見殺しにしたと、ギルドや他のファミリアの耳に入れば信用問題になるだろう。

 

 本来は余所のファミリアの冒険者を見殺しにしても、他のファミリアが責任を負う必要は一切ない。だが、ロキ・ファミリアはオラリオを代表する都市最高派閥だ。それに加えて善のファミリアでもある。敵対しているファミリアが多くても、オラリオに住まう人達の信頼は厚い。

 

 数々の実績と信頼を積み重ねているファミリアなので、汚点が一つでも表に出たらロキ・ファミリアの名に傷が付いてしまう。なのでティオネはそれを警戒して、こうしてフィンに進言している訳である。

 

 無論、フィンもそれは分かっていた。例えベルがどんな文句を言っても、彼の命を最優先して助けるべきだと。

 

「ティオネの言いたい事は勿論分かっている。だから……いつでも動けるようにしておいてくれ」

 

「え?」

 

「彼がもう戦えないほどの重傷を負っていると僕が判断したら、そこから先は此方でゴライアスを始末する。例えベル・クラネルがどんな抗議をしてもだ」

 

 ベルの意を酌んだフィンだが、次は無いと決断する。これ以上の譲歩は、ロキ・ファミリアを束ねる団長として許す事は出来ないと。

 

「……分かりました。団長の指示に従います。聞こえたわね、二人とも? レフィーヤはいつでも魔法が撃てるように詠唱の準備をしておきなさい」

 

「は、はい!」 

 

「……………」

 

 フィンに従うティオネはすぐに他の二人に指示を下すと、さっきまで呆けていたレフィーヤは何とか返事をする。しかし、ティオナからの返事はなかった。

 

「ちょっとティオナ、聞こえなかったの? 早く準備しなさい!」

 

「へ? あ、う、うん……」

 

 少し声を荒げるティオネに、ティオナは漸く反応した。それでも様子は変だが。

 

「あんた、どうしたの? 何か変よ」

 

「な、何でもないから……何でも……」

 

「「「?」」」

 

 いつもなら元気よく返事をするティオナが妙に大人しい。

 

 余りの変わりようにティオネだけでなく、フィンとレフィーヤも揃って不思議そうに見ている。

 

 

「ぜぁぁぁああああっ!!」

 

「■■■■■■■~~~ッッ!!!」

 

 

「………はぁっ」

 

 大人しい返事をしたティオナは再び前方の戦いを見る。さっきまでとは打って変わるように荒々しい表情で、回避しながら素早い攻撃をしているベルの方を。

 

 その戦いにティオナは熱い吐息を漏らすと同時に、熱い視線を送っている。それはまるで、恋する乙女のように。

 

「あの子、あんな顔するんだぁ……」

 

「……ティ、ティオナ、あんたまさか……」

 

 ティオナの発言を聞いたティオネは何となくだが気付いた。もしかしたらティオナは……ベル・クラネルに惚れてしまったのではないかと。




 本当だったら3話程度の番外編で済ませるつもりだったのに……何でこんなに長くなっちゃってるんだろうか?

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