ベルがアークスなのは間違っているだろうか 作:さすらいの旅人
あと、今回はかなり短いです。
ベルが訓練中にちょっとした一騒動は起きたが、準備は
訓練をしているベルとは別に、アポロン・ファミリアも準備を進めていた。
アポロン・ファミリアはベルと違って訓練などしておらず、所々崩れている城の修繕や物資の輸送を行っているだけだ。普通なら
団員達は知っている。今回行う
対して自分たちアポロン・ファミリアは百名以上の団員がいる。『Lv.3』の団長ヒュアキントス・クリオを筆頭に、多くの『Lv.2』の上級冒険者、更には末端でありながらも『Lv.1』の下級冒険者達を揃えている。相手と比べる必要もない程、圧倒的な戦力差だ。
たった一人しかいない零細のヘスティア・ファミリア如きに、自分達が負ける筈は無い。誰もがそう確信している。
「……ふんっ。籠城して敵を待つだけとは、随分とつまらないゲームだ」
大将を務めるヒュアキントスは別室にある窓から、多くの作業をしている団員達を眺めながら呟く。
彼も今回の
「ベル・クラネル。奴の剣技を偶然目撃したアポロン様が見初めた忌々しい冒険者……!」
今回の出来事は全て、あの
闘技場から出たその時、脱走したモンスターであるシルバーバックを目撃した。更にはそのモンスターと戦おうと、剣を持った兎を連想させる可愛い少年も含めて。
その直後、少年はほんの数秒にも満たない時間で瞬殺し、周囲の人からも称賛されている。それを見たアポロンは少年に心を奪われながら思った。これは運命だ、私とあの少年が出会う為の運命なのだと。尤も、それはアポロンの一方的な思い込みだが。
それからのアポロンは、シルバーバックを瞬殺した少年――ベル・クラネルの事ばかり考える事となった。たった数日経っただけで、もう我慢が出来なくなったのか、アポロンは
アポロンの一連の流れを見守っていたヒュアキントスは終始不機嫌だった。彼はアポロンに深く心酔しているが、ベル・クラネルを見初めたアポロンに対して不機嫌になっているのではない。アポロンが見初めたベル・クラネルに対してだ。
自分より格下で『Lv.1』である新人冒険者の分際で、アポロンに見初められることがヒュアキントスにとって気に入らなかった。たかがシルバーバックを瞬殺した程度で粋がっているベル・クラネルが。
本当なら即座に殺したいところだったが、アポロンの命に背く訳にはいかない。命令通り、今回の
主神の命令を遵守するヒュアキントスだが――
「アポロン様の寵愛を頂く前に躾けておかねばならんな。例え手足は切れようが、後で治せば問題無いだろう」
第三者から見れば完全に逆恨みな嫉妬だが、ヒュアキントスは正当な躾だと言い返すだろう。今のヒュアキントスはそれだけベルに対する醜い嫉妬の炎を燃やしているのだから。
さて、ここで話は変わる。
ついさっき、団員達の誰もが負けないと確信していると説明したが――
「ねぇダフネちゃん、もう逃げようよ……!」
「いい加減にしなさい、カサンドラ! ウチに何回同じ事を言わせれば気が済むのよ!?」
実は一人だけ例外がいた。
長髪垂れ目の美少女――カサンドラ・イリオンは、別の場所で団員達の作業を見守っている短髪吊り目の美少女――ダフネ・ラウロスに懇願していた。今すぐ
「本当に逃げた方がいいのよ! 暗黒の闇を纏った白き狼が……可愛い白兎の皮を被った狼がやってくるの……! 全員その狼にやられちゃう……!」
「例の妄想でしょ? と言うか、何その表現は。兎の皮を被った狼って、色々とおかしすぎるわよ」
おかしな事を言っているとダフネは呆れ顔だった。けれど、それはいつもの事なので毎度の如く大して気に留めていない。
他の団員達からもカサンドラの言ってる事は妄想だと思っている。彼女は妄想ではなく予知夢だと言っているんだが、誰も信じてくれなかった。
これまで何度も妄想だと相手にされずに諦めていたカサンドラだったが、今回ばかりは別だった。予知夢が正しければ、今度の
その事を主神アポロンや団長ヒュアキントスに何度も進言した。彼には手を出したら、何もかも失ってしまうと。アポロンとヒュアキントスは、いつもの妄想かと呆れながら聞き流したのは言うまでもない。
誰もがカサンドラの進言を無視している中、作業は終了に差し掛かっている。後は待機して勝ったも同然の
この場にいるアポロン・ファミリアは知らなかった。ベル・クラネルがダンジョン中層に籠り、17階層の
☆
「頼むミア! 今回の
「いきなり呼びつけておいて、何を言ってるんだい。というか、何でよりにもよってウチなんだい? 旅をしているヘルメス様には他にも伝手がある筈だろう?」
ヘルメスからの頼みに店主ミアは遠回しに断ろうとしていた。他を当たれと。
「此処しか頼めないんだよ。オラリオ以外のファミリアで手練れな助っ人を呼べるのは」
「それ以前に、何でヘルメス様はあの坊主の為にそこまでやろうとするんだい?」
「いや、まぁ……色々あってね。言っておくけど決して疚しい事じゃない。それは断言する」
「……アンタも知っての通り、ウチの娘達は色々と訳ありだ。
「そこは大丈夫。俺の方で正体がバレないようにしておくから。なぁ頼むよミア、この通りだからさ!」
「………そう言われてもねぇ」
必死に頼んでくるヘルメスに、ミアはチラリとエルフのウェイトレス――リュー・リオンの方を見た。彼女からの視線に、リューも困ったような顔をしている。
「いくらヘルメス様でも、今の私が
「リュー、私からもお願い!」
「シル?」
断ろうとしているリューに、突然現れた別のウェイトレス――シル・フローヴァが懇願してきた。
シルはベルとの付き合いは未だ浅いが、初めて彼と会った時に好意を抱いた。更には『Lv.5』のベート相手に挑み、可愛い年下の少年でありながらも男らしい一面を見て猶更に。
それが今回の
滅多に見ないシルの強い説得に、リューだけでなくミアも意外そうに見ていた。それだけベルの事が気に入ったのかと思いながら。
過去に救われた恩があるリューとしては、シルからの頼みを無下にする事は出来ないので、今回は引き受ける事にした。店主ミアの承諾も得て。
そして助っ人として参戦するリューは
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