ベルがアークスなのは間違っているだろうか 作:さすらいの旅人
時間は正午丁度。開始時刻となった為、ヘスティア・ファミリアとアポロン・ファミリアの
今回は三日間の戦闘期間を用意されている。攻城戦と言う事もあり、どうやって城を落とすか、どうやって城を守りきるかとの戦争その物の内容となっている。それ故に三日と言う期間が与えられていた。
三日もやり続けなければならないと言う緊張感を襲う戦いだが、古城にいるアポロン・ファミリアからは大して感じられない。それどころか士気が下がっている様子だ。
仕方ないと言えば仕方ないかもしれない。何故なら自分達が戦う相手のヘスティア・ファミリアは、『Lv.1』の団員と外部助っ人の二人だけ。これで緊張感をずっと持てと言うのが無理な話だった。
こちらが集中力が最も低下している最終日に城攻めをしてくるだろう、と言うのがアポロン・ファミリアの予想だった。二人が分断しようが、揃って突撃してこようが、見張りの目と堅牢な城壁があれば問題無いと思っている。
分かりきった勝負に緊張感の欠片を一切見せないのは、城内で待機している者達も同様だった。
「けっ。何でオイラが見張りをしなきゃいけないんだよ……!」
そんな中、一人の
先程まで城内で待機していたが、一人の同僚から見張りをしてこいと言われた。碌に戦えないからと言う理由で雑用を押し付けられたのだ。
ルアンとしては本当なら断りたかった。しかし、自分が他の同僚達と比べて格段に弱いと理解しているので、不満を表しながらも渋々従っている。いつか目にもの見せてやると、心の内でそう思いながら。
「ん?」
すると、前方を見ている彼の視界に二つの人影が映る。
目を凝らして見てみると、それは今回の相手であるベル・クラネルと、緑のマントを羽織っている助っ人だった。しかも二人は身を隠そうともせずに堂々と、城門へ向かおうと走っている。
「お~~い! もう来やがったぞ! しかも二人揃ってだ!」
ルアンの叫びに、見張りをしていた
「ほ、本当だ!」
「何考えてんだアイツ等は!?」
「自分から狙ってくれって言ってるようなもんじゃねぇか!」
勝てないと分かっての特攻だと思ったのか、
それでもやる事は変わりない。発見したら即座に射止めるのが自分たち
「おい、さっさと仕留めろよ!」
「言われなくてもそのつもりだ。さて……どう言うつもりか知らねぇが、これで終わりだ」
「悪く思うなよ。恨むなら、無策で此処に来た
ルアンの叫びを軽く聞き流し、ゆっくりと矢を構えながら狙いを定めようとする
しかし、ルアンや
そして走っているベルと助っ人が、城門から少し離れた場所で一旦足を止める。途端にベルが持っている大鎌をまるで掲げるように、
「ん? 何だあのガキ、魔法でも使う気か?」
「バカか、アイツは。今更そんなもん使おうとしたところで遅いんだよ」
既に射る寸前となっている自分達に向けて魔法を放とうとしているベルに、
あんな馬鹿な事をしかしない相手はさっさと仕留めて終わらせようと、矢を放とうとする瞬間――自分達の近くでいきなり爆発が起きた。しかも連続で
「な、何だァ!?」
城壁の正面から突如襲い掛かる衝撃に、城内にいる団員達は一瞬で混乱状態に陥った。
連続する爆発音と爆風に周囲は騒然となっている。それと同時に爆発で吹っ飛ばされたと思られる
「お、おい、大丈夫か!?」
「あぢぃぃぃぃい! いでぇぇぇえええ!!」
団員達が駆け寄るも、
「い、一体何なんだよ、この爆発はぁ!?」
凄まじい爆発が何度も起きている事によって、別の
そんな時、運良く爆発から逃れたルアンが、城壁の階段から転げ落ちるように戻って来る。それを見た団員達がすぐに問い詰めた。
「おいルアン! 何だこれは!? どいつの仕業だ!?」
「べ、ベル・クラネルだよ! アイツがやったんだ! しかも
「………は?」
詠唱もしないで魔法を撃ったと言うルアンの発言に、団員達が耳を疑った。けれどルアンは気にせず怯えながらも続ける。
「いきなり大鎌みたいな武器を出して、オイラ達がいる方へ向けてきたんだ! たったそれだけの動作で魔法を撃ったんだ!」
「……ば、バカを言うな! 詠唱もしないで攻撃魔法を放つなんて聞いたこともないぞ!」
真に迫るルアンの言葉に誰もが驚愕するも、一人の団員が否定するように言い返す。
「本当なんだよ! 信じられないなら、あそこでぶっ倒れている奴等に聞いてみろ!? オイラと同じ事を言う筈だから!」
倒れている
すると、先程までの爆発が嘘のように止んでいた。いきなり静かになった事により、団員達が余りの不気味さにゴクリと喉を鳴らす。
☆
「まさか、詠唱もせずにあれ程の魔法を撃てるなんて……!」
「よし、先ずは奇襲成功だな」
古城の城門前付近にいるリューさんと僕は、それぞれ思った事を口にしている。
昨日の打ち合わせで
最初はリューさんが自ら囮になって敵を誘き寄せると言っていた。その隙に僕が城に潜入して大将のヒュアキントスさんを倒して欲しいと。
だけど、僕は速攻で反対した。いくら相手が油断しているとは言っても、分断して攻めて来る事も予想している筈。益してや此方が二人しかいないのを分かっているから、リューさんが囮で先行してもすぐにバレてしまう。なので却って無駄に警戒させてしまう結果となる。
なので僕はリューさんに言った。向こうが最も気を抜いている時に、二人で正面から奇襲をかけようと。それを言った瞬間にリューさんから物凄く呆れられたけどね。
僕に奇襲する方法を考えてるので任せて下さいと強く頼んだ結果として、リューさんは渋々と承諾してくれた。もし失敗したら一時撤退すると条件を付けて。
そして現在、僕は奇襲する事に成功した。正面の城壁にいる弓兵達をテクニックで一通り一掃できたから。
さっき使ったのは、フォトンを収束させて起爆し任意の場所に爆発を発生させる中級の炎属性テクニック――ラ・フォイエ。このテクニックは以前使ったイル・バータと同様、対象が射程範囲内にいればどこでも発動させる事が出来る。
ラ・フォイエが発生した爆風で、対象の近くにいる敵も巻き込む事が出来る。その為、並ぶように立っていた他の弓兵達も見事に直撃出来た。更にこれは凄い事に、対象者が近ければ近いほどに連鎖爆発を起こす。なので近くにいた他の弓兵も爆発対象になる。
因みに僕はさっき使ったラ・フォイエは、リューさんの言う通り詠唱はしていない。本当なら詠唱したいところだけど、向こうがそこまで待ってくれるとは思えないので、今回は省略して普通にチャージして撃つことにした。一応補足しておくと、『爆炎の華よ 紅蓮の如く咲き誇れ』と言う詠唱がある。
前にも言った通り、僕が使うテクニックは本来詠唱なんて必要無い。キョクヤ義兄さんからの教えにより、敢えて詠唱をしているだけだ。僕としては詠唱すると、いつもより威力が高い感じがするから。
さて、それはそうと向こうは多分大慌てだろうね。いきなり仲間の弓兵がやられたとなれば、すぐに別の所に配置している弓兵を集めさせると思う。
けれど、そんな簡単には来ないだろう。さっき見た
その弓兵がまだ来ないって事は、未だ判断に迷っているんだろうね。ならば、その隙に城門を突破させてもらう。僕の近くで常時ステルス化してる
「ではリューさん、次はとっておきの魔法で城門を壊しますので、すぐに詠唱を行います。敵の弓矢に備えながら下がってて下さい」
「それを言うなら、クラネルさんが一旦下がるべきなのでは……?」
「大丈夫です。詠唱中に矢が来たとしても、僕には絶対当たりませんから」
「は?」
僕の台詞にリューさんが訝しげな表情をしていた。覆面をしてても分かる。
すると、城壁の上から顔を出した団員が此方を見ていた。
「ベル・クラネルが動きを止めてるぞ!」
あ、僕を見てすぐに知らせたか。これは早く発動させないと不味い。
「リューさん! 今は僕の言う通り下がっていて下さい!」
僕はそう言った後、すぐにカラミティソウルを背中に収め、両腕を伸ばしながらこう叫ぶ。
「
「なっ、これは……!」
詠唱の序盤を口にすると、僕の周囲から大きな魔法陣が出現した。言われた通り下がってくれているリューさんから驚愕の声を出している。
「お、おい弓部隊! 早くしろ! 詠唱を始めたぞ!」
リューさんと同様に見ていた団員が慌てた様子で大声で叫んだ途端、即座に弓兵達が此方へ来た。そしてすぐに阻止しようと弓兵達が大量の矢を放つ。
「クラネルさん!」
下がっていたリューさんだけど、動かずに
しかし――全ての矢は僕に当たる事無く通り越していた。
その光景を見ていた弓兵達は動きを止めている。ここから少し離れているけど、弓兵達の唖然とした顔をしているのが分かる。多分、後ろで足を止めているリューさんも似たような反応をしているだろう。
「漆黒の闇よりも暗き獣 地獄の道へと
僕が詠唱をしている最中、弓兵達は再度矢を放つも、さっきと同様に当たっていない。
当たらないのは当然だ。僕が発動させているスキル――フォトンブラストは
因みにフォトンブラストを発動するには、マグと言うアークスをサポートする機械生命体がいなければならない。この世界に来て以降、誰かに見られたら不味いと思ってステルス化させていた。唯一知っているのは神様だけだ。これを知った神様からは、他の冒険者や神達に見せるのは不味いから常に透明化しておくようにと言われているので。
「さあ現れたまえ、我が愛しき闇の幻獣――
詠唱を終えた直後、僕の頭上から巨大な一角獣の幻獣――ヘリクスが姿を現した。
これは僕がマグに命じて変身させた姿だ。マグにはエサを与える事で攻撃支援、防御支援、回復支援が決まる。個人的に打撃武器用のエサばかり与えたので、結果として僕のマグは戦闘支援型となっている。
よって打撃依存の戦闘支援型になった事で、僕のマグが使うフォトンブラストの姿が一角獣の幻獣――ヘリクスとなった訳だ。因みに詠唱に関しては、キョクヤ義兄さんが考案してくれた。こういった召喚魔法みたいな詠唱を以前から考えていたみたいだ。
ヘリクスの出現により、誰もが目を奪われるように動きが止まっていた。だけど僕は気にせず、城門に向かって告げる。
「蹂躙せよ! ヘリクス・ブロイ!」
『オォォオオオオオオオオ!!』
僕が技名を告げた途端にヘリクスは雄叫びをあげ、フォトンを纏った大きな角を城門に向けながら突進していく。
「く、来るなぁぁぁああああ!!!」
荒々しい蹄の音と、脱兎の如く駆け出すヘリクスの速度に団員が叫ぶ。しかし、そんな叫びを無視しているヘリクスが城門に激突するが、何の障害とも思わないように吹っ飛ばした。
一度足を止めるヘリクスだが、今度は城内の奥へともう一度突進する。
『うわぁぁぁああ~~~!!!!』
『何だこのモンスターはぁぁぁぁぁぁ!!!???』
城内にいる団員達の叫び声が聞こえる。まさか僕が召喚したなんて夢にも思ってないだろう。
☆
『ええええええええええええぇぇぇぇぇぇ!!!!????』
『こ、これは何と言うことだぁぁぁ~~~!? 【ヘスティア・ファミリア】団長のベル・クラネルが、まさかの短期決戦かと思いきや! 何と詠唱もせずに爆発魔法を使ったぁぁ! 更には巨大な魔法陣を展開させ、見た事もないモンスターらしきものを出現後に城門へ突撃させたぞぉぉぉ!!!』
既にオラリオでは興奮と驚愕、目が飛び出るほどの大絶叫を上げている。
宙に浮いている『鏡』には、ベルが大鎌を突如出現させ、それを敵に向けた途端に爆発魔法が発動し、多くの弓兵達を続々と倒していく。それだけでも多くの観衆は充分に驚いていた。
しかし、それを遥かに上回るように、ベルが新たな魔法を使ったかと思いきや、魔導士達の誰もが知らない召喚魔法を使った。ユニコーンとは似て非なるモンスターが出てきたかと思いきや、ベルの指示に従うように突撃して城門を軽く突破していく。更には荒らすように走り回ってる事で、城内にいる多くの上級冒険者達を大混乱に陥らせている。
最早『鏡』を見ている観衆達は、完全にベルを注目しているのは言うまでもない。
『ガネーシャ様、ベル・クラネルが放った魔法は一体何だったんでしょう!?』
『あれは――まさかガネーシャか!?』
『解説する気がないんなら帰ってくれませんかねぇガネーシャ様!! こっちはただでさえ、俺のお株である炎魔法を奪われそうなんですから!!』
ギルド前にいる実況と解説もハイテンションになっており、拡声された声が都市に響き渡っている。
誰もが大絶叫を上げている観衆の中で――
「どういう事だ!? 何故ベル・クラネルは詠唱もせずに魔法を使った!? あれ程の威力を出すには相応の詠唱が必要な筈だ! なのに何故発動させる事が出来る!? いや、それだけじゃない! ユニコーンと思わしき魔法生物を召喚させる魔法など、私は見た事も聞いた事もないぞ!! フィン! ベル・クラネルがあのような魔法を使えるなんて、私は一切聞いてないぞ!」
「落ち着くんだ、リヴェリア。僕も今知ったところだよ」
ベルの非常識極まりない魔法を見たリヴェリアは完全に崩壊した。言うまでもなく彼女の魔法に関する常識を。発狂寸前になりながらも、フィンに問い詰めようとしていた。
リヴェリアの変貌振りにフィンだけでなく、他の幹部達も信じられないように見ている。だが、同時に納得もしていた。魔法の知識が豊富なリヴェリアが、ベルの召喚魔法を見てああなるのは無理もないと。
「すっごぉぉぉい! アルゴノゥト君、あんな魔法使えるんだぁ!」
ティオナは気にしてないのか、魔法で敵を倒すベルの雄姿を見て更に興奮していた。
そんな中、『鏡』に映し出されているベルは、助っ人のリューを連れて堂々と城内へ侵入していく。ヘリクスが吹っ飛ばした城門を通って。
先ずはベルが先制攻撃を仕掛けました。それによってリヴェリアが発狂しかけてますが。
次回もベル無双が続きますので。