ベルがアークスなのは間違っているだろうか   作:さすらいの旅人

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番外編 戦争遊戯⑩

「ふざけるなぁぁあああああああああ~~~~!!」

 

 ロキ・ファミリアの本拠地(ホーム)――『黄昏の館』の一室で怒号が響き渡った。その発生源はリヴェリアで、この場にいる誰もが彼女の怒号に目を見開く。

 

「あんな短い詠唱であれほどの威力は釣り合っていないだろう! それにあの魔法を撃つまでの間、見た事のない魔法を他にも使っていた筈だ! なのに何故未だに精神(マインド)疲弊(ダウン)が起きていない!? もう倒れてもおかしくないと言うのに、どうして今もあんなに涼しい顔をしている!? 一体どうやって急速に魔力を回復させているんだ!? もう理不尽にも程があるだろう! これ以上は私の頭がおかしくなる!!」

 

「り、リヴェリア様、落ち着いて、どうか落ち着いて下さいぃ! 皆が引いてますからぁぁ~~!」

 

 椅子から立ち上がって頭を抱えながら叫んでいるリヴェリアに、弟子のレフィーヤが必死に宥めていた。ベルが余りにも非常識極まりない魔法ばかり使っている事によって、今のリヴェリアは幹部を除く団員達にとても見せられない状態となっていた。

 

 因みにこの場にいるフィン達は、見なかった事にしようと敢えてスルーしている。誰もがリヴェリアの心情を察しているから。普段から反抗的な態度を取っているベートですらもだ。

 

「アルゴノゥト君の魔法も凄いけど、さっき使ってた魔剣も凄かったよね~! 一瞬で弓部隊と魔導士達を倒してたし!」

 

「うん。あんな強力な魔剣、私は見た事ない」

 

 絶叫しているリヴェリアを気にしてないのか、ティオナは相変わらずベルの活躍を見て喜んでいる。まるで自分の事のように。それだけベルに惚れている、と言う証拠なのかもしれないが。

 

 アイズもベルの活躍を見て何度も何度も驚きながらも、見た事のない武器を凝視していた。ベルが使っていた長銃(アサルトライフル)を。

 

「そう言えば団長、ベル・クラネルが使っていた魔剣って……」

 

「ンー……確かにティオネの言う通り、アレは間違いなく彼がゴライアス戦の時に使っていた物と同じだね」

 

 ふと疑問を抱いたティオネが尋ねると、フィンも同様の事を考えていた。

 

 ベルが階層主(ゴライアス)の足を抉る様に撃ち続けていた魔剣と、今回の戦争遊戯(ウォーゲーム)で使った魔剣は同じ物だった。フィンの目で見ても、正しく同一の武器だと判断している。

 

「ゴライアスの時にも数え切れないほど撃っていたから、もうあの魔剣は使えないだろうと僕は判断した。だけど、彼は今回もあの魔剣を使っていた。本来の魔剣だったら既に砕け散っている筈なのに、彼の使っている魔剣はそんな状態に一切なっていない。そう考えると、もしかして……」

 

「もしかして、何ですか?」

 

 急に無言になったフィンにティオネが尋ねるも――

 

「……いや、気にしないでくれ。これは僕の勝手な想像に過ぎないから」

 

 彼はすぐに何でもないと返答した。

 

 その想像とは、あの魔剣はもしや回数制限なんか一切無い強力な武器なのではないかと。だが、フィンは即座に却下した。この世界、益してや最高峰の武器が揃っている迷宮都市(オラリオ)でさえ、そんな都合の良い魔剣なんか存在しないと。強力な魔剣を作れるクロッゾ家でも無理な筈だと。

 

 フィンの想像は半分間違いで半分正解だった。ベルが持っているのは魔剣ではなく、スカルソーサラーと呼ばれる長銃(アサルトライフル)であり、この世界で作られていないオラクル製の武器。その武器には回数制限などなく、対象者の体内フォトンがある限り無限に撃ち続ける物でもある。それをフィンが、いや、この世界の冒険者や鍛冶師が知ればどんな反応を起こすかは言うまでもないだろう。

 

 

 

 

 

 

「何だあの魔法はあああああああああああああーーーーーーーッ!?」

 

 場所はバベル。此処もこれまで何度も絶叫に包まれた。

 

「あんなに短い詠唱であれ程の威力とかー!!」

 

「一体どれだけの魔法を持っているんだよ!? もう三種類以上の魔法使ってるじゃないか!?」

 

「あのヒューマン超欲しいいいいいいいいいいいいいいいいいいっ!?」

 

「ねぇヘスティアぁぁぁぁぁ! あの子を私に頂戴いいいいいいいいいいいいっ!!」

 

 広間の中で湧きに沸く全ての神々が思った事を叫ぶ。

 

 ベルが使った長銃(アサルトライフル)以外にも、短い詠唱で放たれた大砲撃に、驚愕と歓声が入り乱れていた。

 

 そんな神々の反応とは別に、アポロンは既に開いた口が塞がらない状態だった。どうして、何故こんな事になっているのだと。

 

「誰がやるかぁ! ベル君はボクのだぁぁぁぁ!!」

 

 ヘスティアはベルの活躍に目を見開きながら『鏡』にかじり付いている中、他の女神からの発言を即座に却下と言い返していた。

 

「一体何やねん!? 見た事ない魔法使うわ、アイズたんに劣るけど剣の腕は立つわ、見た事のない魔剣を使うわで、もう反則(チート)にも程があるやろうが~~~!? あ~~~、マジでドチビんとこには勿体ない眷族(こども)やないか~~~!!」

 

「まさかヘスティアの眷族(こども)に、あれ程の実力があったなんてね」

 

 本気で嘆いているロキとは別に、ヘファイストスはベルの実力に心底驚いていた。どうしてあんなに強い子が、ヘスティアの眷族になったのかと疑問を抱くほどに。

 

 そんな中、『鏡』に投影されている光景では、崩壊した塔の瓦礫の中から現れるヒュアキントスの姿があった。

 

 

 

「はぁーっ、はぁー……くそっ!」

 

 瓦礫を払いのけたヒュアキントスは怒りと困惑に満ちている。

 

 窓の外を見た途端、太陽らしき巨大な炎の塊が落下して激突した。その瞬間に大爆発が起きた事により、玉座の塔にある上半分が消失していた。【アポロン・ファミリア】の象徴とも言える太陽が突然降りかかった事により、ヒュアキントスの心情はかなり乱れていた。

 

「なぜ、なぜ太陽が落ちてきたのだッ!? 何故だッ!?」

 

 マントの裾がボロボロになり、汚れた髪を振り乱しながら喚くヒュアキントス。

 

 本来であれば既に重症となっておかしくないのだが、カサンドラの機転によって救われた。咄嗟に体当たりをされて、窓を割って宙に放り出された為に。

 

 覆われていた煙が晴れると、瓦礫に埋もれた片腕や上半身があり、それを見たヒュアキントスは喚くのを止めて凍り付いた。自分以外が全滅していると。

 

 すると、背後からふと気配を感じた。まるで亡霊みたいに近寄ってくる不気味な気配が。

 

 ヒュアキントスは咄嗟に携えている波状剣(フランベルジュ)を抜いて、後ろを振り向きながら構えた。その直後、誰かが自分に向けて剣を振り下ろそうとしている。

 

「き、貴様は……!」

 

「っ!?」

 

 攻撃を防いだヒュアキントスは敵の顔を見た途端に驚愕した。その相手は奇妙な衣装を纏った白髪の新人冒険者――ベル・クラネルだったから。

 

 ベルもベルで、背後からの奇襲を防がれた事に驚いていた。誰にも気付かれないよう気配を消していた筈なのに、と。

 

 奇襲に失敗したベルは即座に離れようと、ヒュアキントスから一旦距離を取る為に下がった。一定の距離を取り、ベルとヒュアキントスは面と向かい合って対峙する。

 

「残念です、さっきの奇襲で終わらせるつもりだったんですが」

 

「ベル・クラネル、奇襲とはふざけた真似を……!」

 

 非常に残念そうに呟くベルに、ヒュアキントスは怒りに満ちた表情をする。両者の反応は正に対照的だ。

 

 加えて、今のヒュアキントスは怒りと同時に屈辱もあった。団員がたった一人しかいない零細ファミリア如きによって、これ程までの泥を塗られている事に。彼自身のプライドも殆ど打ち砕かれている。今あるのは、ベル・クラネルに対する憎悪と、辛酸を嘗めさせられている恥辱の極みであった。

 

 対し、ベルは冷静でありながらも疑問を抱いている。イル・フォイエによる爆発を受けた筈なのに、どうして彼だけが殆ど無傷に近い状態なのかと。

 

「それにしても驚きました。僕はあの魔法で倒せたと思っていたんですが……それとは裏腹に、貴方だけが無事だったのは完全に予想外でした。流石は僕より格上の『Lv.3』と言うべきでしょうか」

 

「っ!」

 

 本心で称賛しているベルだが、ヒュアキントスにしてみれば皮肉にしか聞こえない。それによってヒュアキントスの怒りが更に募っていく。

 

 同時に彼は気付いた。ベルの台詞に『あの魔法で倒せた』と聞いた瞬間に。

 

「まさか先程、我々を襲った太陽は貴様の仕業なのか!?」

 

「アレを太陽と呼ぶのは流石に無理はありますが……」

 

 ベルとしてはイル・フォイエを闇の獄炎としてのイメージで撃ったから、太陽と呼ばれるのには些か抵抗があった。もしこの場に義兄のキョクヤがいたら、『あれは闇を照らす獄炎だ!』と真っ先に否定するだろうと思いながら。

 

「取り敢えず、さっきのアレは僕がやったと言っておきましょう。僕の助っ人は、今も残った敵の対処をしてる最中ですから」

 

「……そう、か。あの太陽は、やはり……」

 

「?」

 

 ベルの返答を聞いたヒュアキントスがさっきと打って変わるように、急に落ち着いた声で言う。その事にベルが思わず訝る表情をする。

 

「ゆ、許さん、貴様だけは、絶対に………許さんぞぉぉおおおお!!」

 

「やはりそう来ますか」

 

 その直後、ヒュアキントスは急に憎悪を込めた目で睨みながら叫ぶ。聞いたベルとしても、彼の怒りは至極当然かと思いながらも武器を構える。あんな奇襲をされて仲間がやられたとなれば、怒らない筈が無いと。

 

 だが――

 

「【アポロン・ファミリア】は太陽を象徴し、私には【太陽の光寵童(ポエブス・アポロ)】の二つ名を与えられている! なのに、よりにもよって……この私に向けて太陽を落とすとは万死に値する!!」

 

「………はい?」

 

 怒りの内容がズレている事にベルは思わず首を傾げてしまった。

 

「私だけでなく主神(アポロン)様をも侮辱する貴様の所業、最早生かしてはおけん! この場で殺してくれる!!」

 

「ちょ、ちょっと待って下さい、ヒュアキントスさん。なんか怒りの矛先が、変な方向に向いているんですけど?」

 

 思わず宥めようとするベルだが、怒りに身を任せて襲い掛かる彼にはそんなの知った事ではなかった。

 

 

 

 

 

 

 イル・フォイエで玉座の間を破壊した僕は、崩壊した塔へと向かった。リューさんには相手をしている短髪の女性以外に、爆発を聞きつけた残りの敵を任せようと頼んでいる。勿論、それは了承済みだ。

 

 崩壊した塔の上半分が無くなっている状態だったので、態々塔の中に入る必要は無かった。ついさっきやった跳躍(ジャンプ)をすれば、一気に近道(ショートカット)する事が出来るから。

 

 跳躍(ジャンプ)して塔の最上階に着くと、中は完全に瓦礫の山状態だった。向こうがまさか僕が玉座の間に来る前に、魔法による奇襲を仕掛けるだなんて微塵も考えなかっただろう。そうでなければ、今頃は瓦礫の下敷きにはなっていない筈だ。僕が見るだけで、玉座の間にいたと思われる何人かの団員が倒れている。

 

 敵大将であるヒュアキントスさんも彼等と同じ状態になっている筈だと思いきや――

 

 

「なぜ、なぜ太陽が落ちてきたのだッ!? 何故だッ!?」

 

 

 と、少し離れた場所から大声が聞こえた。

 

 その方へ視線を向けると、煙が晴れた先にはヒュアキントスさんらしき人物を発見する。彼と直接会った事はないけど、戦争遊戯(ウォーゲーム)をやる前に、ギルドのエイナさん経由で資料を見せてもらった。と言っても、公然となっている資料だけど。その時に似顔絵も見せてもらった。ヒュアキントスさんの似顔絵を。

 

 だから目の前にいる人物と、似顔絵を見た人物と僕は一致した。彼が敵大将であるヒュアキントスさんで間違いないと。

 

 確認した僕は速攻で決着を付ける為、気配を消して背後から奇襲を仕掛ける事にした。だけど、それは失敗に終わってしまう。僕の奇襲にヒュアキントスさんが見事に防いだから。

 

 奇襲が無理なら真っ向勝負で挑むしかないかと思い、距離を取って対峙したまでは良かった。その後に――

 

「殺す! 貴様は絶対に殺す! 私に太陽を落とした貴様だけは何としても殺す!」

 

「だから怒りの矛先が違いますから!」

 

 ヒュアキントスさんの怒りの猛攻に、僕は抜剣(カタナ)で応戦していた。変な方向に向かって怒っているヒュアキントスさんの行動に呆れながら。

 

 しかしこの人、本当に『Lv.3』なんだろうか。確かに攻撃の重さや速度もあるから、相当強いのは分かる。だけど……余りにも技量がいまいちだった。恐らく怒りによって我を忘れているんだろうが。

 

 僕は神様から【神の恩恵(ファルナ)】を与えられ、眷族になってまだ日が浅い。それに対し、【アポロン・ファミリア】の冒険者達は熟練の集団で、【神の恩恵(ファルナ)】によって僕よりかなり強い筈……だった。

 

 今回の戦争遊戯(ウォーゲーム)で【アポロン・ファミリア】の冒険者達と戦って分かった事がある。前衛の相手が殆ど力任せな攻撃がメインだった。

 

 最初は僕を雑魚の『Lv.1』だから、油断しているんじゃないかと思っていた。僕が城内で剣技を披露して、向こうがやっと本気を出してくれるかと思いきや、思っていた以上に呆気無かった。これが本当に僕より強い上級冒険者なのかと疑問を抱いたほどだ。

 

 だけど最後まで油断はせず、『Lv.3』のヒュアキントスさんと剣で真っ向勝負してるんだけど……さっきも言ったように、技量が本当にいまいちだ。

 

 これは僕の推測に過ぎないけど、この世界の冒険者って【神の恩恵(ファルナ)】に頼り過ぎているんじゃないかと思う。いくら【ステイタス】更新で強くなったとはいえ、それに見合うほどの技量が無ければ宝の持ち腐れじゃないかと。

 

 嘗て僕がアークス時代で修行していた頃――

 

『ベル、お前はフォトンの力に頼り過ぎている節がある。その所為でお前の抱えている闇が脆弱になるのだ。己に見合う技量がなければ、《亡霊》になるなど笑止千万。もう一度、自分と向き合う為に一から鍛え直せ』

 

 キョクヤ義兄さんからもこう指摘された。だから僕はファントムクラスになる前、一度自分を見つめ直して徹底的に鍛え直して今に至る。

 

 それを考えると、この世界にいる冒険者の大半は技量不足が目立っているんじゃないだろうか。ロキ・ファミリアみたいな高レベル冒険者の人達も含めて。

 

 となれば、怒りに身を任せているヒュアキントスさんも同類かな。さっきから力任せの攻撃しかやってないし。

 

 しかし、だからと言って油断するつもりは微塵もない。僕は全力で戦争遊戯(ウォーゲーム)に挑むと決めている。途中で勝負を放り出す事をすれば、相手に対する侮辱も同然だ。

 

 故に僕は――

 

「貫け、闇の牙! ローゼシュヴェルト!」

 

「ぐぅっ!!」

 

 距離を取って強力な突き攻撃を行う抜剣(カタナ)ファントム用フォトンアーツ――ローゼシュヴェルトを使った。

 

 僕の技にヒュアキントスさんが辛うじて長剣で受け止めた直後、パキィンと折れた音が聞こえた。それは言うまでもなく、相手の長剣が両断された音だ。

 

「ば、馬鹿な!?」

 

 自分の剣が折れた事が信じられないのか、ヒュアキントスさんは驚愕の表情をしながら僕から距離を取る。

 

「――何者だっ、お前はっ!? 『Lv.1』ではないのか!? 『Lv.3』の私より弱い筈なのに!?」

 

「……僕は正真正銘『Lv.1』で、“白き狼”ベル・クラネルです。こちらも念の為に訊いておきますが、降参しませんか?」

 

「この私に降参、だとッ!?」

 

 プライドが高いと思われるヒュアキントスさんにとって挑発だと分かりつつも、僕は一応降参を勧める事にした。

 

 言っておくけど、コレは本当に彼を思っての事だ。さっきまで多くの敵と戦っていたけど、僕にはまだまだ余力がある。

 

 このまま抜剣(カタナ)のフォトンアーツを使えば倒せるし、長杖(ロッド)でフォトンアーツやテクニックでも倒せる。更には長銃(アサルトライフル)で一定の距離を取りながら連射するだけで終わらせる事も出来る。

 

 それに対してヒュアキントスさんは折れた長剣以外に、腰に携えているもう一つの短剣がある。魔法を持っているのかは分からないけど、攻撃手段が限られている彼では僕を倒しきれない。仮に仕留めようとしても、僕はすぐに距離を取ってレスタで回復させる事が出来る。

 

 だからこの状況であの人が僕を倒す確率は余りにも低い。それを踏まえたが故に、僕は降参を勧めた。

 

「『Lv.1』風情が、この私に降参を勧めるなど………ふざけるなぁぁあああ~~~!!!」

 

 最初から降参する気が無いヒュアキントスさんは、短剣を持って再び僕に襲い掛かる……と思いきや、急に全力の跳躍で矢のように後方へ下がった。

 

「――【我が名は愛、光の寵児。我が太陽にこの身を捧ぐ】!」

 

 どうやらここで魔法を使うようだ。てっきり激昂して襲い掛かって来るかと思ったけど、意外と冷静だった。

 

 あんなに大きく離れたのは、詠唱をする為なのは間違いない。それと同時に、あれだけ離れても僕に当てれる魔法だと言う事だ。

 

「【我が名は罪、風の悋気。一陣の突風をこの身に呼ぶ】!」

 

 距離を取って、長そうな詠唱をすると言う事は、それだけ僕を倒せる自信がある魔法なのだろう。

 

「【放つ火輪の一投――】!」

 

 紡がれる詠唱に僕は抜剣(カタナ)から長杖(ロッド)――カラミティソウルへと切り替える事にした。

 

 僕が武器を変えた事にヒュアキントスさんが驚いた顔をするが、それでも気にせず詠唱を続けようとする。

 

 だけど――

 

「芽吹け、氷獄の(たね)!」

 

「っ!?」

 

 遠く離れたところで、僕が使うテクニックの射程距離内だった。

 

 イル・バータの詠唱を開始した直後、ヒュアキントスさんが掲げてる右腕が凍る。

 

「凍れる魂を持ちたる氷王よ! 汝の蒼き力を以って魅せるがいい! 我等の行く手を阻む愚かな存在に! 我と汝が力を以って示そう! そして咲き乱れよ、美しきも儚き氷獄の華!」

 

「~~~~~~~~~~~~~~~っ!?」

 

 僕が一文ごとに詠唱を区切っている中、ヒュアキントスさんの身体の一部分がどんどん凍っていく。左腕、右足、左足、腰部、胸部と順番ずつに。

 

 予想外の攻撃を喰らっている事によって混乱している様子だった。詠唱をやろうとしても、何故自分の身体が凍っていくのかと疑問を抱いているから。

 

 最後に残った頭を狙おうとすると――

 

「やぁー!?」

 

「ん?」

 

 突然、瓦礫の中から這い出た長髪の少女が僕に向かって奇襲を仕掛けた。

 

 どうやらあの人もヒュアキントスさんと同様に無事だったようだ。思わぬ真横からの渾身の体当たりをしてくるけど、僕は慌てる事無くファントム回避で一旦姿を消し――

 

「あ、あれ? 消え……?」

 

「残念。奇襲をかけるなら、声を出さずにやるべきですよっと」

 

「あうっ!」

 

 戸惑う長髪の少女の背後に現れて、アドバイスをしながら首筋に手刀で当てて気絶させた。流石にカラミティソウルで攻撃するのは気の毒だと思って。

 

「くそっ、どこまでも役立たずな女だ!」

 

 この状況で仲間――しかも女の子に対して口汚い罵倒をするヒュアキントスさんに少しムッと僕は、容赦なく決める事にした。

 

「イル・バータ!」

 

 彼の頭目掛けて七発目のイル・バータを発動した瞬間、氷の華に包まれた彼の氷像が出来上がった。

 

 本当だったら、以前戦った植物モンスターみたく真っ二つにしたいところだ。しかし、敵とは言え僕と同じ人間相手にそれは不味いので、これ以上の攻撃はやらないでおく事にした。

 

「ああ……やっぱり、団長様が、氷の檻に囚われてしまった……!」

 

 僕の手刀で気絶しなかった長髪の少女が、ヒュアキントスさんの氷像を見て奇妙な事を言っていた。まるで、こうなる事を分かっていたように。

 

 思わず何で分かったのかと聞いてみたかったけど、取り敢えずこれで幕を下ろすとしよう。

 

「ヒュアキントスさん、貴方の敗因は僕と出逢った事です。呪うなら、己の運命を呪って下さい」

 

 どうやら僕の発言により、【ヘスティア・ファミリア】の勝利が決定したようだ。

 

 後でアンティを使って、氷漬けとなってるヒュアキントスさんを治療しておかないと。




やっと決着がつきました。呆気ない終わり方かもしれませんが、どうかご容赦ください。

あと、次で最終話となる予定です。

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