ベルがアークスなのは間違っているだろうか 作:さすらいの旅人
あと今回は最終話と言いましたが、ゴメンなさい嘘です。
ベルの勝利が決定した事により、オラリオでは大歓声が打ち上がった。『鏡』に映っているベルを見た多くの観衆が興奮の叫びを飛ばしている。
「凄いよエイナ! あの子、本当に勝っちゃったよ!?」
「ベル君……!」
ギルド本部前庭で、ずっと見守っていたエイナが同僚のミィシャに横から抱き着かれていた。
エイナはベルに大して手助けを出来なかった事で非常に申し訳ない気持ちだったが、ベルの勝利を見て立場を忘れて大いに喜んでいる。周囲のギルド職員達の中、主に上層部は少々複雑そうな顔をしていた。『Lv.1』でありながら、あれ程の強者を冷たくあしらってしまった事に。
『戦闘終了~~~~~~~~ッ!? 助っ人がいながらも、殆どたった一人で終わらせました~~~~ッ!! 正にっ、正に
ステージでは、実況者イブリが最高潮となっている興奮を振り切る様に拡声器へ叫び散らす。
『『『ヨッシャァァアーーーーーーーーッッ!!』』』
酒場では、ヘスティアに賭けていた少数の神々が勢いよく立ち上がって勝利の大歓声を上げる。
『『『『うそだぁあああああああああああああああああああああっ!?』』』』
そして、殆どアポロン達に賭けていた冒険者達は絶望の悲鳴をあげていた。
「うおおおおぉぉーーー! ま、マジで勝っちゃったッス~~~~!!!」
その中には例外の冒険者がいた。ヘスティアに賭けていた『
最初は笑い者にされる為の指示を出された事にロキを恨んでいたが、今はもう感謝しまくっていた。超が付くほどの大穴である【ヘスティア・ファミリア】が勝利して、一人勝ちして大量の配当金を得る事が出来たから。
「くそぅっ! とっとと持っていきやがれ、『
「その呼び方は全然嬉しくないっす!」
ヤケクソで叫ぶ客にラウルが叫ぶも、向こうは全く聞いていなかった。それでも嬉しそうな顔をしながらお金を受け取っているが。
冒険者達が殆どアポロンに賭けていたので、ラウルが受け取った配当金は予想以上だった。並みの冒険者が単身ダンジョンで稼いだ額より遥かに上だから。
(あっ、もしかしてロキはこうなる事を予想して、自分達を酒場に行かせたんじゃ……)
配当金を受け取っている時にラウルは、ロキの思惑に気付いた。自分を含めた各団員達に酒場で大穴狙いの賭けをさせ、多くの配当金を独占しようと。恐らく他の酒場でも、ロキ・ファミリアの団員達が一人勝ちしまくっているだろう。
更に、今回得た配当金を他の酒場も含めて合計すれば……数千万ヴァリス以上は確実だ。予想外な臨時収入にも程がある金額だった。
(全てはロキの思惑通りの展開だったんすね)
ラウルはロキに感謝しながらも少し恐ろしいと内心思ってると、自分以外にも配当金を貰っている女性を見た。
「あれ? ひょっとして貴女も自分と同じく勝ったんすか?」
酒場が阿鼻叫喚に包まれてる中、自分と同じく配当金を受け取っている少女に声を掛ける。
彼が尋ねると、尻尾をブンブンと振る
「ベルさん……良かった」
西の大通りにある『豊穣の女主人』にて、シルは喜びのほほえみを浮かべている。
自分の想い人があそこまで強い事に驚いていたが、それによっていっそう惚れ直した。敵を倒して決まった台詞を言うベルの凛々しい表情を見て猶更に。
同時にリューにも感謝した。自分の我儘で
「ふふ……ベルさんが戻ってきたら、お弁当を用意しないと♪」
そう思いながら、彼女は賭けに負けて自棄酒に走り始める冒険者の対応をしようと、ぱたぱたと弾むように店内を駆け回った。
「わ~~~い! アルゴノゥト君が勝った~~~~~!!」
「……ちっ。あれ位で喜んでんじゃねぇ」
忌々しそうに舌打ちをするベート。彼としてはベルが勝つのは当然だと思っていた。曲がりなりにも自分に勝ったんだから、たかが『Lv.3』で粋がっている雑魚程度に負ける筈がないと。
ベルの勝利を確認すると、今度は背を向けて歩き出そうとする。
「どこに行く気じゃ、ベート?」
「どこだっていいだろ」
ガレスの問いにまともに取り合わずに姿を消すベート。
「間違いなくダンジョンじゃのう。以前の荒れた時と様子が全く違っておる」
「だね。それに加えて、完全にベル・クラネルを
ガレスとフィンが苦笑を浮かべながらも、ベートがベルに対する認識を改めたと気付く。
そんな二人の会話を余所に、ティオナはある事を言おうとする。
「アルゴノゥト君がオラリオに戻ってきたらお祝いしなきゃ! この前約束したしね!」
「いつそんな約束したのよ?」
「えへへ~、この前アルゴノゥト君の仮
確かにティオナは約束した。その時にベルは苦笑しながらありがとうございますと言ったが、主神のヘスティアは即座に拒否した。『勝手にそんな事を決めるなぁ~!』と敵意を丸出しにしながら。
しかし、ヘスティアの拒否を押し切る事に成功する。お祝い場所は『豊穣の女主人』で、費用は自分が払うと言ったので。タダ飲みとタダ飯が出来る事に、貧乏生活を送っているヘスティアとしては嬉しい事だったので、仕方なくお祝いを許可する事にしたのである。
「さ~てと、今からお店に行って三人分の席を予約してこよ~っと」
「……ティオナ、そのお祝いは私も参加する」
「あ、アイズさん!?」
ベルと接触出来る機会を逃さまいと、アイズが進んでお祝いに参加しようとする。言うまでもなく、ベルの強さを知る他に、あわよくば手合わせの約束もしようと。
積極的に参加しようとするアイズにレフィーヤが驚くのは、ある意味当然だろう。
「アイズも? 良いよ~。じゃあ四人分で――」
「待て、ティオナ。そのお祝いには私も参加させてくれ。あと費用は全て私が支払う」
「ちょ、リヴェリア様! 本気で参加する気ですか!?」
アイズだけでなく、何とリヴェリアも加わろうとした。突然の事にレフィーヤが再び驚いている。
彼女は遠征帰りの宴や極稀にファミリアの付き合いで飲みに行くが、余所のファミリアのお祝いに自ら参加する事はしない。それも主神と
この場にいるフィン達は既に察している。リヴェリアが自分から行こうとする理由は、アイズと同じくベルと接触する為であり、
リヴェリアとしても、ベルと接触する機会を絶対逃したくないので、自ら参加すると言い出したのだ。
場所は変わって神々が集うバベル。
「そ、そんな……!」
そんな中でアポロンだけが顔を青褪めるどころか、真っ白となって立ち尽くしていた。
新人冒険者である筈のベルが、単身で己の子供達を殆ど倒した。頼みの綱であったヒュアキントスでさえ、ベルに敗北してしまった。そんな結果に、彼は必死に現実から逃避したい気持ちでいっぱいだった。こんな筈では無かったと。
そして――
「ア~ポ~ロ~ンッ」
ゆらりと立ち上がる女神ヘスティアが、ゆっくりとアポロンの方へと視線を向ける。
「覚悟は出来てるだろうなぁ?」
ギラリと目を光らせるヘスティアに、アポロンはたじろぐ。
今の彼女はアポロンを絶対に許しはしないどころか、一切の慈悲なんて与えるつもりも毛頭無い。
ベルを寄越せと言ったり、
散々身勝手極まりない事をしてきたアポロンに、ヘスティアの怒りは爆発寸前だ。
「ま、待ってくれ! ただの出来心だったんだっ! 君の子供が可愛かったからつい……!」
「だ・ま・れ」
言い訳なんか聞きたくないと、怒髪天を衝いているヘスティア。その証拠に、彼女のツインテールがヒュンヒュンっと揺らしている。
「負けたら要求は何でも呑むと約束したなぁ?」
「あぁぁぁぁ……」
臨時
アポロン本人としては敗北するなど微塵も思っていなかったので、あくまで演出のつもりで言ったに過ぎない。だが、現実は違う。本当に敗北してしまったのだから。
勝者のヘスティアと敗者のアポロン。例えるなら、
その光景を見ている神々は、心底面白そうにニヤニヤと笑みを浮かべながら見ていた。
(ウヒヒヒヒ、あんがとなぁ~アポロン。ガッポリ稼がせてもろうたで~♪)
(同情なんか一切しないわ。諦めてヘスティアからの罰を甘んじて受け入れる事ね)
ベルの勝利を最初から分かっていたロキは、道化を演じてくれたアポロンに感謝していた。色々な酒場でやってる賭けで、殆ど一人勝ちして喜んでいる団員達を想像しながら。
ロキとは別に、ヘファイストスはアポロンを冷めた目で見ていた。神友の眷族を奪う為に散々追い詰めた結果、無様に負けてしまっている。こんな相手に同情をするのは無理な話だ。益してや、一応ヘスティアの為に用意した
そして、ヘスティアは瞳をカッと見開いて、怒りの咆哮を上げた。
「全財産は全て没収、【ファミリア】も解散! 君は永久追放! 二度とオラリオの地を踏むなぁーーーーーーーーッッ!!」
「ひぃぎやぁぁぁぁぁあああああああああああああああああっっ!?」
ヘスティアの容赦ない罰則に、全てを奪われる事となったアポロンは絶望の余りに泣き叫ぶのであった。
☆
「リューさん。今回は
戦いが終わった僕は、リューさんに頭を下げてお礼を言った。ウェイトレスである筈の彼女が無理して
「気にしないで下さい。私はシルに頼まれて来ただけに過ぎませんので。だからお礼はシルに言って下さい」
「それでも、リューさんにお礼を言いたいんです。僕みたく未熟な新人冒険者の為に――」
「クラネルさん。謙遜するのは結構ですが、それは嫌味に聞こえてしまいます。貴方みたいな途轍もない強さを持った人が未熟だと言ってしまえば、私や他の冒険者達がそれ以下になってしまう」
「あっ、ご、ごめんなさい!」
この世界で冒険者になったばかりなので相応の態度を取ったつもりが、却って失礼な事を言ってしまったようだ。なのでリューさんからの指摘に、僕は再び頭を下げて謝った。
「謝る必要はありません。私も私でクラネルさんに謝らなければなりませんから」
「え? 僕に?」
どうしてリューさんが謝るんだ? 何も失礼な事を言われてはいない筈なんだけど。
「私は最初、昨夜にクラネルさんから聞いた内容を疑っていました。ダンジョン中層に籠り、ゴライアスを倒せたのはロキ・ファミリアがいたからではないかと。ですが、今回の
「いやいやいや! リューさんの言った事は事実ですから!」
ベートさんに勝てたのも、新種の植物モンスターに勝てたのは本当に運が良かった。だからリューさんの言ってた事は間違っていない。それに僕がやった訓練内容を、リューさんが疑うのは無理もない事だと今更分かったし。
そんな中、僕はふと気付いた。リューさんの両腕や両脚に傷らしきものがあった事に。
「リューさん、その傷は?」
「ああ、これですか。場内でクラネルさんの盾役をやっていた時、複数の
リューさんの言葉に、僕は非常に申し訳ない気持ちとなってしまった。
「でしたら、僕が治します。傷を癒せ、レスタ!」
「これは……!」
僕が回復用のテクニックを使うと、僕とリューさんは光に包まれて治癒される。僕は別として、さっきまでリューさんの両腕と両脚にあった傷が瞬時に消えていく。
「クラネルさん、この程度の傷で態々治癒魔法を使わなくても……」
「そう言う訳にはいきませんよ。リューさんみたいな綺麗な人の身体に傷付いていたら、シルさんやミアさんに怒られてしまいますから」
「なっ……!」
すると、リューさんの顔が急に真っ赤になった。熟れたトマトみたいに。
「い、いきなり何を言い出すんですか!? そういう台詞は私にではなく、シルに言って下さい……!」
「え? 僕から見て、リューさんも凄く綺麗な女性ですよ。仕事中に見せる凛々しい顔をしている時は、思わず一目惚れしてしまいそうな程に」
「~~~~~~~~~!」
「って、リューさん。どうして後ろを向くんですか?」
「こ、こっちを見ないで下さい!」
真っ赤な顔が更に赤くなったリューさんは何故か後ろを向いてしまった。僕が回り込もうとしても、彼女は再度反対の方を向いてしまう。
と言うか、リューさんは一体どうしちゃったんだろう? 僕、何かおかしなことを言ったかな?
ちょっとしたやり取りの後、僕とリューさんは古城跡地を発った。もう此処にいる必要はないから。
(あ、そう言えば……)
移動している最中、僕は思い出した。首に回してある、シルさんから貰った
確かとある冒険者がシルさんに譲ったと言っていた。それが誰なのかは分からない。
どんな効果があるアイテムだったのかは分からないけれど、戻ったらシルさんに返すとしよう。それと同時に、お礼としてブレスレットを贈る事を考えながら。
次回で本当に最終話となります。