ベルがアークスなのは間違っているだろうか 作:さすらいの旅人
あと、今回もフライング投稿です。
「先程、ティオネから報告があった。メレンで身を隠していた【ヘスティア・ファミリア】が、漸くオラリオへ戻って来たらしい」
『!』
時間は真夜中。
【ロキ・ファミリア】の
遠征の準備中にガレスとリヴェリアはいきなりの召集に眉を顰めていたが、【ヘスティア・ファミリア】と聞いた瞬間に目を見開いている。特にリヴェリアが。
「漸くドチビ達が戻って来おったか。ホンマに待ちくたびれたで。普段からアホのくせに、こういう時には頭を働かせるとは思いもしなかったんやからな!」
フィン達の主神ロキはしかめっ面になりながらヘスティアに毒を吐いていた。普段からヘスティアを嫌っているロキだが、ここまで言うには理由がある。
その翌日、ベルがオラリオに戻ってヘスティアと合流したら、傘下に加える為の算段をする予定だった。しかし、ベルが戻ってこないどころか、ヘスティアすらも行方不明となっていた。
これには流石のロキも予想外だったようで、至急団員達に【ヘスティア・ファミリア】の捜索を命じる事となった。その中で躍起になっていたのが、ティオナとアイズ、そしてリヴェリアだ。
特にティオナは大好きなベルが戻ってこない事を心配し、全速力でオラリオ中を探し回っていた。仮の
それを聞いた彼女はすぐにロキに報告し、今度はオラリオを出てベル達を探しに行くと進言した。どこにいるのかも分からないのに探しに行くのは無理だと、ロキやフィンがすぐに却下したのは言うまでもない。
ベルとヘスティアがオラリオにいない事が判明したロキは捜索を打ち切り、彼等が戻って来るのを待つ事にした。その時には絶対ヘスティアに文句を言おうと決意をして。
数日後、ギルド職員のエイナ・チュールが
確認内容はベル・クラネルがダンジョン中層進出と、
当然、エイナは答えれないと拒否する。だがロキやフィンの巧みな話術の他、母親と付き合いのあるリヴェリアの前では形無しとなってしまった。特にリヴェリアからの懇願が一番に効いたようだ。結果として、条件付きで【ヘスティア・ファミリア】が港街メレンにいる事が判明。
所在を掴んだロキはすぐに数名の団員をメレンに向かわせようとするが、ここでエイナからの条件が発生した。適当な理由でメレンに赴き、ベル達と接触したら
結局、エイナの条件によってロキ達はメレンで【ヘスティア・ファミリア】と接触出来ず、戻って来るのを待つ事となった。それが今に至ると言う訳である。
「それでフィン、どうするつもりじゃ? あの小僧や神ヘスティアを此処へ呼び寄せるのか?」
「もしそうするなら、私がすぐに連れて来るが」
「とか言うて、ホンマは未知の魔法について問い質す気やろ?」
「………そんな事は無いぞ」
副団長のリヴェリアが自らベルに会いに行こうとする事に、ロキにはお見通しだった。未知の魔法について知ろうという魂胆を。
ロキからの問いにギクリとしたリヴェリアは、若干目を泳がせながら否定した。しかし、その行動によってフィン達が苦笑する。
「リヴェリア、君が他の誰よりも魔法の探求心が強いのは分かっている。だけど焦りは禁物だよ」
「全くじゃ。もしまたあの時みたいに暴走しおったら、他の団員や
「……分かっている」
フィンとガレスからの指摘に、苦い顔をしながらも自省するリヴェリア。彼女自身も思うところがあるのだろう。
それもその筈。リヴェリアは
「なら私が行くのは止めておこう」
「懸命な判断に感謝するよ」
行動を控えるリヴェリアに礼を言うフィン。副団長としての立場を自覚してくれたと彼は内心安堵する。
「さて、リヴェリアが自粛してくれたから話を戻そう。以前ロキが言ってた、【ヘスティア・ファミリア】を傘下に加えると言う話だけど……すぐに行動を移さない方が良いと僕は思っている」
「それはどう言うこっちゃ?
フィンが言うには何かある筈だと分かったロキは、すぐに却下しないで理由を尋ねる。元々言い出したのはフィンだったので、急に方針を変えてる事に疑問を抱いているから。
「正直に言わせてもらう。あの時の僕は焦っていた。女神フレイヤを含めた厄介な神々や他の【ファミリア】が、ベル・クラネルを本格的に狙う前に早急に手を打つ為に保護しようと。だけど、それは却って不都合になると思ってきてね」
「不都合じゃと?」
鸚鵡返しをするガレスにフィンが頷く。
「ああ。ベル・クラネルが今どう思っているかは分からないけど、彼は冒険者になる前に色々な【ファミリア】の
『…………………』
フィンの説明に、ロキ達は反論出来ずに押し黙った。寧ろ、言われてみればそうだったと逆に納得している。
確かにフィンの言う通り、ベル・クラネルは【ロキ・ファミリア】に対しての評価が、門前払いされた他のファミリアと同じく低い状態だ。他にも宴会の時に酔っていたベートの暴言も含めて。しかし、彼が予想以上にとんでもない実力者だったと知って、すぐに考えを改めて保護しようと都合の良い事をすれば、間違いなく余計に悪化するだろう。門前払いされた他の【ファミリア】以上に。
ティオナがベルに好意を抱いて気兼ねなく接する事もあって、今のところは何とか関係を保っている。しかし、先程言った事をやれば、幹部のティオナからも大反感を喰らう事になってしまう。下手をすれば彼女が【ヘスティア・ファミリア】に
普通に考えてそれはあり得ないのだが、ティオナはアマゾネスだ。アマゾネスと言う種族は、自分がこれだと思った
ティオナの姉であるティオネが正にそれだった。フィンに対する熱烈なアプローチを【ロキ・ファミリア】全体に知れ渡っているから、『ティオネの前でフィンの恋愛話に関して極力話してはいけない』と言う暗黙のルールを決めている程に。フィン本人としては非常に頭を悩ませているが。
それ故に妹のティオナも今はティオネと近い状態だ。なので、もし自分達の所為でベルとの関係が拗れてしまえば……未練はあれど、間違いなくベルに付いて行こうとするだろう。フィン達からの猛反対を無理矢理押し切ってでも。
ティオナは【ロキ・ファミリア】の大事な団員であると同時に『Lv.5』の幹部。そんな彼女がいなくなってしまえば、【ロキ・ファミリア】の戦力流出どころか大打撃となってしまう。加えて今は遠征も控えている状態だ。大事な家族であると言うのが一番の理由だが、貴重な戦力を失わせる訳にはいかないと言うのも含まれている。
だからフィンは、ベルをすぐに保護しては不味いと考えを改めた。辛うじて繋ぎとめている関係を壊すのは早計どころか、自分達に大きな痛手を被ってしまうかもしれないと。
「すまんなぁ、それは完全に失念しとったわ。確かにフィンの言う通りや。せやけど、ウチ等がそれを踏まえて後手に回っとったら、他の連中に先を越されてしまうのは確かや。フィンでも、それくらいは分かってる筈やで?」
「勿論だ。先ず僕達がやる事は、ベル・クラネルおよび神ヘスティアと良好な関係を築く事だ」
「……あ~~、やっぱそうなるかぁ。ベルはともかく、あのドチビとマジで仲良うせなあかんとは……!」
「そこまでは言わないが、せめて必要最低限な連携をして欲しい」
ロキがヘスティアと不仲なのをフィンは前以て聞いていた。だけど急に仲良くなれと言うのは無理な話なのは重々承知している。よって、フィンはロキにある程度の妥協をするようにお願いする事にした。
「あと、他の団員達も彼の事をよく知っておく必要がある」
ベルの実力を認めているロキや一軍メンバーはともかく、二軍以下のメンバーはそうでもない。フィンが知っている中で、ベルを認めている者達もいれば、
フィンは彼等の態度を咎めようとはしない。団長として、様々な考えを持っている多くの団員達の心情を察しているから。彼等の考えを無視してまで、ベルと良好な関係を築こうとは思っていない。
「かと言って、彼等に気を回し過ぎて悠長な事をする訳にもいかない。先ずはラウル達との交流をメインにする」
「ラウル達をか? あの子達は今も遠征の準備で大忙しやぞ。そんな暇なんかどこにも……っ! おいフィン、まさか自分……」
「流石はロキだ。察しが早くて助かるよ」
ロキが今は無理だと言ってる最中に気付いた。二軍メンバーのラウル達と交流出来る手っ取り早い方法を。
二人のやり取りにリヴェリアとガレスも薄々と気付き始める。フィンの考えに。
「ベル・クラネルや神ヘスティアが、果たして承諾してくれるかどうかは賭けに等しい。けれど、向こうが乗ってくれれば、ラウル達も彼の必要性を理解出来るはずだ」
「本気なのか、フィン? いくら実力があるとはいえ、奴はまだ『Lv.2』になったばかりだぞ? 担当アドバイザーであるエイナとて、それは絶対に認めないと思う」
「そうじゃぞ。まだ新米同然である小僧に――我々の遠征に参加させようなどと、気が早過ぎにも程があるわい。ワシ等と一緒に最前線で戦わせるなど以ての外じゃ」
こればかりはリヴェリアとガレスが咎めた。ガレスの言う通り、ベルはオラリオに来たばかりの新米冒険者なので、いきなりロキ・ファミリアの遠征に参加させるなどとは無理な話だった。
二人からの反論にフィンは苦笑しながらも、すぐに弁明しようとする。
「早とちりしないでくれ。いくら僕でも、流石にそこまで求めてはいないから。さっき言っただろう? ラウル達との交流をメインにするって。僕が考えている内容はこうだ。『ベル・クラネルに後方支援を担当して貰う際、ラウル達との交流を図りたい』ってね」
「……それでも危険である事に変わりないんじゃが?」
やはり反対だとガレスは再度反論するも――
「そうかもしれないけど、彼は
「むぅ……」
「……短文詠唱のみで完全回復出来る治癒魔法に、毒などの異常を治せる治療魔法。……アミッド並みの
ベルを
「尤も、これはあくまでベル・クラネルが承諾してくれた場合の話だ。無論、相応の報酬は用意するつもりだけど、向こうが頑なに断ればそれまでの話となる。断られた場合は、ティオナを通じて出来るだけ良好な関係を築き上げていく」
ティオナを利用する事に心苦しく思うフィンだが、ベルとの僅かな繋がりを断ちたくない。だから敢えて自ら泥を被る事にした。例えそれが最善の方法だとしても。
それを理解しているロキ達は口に出さず、無言で頷いた。もしもの時は自分も何らかの責を負うと。
「と言う訳で、明日の昼頃には僕自ら【ヘスティア・ファミリア】と交渉しに行く。リヴェリアとガレスは引き続き、遠征の準備を頼む」
「ロキは連れて行かないのか?」
「それは交渉が成功した時だ。もし交渉前に連れて行けば、ロキと神ヘスティアが喧嘩する恐れがある。それは避けたいからね」
「ぐっ……! くそぅ、否定出来んわい」
リヴェリアからの問いにフィンが答えると、内容を聞いたロキは反論出来なかった。自分でも、最後までヘスティアと喧嘩せずに交渉出来る自信が無かったので。これが他の神なら、上手く相手を丸め込む事が出来るのだが、相手がヘスティアだと如何せん上手く行かない。自分より小さいのに、あのでかい胸を見た後に挑発されると殺意を抱いてしまうので。
「しかし、何故明日の昼頃なのじゃ? あと少しで遠征が始まるのじゃから、なるべく早めにした方が良いのではないか? 朝方でも適した時間があるじゃろうに」
「ああ、それは無理だと思うよ。向こうは明日の朝方、色々な意味で忙しいと思うから」
『?』
フィンの台詞にロキ達は首を傾げる。
ティオネからの報告に他の内容を聞いた。アイズがティオナやレフィーヤに知られないよう、こっそりとベルに約束らしき密談をしていたと。
翌日の早朝。
オラリオの市壁上部にて一組の男女が対峙している。
「えっと、アイズさん……。一応最後の確認ですが、本当に本気でやって良いんですか?」
男の方はベル・クラネル。彼は持っている
「…うん。本気を出す君と戦いたいから」
女の方はアイズ・ヴァレンシュタイン。彼女は愛剣《デスぺレート》を構え、全身から待ちきれないと言わんばかりの闘気を発している。
「…この時をずっと待っていた。もう、誰にも邪魔はさせない……!」
「……あ、アイズさんって、相当な
自分の一目惚れした相手が、とんでもない女性だったと気付くベル。
だが、ベルとしても願ってもない事だった。本気を出せた相手は、今のところゴライアスだけだ。
加えて彼女は先日『Lv.6』とランクアップして、更なる格上の強者となっている。嬉しい事この上ない展開でもあった。
そう思ったベルは、途端に目を瞑った。その数秒後には目を開けると、さっきまでと打って変わるように戦士の目となる。まるで嘗てアークス時代に強敵のダーカーと戦うような目だ。
「ならば、本気でやらせて頂きます。僕の闇の力、ご覧に入れましょう」
「…うん」
「“白き狼”ベル・クラネル。いざ参る!」
「アイズ・ヴァレンシュタイン。行く!」
ベルの名乗りに倣ってか、アイズも自ら名乗った。その直後に二人は突進する。
レベル差はあれど、二人の激闘が始まろうとしていた。
初っ端からフィン達の会議話がメインとなってしまいました。
流石にいきなりベルが遠征に参加させるのは無理だったので、諸事情の理由があって妨げられている内容にしました。
いくらベルが強くても、オラリオ基準では『Lv.2』の扱いなので。