ベルがアークスなのは間違っているだろうか   作:さすらいの旅人

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今回はちょっとした寄り道話で、いつもより短いです。


ロキ・ファミリアの遠征③

 アイズさんとの手合わせを終えた僕は、明日の約束をした後に彼女と別れた。デートじゃないけど、またあの人と手合わせ出来るのは嬉しい事この上ない。

 

 でも、大丈夫だろうか。あの人は僕と違って有名なロキ・ファミリアの幹部だから、僕みたいな零細ファミリアと会ったら色々と不味いんじゃないかな? もし発覚したら、アイズさんはフィンさんから何らかの厳罰を下されるような気がする。

 

 アークス側だったら、有名な六傍均衡の一人が新人アークスと密会後に発覚すればスキャンダル扱いになるだろう。尤も、今の六芒均衡は()()()()によって、以前のような堅苦しいイメージは無くなっているから、そこまで大事にはならない。僕が今も憧れている英雄――守護輝士(ガーディアン)の功績によって。

 

 そう言えば、アークスで思い出したけど、キョクヤ義兄さんやストラトスさんはどうしてるんだろう? キョクヤ義兄さんは僕が行方不明になって凄く心配……はしてないか。と言っても、多少の心配はしてると思う。キョクヤ義兄さんは、いつどんな時でも冷静(クール)だから、僕がいなくなっても大して慌てる事はしないだろうし。

 

 ……何か思い出した途端、オラクル船団が恋しくなってきたな。あそこは生まれ故郷じゃないけど、それでも第二の故郷だ。キョクヤ義兄さんと血の繋がりはないけど、僕の大事な家族である事に変わりはない。もしもオラクル船団へ戻れる機会があれば……僕はまたこの世界とお別れするんだろうか。この世界とオラクル船団が行き来する事が出来れば……何て、そんな都合の良い展開にはならないか。

 

「――ベルさん!」

 

「ん? あ、シルさん」

 

 考えながら道を歩いている最中、突如横から誰かが僕の名前を呼んできた。振り向くと、薄鈍色の髪を揺らしたシルさんが走り寄っている。

 

 あ、確かシルさんとは戦争遊戯(ウォーゲーム)前に首飾り(アミュレット)を貰って以降に会ってなかった。オラリオへ戻ってきても、予定があった所為で『豊穣の女主人』に顔を出さないままだ。

 

 僕が内心申し訳ない気持ちになってると、シルさんが何の前触れもなく僕の腕に引っ付いてくる。

 

「ちょ、シルさん、いきなり何を……!?」

 

 ティオナさんと違って突進はしてこなかったけど、それでも突然引っ付くのは勘弁して欲しい。男としては嬉しいけど、ティオナさんみたいに胸を押し付けるように引っ付くの流石にちょっと困る。

 

「どうしてお店に来てくれなかったんですか!? 私、ずっと待ってたんですよ! 折角お弁当を作ったのに!」

 

「ご、ごめんなさい! ちょっと理由がありまして……!」

 

 若干涙目になって訴えてくるシルさんに、僕はすぐに謝った。僕とシルさんのやり取りに、周囲の人達が何事かと見ている。

 

「でしたら今すぐお店に来て下さい! そこで理由を聞かせてもらいますから!」

 

「ええ!? お店でしたら、今日行きますよ!?」

 

「ダメです! 一週間以上も私をほったらかしたんですから!」

 

「そんな誤解を招くような言い方は止めて下さい!」

 

 シルさんの発言によって、周囲の人達が何やらヒソヒソと話し始めている。と言うか、もう逃げられない空気だ。

 

 もしかしたら、シルさんはこうなる事を予想して言ったのかもしれない。僕を逃がさない為に。

 

 逃げられないと悟った僕は、シルさんに言われるがまま急遽『豊穣の女主人』へ連行される事となった。

 

 

 

 

 

 

「……あのぅ、コレは一体どういう事ですか?」

 

 シルさん連行された僕は何故か厨房に連れて来られ、流し台に置かれている大量のお皿を洗っていた。

 

 この状況からして、罠に嵌められたと見ていいだろう。皿洗いをさせる為に。

 

「すみません。溜まっていたお仕事をさぼっ……いえ、休んでしまったら、ミアお母さんのお叱りを受けてしまって、罰として雑用を……」

 

「今『さぼった』って言いましたよね!? 僕完全にとばっちりじゃないですかぁ!? 僕このまま帰っても良いですよね!?」

 

 忙しい気持ちは分かりますけど、それを人に押し付けるのはどうかと思いますよ!?

 

 僕の叫びを無視しているのか、シルさんは笑顔で――

 

「ごめんなさい、ベルさん。よろしくお願いします」

 

 そう言ってすぐにぱたぱたと走り回っていく。

 

 すると、店員であるアーニャさんとクロエさんが此方へやって来る。

 

「これくらいは大目に見るニャ、白髪頭」

 

「シルはこの前まで、オラリオに戻ってこない少年を本当に心配してたニャ。その罰として受け入れるニャ」

 

「う……」

 

 確かに理由も言わずに心配させた僕にも非がある。

 

 だからと言って有無を言わさず皿洗いさせるのは釈然としないけど……ここは甘んじて受け入れるしかないか。

 

 それに、さっきまでのホームシックを誤魔化すのには丁度良いし。

 

「そう言えば少年。リューから聞いたけど、オラリオに戻る直前にメレンに行ったのは本当ニャ?」

 

「ええ。戦争遊戯(ウォーゲーム)のほとぼりが冷めるまでの間、そこに滞在しようと神様が言い出したので」

 

 皿洗いに集中してると、クロエさんが思い出したように質問してきた。今はもう答えても平気だから、すぐに滞在していた理由を言う。

 

「成程ニャ。まぁ確かにあの後、神々や他の冒険者達が少年を探すのに躍起になってたニャ。メレンに隠れてたのは正解ニャ」

 

「僕らがメレンにいる間、そんな事があったんですか?」

 

「そうニャ。この前までオラリオ中が、戦争遊戯(ウォーゲーム)に勝った白髪頭の事で話題になってたニャ。【ロキ・ファミリア】の連中も、白髪頭を探してたみたいニャ」

 

 僕の問いにアーニャさんが割って入り、クロエさんの代わりに答えた。

 

 そう言えば、昨日ティオナさんが僕を探してたって言ってたな。あの時はティオナさんとアイズさんだけだと思っていたけど……まさか他の団員達も僕を探していたなんて。

 

 もしや、ティオナさん達に僕を探すように命じたのはフィンさんかな? 僕が以前にゴライアスを倒した後、あの人からの質問にある程度答えて、僕の力をある程度知ってるし。まさか戦争遊戯(ウォーゲーム)で改めて僕の実力を知って、他のファミリアに引き抜かれないように手を打とうとした? 同盟関係、もしくは傘下に加えようとする為の。

 

 そうだとしたら……流石にそれは勘弁して欲しいな。確かに【ロキ・ファミリア】は誰もが憧れる有名な派閥だけど、僕としては多くのファミリアに門前払いされたところの一つだ。その件があって、今更歓迎されても素直に喜べない。もし門前払いされてなければ、印象の悪いファミリアとしては見てなかったと思う。

 

 僕が今のところ出会った(神様を除いて)印象の良いファミリアと言えば、ミアハ・ファミリアと……メレンで出会った【ニョルズ・ファミリア】だな。

 

 メレンで観光してた時、【ニョルズ・ファミリア】の主神――ニョルズ様と会った。神様とすぐに意気投合して、僕にも良くしてくれた上に新鮮で美味しい魚を用意してくれた。(ヘスティア)様やミアハ様と同様に眷族思いで、凄く優しいお方だ。もし僕がオラリオじゃなくてメレンに来たら、ニョルズ様の眷族になって漁師になっていたかもしれない程に。

 

 二人から話を一通り聞いた後、僕はシルさんの雑用である皿洗いをしていた。目の前にある大量のお皿を磨こうと、今は黙々とやっている。

 

「この量は凶悪だ。私も手伝いましょう」

 

「え? あ、リューさん」

 

「先日振りですね、クラネルさん」

 

 僕の隣に並んだのは、以前に戦争遊戯(ウォーゲーム)で助っ人として参加してくれたエルフ――リュー・リオンさんだ。

 

「あ、この前はすいませんでした。何も理由も言わずに別れてしまって」

 

「お気になさらず。確かにあの時は戸惑いましたが、後からメレンへ向かった神ヘスティアの判断は正しいと納得しましたので。アーニャとクロエが言ってたように、クラネルさんはかなりの脚光を浴びていましたから」

 

「あはは……」

 

 どうやらリューさんは僕とクロエさん達との話を聞いていたようだ。

 

 あっ。折角リューさんに会ったから、今の内に済ませておこう。

 

「そうだリューさん、ちょっと良いですか? 渡したい物がありまして」

 

「渡したい物?」

 

 皿洗いを一旦中断した僕は、彼女に見えないよう電子アイテムボックスから小さな包みを取り出した。リューさんも僕と同じく皿洗いを一旦止めると、不可思議な顔をしながら此方を見ている。

 

「これは?」

 

「どうぞ、受け取って下さい。大した物じゃありませんが、戦争遊戯(ウォーゲーム)に参加してくれたお礼です。リューさんみたいな綺麗な人には、装飾品(アクセサリー)が良いと思いまして」

 

「なっ……!」

 

 包みの中には水晶(クォーツ)を加工したネックレスが入っている。メレンで観光してる時、アクセサリー店で購入した物だ。

 

 すると、リューさんは以前みたいに顔が真っ赤となって、急にしどろもどろになる。

 

「く、く、クラネルさん! こ、これは私にではなく、し、シルに渡して下さい……!」

 

「え? シルさんの分は勿論ありますよ。これはリューさん用です」

 

「で、ですから、私にそのような物は――」

 

「ああ~~~! 白髪頭がリューにプレゼントしてるニャ!」

 

 リューさんが顔を真っ赤になりながら狼狽えてると、アーニャさんが僕達を見ながら指をさして叫んだ。

 

「何ニャ? 少年はシルからリューに乗り換えたニャ?」

 

「おミャーという奴は、シルに散々貢がせといてもうポイしたのかニャ?」

 

「はぁ!?」

 

 乗り換えた? シルさんに貢がせた? クロエさんとアーニャさんは何を言ってるんだ?

 

 僕はただ戦争遊戯(ウォーゲーム)に参加してくれたリューさんにお礼をしてるだけなのに!

 

「べ、ベルさん! さっき聞こえたんですけど、リューにプレゼントって本当ですか!?」

 

「って、今度はシルさんも!?」

 

 此方へやって来たシルさんが、何か慌ただしい様子で僕に問い詰めた。と言うかシルさん、仕事は良いんですか?

 

 他のウェイトレスやシェフの人達も気になる様に僕を見ている。

 

「あ、貴方達、何を勘違いしてるんですか!? 私とクラネルさんはそんな関係じゃありません! それとシル、プレゼントについては貴女の分もあるとクラネルさんが――」

 

 リューさんは顔が赤いままで必死に誤解を解こうとしている。と言うか、僕がプレゼントしただけで、どうしてここまで大事になるんだろう?

 

 すると――

 

 

「さっきから仕事中に何騒いでんだい馬鹿娘共ぉぉぉおおおおおお!!」

 

 

 騒ぎを聞いて堪忍袋の緒が切れたと思われるミアさんが厨房へ来た直後、シルさん達に向かって怒鳴った。

 

 因みに僕には一切お咎めは無い。けど、僕がいたら仕事の邪魔になると言われて、すぐに店から出された。客として店に来いと。

 

 あと、リューさんとシルさんのプレゼントを代わりに渡すよう頼んだ。リューさんに渡せれなかった経緯も言い含めて。

 

「はぁっ……。本当なら本人達に直接渡せと言いたいところだが……分かった。アタシの方から渡しておくよ」

 

「ありがとうございます!」

 

 二つの包みを受け取ったミアさんが承諾してくれたのを聞いた僕は、礼を言った後に『豊穣の女主人』を後にした。

 

 因みに僕が後ほど客として店に訪れた際、水晶(クォーツ)のネックレスとしたリューさんと、水晶(クォーツ)のブレスレットをしているシルさんを見たのは言うまでもない。特にシルさんが僕を見た時には、見惚れてしまうほどに可愛い満面の笑みだった。




寄り道話は良いから、早く本編を書いてくれってツッコミは無しで。

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