ベルがアークスなのは間違っているだろうか 作:さすらいの旅人
(アイズさん、こんな朝早くに一体何処へ……?)
エルフの少女――レフィーヤ・ウィリディスは、肌寒い冷気が漂う街路を走っている。ホームから出たアイズを追う為に。
憧れる
準備を一通り終えたレフィーヤが中庭へ行くも、そこには誰もいなかった。来るのが早過ぎたかと周囲を見渡している最中、アイズの姿を視認した。門を通らず、館を囲む高い塀を飛び越えてホームを抜け出すアイズを。
不審な行動を目撃した事に紺碧の瞳をぎょっとしたレフィーヤだったが、すぐに後を追おうと彼女に倣ってホームを抜け出す。別にそのような事をしなくても良いのだが、団員に知られたら不味いのではと思って真似ただけである。
追跡をするも既に見失った為、今は路上に転がって泥酔している僅かな冒険者達から情報を聞き出しながら探している最中だった。北西の区画へ向かっている事は分かっているので、そこを中心に探している。と言っても、その部分も充分に広いので簡単には見付からなかった。
「ぜ、全然見付からない……」
完全に見失って闇雲に探しているレフィーヤだが、一向に
ずっと走り続けていたのか、彼女は息を切らしつつある。けれど走るスピードを遅くしつつも探していると、曲がり角から飛び出してきた影と衝突した。
「きゃっ!?」
「うわっ!?」
ぶつかったレフィーヤは、その衝撃によって尻餅を付いてしまう。相手の方は彼女と違って、ぶつかっても倒れずに立ち止まっている。
この時にレフィーヤは恥じた。『Lv.3』であるにも拘わらずにとんでもない醜態を晒してしまい、アイズの事しか考えなかった自分に対して。
「ご、ごめんなさい!」
「す、すいません! 大丈夫ですか……って、レフィーヤさん?」
「え?」
ぶつかった二人がお互いに謝っていると、相手が手を差し伸べてる最中に自身の名前を呼んできた。
聞き覚えがある声だと思いながら顔を上げると、そこには白髪で
「べ、ベル・クラネル!? どうして貴方が此処に!?」
ぶつかった相手がベルだと分かったのか、レフィーヤは彼が差し伸べた手を取らず、自力で立ち上がろうとする。まるで敵の施しは受けないと言わんばかりに。
彼女が攻撃的な態度を取っているのは、ちょっとした理由がある。アイズがベルに興味を抱いているからだ。
そうなった原因も当然ある。事の発端は【ヘスティア・ファミリア】と【アポロン・ファミリア】の
レフィーヤは魔導士で、アイズは剣士。剣を使えない自分ではアイズの隣に立つ事が出来ないが、それでも魔法による援護で憧れであるアイズの役に立とうと日々奮闘している。アイズから自分こそが唯一無二の
そんな中、ベル・クラネルと言う存在が現れた。その男は新人冒険者の筈なのに、自分と同じ魔導士で未知の魔法を行使し、あろう事か剣までも扱える。加えて相当な実力者で、先日知り合った同胞のエルフ――フィルヴィス・シャリアに匹敵、もしくはそれ以上の。
ベル本人がどう思っているかは知らないが、団長のフィン、そして副団長かつ師であるリヴェリアも彼に注目している。もしも【ロキ・ファミリア】へ
故にレフィーヤはベルを危険視していた。憧れのアイズを奪うかもしれない毒牙的な存在のように。尤も、それはあくまでレフィーヤの個人的な想像に過ぎないが。
「いや、僕はちょっと用事がありまして……。と言うか、レフィーヤさんも何で此処に?」
「わ、私がどこにいようと貴方には関係ありません! 女性のプライベートを詮索するなんて失礼ですよ!」
「は、はぁ……。それはすいませんでした」
人に聞いておきながら自分はダメだと、少々身勝手な発言をするレフィーヤ。もしもリヴェリアがいたら確実に叱咤しているだろう。
レフィーヤも本来だったら、そんな失礼な事を言わない。相手はベルだからか、思わず攻撃的な態度になっている。
ベルはベルで、悪い事を聞いてしまったと思ったのか、自分に非がある様に謝っていた。
「それじゃあ、僕はこれで。さっきはぶつかって本当にすいませんでした」
自分が原因で彼女を不機嫌にしてしまったと勘違いしているベルは、取り敢えず別れようとした。加えて、待ち合わせ場所へ早く向かおうとする為に。
すると、レフィーヤは思い出したように引き留めようとする。
「あっ、ちょっと待ちなさい! 一応確認したいんですが、貴方はアイズさんを見かけませんでしたか!?」
「…………え?」
レフィーヤからの質問に背を向けているベルは思わずピタッと固まった。そのまま上半身のみをギギギッと人形のように、ゆっくりとレフィーヤの方へ向ける。
「も、もしかして……レフィーヤさんは、アイズさんと約束があって探してるんですか?」
「べ、別に約束とかはしてませんが……ん?」
アイズと二人っきりで訓練したいからと言えないレフィーヤが誤魔化してると、何か違和感があったのか途端に訝った表情となる。
「ちょっと待って下さい。どうして貴方がアイズさんの事を名前で呼んでるんですか? この前に会った時は『ヴァレンシュタインさん』と呼んでた筈なのに」
「え? ああ、アイズさんから名前で呼んでいいって言われ――」
「んなっ―――!?」
ベルから予想外の返答を聞いたレフィーヤは思わず仰天した。
アイズがベルに興味があるとはいえ、まだ出会って間もない異性相手に早くも名前で呼ばせるなんてあり得ない。【ロキ・ファミリア】の団員はともかく、他所のファミリア相手にそんな大それた事をするなんて猶更に。
因みにレフィーヤはアイズから名前で呼んでいいと言われるまでに、それなりの時間が掛かっていた。にも拘らず、アイズがベルと出会って、たったの数回で名前呼びを許可した。余りにも自分とベルの差があり過ぎる。
「う、嘘です……。アイズさんが、殿方相手に会って早々、名前で呼ばせるなんて……」
「…………じゃあ、今度こそ僕はこれで」
レフィーヤの反応を見たベルは、何か面倒な事になりそうだと危惧したのか、すぐに去ろうとする。
すると――
「はっ! ま、まさかとは思いますが、アイズさんがホームから抜け出したのは、名前で呼ばせている貴方と何か関係が!?」
「っ!?」
気が動転しているレフィーヤは全く見当違いな事を口走っていた。
しかし、その内容は殆ど正解だった。アイズが誰にも気付かれずにホームから出たのは、目の前にいるベルと手合わせをする為だから。故にベルはレフィーヤの台詞にギクリと再度固まっているのである。
これ以上答えるわけにはいかないと思ったベルは…………脱兎の如く走り出した。
「ああっ!?」
突然逃走したベルを見たレフィーヤは素っ頓狂な声を出すも確信する。あの反応は絶対に何か知っている筈だと。
逃げ出すベルに、レフィーヤが落とした杖を拾った直後に矢のように駆け出す。
「待ちなさーーーーーーーいっ!!」
「いいいいいいいっ!?」
猛烈な追いかけっこが始まるかと思いきや――
「ごめんなさい、レフィーヤさん!」
「あっ、消え……!」
途中でベルがファントムスキルを使って姿を消したのであった。
だが、それでもレフィーヤは諦めようとしない。消えたとしても、必ずどこかで姿を現す筈だと。
今回はレフィーヤの心情をメインとした話でした。