ベルがアークスなのは間違っているだろうか 作:さすらいの旅人
アイズさんとの『手合わせ』二日目。フィンさんへの『返答』まであと五日。
レフィーヤさんと急遽追いかけられる事になるも、すぐに撒いて北西の市壁に着いた。少し遅れちゃったけど。
「あ……おはよう、ベル」
「お、おはよう、ございます……。はぁっ、はぁっ……」
「……どうしたの? 昨日と比べて少し遅かったけど」
「すみません……。ちょっとばかり森の妖精に、追いかけられて……」
「よう…せい?」
「すごく綺麗なんですけど、すごく恐ろしいというか……。まぁ取り敢えず、手合わせ前に少し休ませてもらって良いでしょうか……?」
「…うん」
予想外の出来事で少しばかり体力を使ってしまった僕は、アイズさんの許可を貰って休憩させてもらった。
息が整った十数分後、昨日と同様に再びアイズさんと対峙する。
「それじゃあ、始めましょうか」
「待って。その前にお願いがある」
「へ?」
急にアイズさんから待ったが掛かった。
思ってもみなかった発言に、僕は目をキョトンとしてしまう。
「今回は剣だけじゃなく、他の武器や魔法も使って欲しい。
「え゛? あ、アレも一緒に、ですか?」
アイズさんが指しているのは、恐らく
彼女は剣士だから、僕が持っている
「一応お聞きしたいんですが、何故そのような事を?」
「昨日手合わせをして、違和感があったの。あの時は全力じゃないって。ベルが全力を出すのは、
………驚いた、流石はアイズさんだ。まさかたったあれだけで、僕の全力じゃないと分かったなんて。更には
因みに僕が使っていた3種類武器の他に、もう一つの武器がある。ソレは
「だから、お願い。ベルの本当の全力を見せて」
「………う~ん、アイズさんたってのお願いは断れないんですが……。すいません、それは流石に無理です」
「!」
僕からの拒否に、アイズさんはガーンと強いショックを受けたような表情になる。それを見た僕は少し慌ててしまう。
「あ、いや、別に意地悪とかじゃないですからね! ただ、僕とアイズさんはお互いに違うファミリアですから、手の内を全て明かすのは流石に、と思いまして。例えるなら……アイズさんも『Lv.6』になれたのは、ファミリアにいる人から戦闘技術を学んだ筈です。それをアイズさんが他所の人に勝手に教えてしまえば、どうなると思います?」
「………バレたら、すっごく怒られる」
どんな想像をしたのかは分からないけど、アイズさんは顔を青褪めると同時に身体を震わせながら答えた。多分アイズさんに教鞭を振るった人の事を思い浮かべたのかな?
「まぁ、そんなところです。なので全力を出す訳には……」
「………………」
「うう……」
僕が断りを入れてると、アイズさんは次にシュンとして凄く悲しそうな顔をしている。見てるだけで罪悪感が沸き上がってしまいそうだ。
だ、ダメだ! いくら一目惚れした女性だからって、手の内を晒すような事をしたら……キョクヤ義兄さんに怒られてしまう!
『ベルよ。《亡霊》となったお前が、女に現を抜かした挙句の果て、暗黒に染まった闇の力を全て曝け出すとは……。この愚か者が! 我が半身でありながら、何たる体たらくだ!?』
ってな感じで怒られそうな気がする!
とは言え、手合わせしているアイズさんからのお願いを無下にする訳にもいかないし。何か良い案は……あっ、そうだ!
「アイズさん。全力を出す……と言う程じゃないんですが、フィンさん達に見せてない複合した武器を披露しようと思います」
「…複合? どういう事?」
「分かり易く言えば、僕が
「……見た事ない武器……」
僕はフォルニスレングから
ブリンガーライフルは僕が今まで使った武器と比べて、1~2段階ランクの高い武器だ。しかし、残念ながらファントムクラスでは威力が格段に劣る武器となってしまう。何故ならファントムクラスは
ファントムスキルの中には、ファントム用武器の威力を増加するスキル――『ウェポンボーナス』がある。しかし、その効果はメイン武器にしか与えられない。それ故に
けれど、僕が手にしているブリンガーライフルは後者のスキルに全ての威力を上げてくれる。打撃と射撃は勿論、法撃も含めて。
「その武器が本当に、この前使っていた3つと併せ持っているの?」
「手合わせをすれば分かります。けど、その前に……」
些か疑問を抱いているアイズさんだけど、僕は気にせずに構えようとする。
そして僕はハンドガンタイプに切り替えて、その銃口をアイズさんに向けた。
「っ!」
銃口を向けられた事でアイズさんが咄嗟に身体をずらした直後、僕は銃弾を撃ち放った。その弾丸はアイズさんの後ろにある壁に当たって、貫通した丸い穴が出来上がる。
「…今のは、あの時使っていた魔剣……?」
「ご明察です」
アイズさんに銃弾を当てるつもりは毛頭無かった。さっきのは単に
因みにこの世界の人達は、どうやら僕が使っている
「もうついでに……闇の炎よ 炎玉となりて突き進め フォイエ!」
フォトンを熱量変換し火の玉として放出する初級の炎属性テクニック――フォイエを上空に向けて撃った。少し大き目な火の玉は上空へと進み、そのまま霧散して消えていく。
「一応お見せしましたが、これで分かりましたか?」
「…………」
アイズさんは無表情でありながらも驚いている様子だ。
「最後の剣につきましては……直接手合わせをすれば分かる筈です」
「……うん、そうする」
すると、さっきまで驚いていたアイズさんは、急にやる気に満ち溢れた顔をする。昨日と同じく全身から闘気を発している。
「やっぱりベルは凄い……。君と戦えば、私はもっと強くなれる気がする……!」
「えっと、それとこれとは話が違うと思うんですが……」
「ベルばかり悪いから、私も少し手の内を見せる」
「へ?」
アイズさんからの予想外な台詞を聞いた僕が思わず驚いていると――
「【
「うおっ!?」
突如、風が吹いた。しかもそれはアイズさんの周囲を覆っている。まるで身を守る鎧みたいに。
「それが、アイズさんの魔法ですか……?」
「…うん。ベルと違ってこの魔法しか使えないけど」
「いや、その魔法は僕から見ても充分に凄いですから」
例えて言うなら風の鎧と言ったところだ。アレは生半可な攻撃じゃ通じないどころか、弾かれてしまうだろう。加えて、その風をアイズさんが持っている剣に纏わせれば攻撃力も上がる筈。正に攻防一体の魔法だ。
まさか『Lv.6』のアイズさんが自分から手の内を晒すとは……。
まぁ兎に角、あの風を破るとすれば、打撃と射撃、更にはテクニックをフル活用しないと無理みたいだ。サブウェポンの
「それでは改めて……行きます!」
「私も……行く!」
昨日と違う戦い方をやろうとする僕と、アイズさんは即座に突進する。
僕とアイズさんの第2ラウンドが始まった瞬間、今までと違って少し派手な音が聞こえる事となった。
☆
「はぁ、はぁ、はぁ……!?」
レフィーヤは、全速力で走り続けていた。見失ったベルを探す為に。
しかし、もう既に一時間以上立っていて一向に見付からなかった。
本当なら一時間走っても『Lv.3』であるレフィーヤの体力はまだ残っているのだが、相手がベルだからか、もう既にヘトヘトの状態だった。
大きな要因は、ベルがアイズと会っているかもしれないと考えてしまっているからだ。その所為で焦りが生じており、いつも以上に体力を消耗させている。
「ベル・クラネル、一体どこに……!?」
全力で悔しがっているレフィーヤ。
ヘトヘトになりながらも、諦めずにベルとアイズを探し出そうとしている。
すると、上から何やら音が聞こえた。何かがぶつかり合う音を。
「今の、まさか……」
レフィーヤが視線を向けると、そこにはオラリオを覆う巨大な壁があった。そしてその市壁の上から音が聞こえる。
今すぐにその場へ行こうと、レフィーヤは近くにある螺旋階段を使って昇っていく。
そして辿り着いて早々身を隠し、こそっと顔を覗かせた先には――
「はぁぁぁぁぁぁ!!」
「くっ……!」
探していたアイズとベルが己の得物を手にして戦っていた。しかもお互いに本気を出した真剣勝負のように。
(えっ―――あ、アイズさんが、ベル・クラネルと本気で戦ってるぅぅぅぅぅぅぅぅ!?)
余りの光景にレフィーヤは目を疑い、信じられないように驚愕を露わにしていた。何故『Lv.6』のアイズが、『Lv.2』であるベル・クラネル相手に本気を出して戦っているのかと。
普通に考えてあり得ない光景だった。いくらベルが階層主を倒し、
なのに何故、アイズは本気を出しているのだろうか。今のレフィーヤには全く以って分からない様子だ。
因みにそうなった要因はいくつかある。
一つ目は、アイズはベルの使っている
二つ目は、武器の相性の悪さ。剣での近接戦は対応出来るが、問題はその後だった。ベルが距離を取った瞬間、銃による射撃と、テクニックによる法撃を使って近づけまいとしていた。近接戦を主体とするアイズにとって、近付くだけでも一苦労だ。
三つ目は、
以上の要因から、アイズがベルに本気を出さざるを得ない状況となっているのである。尤も、ベル本人としては、本気を出しているアイズに必死だった。下手に攻撃を直撃したら不味いと。
アイズ本人としては、やり難い武器を相手に苦戦しつつも、内心ベルに感謝している。この手合わせは大変良い勉強になるからと。
レフィーヤが二人の戦いを見守ること、約三十分ほど経った。すると、二人は手合わせを一旦中断しようとする。
その後に――
「アイズさん。今日もジャガ丸くん持ってきましたけど、食べますか? 小豆クリーム味はありませんけど」
「食べる」
(なぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああああ!?)
ベルが用意したご飯をアイズも食べようとしていた。
二人っきりの仲睦まじい食事光景を目撃したレフィーヤは、さっきとは違う意味で驚愕していた。
余りの光景にショックを受けた所為か、全身が硬直して真っ白となっている。
一方で、軽い朝食中のベルとアイズは昨日と同じく、再びジャガ丸くんについての味議論をしていたとさ。
☆12のリグジエンザーやクイーンヴィエラだとファントムで使うと弱過ぎるし、かと言って☆13のアスカルドロプは見た目がアレでしたので……。
法撃力を兼ね備えた
☆13のスカルシュクターに法撃が付いていたら嬉しかったんですが。