ベルがアークスなのは間違っているだろうか 作:さすらいの旅人
あれから数日。僕は今も【ロキ・ファミリア】の遠征参加について考え中だった。日が経つにつれて、どんどん深く考え込んでしまっている。遠征に『参加する』か『参加しない』か、どれを選択するかだけなのに。
一度、神様には相談した。神様としては参加して欲しくはないそうだけど、最終的な判断は僕が決める事だ言われた。例え、どんな選択をしても、神様は僕の意思を尊重すると。
神様以外の誰かも相談しようかと思ったけど、そう言った相手は全然いない。ミアハ様は神様と同じ考えで無理だ。ナァーザさんからは『自分はもう冒険者じゃないから、そう言う相談は遠慮する』と言われてしまった。
僕と同じ現冒険者で尚且つ相談出来る相手としては……アイズ・ヴァレンシュタインさんとティオナ・ヒリュテさんしかいない。だけど、僕はすぐに却下した。その二人は参加要請をされたフィンさんと同じ【ロキ・ファミリア】だ。相談なんか出来る訳がない。
辛うじて他に相談出来るとすれば……『豊穣の女主人』にいるリュー・リオンさんだ。あの人はナァーザさんと同じく元冒険者だけど、この前の
それとは別に、アイズさんとの手合わせも未だ継続中だった。遠征が始まるまで暫く付き合って欲しいとアイズさんに頼まれたので。僕としては願ってもない頼みだったので、すぐに了承した。ダンジョン探索でモンスターと戦うより良いし、アイズさん相手だと深く考え中の遠征について一時忘れる事が出来る。
とは言ったものの――
「…ベル、やっぱり変。このところ、動きが鈍くなっている。いつもの君なら、すぐに反応する筈なのに」
「す、すみません」
フィンさんからの返答期限が近付くにつれて、手合わせ中にも考えてしまっている。
この前は考え事をしていた所為で、アイズさんから強烈な回し蹴りを頬に当たり、そのまま気を失ってしまった。目覚めたら、何故かアイズさんから膝枕をされていたけど。しかも何回もあった。アイズさんの太ももが柔らかかったのは内緒だ。
そんな事は如何でもいいとして、動きが鈍くなってる僕にアイズさんも流石に疑問を抱いている。何度も同じ事が起きれば、そうなるのは当然だ。
「もしかして、何かあったの?」
「あ、いや、そんな大した事では……」
訊いてくるアイズさんに、僕は何でもないように振舞う。けれど、それは悪手だったと後悔する。何故なら、アイズさんがどんどん不機嫌そうな顔になっていくから。
「……大した事じゃないなら、動きが鈍くならない筈。そうなるのは、何か大きな悩みを抱えている」
「うっ!」
図星とも言えるアイズさんからの正論に、僕は言い返す事が出来なかった。
僕の反応を見た事で、彼女はズイッと顔を近づけてくる。
「私で良かったら、相談に乗るよ」
「え、え~っと、ほ、本当にアイズさんからしたら、本当に大した事じゃ……」
流石にこればっかりは言えない。【ロキ・ファミリア】の遠征参加について悩んでいるなんて。
それにフィンさんからも口止めされている。今回の件について知ってるのは、主神のロキ様、そしてフィンさんと同じ主要幹部だけ。アイズさんを含んだ他の幹部勢や団員達には知らされていない。僕が遠征に参加を表明するのが分かった時点で周知する手筈になっていると。
だからアイズさんに言えない。もしここで言ってしまえば、彼女から他の団員達に教えてしまう可能性があるので。
すると、さっきまで不機嫌そうだったアイズさんが、今度は少し悲しそうな表情になる。
「……ベル、私じゃ力になれないの?」
「け、決してそう言う訳では……!」
どうしよう。ここで言えないと拒み続けたら、アイズさんがショックを受けて悲しませてしまう。女性相手にそんな事をする訳にはいかないし……。あ~もう、どうすれば……!
………仕方ない。少しばかり内容を濁して相談する事にしよう。
「……わ、分かりました。じゃあ、アイズさん。少しばかり相談に乗ってくれますか?」
「っ!」
僕が頼むと、アイズさんは悲しそうな顔から一変して、コクコクと強く頷いた。アイズさんって普段から無表情で
☆
「…私だったら、是非とも参加して欲しい。ベルがいてくれれば、凄く心強いから」
「そ、そうですか」
相談内容を話し終えると、アイズさんは僕が【ロキ・ファミリア】の遠征参加に肯定的だった。
勿論、そのままの内容を言ってはいない。内容を濁して、どうすれば良いかと訊いた。
まぁ濁したとは言っても――
『実はとあるファミリアの人から、パーティーを組んで欲しいとのお誘いがありまして。何でも高難度の
少し言い換えれば、殆ど【ロキ・ファミリア】の遠征参加についての内容そのものだ。
アイズさんは何の疑問を抱く様子を見せる事なく、思ったままの返答をしてくれた。濁したとは言え、アイズさんに嘘を吐くのは少し心苦しい。
「その人はベルの実力を知った上で頼んだと思う。でなければ、君にそんな誘いはしない」
「やっぱり、そう思いますか……」
アイズさんの言ってる事は正解だ。フィンさんは僕が階層主のゴライアスを一人で倒したのを目撃してるので、遠征に参加して欲しいと要請した。前衛をカバーする為の後方支援役を。
僕が遠征に参加する事にアイズさんは賛成みたいだけど、今も現状は不参加寄りに変わりない。いくらアイズさんが【ロキ・ファミリア】の幹部だからと言っても、他の団員達の考えは違う。賛成の人もいれば、僕に対して否定的な人もいるだろうし。
と言っても、アイズさんが賛成してくれたのは嬉しい。凄く心強いって言われた途端、内心凄く舞い上がっていたし。抑えるのは大変だったけど。
「ありがとうございます。完全とは言えませんが、アイズさんのお陰でスッキリしました。もしまた何かあれば、相談しても良いですか?」
「…うん。いつでも言って」
頼られるのが嬉しいのか、アイズさんはコクコクと頷いている。
気の所為なのか分からないけど、彼女の隣に幼女アイズさんが何故かいた。こっちは凄く感情豊かで、僕に満面の笑顔を見せている。目を合わせた途端、すぐに消えちゃったけど。
「…ベル、私も聞いてもいい?」
すると、アイズさんはさっきと打って変わるように真剣な表情になった。
「ずっと前から気になってた。どうして君はそんなに強いの?」
「つよ…い……?」
アイズさんからの予想外な問いに、僕は思わず目を白黒させてしまう。
何て言うか……そんな質問をしてくるのは完全に予想外だ。アイズさんは僕より強い筈なのに、何でそんな事を聞くんだろう?
けれど、流石にこればっかりは答えられない。僕が異世界でアークスになった事によって力を得た、と言ったところで誰も信じないし。益してや、アークスの事について教える訳にもいかない。
「もし、君の強さが【
「えっと、それはですね……!」
教える事が出来ない僕は、必死に誤魔化す事に専念した。僕が教える事が出来ないと分かったのか、アイズさんは一先ず諦めてくれたけど、表情を見る限りでは何度も聞き出そうとすると思う。顔に出さなくても、目でそう訴えているから。
一通りの話を終えて手合わせ再開と思ったけど、急遽昼寝の訓練をする事となった。無論僕じゃなくて、アイズさんからの提案だ。
僕がさり気なく眠いのかと訊くも、彼女は訓練と言い張っている。その反応に僕は察した。やっぱり眠いんだと。
取り敢えずアイズさんに合わせる事にしようと、言われた通り昼寝をする事にした。どうでも良いんだけど、男の僕と一緒に昼寝する事にアイズさんは何の抵抗もないのかな?
そして昼寝をした数時間後に目覚めると、いつの間にか起きていたアイズさんが、僕の頭を撫でながら膝枕をしていた。何でだろう?
☆
場所は変わってバベル最上階。
「あの子の陰りを無くそうとしてくれるのは嬉しいけど……距離が近いのは、困るわ」
いつものように外を見下ろしながらベルを眺めているフレイヤ。けれど、彼と手合わせをしているアイズを見て、どこか嫉妬のような声音を落とす。
「少し『警告』が必要ね」
そう言いながらフレイヤは銀の瞳が細まる。
「アレン」
「はい」
フレイヤからの呼び声に、背後に控えていた小柄の青年が反応する。
「多少荒事になってもいいから、彼女に『警告』しなさい」
「かしこまりました」
「それと」
猫の尾と耳を持つ青年が慇懃に礼を取ると、フレイヤは更に命じようとする。
「今のあの子がどれだけの力を見せてくれるか、試してくれるかしら?」
「……本当に宜しいのですか?」
「ええ、多少の怪我を負わせても構わないわ。但し、殺すのは絶対にダメよ。良いわね?」
念を押すように命じるフレイヤに、青年は再度礼を取った後に退室する。
次回は【フレイヤ・ファミリア】との戦闘になります。その際に、活動報告で掲載したベルの新しい