ベルがアークスなのは間違っているだろうか   作:さすらいの旅人

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 このところ、調子が悪くて短いです。

 前話の後書きで書いた通り、ベルの新しい長杖(ロッド)が出ます。活動報告に返信してくれた妄猛総督さん、CITRINEさん、ありがとうございました。


ロキ・ファミリアの遠征⑨

「すいません、こんな遅くまで付き合わせてしまって」

 

「…ベルが謝る必要は無い。私が言い出した事だから」

 

 アイズさんとの手合わせを続けた結果、もう既に夜は更けていた。今は市壁内部にある石造りの階段を下りている。

 

 今日は朝からぶっ続けで手合わせをしていて、僕からすればとても充実した一日だ。ダンジョン中層の弱いモンスターと違い、僕より格上で強いアイズさんとの相手は凄く勉強になる。尤も、アイズさんも僕との手合わせで色々と勉強になっているらしい。どうやらお互いに利益があるようだ。

 

 僕としては、アイズさんが【ロキ・ファミリア】の団員達に僕の手の内を公開するのか心配だった。けれど、彼女は絶対に言い触らさないと約束している。加えて、今回の手合わせについては団員には言ってないようだ。仲の良いティオナさんやレフィーヤさんにも。

 

 数日前の朝方にレフィーヤさんと遭遇した事を話してみたら、案の定と言うか、やはりバレていたみたいだ。レフィーヤさんが口止めする条件として、自分もアイズさんと特訓させて欲しいようだ。それを承諾したアイズさんは、僕との手合わせを終えた後に、レフィーヤさんの特訓に付き合っているらしい。あの人は明らかに後衛の魔導士タイプだから、剣士のアイズさんと特訓しても大して意味が無いんじゃないかと思う。魔導士と剣士では戦い方が全然違うし。まぁ、そこは僕が如何こう言える事じゃないから、何か意味があって特訓してるんだろう。

 

 そんな事を思いながら市壁最下部の扉をくぐると、都市の端っこ、北西部の裏通りに出た。

 

「あの、アイズさん。本当に良いんですか? 夕飯でしたら、僕が出しますよ?」

 

「…ううん。今日は私が出すって決めてるから」

 

 不安そうに尋ねるも、アイズさんは気にしないように言ってくる。

 

 今日は朝から夜までぶっ続けで手合わせをしたから、夕飯は『豊穣の女主人』で食べる予定だった。勿論、神様からも了承済みだ。

 

 すると、手合わせが終わった後にアイズさんが自分から夕飯を奢ると言い出した。僕が用意した朝食と昼食のお礼をしたいと。

 

 手合わせに付き合わせて貰っている僕は全然気にしてないんだけど、アイズさんとしては自分だけ食べていては申し訳ないみたいだ。

 

 ただでさえアイズさんと手合わせして貰ってる上に、夕飯まで一緒なんて【ロキ・ファミリア】の人達に知られたら……殺されるかもしれない。彼女はファミリア内でも凄く人気があるから、僕みたいな新人冒険者と食事してると知ればスキャンダル並みの騒ぎになるのは確実だ。場合によっては、【ロキ・ファミリア】が総出で僕を殺しに来るかもしれない。

 

 ……もし仮にそんな展開になったら、僕はもう今後【ロキ・ファミリア】に関わらないようにする。アイズさんやティオナさんの個人的な付き合いは良いとしても、【ロキ・ファミリア】全体に関係する事――遠征や同盟などの誘いがあってもキッパリと断る。ただでさえ悪感情を抱かれているのに、それでも上手く付き合おうなんて器用な事は僕には出来ないので。と言っても、あのフィンさんがそう簡単に諦めるとは思えないけど。

 

 まぁとにかく、夕飯を食べるとしたら『豊穣の女主人』では不味い。あそこは【ロキ・ファミリア】が常連になってるので、どこか適当なお店で食べに行った方が良いだろう。なるべく、余り噂にならないヒッソリとしたお店を。

 

「ところで、夕飯はどこで食べる予定なんですか?」

 

「…『豊穣の女主人』、かな? あそこはお酒だけじゃなく、ご飯も凄く美味しいし」

 

「……そ、そうですか」

 

 アイズさんは決して悪意があって言ってない。ただ純粋に善意で、美味しい夕飯場所のお店を選んだだけだ。

 

 あはは……何故か分からないけど、シルさんやリューさんに怒られそうな気がする。特にシルさんが笑っていながらも、凄まじい威圧感と怒気を放ってるのが容易に想像出来るんだよなぁ。本当に何でだろう?

 

 最悪な展開を想像しながら暗い裏通りを歩いている中、妙な違和感を感じた。それは僕だけじゃなくアイズさんも同様に、周囲を見回している。

 

 ここは道幅がある裏通り。今は僕とアイズさんしかいないので、閑散としている。

 

 けれど、これは余りにも静か過ぎる。本来であれば閑散としてても、一般人の姿や気配まで途絶えていたりはしない。

 

 それに加え、通りの脇にある洒落たポール式の魔石街灯が照らしている筈が、鈍器を叩き込まれたかのように破砕されている。

 

 以上の状況を踏まえて、この周囲は明らかに違和感があると言う訳だ。だから僕とアイズさんは足を止めている。

 

「アイズさん、これは……」

 

「うん。間違いなく……()()

 

 僕の発言にアイズさんが頷く。

 

 警戒しながら周囲を見渡してると、通りの一角から誰かが歩み出てきた。

 

猫人(キャットピープル)……)

 

 視線を向けた先には、僕とは違う闇に溶かしたような服装の猫人(キャットピープル)の男性がいた。暗色の防具、暗色のインナー、そして暗色のバイザー。闇を好むキョクヤ義兄さんが見たら、あの防具を見て絶対に称賛するだろう。

 

 と、そんな事は今どうでも良い。問題はあの人から感じる殺気と、右手に持っている得物だ。

 

 僕より少し背の低い人だけど、右手には2(メドル)以上あるだろう銀の長槍を持ち、バイザー越しからでも分かる程に感じられる殺気。それらは全て僕へと向けていた。

 

(この人、見ただけでもかなりの実力者だ……!)

 

 彼が持っている武器と殺気で僕は理解した。隣にいるアイズさん並みの実力者だと。

 

 僕の心情を気にせず、猫人(キャットピープル)の男性は此方へ近づこうとする。

 

「狙いは……僕か」

 

「ベル?」

 

 向こうの標的が分かった以上、僕も彼と同じく歩を進める。アイズさんの呼び声を気にせずに。

 

 猫人(キャットピープル)の男性は僕の行動に口元を歪めるも、距離が約20(メドル)になった瞬間、トンッと軽い音を残す。

 

 その瞬間、相手は凄まじい速度で僕との距離を詰めるだけじゃなく、携えた槍の穂先で突こうとする。

 

 けど、生憎僕は何もせずに歩いている訳じゃない。向こうが動いた瞬間、即座にファントムスキルで姿を消した。

 

「!?」

 

 僕が姿を消したのか、それとも避けられた事に驚いたのかは分からないけど、向こうはとにかく驚愕の声を漏らしている。

 

 しかし、今の僕にはそんなの関係無い。向こうが強襲したのなら、こっちも『敵』として倒させてもらう。暗黒を漂う闇夜となっている時こそファントムの力を発揮する、と言うキョクヤ義兄さんの名言だ。

 

 気配を消しながら相手の背後を取った瞬間、攻撃に移ろうと姿を現す。勿論、既に翳している大鎌の長杖(ロッド)――カラベルフォイサラーを振り下ろしながら。

 

 いつも長杖(ロッド)を使う時はお気に入りのカラミティソウルだけど、今回は別だった。正体不明の強襲者で、僕より遥かに格上の相手なので使わざるを得ない。

 

 だったらベートさんの時でも使えば良かったんじゃないかと思われるだろう。別に手を抜いていた訳じゃない。カラベルフォイサラーはあんまり人目につかせて良い武器じゃないし、何より今の僕では分不相応な物だから敢えて使わないでいた。因みに長杖(ロッド)だけでなく、抜剣(カタナ)――フォルニスレングや長銃(アサルトライフル)――スカルソーサラーより、更にもう一段階上の武器もある。理由はカラベルフォイサラーと同様、今の僕には分不相応な為に使っていない。

 

「ッ!」

 

 姿を現した僕に反応したのか、猫人(キャットピープル)の男性は素早く真横へ跳躍して躱す。

 

 凄いな。あの一瞬で僕の奇襲攻撃を簡単に躱すとは……やはり上には上がいるようだ。しかもさっきの速度はアイズさんに匹敵、いやそれ以上かもしれない。

 

「ベル!」

 

 少し離れた所でさっきの攻防を見たアイズさんが剣を抜いて、すぐに加勢しようと僕の方へ駆け付けようとする。

 

 すると、それを阻むように新たな気配が感じた。アイズさんの頭上から、四つの気配が。

 

 僕が思わず視線を向けた先には、剣、槌、槍、斧、それぞれ四つの得物を持った小柄の黒い影がいた。それら全員は一斉にアイズさんへと強襲しようとする。

 

「アイズさん!?」

 

「てめぇはこっちだ!」

 

 四つの黒い影に襲われているアイズさんに加勢したかったが、猫人(キャットピープル)の男性が再び僕に襲い掛かろうとする。

 

 僕はすぐに加勢を諦め、目の前の敵に集中しようと意識を切り替える事にした。

 

 今度はさっきと違い、突いてくる槍の穂先を、青い炎を纏っているカラベルフォイサラーの刃で弾く。

 

「何だと!?」

 

 攻撃を弾いたのが予想外だったのか、猫人(キャットピープル)の男性は再び驚愕の声を出した。

 

「はぁぁぁ!」

 

「ッ!?」

 

 僕がお返しと言わんばかりに反撃に移ると、向こうも即座に構えて迎撃しようとする。

 

 ギィンッ、ギィンッと僕の大鎌と敵の長槍による刃のぶつかり合いを繰り広げる。けど、お互いに決定打にならなかった。

 

 それどころか、僕の方が押され気味だ。このまま続ければ、僕が押し負けるのは時間の問題だ。

 

「どうした、クソ兎。てめぇの力はこんなもんなのか?」

 

 互いに刃の部分が激突して交差してる中、猫人(キャットピープル)の男性がそう言った。

 

 どういう事だ? 今の明らかに、僕の実力を測っているような言い方だ。

 

 それに攻撃も全力を出しているような感じもしない。さっきの速さを兼ねた全力攻撃をすれば、僕に大きな痛手を与える事が出来る筈。

 

「それに……。どこで手に入れたかは知らねぇが、そんなゲテモノ武器は、とても主神(あのかた)には見せられねぇな。悍まし過ぎて、主神(あの方)の寵愛が穢れてしまいそうだ」

 

「……何だと?」

 

 見るに堪えないと言わんばかりの猫人(キャットピープル)の台詞に、僕の頭の中にある何かが切れそうになった。

 

 キョクヤ義兄さんが薦めてくれた武器をゲテモノ? 悍ましくて穢れる? ………随分良い度胸をしてるなぁ。それってつまり、キョクヤ義兄さんを侮辱してるって事だよね?

 

 ………よし、決めた。この人には、僕の全力を持って倒すとしよう。そして教えてやる。ファントムクラスの本当の恐ろしさを。




 ベルは義兄のキョクヤを誰よりも尊敬しているので、アレンの何気ない台詞にキレました。

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