ベルがアークスなのは間違っているだろうか 作:さすらいの旅人
前回は【フレイヤ・ファミリア】と【ロキ・ファミリア】側のお話でしたが、今回はベル側のお話しです。
アイズさんと別れた後、僕は神様に報告をしようと
けど――
「えっ、闇討ちされた!?」
「お怪我はありませんか、クラネルさん?」
「大丈夫ですよ。そうでなかったら、僕は今頃此処にはいませんから」
今は『豊穣の女主人』にいて、カウンター席で僕の両隣にそれぞれ座っているシルさんとリューさんに教えていた。
本当なら此処に来る予定じゃなかった。けれど、店を素通りする直前、偶然僕を見付けたシルさんが入店せざるを得ない状況にさせてしまったから。
仕方なかったんだ。だって断ろうとしてもシルさんが僕の腕に引っ付き、涙目で訴えてくるし。更にはこんな事も言われた。
『どうしても……ダメですか? ベルさんが来るのを楽しみに待っていたのに……』
凄く悲しそうな顔で言われてしまったのだ。完全に演技なのは分かっていたんだけど、それを見た周囲の人がヒソヒソと話していたので、居た堪れない気持ちとなった僕は入らざるを得なかった。その直後、シルさんはコロッと表情を変えて営業スマイルに早変わりだ。
そしてシルさんに案内されてカウンター席へと座り、さっきまでの事を話していた。僕が入店したのを見たリューさんもいつの間にか加わって。途中で仕事は大丈夫なのかと聞くも、二人はミアさんの許可をちゃんと貰っているらしい。二人を貸してあげるから、ついでにお金も使えと言う伝言付きで。もう店を出られないと悟った僕は、此処で夕飯を済ませるしかなかった。
闇討ちしてきた襲撃者の正体が分からないので、シルさん達には詳しい内容を話していない。一緒にいたアイズさんの事も伏せている。彼女は今回の闇討ちについては心当たりがあり過ぎて逆に分からないと言ってたけど、何か知っている感じがした。それでも僕に言わなかったのは、何か理由があっての事だと思って追及しなかったけど。
因みに二人は僕がプレゼントした
そんな中、僕がシルさん達と話しているのを見た他の男性客数名がこっちを見ていた。
『……おい、あのガキまさか』
『
『その前には、たった一人で
『しかも最速で『Lv.2』にランクアップしやがった……』
『ってか本当なのか?
『だったとしても、百人以上いたあの【アポロン・ファミリア】相手に一人で勝ったのは間違いねぇ。助っ人付きでな。てめぇは同じ条件でやれんのか?』
『ひひっ、んなこと出来るかよ』
男性客が言ってる内容は明らかに僕についてだ。この前に僕がやった事とランクアップした内容を話している。
「……あの、何かさっきから周りの人達、僕の事を警戒してませんか?」
「まぁ、名を上げた冒険者の宿命みたいなものですね。ベルさん、この前まで大活躍してましたから」
僕の問いにシルさんが答えてくれる。
名を上げた冒険者、か。まぁ確かに言われてみれば、僕は派手にやっていた。
この前の
「でも、ベルさんがそこまで気にする必要はありません。人気者になったと思えばいいんですよ」
「はぁ……」
つまりは軽く聞き流して、前向きに考えるようにって事かな?
まぁ確かに、周囲の事を気にし過ぎて神経質になったら身がもたない。多分だけど、有名なアイズさんや【ロキ・ファミリア】の人達もそんな風にしてるかもしれない。
「そう言えばベルさん、ちょっと聞きたいんですが」
「何ですか?」
「ミアお母さんが早朝にベルさんを見かけたと言ってましたが」
「え゛……」
シルさんの発言に思わずドキッとする僕。別に疚しい事はしてないけど、何故かシルさんに言われるとそう感じてしまう。
僕の反応を見た彼女は、少し含んだ笑いをしながら言ってくる。
「どうやら本当みたいですね。そんな朝早くからどこへ行ってたんですか?」
「あ、あはは。ま、まぁ、色々とありまして……」
言えない。此処で【ロキ・ファミリア】のアイズさんと手合わせしてるなんて言ってしまったら、色々と不味い事になってしまう。
アイズさんからも、なるべく秘密にして欲しいと言われてる。僕としても賛成だった。有名になったからとは言っても、未だ団員が僕だけしかいない弱小ファミリアだ。有名な【ロキ・ファミリア】の幹部と手合わせしてるなんて知れ渡れば、色々なところから反感を喰らってしまうかもしれないので。
「ベルさん、教えて下さいよ~。もしかして、私に言えない事なんですか~?」
「で、ですから……!」
「シル、そこまでです」
更なる追及をしようとするシルさんに、リューさんが待ったをかけてくれた。
「いくらシルでも、そうやって根掘り葉掘り聞き出そうとするのは感心しません」
「え~、リューは知りたくないの?」
「クラネルさんは冒険者なのですから、冒険者でない私達が聞くのは野暮だと言ってるのです」
「……もう。そう言われたら、聞けなくなっちゃうじゃない」
そう言ってシルさんは嘆息しながら僕の追及を止めてくれた。リューさんには感謝だ。
彼女は事情があってウェイトレスをしてるけど、この前の
「と、ところでリューさん、僕は今度ダンジョン中層18階層に行こうと思ってまして……」
「18階層、ですか」
リューさんに内心感謝しながら話題を変えた。それを聞いた彼女は少し真剣な顔になる。
「ふむ………。確かに
酒場で観戦したような言い方をしてるリューさん。けれど実際は間近で僕の力を見ており、前以て中層に三日も籠り、更にはゴライアスを単独撃破した事も教えたから、問題無いと判断してくれた。
「それを聞いて安心しました。あと、そこには冒険者達が作った『リヴィラの街』と言うのがあるみたいですね。一度行ってみようかと思ってるんですが」
「あそこは……正直言って、余り個人的にはお勧めしません。特にクラネルさんのような方は」
「え?」
さっきとは打って変わるように、眉を顰めながら言った。
そう言えば講習の時にエイナさんも似たような事を言ってたな。僕一人で『リヴィラの街』へ行くのは危険だって。
「どうしてです? ギルドの講習で、『リヴィラの街』は冒険者にとって補給地点だと知りましたけど、実は違うんですか?」
「間違ってはいません。ですがリヴィラは地上の店と違って、法外な価格で取引されています。例えば……一番安価なポーションでも倍以上の値段で販売されてます」
「ば、倍以上!?」
余りの高さに僕は思わず吃驚した。
ミアハ様の
「更には『魔石』や『ドロップアイテム』などを売る換金所では、安定しているギルドの半額以下の金額で買い取られます」
「え、ええ~……。そんな問題だらけな街なのに、どうしてギルドは取り締まらないんですか?」
「向こうは地上の運営で手一杯だからです。クラネルさんもご存知でしょう? ギルドの職員達が地上にいる冒険者達の対応に四苦八苦しているのを」
「ええ、それは……」
エイナさんが他の冒険者達の対応に忙しくて、前の講習では大した時間が取れなかった。
「リヴィラの冒険者達もギルドの目が届かないの知っているから、平然と違法行為を行っていると言う訳です。なので、クラネルさんみたいな正直な方が一人で行くのは危険でしょう」
「な、なるほど……」
道理でエイナさんが行かない方が良いと言う訳だ。
確かに僕はキョクヤ義兄さんや周囲からかなりのお人好しだって言われてる。もし何も知らずに『リヴィラの街』に行ったら、店側の冒険者達から色々と騙されているかもしれない。
リューさんに訊いといてよかった。やはり事前に知っておかないと、後悔してしまう事になる。
「と、少し危険な場所のように説明しましたが、確かにあそこは冒険者にとって重要な補給地点である事は間違いありません。限界以上の魔石やドロップアイテムを所持していても邪魔なので、先へ進む為には売らざるを得ません」
ふむふむ。じゃあ僕の電子アイテムボックスが満杯状態になったら、そこで売るしかないって事か。アレは一応それなりに入るけど、万が一の事を考えておかないといけないかもしれないな。僕一人だけで売りに行こうとすれば、リューさんが言ったように安く買い取られてしまうけど。
「クラネルさんがどうしてもリヴィラに行くと言うのであれば、仲間を連れて行った方が良いですね。あそこでの知識を持っている冒険者を」
「仲間ですか……」
確かに僕一人で行くより、誰かと一緒に同行してくれる方が良いかもしれない。けど問題は……誰が僕とパーティを組んでくれるかだ。
今のところ、僕がまともに話せる冒険者は【ミアハ・ファミリア】のナァーザさん、【ロキ・ファミリア】のアイズさんとティオナさんにフィンさん等の幹部勢ぐらいだ。
ナァーザさんは理由があってダンジョンに行けないから無理だ。アイズさん達は言うまでもなく、都市最高派閥の【ロキ・ファミリア】相手にそんな事は出来ない。
アイズさんとティオナさんだったら、個人的な善意で手伝ってくれると思うけど後が怖い。周囲から反感を喰らってしまうかもしれないので。けれど、現場での知識も知っておきたい。
……………あ、待てよ。ちょっと忘れかけてたけど、確か明日はフィンさんに【ロキ・ファミリア】遠征参加の返答をする日だった。
僕の中では既に断るつもりでいた。しかし、『リヴィラの街』だけでなく、ダンジョンでの経験と知識が豊富な【ロキ・ファミリア】なら……。
今まではデメリットばかりしか考えてなかったけど、充分なメリットもある事に漸く気付いた。【ロキ・ファミリア】と同行する事で、彼等が培った経験と知識を盗めるかもしれない。アイズさんとの手合わせで、彼女の戦い方を盗む為の観察をしたように。
「う~ん……やってみる価値は充分にあるかも。だけどなぁ……」
「ベルさん?」
「急に考え込んで、どうされたのですか?」
僕が頭の中で【ロキ・ファミリア】の遠征参加に傾き始めて考えてると、シルさんとリューさんが不可解そうに声を掛けてきた。
声を掛ける二人に気にしないで考え込んでいると――
「はっはっ、パーティのことでお困りかあっ、坊主!?」
「へっ?」
突然の大声に僕は素の声を出しながら振り向く。
その先には此処のお客――冒険者の男だった。後ろには仲間と思われる二人がこっちを見ている。
「仲間が欲しいんなら、俺たちのパーティに入れてやろうかぁ? 俺達は坊主と同じく『Lv.2』だ。中層にも行けるし、『リヴィラの街』についてもよ~く知ってるぜ」
「え、えっと……」
人を外見で判断してはいけないんだけど、どう見ても信用出来ない感じがする。
それにこの人、物凄くお酒臭い! これだけ酷いって事は、相当酔っているんだと思う。
「けどその代わり……このえれぇ~別嬪なエルフの嬢ちゃん達を貸してくれよ!?」
……うわぁ、うわぁー。酒に酔ってる所為で本音を言っちゃったよ、この人。
それを聞いたシルさんは凄いしかめっ面で、リューさんは………完全に無表情となっていた。僕には分かる。リューさんがあんな顔をするのは、相当怒っている証拠だ。
僕が止めようとするも、ずっと黙っていたリューさんが口を開く。
「失せなさい。貴方達は彼に相応しくない」
「……お、おいおい、妖精さんよぉ? このガキが前の
「ええ、理解しているのなら帰りなさい」
リューさん、何もそこまで言わなくても……。
完全に立ち上がる機会を失ってしまった僕は言葉を挟めなかった。今はどうしようか判断に悩んでいる。
「ひでぇことを言うなよぉ? こんなひょろそうなガキに俺が――」
一歩近づいた冒険者の男は、自分の左手をリューさんの肩に置こうとした。
「触れるな」
その瞬間――電光石火の如く動いた。
リューさんは持っていた空のジョッキを、ガポッと男の手を容器の中に収めた直後、そのままひねった。
「いっ、でででででででででぇぇっ!?」
すごっ……。体格差があっても、リューさんはものともしない様に捻じ伏せ、床に尻餅をつかせた。
ジョッキから手を放した後に彼女は告げる。
「私の友人を蔑む事は許さない」
「こ、このアマッ! 女でも容赦しないぞ!」
完全に激昂した男は物凄い剣幕でリューさんに襲い掛かろうとする。
すると、僕の後ろから大爆発が起きた。
(ええっ!? こ、今度は何っ!?)
またしても予想外な展開に、半ば混乱して振り向くと……今度こそ言葉を失った。
少し先にある奥のカウンター……水平だった細長い
それもその筈。何故ならそこには、握り拳を振り下ろしたミアさんの姿があるからだ。
「騒ぎを起こしたいなら外でやりな。ココは飯を食べて酒を飲む場所さ!」
ミアさんの剣幕に店内は静まり返っていた。当然それは僕も含まれている。
「ひっ……お、おい行くぞ!」
対象となってる男は怯み、仲間を連れて店から出ようとするも――
「アホタレエェ、ツケはきかないよぉ!!」
「は、はいぃっ!!」
ミアさんの怒号に男は有り金を全て置いていき、そのまま逃げて行った。
店を後にした冒険者達が消えた後、客達は何事も無かったかのように飲み直そうとする。
凄いな。『Lv.2』である筈の冒険者達相手に睨みと怒号だけで追い出すなんて……やっぱりミアさんは只者じゃない。相当な実力者と見て間違いないだろう。
僕がミアさんの恐ろしさを認識してると、シルさんが立ち上がってぱんっと両手を鳴らす。
「それじゃあ、仕切り直しをしましょうか?」
……この人も強いなぁ、別の意味で。
新しく飲み物をたのんでそれぞれにグラスを渡す笑顔のシルさんに、僕は苦笑せざるを得なかった。
それから僕は、彼女達と一緒に美味しい夕飯を興じる事となった。同時に、リスクはあっても【ロキ・ファミリア】の遠征に参加する決心もして。
漸くベルの遠征参加に持っていくことが出来ました。と言っても、少し無理がある参加理由ですがご容赦ください。