ベルがアークスなのは間違っているだろうか 作:さすらいの旅人
「ベル君、もう一度確認するよ。本当にいいんだね?」
「はい。僕だけで探索するにも限界があります。なのでここは危険を承知で、行ってみようと思います」
「…………はぁっ。本当なら行って欲しくないけど、ベル君がそう決めたならボクは見守るしかないね」
「っ! それじゃあ」
「但し! 明日の返事にはボクも同行させてもらうよ! ロキには色々と言っておきたい事があるからね!」
「は、はぁ……」
「ところで、場所はどこなんだい?」
「ええと、参加するんだったら【ロキ・ファミリア】の
「よ、よりにもよってロキのところか……」
「そう言えば、神様。以前から気になってたんですが、どうしてロキ様と仲が悪いんですか?」
「ふんっ! 向こうが喧嘩を売ってくるからだよ!」
「そう、なんですか……?」
「ああ。この際だからベル君に教えてあげるよ。ロキの性格の悪さや、平べったい胸並みの小さな器とか――」
(何だろう。物凄く長くなりそうな気がする……)
☆
翌日の昼。
僕と神様こと、【ヘスティア・ファミリア】は【ロキ・ファミリア】の
以前見た時と同じく、まるで城のような外見をした建物だ。高層の塔がいくつもある。あの
当然、あの中にはアイズさんが生活している。一目惚れした女性の家に行くと考えると緊張してしまうのは内緒だ。
因みに今朝はアイズさんとの手合わせはしていない。昨日に前以て、今日は用事があるから手合わせ出来ないと伝えているので。それを聞いたアイズさんは少し残念がっていたけど。
「ふんっ! 僕の新しい
「神様、対抗意識を燃やしてどうするんですか」
忌々しそうに不機嫌な顔をする神様を僕は宥める。これから会いに行こうとするのに、来て早々不機嫌になられるのはちょっとなぁ。
何とか宥めながら門に辿り着くと、そこには以前に会った門番の人達がいた。
「っ! お、お前は、ベル・クラネル!?」
「ど、どうも。お久しぶりです……」
僕を見た門番の一人が驚いた顔をしていた。
思わず挨拶をした僕に、神様が怪訝そうに見る。
「何だいベルくん。この門番君とは知り合いなのかい?」
「え、ええ、まぁ……ちょっと訳ありと言うか」
目の前にいる門番達が【ロキ・ファミリア】に入団しようとする僕を追い出したんです。なんて流石に言えない。
フィンさんから聞いた話だと、副団長のリヴェリアさんからのキツイお説教+謹慎処分を下されていた。再び門番をしていると言う事は、謹慎処分が解除されたんだろう。
言葉を濁した僕の返答に神様が首を傾げてると、門番の一人がすぐに口を開く。
「よ、用件は何だ!?」
「えっと、【ロキ・ファミリア】の団長フィン・ディムナさんにお話しがあって参りました。お取次ぎを願います」
「団長に話だと!? そんな話は聞いて――」
「お、おいバカ! もうこの前の事を忘れたのか!?」
僕の台詞に激昂する門番に、もう一人の門番がすぐに止めた。
それを言われてハッとしたのか、激昂していた門番はすぐに落ち着こうとする。
「………そ、そこで少し待っていろ。団長に確認してくる」
フィンさんに確認をしようと、門番の一人が
一連の流れを見ていた神様は顔を顰めている。
「ちょっとベルくん、何なんだいあの失礼な門番君は? と言うより、向こうの団長君が言ってた場所は本当に此処で合ってるのかい?」
「ええ、その筈なんですが……」
神様に言われて僕は少し不安になってきたので、思わずもう一人の門番の人へ視線を向ける。
「あのぅ、僕が此処に来る事をフィンさんからは……?」
「……すまんが、団長からそう言った話は一切聞かされていない。今は確認中だから、もう少し待て」
どうやら門番の人達には何も知らされていないようだ。もしかしてフィンさん、言うの忘れていたのかな?
かれこれ待つこと数分後、門番の人が戻って来た。そして、初めて見る黒髪の男性が僕と神様を中に招いて案内しようとする。
~ベルとヘスティアが門の前で待っている間~
「ん~、今日が返答の最終日だけど……やはり不参加、か」
「どうやらお主が予想した通りの結果じゃな」
「まぁ、仕方あるまい。ベル・クラネルと話す機会を失ったのは非常に残念だが、今回は諦めるとしよう」
執務室に設置されてる椅子に座っているフィンが呟くと、別の椅子に座っているガレスと立ちながら両腕を組んでいるリヴェリアがそう言い返した。特にリヴェリアは本気で残念がっていた。彼女としては、四十以上扱うベルの魔法について物凄く知りたかったので。
因みにロキはこの場にいない。現在、団員達の【ステイタス】更新を行っている最中だ。遠征前により、多くの団員達が更新して欲しいと詰め寄って来ている為、ロキは今朝からずっと大忙しである。
「じゃあ今回の遠征は予定通りに進め――」
フィンが前回と同じく未到達領域に進むプランを決定しようとする直前、執務室の扉からコンコンとノックする音がした。突然の事に、フィン達は思わず扉へと視線を向ける。
『団長、少しよろしいでしょうか?』
「ああ、構わない。入ってくれ」
『失礼します!』
扉越しから先日に謹慎処分を解除した門番の声が聞こえたので、フィンは一旦話を中断して入るよう促す。
許可が下りると扉が開き、門番の一人が入った途端に緊張した様子を見せる。リヴェリアはベルを追いだした件もあってか、彼の顔を見た途端に少し目を鋭くなっている。
「どうした? 外で何か問題でも起きたのか?」
「い、いえ! 決してそう言う訳では……!」
少し低い声で尋ねるリヴェリアに、ビクッと怯えた。彼女から直々にキツイ説教をされた門番は、今でも軽いトラウマになっているので。
門番の心情を察したフィンがすぐにリヴェリアを落ち着かせようとする。
「まぁまぁ、リヴェリア。それで、何があったんだい?」
フィンが優しく問うと、門番はすぐに答える。
「じ、実はベル・クラネルと、主神らしき方が来ておりまして……」
「何だって?」
「「ッ!」」
門番からの予想外な返答にフィンだけでなく、ガレスとリヴェリアも目を見開く。
「確認するが、それは本当かい?」
さっきまでベルが遠征に不参加だと思っていたので、フィンは聞き間違えじゃないかと念押しをした。
「は、はい。ベル・クラネルが団長にお会いしたいと言ってまして……。私は何も聞かされていないので、その確認をしに来ました」
「……成程ね。そうかそうか」
ベルが遠征に参加するのがかなり低いと見ていたから、フィンは門番に言うのを忘れていた。……ではなく、敢えて話さなかったのだ。
既に知っての通り、目の前の門番は以前にベルを追い出した前科がある。更には勝手な判断で、これまでの入団希望者達を追い出した事も含めて。その為にリヴェリアからの説教と謹慎処分を下した。
門番が心から反省していると分かったフィンはガレスと一緒にリヴェリアを説得し、先日に漸く謹慎を解除させた。説得をされたリヴェリアは多少の不満はあれど、門番に『次は無いぞ』と言って解除を了承している。
と言っても、フィンは彼を完全に信じた訳ではない。時間が経てば、また同じ事をするんじゃないかと少し不安に思っていたので。そこで少し試してみようと考えた。『もしもベル・クラネルが僕に会いたいと言われたらすぐに通してくれ』と言う内容を通達してない状態で、彼等が一体どんな対応をするのかを。これでもし再び門番としての仕事を真っ当せず、また勝手な判断で追い出そうとしたら、最終的な処分を下そうとフィンは考えていた。
だが、門番達は見事な対応をした。ベルが来てもすぐに追い出そうとしなかった事に、フィンは瞑目しながら笑みを浮かべた。これなら安心して仕事を任せられると。
試されていた事を今も全く知らない門番は、フィンの反応を見て思わず不安そうな顔になる。
「あ、あの、私は何か、間違ってしまいましたか?」
「いや、何でもない。ただの独り言だよ。それで、そのベル・クラネルと彼の主神はどうしているんだい?」
「今は門の前で待たせています。本当に団長と話があるのか判断に迷いまして……」
(出来れば中に入れて応接室へ案内して欲しかったんだけど……まぁ、追い出さなかっただけ良しとしよう)
フィンは門番の行動に対して少し評価を落とすも、それでも及第点と言う事にしておいた。
「分かった。ではすぐに通してくれ。言うまでもなく丁重にね。それと、ラウルも連れて二人を応接室へ案内するよう言ってくれ」
「了解しました。では、失礼します!」
指示を聞いた門番は即座に了承した後、執務室から出た。
彼がいなくなったのを確認すると、フィンは安堵の息を漏らす。
「ふぅっ。どうやら彼はちゃんと仕事をしてくれたようだね。安心したよ」
「お主にしては随分と意地の悪いやり方じゃのう」
「これで奴が懲りずにまた同じ事をしたら、私は本気で見限っていたぞ」
門番が試されていた事を、ガレスとリヴェリアは当然知っている。なので敢えて口出しをしなかった。
「まぁ、取り敢えずは合格だから良しとしよう。それより今は、お客様の対応を優先しないとね」
そのお客様とは、勿論ベルとヘスティアの事だ。それを聞いたリヴェリアはさっきと違う表情をする。
「フィン、彼等と対応するのはお前とロキだけか? もしよければ私も一緒に――」
「すまないが、此処でガレスと一緒に待機してもらう。君が一緒にいたら、途中で彼の魔法についての話になってしまうからね」
「……そんな事はないぞ」
「その台詞で充分に信用出来んわい」
少し間を置いて目を逸らすリヴェリアに、ガレスはすぐに突っ込む。
フィンとガレスは今もよく鮮明に記憶している。
あれは本当に酷かった。とても団員達に見せられるものじゃなかったと思う程に。
その後、フィンはベル達に会う前にロキを連れてこようと、一旦執務室から出て行った。
けれど――
「…………やはりここは副団長の私も一緒に話をした方が」
「じゃから止めいと言うておろう。お主は本当に昔っから魔法の探求心があり過ぎるわい」
数分後に考えを改めて応接室へ行こうとするリヴェリアに、ガレスが即座に止めていた。
リヴェリアを執務室に待機させ、彼女が暴走しないようガレスも待機させたフィンの判断が正解だったのは言うまでもない。