ベルがアークスなのは間違っているだろうか   作:さすらいの旅人

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最近、ベルの中二病シーンが書けていない。

戦闘になったら書くと決めてるんですが、中々進めれませんね。

端折る事が出来ない自分が恨めしいです。


ロキ・ファミリアの遠征⑫

 門番の人が戻ってきた後、僕達はすぐに【ロキ・ファミリア】の本拠地(ホーム)へ招かれている。

 

「どうぞ、ここが応接室っす。ロキと団長が来るまで、そこの椅子に座って待って欲しいっす」

 

「はい、分かりました」

 

 案内している黒髪の男性――ラウルさんは最初、僕達を見て少し驚いた顔をしつつも丁寧に挨拶をして招き入れてくれた。彼が傲慢な態度を取る門番と違って、優しい人である事に内心安堵しながら。

 

 応接室へと案内されてる僅かな間だったけど、話してる際にやっぱり優しい人だと思った。もしあの時、この人と会っていたら【ロキ・ファミリア】に入団していたかもしれない。今となっては、もう過ぎた話だけど。

 

 中に入った僕と神様は、内装も綺麗な作りだと思いつつも椅子に座る。中々に座り心地の良い椅子だと思いながら。

 

「全くっ、ロキのくせにこんな贅沢な椅子を……!」

 

「ですから神様ってば……」

 

 椅子の座り心地に何故か神様は不服そうな顔をしていた。ロキ様と不仲なのは既に知ってるけど、何でもかんでも悪態を吐くのは勘弁して欲しい。

 

 すると、いつの間にか紅茶入りのカップを用意していたラウルさんが目の前のテーブルに置いてくれる。

 

「粗茶っすが、どうぞ」

 

「あ、別にそこまでしなくても……」

 

「団長のお客様なんすから、これくらい持て成すのは当然っす」

 

「そうだよベルくん。ボク達はお客様なんだから、もっと堂々とするんだよ」

 

 ラウルさんの台詞に神様が頷きながらカップを手にして、そのまま口に運んで紅茶を飲もうとする。

 

 僕も恐る恐ると言った感じで神様と同じく紅茶を飲む事にした。あっ、美味しい。あんまり紅茶は飲まないけど、上品な味わいがあって何杯も飲めそうだ。

 

 美味しい紅茶を味わって飲んでいると、応接室の扉が開く。神様と一緒に振り向くと、先日会ったフィンさんの他にもう一人いた。以前、『豊穣の女主人』でお会いした【ロキ・ファミリア】の主神ロキ様だ。

 

「いやーお待たせや! おう坊主、久しぶりやなぁ! この前の戦争遊戯(ウォーゲーム)見たでぇ~! 凄かったやないか~! 元気しとった?」

 

「こらロキぃ! ボクへの挨拶はどうしたぁ!? ボクも客なんだぞ!?」

 

 僕だけ挨拶をするロキ様に、神様がすぐに抗議をした。

 

「ああん? ドチビはおまけやろうが! 此処に招いとるだけありがたいと思えや!」

 

「何だとぉ!?」

 

 ロキ様が神様と顔を合わせて早々、互いに睨み合いながら口喧嘩が始まった。突然の展開に僕だけじゃなく、ラウルさんやフィンさんも唖然としている。

 

 どうやら本当に聞いた通り仲が悪いようだ。普段から笑顔を見せる優しい神様が、まさかロキ様相手にここまで言うなんて……。

 

 多分だけどフィンさん達も似たような事を考えていると思う。自分の主神がいきなり喧嘩腰になるなんて、みたいな感じで。

 

「か、神様、どうか落ち着いて下さい! 喧嘩する為に来たんじゃないんですから!」

 

「彼の言う通りだよ、ロキ。貴女が神ヘスティアと不仲である事を聞いているが、此処でみっともない喧嘩は勘弁してくれないかな?」

 

 僕とフィンさんが宥めると、二人は一先ず落ち着いてくれた。その後にフィンさんとロキ様も椅子に座る。因みにラウルさんは既に退室済みだ。

 

 此処まで来るのにちょっとした一悶着はあったが、【ヘスティア・ファミリア】と【ロキ・ファミリア】の会談が始まろうとする。

 

「今回は【ロキ・ファミリア】の皆様が遠征の準備でお忙しい中、急な訪問をしてすみませんでした」

 

「謝罪は結構だよ。此処へ来るように言い出したのは僕だからね。さて、時間も惜しいから早速本題に入ろう。ベル・クラネル、一応確認させてくれ。君が此処へ来たのは、先日に話した件の返答をしに来たと言う事でいいんだね?」

 

 さっきまでと違って、フィンさんは真剣な表情だった。先日は人の好さそうな笑みを浮かべながら僕に遠征の話を持ち掛けたが、今回は全く違う。【ロキ・ファミリア】団長のフィン・ディムナとして僕に尋ねている。

 

 ロキ様は空気を読んでいるように、僕の返答を聴く姿勢だ。神様は僕の対応を見て驚いているも、何も言わないでいる。

 

「はい。今日は神様を連れて、【ロキ・ファミリア】の遠征参加の返答をしに参りました」

 

 それを分かっている僕も、彼と同じ表情で返答する。

 

 アークスになる前の僕だったら、こう言った礼儀作法はせずにガチガチに緊張していただろう。

 

 けれど今の僕は、オラクル船団で様々な研修だけでなく、キョクヤ義兄さん達からも学んだので、一通りの事を学んだ。それがまさか、自分の世界に戻って実践するとは思いもしなかったけど。

 

「なら訊こう。返答は?」

 

「今回の遠征は………謹んで参加させて頂きます。冒険者としては未だ経験の浅い若輩者ですが、【ロキ・ファミリア】の足手纏いにならないよう、精一杯努めさせていただきます」

 

「承った。急な話でありながらも承諾してもらい真に感謝する。【ロキ・ファミリア】を代表して君を歓迎しよう」

 

 僕の返答にフィンさんは一瞬笑みを浮かべるも、すぐ平静になって感謝の言葉を言う。

 

 すると、さっきまで黙っていたロキ様が急に立ち上がる。

 

「ちゅうわけで、堅っ苦しい会話はここまでや! よろしゅうなぁ~。ウチもフィンと同じく歓迎するで~! ウチは自分のこと、ベルって呼ばせてもらうが構わんか~?」

 

「え、ええ。勿論構いません」

 

「そうか。ならよろしゅうなぁ~」

 

「こ、こちらこそよろしく……」

 

 にっこりとした顔で言うロキ様に、僕は少し戸惑いながらも言い返す。神様は少し不愉快そうな顔をしてるけど。

 

「にしても自分、まだ若いのに礼儀作法も出来とるやないかぁ~」

 

「えっと、目上の方々と話すには必要な事だと学びましたので」

 

「ほう、そうなんか~」

 

 流石に別の世界で学んだとは言えないが、言ってる事は嘘じゃない。

 

 下界に来た神々は能力を色々と制限されているけど、下界の人間が嘘を吐いているかどうかを見抜く事が出来ると神様が前以て教えてくれた。

 

 僕が嘘を言ってないから、ロキ様は表情を一切変えずに話を続けようとする。

 

「自分みたいな子がドチビの眷族(こども)やなんて……ほんまに勿体ないなぁ~」

 

「こらロキぃ! それはどう言う意味だぁ!?」

 

 神様は聞き捨てならなかったのか、すぐさま立ち上がってロキ様を睨みながら叫ぶ。またしても喧嘩になりそうな気がしたので、僕とフィンさんは再び宥めようと座らせる。

 

「ロキのところの団長君。一応言っておくけど、もしボクのベル君を扱き使うような事をしたら承知しないからね」

 

「勿論です、神ヘスティア。既に聞いているとは思いますが、今回の遠征で彼には後方支援の治療師(ヒーラー)として活動して頂くつもりです」

 

 フィンさんの言う通り、僕は前線で戦わない事になっている。中層以下のモンスターと直接戦う事が出来ないのは残念だけど、それでも参加出来るだけの意味はある。

 

 中層以下のモンスターと戦えるかもしれないけど、今の僕にはそれに関する情報が全くない。だから、今回の遠征でリヴィラの事や、ダンジョン下層についての知識を得る事に専念する。知識があるのと無いのとでは、下層に行く時の心構えが全く違うので。

 

 とは言え、もし不測の事態が起きた場合は僕も戦いに参加させてもらう。いくら後方支援でも、戦える術があるのに黙って見過ごすわけにはいかないので。フィンさんもそれは充分に理解している筈だ。ダンジョンが自分達の思惑通りに事が運べると思っていないと。

 

「あと、彼が遠征に参加する際の報酬ですが――」

 

 フィンさんが神様に話してる最中、応接室の扉が突然バンッと開いた。

 

 僕達が思わず振り向くと――

 

「やっぱりアルゴノゥト君だぁぁ!」

 

「てぃ、ティオナさん!?」

 

「また君かぁ!」

 

 そこには【ロキ・ファミリア】の幹部ティオナさんがいた。彼女の予想外な登場に僕と神様だけじゃなく、フィンさん達も驚いた顔だ。

 

「ちょっとティオナ! アンタ何やってるのよ!? しかも団長の前で!」

 

 その後にはティオナさんの姉――ティオネさんも現れた。けれどその人は、ティオナさんの行動を咎めている様子だ。

 

「すみません、団長! このバカをすぐに下がらせますので!」

 

「ちょっと放してよ、ティオネ! アルゴノゥト君が来てるのに!」

 

「いいから今は大人しく言う事を聞きなさい! これ以上、団長に恥をかかせるんじゃねぇ!」

 

 前と同じく僕に接近しようとするティオナさんを、ティオネさんが必死になって止めている。更には口調も悪くなって。

 

 そしてティオネさんは強制的に応接室の扉を閉めた。扉を閉ざされた向こうからは二人の言い争いが聞こえるけど。

 

「……あ~、すまない、ベル・クラネル。ティオナ達には、君が此処に来る事を教えてなくてね」

 

「そ、そうなんですか……」

 

 すると、フィンさんは急に取り繕うように言ってきた。

 

「団長君、あのアマゾネス君は極力ベル君に近寄らせないでくれるかな?」

 

「な、なるべく善処はしますので……」

 

 苦笑しながら答えるフィンさんだけど、あまり自信がない感じだ。

 

 多分、自分に好意を抱かれてるティオネさんの事もあるから、強くは言えないと思う。この前さり気なく訊いた時、凄く遠い目をしていたのを今でもハッキリと憶えている。あれは相当苦労しているんだと悟ってしまう程に。

 

 神様は一応信じてくれたみたいで、確認したフィンさんは話を戻そうとする。

 

「ゴホンッ。では話を戻しますが、僕たち【ロキ・ファミリア】からの報酬は――」

 

 そう言ってフィンさんは報酬の額――1000万ヴァリス以上を提示した。

 

 それを聞いた僕は余りの多さに目を見開くも、神様だけは違った反応をする。

 

「団長君、ボクの大事なベル君を行かせるんだからもう少し上げてくれ!」

 

「調子に乗んなドチビぃ! これでも適正以上過ぎる報酬額なんやぞ!」

 

 もう一声と要求する神様にロキ様が抗議した。

 

 確かにロキ様の言う通り、フィンさんが提示した報酬は相当な金額だった。有名になったとは言え、結成したばかりの弱小ファミリアにしては余りにも大金だ。加えて新人冒険者である僕一人だけの報酬だから、余りにも破格すぎる。

 

「申し訳ありません、神ヘスティア。【ロキ・ファミリア】として、報酬の増額を承る事は出来ません。なので、僕からの個人的な報酬で上乗せするつもりでいます。どうかそれでご納得頂けないでしょうか?」

 

「むぅ……分かったよ。但し、個人的な報酬だからって安く済ませようとしたら承知しないからね!」

 

「勿論です」

 

 フィンさんは神様の発言を予想していたのか、すぐに頷いた。

 

 上乗せと聞いた神様はこれ以上の要求する姿勢は見せない様子だ。

 

「では報酬についてご納得頂けたようなので、次に――」

 

 今度は遠征に行く際、僕が治療師(ヒーラー)として行動する際の予定についての話を始める。

 

 詳しい事は現地でも説明されるけど、今回の遠征で主にラウルさんと行動するよう言われた。あの人も【ロキ・ファミリア】の幹部で、フィンさんが信頼出来る人のようだ。

 

 フィンさんからの説明に僕は何の反対も無かった。僕と神様に優しく対応してくれたラウルさんなら問題無い。神様も僕と同じ考えだったのか、フィンさんの説明に一切文句を言わなかった。

 

 因みに僕の遠征参加については、他のメンバーには教えていないようで、後で説明するようだ。僕が参加する事に難色を示す人はいるんじゃないかと訊くが、そこはロキ様とフィンさんが対応すると言った。面倒な事にならなければいいんだけど。

 

 そして、明後日に行われる遠征についての一通りの説明が終わった。

 

「以上だが、ベル・クラネルから何か質問はあるかい?」

 

「質問と言うより確認なんですが……もしも不測の事態が起きた場合、僕も戦闘に参加していいんでしょうか?」

 

「ああ、構わない。寧ろ参加してくれた方が、こちらとしては非常に助かる」

 

「そうですか、では次に……僕が倒したモンスターの魔石やドロップアイテムは?」

 

「ん~、君一人だけで倒したら君の物になるね。けれど僕達と共闘した場合は要相談かな」

 

「ならダンジョンで見つけたアイテムも同様ですか?」

 

「そこは君の判断に任せるよ」

 

 ふむふむ。遠征に参加するから色々と制限されるけど、何かあったら臨機応変に動けるようだ。これでもし勝手に動いて契約違反とか言われる心配は無いだろう。

 

 組織や派閥と言うのは大きければ大きいほど規則に縛られがちになる。多くの人員を纏めるには、どうしても規則が必要なのだ。アークスも多くの規則を守り、必要な基準に達する事が出来なければならない。

 

 そう考えると、【ロキ・ファミリア】と言う都市最高派閥はそんなにガチガチ思考じゃない。まぁフィンさんが僕を遠征の参加話を持ち込む時点で、柔軟な思考の持ち主だと初めから分かってはいたけど。

 

「あぁ、そうだ。君の参加については僕とロキが団員達に説明するとは言ったが、ウチの副団長と主要幹部には前以て紹介しておこうか」

 

「副団長と主要幹部、ですか?」

 

「憶えてるかい? 以前酒場で、僕の近くにいた女性エルフと男性ドワーフの二人を」

 

「えっと……」

 

 フィンさんに言われて思い出してみると……確かにいた。長い緑髪をした凄く綺麗な女性エルフと、厳つい顔をした初老の男性ドワーフが。

 

 その二人はギルドで既に知っている。【ロキ・ファミリア】の副団長――リヴェリア・リヨス・アールヴさんで、その主要幹部――ガレス・ランドロックさんだったな。

 

 リヴェリアさんはオラリオでも最強の魔導士と呼ばれているとエイナさんも言ってた。恐らくだけど、僕が使うテクニックなんかよりも強力な魔法を使うだろう。次にガレスさんは種族に見合った力と耐久に特化して、前衛をメインとした戦士。言うまでもなく、僕が力勝負しても絶対に勝てないだろう。

 

 ファントムクラスの僕は魔法による後衛や、剣での前衛は出来る。けれど特化型の二人と違うので、その分野だけの勝負を挑まれたら絶対に勝てない。昨日まで手合わせをしていた、剣に特化したアイズさんのように。ファントムクラスなどの上級職は状況に応じた戦いは出来るけど、一つの分野に特化した相手には勝てない。尤も、前衛特化のハンタークラス、後衛特化のフォースクラスなら話は別だけど。

 

 そう言えば話は変わるけど、確かリヴェリアさんだったかな。僕が使うテクニックに凄い反応をしていたのって。

 

「その顔を見ると思い出したようだね。副団長が女性エルフのリヴェリアで、主要幹部が男性ドワーフのガレスだ。特に、そのリヴェリアが君の扱う魔法に物凄く興味を持っていてね」

 

「僕の魔法に?」

 

「四十以上の魔法を扱う事が出来る君と是非とも話をしてみたいと言っててね。この前の戦争遊戯(ウォーゲーム)を観戦してる時には、食い入るように見ていたんだ」

 

「へぇ、そうなんですか。僕程度の魔法にそこまで……」

 

「いやいやベル、うちから見ても自分が使こうてた魔法は驚愕もんやからな」

 

「そうだよ、ベル君。戦争遊戯(ウォーゲーム)が終わった後は本当に大変だったんだからね」

 

 フィンさんと僕の話にロキ様と神様がそう言ってきた。

 

 確かに二人の言う通りだ。もしも神様が僕を連れてメレンに避難しなければとんでもない事になっていたかもしれない。

 

「と、ところでフィンさん、そのリヴェリアさんはどうしてるんですか? その人が副団長なら、此処でフィンさんと一緒にいる筈なのでは?」

 

「……最初はそのつもりだったんだが」

 

 僕が話題を変えると、フィンさんは急に答え辛そうな感じだ。

 

「ベル・クラネル。先に言っておくが、君も知っての通り、リヴェリアはオラリオの中でも屈指の魔導士とも呼ばれている。それもあってか、魔法に対する探求心が人一倍強くてね。もしも此処に連れてきたら、遠征そっちのけで君の魔法について延々と談議をするかもしれないと思って、敢えて連れて来てないんだ」

 

「そ、そう、なんですか……」

 

 僕のテクニックについて延々と談議するって……それは流石に勘弁して欲しいかも。

 

「遠征時にはそうならないよう僕やガレスが目を光らせておくけど、もしも捕まった場合は覚悟しておいた方がいい」

 

「な、なんか聞けば聞くほど、段々そっちの副団長君があのアマゾネス君並みに危険な気がするんだけど……大丈夫なのかい?」

 

「安心せい、ドチビ。リヴェリアはティオナと違って常識のある副団長や」

 

 神様の発言にロキ様がリヴェリアさんを擁護する様に言い返した。

 

 ついさっき突然現れたティオナさんの事もあるから、擁護したくなるのは分からなくもない。

 

 あ、今更だけどティオナさんはどうしてるのかな? ティオネさんに無理矢理連れて行かれたけど、あの人がそう簡単に諦めるとは……これ以上は止めておこう。下手に考えてるとまた現れそうな気がする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方、その頃――

 

「そこを通してよティオネ!」

 

「ダメだって言ってんだろうが!」

 

 強制的に中庭へ連れて来られたティオナは、ティオネと激しい口論をしていた。それを遠巻きに見ている団員達は訝っているも、今の二人に関わると碌な事が無いと思ってスルーしている。

 

 因みにティオナがベルとヘスティアが応接室にいるのを知ったのは、応接室から出たラウルから聞いたのだった。『ベル・クラネルが本拠地(ホーム)に来ている』と。それを聞いた瞬間、ティオナはベルに会おうと応接室へ駆け付けるも、ティオネによって無理矢理中庭へ連れて行かれたのであった。

 

 そんな中、口論している二人に声を掛けようとする者がいる。 

 

「ティオナ、ティオネ、どうしたの?」

 

 声を掛けたのは【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタインだった。

 

 それを聞いた姉妹は一旦口論を止めて、彼女の方へと振り向く。

 

「あれ、アイズ?」

 

「珍しいじゃない。貴女が今も本拠地(ホーム)にいるなんて」

 

 ティオナとティオネが不思議そうにアイズを見ている。

 

 いつものアイズであれば、予定が無ければ遠征の準備期間ギリギリでもダンジョンに行こうとする。しかも帰ってくるのは夕方、もしくは夜中頃に。

 

 そんな彼女が昼過ぎになっても本拠地(ホーム)にいるから、ティオナとティオネが不思議に思うのは当然だ。

 

「本当は今日も出掛ける予定だったけど、急に無くなっちゃって……」

 

 アイズの言う通り、今日は本来であればベルと手合わせをしている予定だった。けれど昨日、ベルから『明日は大事な用事があるので、手合わせはお休みにさせて下さい』と言われた。

 

 彼からの急なお休み発言に、アイズは内心凄いショックを受けた。ダンジョンでモンスターと戦うより有意義に感じていたアイズとしては、思いも寄らない不意打ちだったので。

 

 それにベルにはこうも言われた。

 

『アイズさん。余計なお節介かもしれませんが、明日は本拠地(ホーム)で一日過ごしてみたらどうですか? 強くなりたいのでしたら、身体を休めるのも必要な事ですし』

 

 ベルのアドバイスを受けたアイズは言われた通り実践しようと、今日はダンジョンに行かないと決心する。

 

 本拠地(ホーム)で過ごすのは余りにも暇だったので、遠征の準備をしている団員達の手伝いをする事にした。けれど、準備をしている団員達に話しかけてもやんわりと断られる始末。

 

 やっぱりダンジョンに行こうかと考えるも、ベルからのアドバイスを無下にする訳にはいかないと踏み止まり、今もこうして本拠地(ホーム)で退屈な時間を過ごしているのであった。

 

 因みに本拠地(ホーム)にレフィーヤはいない。ベルに対抗心を燃やしてアイズと特訓したがってる彼女だが、今日は別の予定がある為に朝から出掛けていた。もし彼女が今日のアイズは一日中、本拠地(ホーム)にいると知ったら状況は変わったかもしれないが。

 

「ところで、ティオナ達はどうして大声を上げていたの?」

 

「あ、そうだ! 聞いてよアイズ! 今、応接室にアルゴノゥト君が来てるんだよ!」

 

「……ベルが?」

 

 ティオナからの予想外な発言にアイズは目を見開く。

 

「どうしてあの子が此処に?」

 

「分かんないよ。だから会いに行こうとしたんだけど、ティオネが――」

 

「当たり前でしょう! 団長の前だったのよ!?」

 

 当然だと言い返すティオネの台詞を聞いてアイズはすぐに納得した。ティオナとティオネが此処にいる訳を。

 

 常識的に考えれば、普通に考えて客人のベルが団長と話してる最中に入ったティオナの行動は完全なマナー違反だ。ティオネは分かっているのだが、フィンを第一優先にしている為、それについて指摘をしていない。

 

「とにかく! 団長が話を終えるまで、誰であろうと此処から先は一歩も通さないわよ!」

 

「何でよぉ!?」

 

 門番同然な台詞を言うティオネだが、アイズはティオナと同様ベルに会いたがっていた。何故今日の手合わせを休みにして、自分達の本拠地(ホーム)へ来ている理由を問う為に。

 

 すると―― 

 

「るっせぇぞ、馬鹿ゾネス共! さっきから何ゴチャゴチャ騒いでいやがる!?」

 

 今度はベートが現れた。

 

 朝から誰にも知られないよう自主練をしているベートだったが、小休止をしようと部屋に戻ろうとしていた。そんな時に中庭でティオナとティオネが騒いで耳障りだった為、黙らせようと態々やって来た。

 

 けれど、ティオナとティオネは聞こえてないのか、今も口論を続けている。アイズは聞こえたのか、すぐにベートの方へと振り向く。

 

「ベートさん」

 

「あ? 何でアイズが……まぁいい。おいアイズ、何でアイツ等は此処で騒いでいやがんだ?」

 

 ベートもティオナ達と同様、アイズが本拠地(ホーム)にいる事を疑問に思うも後回しにした。

 

 無駄に騒いでいるアマゾネス姉妹の理由を尋ねると、アイズはすぐに答えた。

 

「はぁ!? 何で兎野郎が本拠地(ここ)に来てやがるんだよ!?」

 

 ベルがいると知った途端、ベートもアマゾネス姉妹と同様に叫ぶのであった。

 

 中庭で(アイズを除く)【ロキ・ファミリア】の幹部勢が騒いでいる光景に、遠巻きから見ている他の団員達は疑問を抱く一方だ。しかし、誰一人注意する者はいない。あそこに入ってまで注意をする度胸が無い為に。




ベルが【ロキ・ファミリア】の本拠地(ホーム)にいる事で過敏に反応する幹部勢でした。

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