ベルがアークスなのは間違っているだろうか   作:さすらいの旅人

6 / 155
今回は少々短いです。


オリオンの矢⑥

「申し訳ありませんでした!」

 

『……………………』

 

 地べたに土下座をするアルテミス様に僕達は無言となっていた。当然、これには訳がある。あの蠍型モンスターを倒した後だった。

 

 アイズさんの参戦もあって、蠍型モンスターは全て撃破。それによって地面には大量の灰がばら撒かれており、多数の魔石が転がっている。

 

 もう危険じゃないと判断した僕は、すぐさまアルテミス様に詰め寄った。それなりの実力がある女神だからって、一般人の女の子と大して変わらない神様がモンスターと戦うのは自殺行為だと。

 

 アルテミス様は僕の言葉にキョトンとした後、途端に笑い出した。『そんな風に言われたのは初めてだ』と言われ、目に涙を浮かべながら。その数秒後には駆け付けた神様からも無茶をするなと怒られたが。

 

 ティオナさんに僕達が助けた子供の相手を任せている中、お礼を言ってくる母親から一通りの話を聞かせてもらった。どうやらあの蠍型モンスターはいきなり出現したらしく、近隣の村を見境なく襲っているらしい。危険だと思った母娘が避難しているところを、あのモンスターに襲われて今に至ると。

 

 あのモンスターは初めて見たけど、戦って分かった事がある。アレは明らかにオラリオのダンジョンにいるモンスターに匹敵する強さだった。上層レベルどころか、明らかに中層レベルで、『Lv.1』の冒険者が倒せる相手じゃない。

 

 本来だったら地上に出現するモンスターはダンジョンで産み出されるのと違って、己の魔石を削って繁殖させているから能力が著しく衰退している。地上で中層モンスターがいても、強さは上層モンスター程度になっているから『Lv.1』でも充分に倒せる。以前【ミアハ・ファミリア】から地上向けの冒険者依頼(クエスト)で、下層クラスの強さを持つ筈のブラッドザウルスが、『Lv.2』になったばかりの僕でも簡単に倒せたのが何よりの証拠だ。

 

 しかし、あの蠍型モンスターは地上で繁殖したものじゃない。まるでダンジョンから生まれたんじゃないかと思う程に魔石が大きかった。アルテミス様は何か知っていそうな雰囲気だったけど、結局は分からず仕舞いとなってしまった。

 

 それはそうと、問題はこの後だった。助けた母娘と別れる際アルテミス様は人助けとして、パン以外の食料を全部渡してしまったんだ。これには流石にティオナさんが抗議し、当の女神様は自分は平気だと言うも――

 

『アルテミス様はよくても、アタシ達はもうすっかりお腹ペコペコなんだよ!』

 

 思いっきり叫ぶティオナさんの台詞に漸く理解して、アルテミス様は僕達の前で土下座をしていると言う訳である。

 

「もう何なの、このポンコツ女神様は~!」

 

「……確かにロキとは違う意味での、ポンコツな神様みたい……」

 

「お、お二人とも、相手は女神様なんですから……」

 

 憤慨するティオナさんに、ジト目になって呟くアイズさん。僕がフォローするも、二人の機嫌は直らなかった。

 

「はぁ~……なんでこうなったかなぁ……」

 

 これには流石の神様も、神友の行動を見て完全に呆れて嘆息していた。

 

「そんなに違うんですか? 確か前に恋愛アンチだと言ってましたが……」

 

 僕が思い出しながら問うと神様は頷く。

 

「ああ、怖いくらいに毅然として、女傑というか……。天界じゃ沐浴を覗かれただけで……」

 

 そう言って神様は天界にいた頃のアルテミス様について話そうとする。

 

 

『恥を知れ! この豚ども!』

 

 

 と、覗きを仕出かした男神様達に弓で制裁して捕らえた後、汚物を見るような目で罵倒していたそうだ。

 

 因みに――

 

『『『『『ありがとうございまーす!』』』』』

 

 捕らえられた男神様達は反省しないどころか、逆にお礼を言っていたそうだ。その中にはヘルメス様も混ざっていたらしい。

 

「いや~、そんな事もあったな……うんうん」

 

「……………」

 

 当時の事を懐かしむように頷くヘルメス様に、僕は呆れて何も言えなかった。加えてアルテミス様を除く女性陣から冷たい視線を向けられるが、当の本人は全く気にしてない様子。

 

「まっ、今日はもう日も暮れるし、ここに止まって明日の朝出発しよう」

 

「え~? じゃあ、食事は?」

 

 ヘルメスさまはこの話題はもうお終いと言わんばかりにこの後の事を話した途端、神様が焦ったように聞いた。

 

「今日は我慢だね」

 

「そんな~~。お腹空いたよ~~」

 

「す、すまない……」

 

 食料は先程の母娘に渡してしまった為、無情な返答をされたことで神様は両手両膝を地面に付いて情けない声をあげた。

 

 今の状況を漸く理解してくれたのか、アルテミス様は再び僕達に向かって謝り続けている。

 

「どうするアイズ? いっそ18階層みたいに食料調達してみる? 目の前に森があるから、それらしい食べ物は多分あると思うけど」

 

「そうだね。でも、それが本当に食べても大丈夫なのかは分からないけど」

 

 ティオナさんとアイズさんが少々不安そうに話していた。

 

 前の遠征で、二人はダンジョン18階層にある『迷宮の楽園(アンダーリゾート)』に留まっていた際に食料調達していた。勿論、その時は僕も加わってやっていた。

 

 しかし、此処はダンジョンと違って地上だ。アイズさんが不安になるのは無理もない。いくら二人が【ロキ・ファミリア】だからと言っても、オラリオの外に関する知識は殆ど無いも同然だった。益してや地上にある森の食べ物については猶更に。

 

 ふと見上げた時、リンゴみたいに大きな木の実があった。アレは食べれる筈だけど、確か調理法は……ダメだ、思い出せない。お爺ちゃんが生きていた時に聞いたけど、異世界でアークスになろうと沢山勉強してたから、この世界に関する地上の知識は殆ど忘れてしまっている。

 

 だから――

 

「では、今日のご飯は僕が用意します」

 

『えっ?』

 

 電子アイテムボックスに収納している、もしもの時の食料を出す事にした。

 

 皆が一斉に、期待を寄せるような感じで僕を見ている。

 

 

 

 

 

 

「うま~い!」

 

「アルゴノゥト君の作った料理すっごく美味し~!」

 

「いや~、まさか君に収納スキルがあったなんて驚いたよ。いつの間にそんな便利なものを身に付けたんだい?」

 

「あははは……そこは企業秘密と言う事で」

 

 現在焚火の周りに、僕達は夕食を食べていた。

 

 電子アイテムボックスから出したのは鍋一式と、オラリオ産の肉に野菜、そして塩と香辛料。鍋料理にする為、切った肉と野菜を下拵えしてから水が入ってる鍋に入れ、塩や香辛料も加えた後に蓋をして焚火で煮込む。約一時間後にグツグツと煮立って鍋料理は完成。

 

 温かい料理が出来た事に大変喜び、神様とティオナさんは幸せそうな顔をしながら食べている。ヘルメス様からの質問には答えられなかったので、言葉を濁してやり過ごしていた。

 

 あと、鍋料理以外にも用意しているのはあった。それは――

 

「はむはむ……! 久しぶりのジャガ丸くん……」

 

 アイズさんが夢中になって食べているジャガ丸くんだった。因みに食べているのは小豆クリーム味で、他の味もある。

 

 電子アイテムボックスに食料を積んでいるのには理由がある。以前に参加した【ロキ・ファミリア】の遠征を経験して、今後の為に食料も持っておこうと決めたからだ。

 

 毒妖蛆(ポイズン・ウェルミス)の件があって、急遽18階層に留まる事となった際に食糧不足となっていた。あの時はあそこにあった森から調達とかしていたので辛うじて大丈夫だったけど、もしそれがなかったら本当に危うかった。

 

 その経験をした僕は今後また遠征に関するダンジョン探索の他、長期の旅になる時の事を考え、もしも用として電子アイテムボックスに食料を積む事にした。幸いコレは保存機能がある優れ物なので、そう簡単に腐ったりしない。その分、ドロップアイテムを収納するスペースが無くなっちゃったけど。

 

 オラリオに戻ったら買出しをしておこうと考えながら鍋料理を食べていると、アルテミス様が何故かジッと僕を見ている。

 

「オリオン。貴方は本当に凄いのだな。強いだけでなく、料理まで振るえるとは」

 

「いやぁ、まぁ、料理に関しては、ある人から教えてもらって……」

 

 僕が作った鍋料理を教えてくれたのは、アークス船団にいるフランカさんだ。キョクヤ義兄さんが食事を疎かにする事を知って、あの人は僕に健康的な物を食べさせるよう色々と教えてくれた。その一つが今食べている鍋料理のポトフだ。他にも手軽に作れる料理もあって、本拠地(ホーム)で神様にも披露している。

 

 すると、僕はふと気付いた。僕が用意したポトフやジャガ丸くんを、アルテミス様が先程から一口も手を付けてない事に。

 

「食べないんですか?」

 

「ああ……私は……」

 

 アルテミス様は途端に気まずそうな表情となって目を伏せた。

 

「そうですか……」

 

 敢えて深く聞こうとしない僕は訝るように見る。

 

 この一週間アルテミス様の傍にいたけど、神威が全く感じ取れなかった。前にも言った通り、可能な限り抑え込んでいるとしか思えない。

 

 やっぱり何かおかしいと疑念を抱いている中、突然目の前に肉が乗ったスプーンが差し出された。

 

「あ~ん」

 

「へっ?」

 

 僕が素っ頓狂な声を出しながらも、アルテミス様は僕にスプーンを差し出して食べさせようとしている。

 

「はい、あ~ん」

 

「えっ、いや……」

 

 アルテミス様は戸惑う僕に気にせず催促するも――

 

「そんなことさせるかぁ~~!!」

 

「アタシだってぇぇぇ!!」

 

 さっきまで美味しくポトフを食べている神様とティオナさんが動き出した。

 

「「くらえ~~!」」

 

「えっ、ちょ……ぐえ! むぐぅ~!」

 

 二人が揃って持っているスプーンを振りかぶって僕の口に突き入れた為、突然の不意打ちを受けた僕はそのまま後ろに倒れてしまった。

 

「ベル君が苦しんでいるじゃないか! 止めるんだ、アマゾネス君!」

 

「ヘスティア様こそ止めなよ~!」

 

「ベル、大丈夫?」

 

 苦しんでいる僕を余所に、ジャガ丸くんを食べていたアイズさんが僕に寄り添ってくれた。




感想お待ちしています。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。