ベルがアークスなのは間違っているだろうか 作:さすらいの旅人
ちょっとした騒動が起きるも、漸く遠征の時間になった。
団長のフィンさんが今回の遠征を行う目的――未到達領域ダンジョン59階層の到達と、【ヘスティア・ファミリア】の僕と【ヘファイストス・ファミリア】の
それらが全て終わった後、一班のフィンさんとリヴェリアさん達が先行し、僕がいる二班はもう少し後になってから行く予定となっている。
「ベルくん、遠征の間は自分と一緒に行動してもらうっすよ」
「はい。よろしくお願いします、ラウルさん」
ダンジョンに行く前に、僕はラウルさんと一通りの確認をしている。
本当だったらラウルさんは一班として向かう予定だったけど、僕が遠征に参加した事で二班に変更となったようだ。それを聞いた僕は申し訳ない事をしたと謝るも、彼は『全然気にしてないっすから』と笑いながら言ってくれた。
他にも、女性
その中で特にリーネさんが僕に話しかけてきた。主にベートさん関連で。さっき僕がベートさんと話していた内容を気になっていたみたいで、僕がそのまま教えると、何故か羨ましがられた。何でだろうか?
「そう言えばベル君、アイズさんと仲良さげに話してたっすね」
「あ、それ私も気になってた。君、いつの間にあの子と仲良くなったの?」
「え!? あ、いや、それはですね……」
ラウルさんの発言に、アキさんが興味津々な感じで聞いてきたので答えるに答えれなかった。
言える訳がない。昨日までアイズさんと手合わせしていただなんて言えば、僕は【ロキ・ファミリア】から総スカンを喰らってしまう。
僕がどうやって誤魔化そうかと考えてる中、突然レフィーヤさんが此方に近付いてきた。
「ベル・クラネル! アイズさんと仲が良いからって調子に乗らないで下さいね! 貴方はあくまで他所の! 【ファミリア】なんですから!」
「そ、そうですね、レフィーヤさん」
他所の【ファミリア】と矢鱈と強調するレフィーヤさんに、僕は取り敢えず頷いておいた。
この人は僕がアイズさんと手合わせしている事を【ロキ・ファミリア】の中で唯一知っているから、色々と思うところがあって注意したんだろう。
「レフィーヤ! これから遠征に行く同行者に失礼な事を言うでない!」
「はうっ!」
僕を注意した彼女の行動を見て頂けないと思ったガレスさんが叱った。それによってレフィーヤさんは涙目となる。
因みにレフィーヤさんの台詞に同感だったのか、僕達の会話を聞いてる人達もうんうんと頷いている。やっぱりと言うか、アイズさんって【ロキ・ファミリア】内で人気あるんだと分かった。
そしてある程度の時間が経った後、僕たち二班もダンジョンへ侵攻する事となった。今は何の問題もなくダンジョン7階層まで進んでいる。
何度も言ってるけど、今回僕は後方支援の
それでもいつでも戦えるように武器は展開する。ファントム用の武器ではなく
「ベルくん、その武器は何すか?」
遠征に参加する以上、どの道は僕の手の内を明かす事になってしまう。なので、ある程度の情報を公開する予定だ。
とは言え、武器の性能について細かく教えるほど、僕はそこまでお人好しじゃない。質問をしてきたラウルさんには悪いけど、後方支援用の武器とだけ答えておいた。
因みに周囲にいる人達も、僕の武器が気になるのかチラチラと此方を見ていた。確かにこの世界の人から見れば、ブリンガーライフルの形状はとても変わっているから、周囲の人達が気にならない訳がない。けれど、僕は敢えて気にしないでいる。アークスとしての心構えの中に、どんな状況でも冷静になるようにと教えられているので。
道中、上層のモンスターと出くわすも、【ロキ・ファミリア】の団員達が対処していた。なので僕の出番は一切無く、後方で大人しくしている。それでも油断はせず、周囲の警戒は怠っていない。以前、気を抜いて歩いてる最中、突然モンスターが現れて不意を突かれた事があるので。
結果としてダンジョン上層では何の問題も起きなく、このまま中層へと向かう。
この時の僕は全くと言っていいほどに予想してなかった。中層であのモンスターと再会する事を露知らずに。
☆
場所は変わって、ダンジョン中層内。
とある【ファミリア】の二人が
「オッタル、そろそろあの
「無論だ。既に仕上がってる。まさかお前が伝令として来るとはな、アレン」
「うるせえ。俺が来たのはあの方の命だ。誰が好き好んでテメエに会いに行くかよ」
「……まあいい。では、かの兎が来たなら奴を解き放つか」
「待て。
「遠征だと? ………ならば引き離す必要があるな」
「フレイヤ様もそう仰られていた。あまり気は進まねぇが、俺の方で誘導させる。その間にテメエは奴等の足止めをしてろ」
「良かろう」
『ヴゥゥゥゥゥゥ………』
二人から少し離れている所で何かが呻いていた。
ソレは向こうが会話してる内容など全く分からないが、以前に見逃された相手――あの
☆
ダンジョン中層へ侵攻するも、今のところはコレと言って問題は起きなかった。
上層と違ってモンスターの強さや数が格段に上がってる中層だけど、【ロキ・ファミリア】の前では大した障害になっていない。椿さんも含めた【ヘファイストス・ファミリア】の
ラウルさんから聞いた話だと、椿さんは『Lv.5』の実力者らしい。
未だに誰も負傷しておらず、後方支援の僕は相も変わらず何もする事がなくて暇も同然だった。隣にいるリーネさんはハラハラしながら周囲を見ている。
すると、近くの壁がいきなり罅が入ったと思いきや、そこから一匹のヘルハウンドが僕とリーネさんに襲い掛かろうとする。
「トライインパクト零式!」
素早く前方を切りつけ更に斬撃を飛ばす遠近両用の
これは本来斬撃を飛ばす事が出来ないものだけど、フォトンアーツの性能や動作を変化させるカスタマイズ――PAカスタマイズによって使用出来るようになっている。
他にも武装エクステンドやテクニックカスタマイズ、更には時限能力インストールなどのクラフトがあるけど、それを説明すると色々と長くなるので省かせてもらう。
『ガッ!?』
上半身と下半身が見事に分かれたヘルハウンドは倒れて、上半身のみジタバタしてたけど、数秒後には動かなくなった。本来の武器じゃない
「…………………」
僕が一瞬でモンスターを倒したのが予想外だったのか、リーネさんは呆然としていた。
「リーネさん、怪我はありませんか?」
「っ! は、はいっ!」
声を掛けると、彼女はハッとしながらも返事を返してくる。
「そ、それにしても、その魔剣も凄いですね」
「へ? 魔剣って何の事ですか?」
「ですから、その手に持ってる魔剣でヘルハウンドを……」
「ああ、さっきのは魔剣の力じゃなくて、僕の技ですよ」
どうやらリーネさんはブリンガーライフルを魔剣と思い、それの力で倒したと勘違いしていたようだ。
「わ、技……? あの風の斬撃みたいなものが、ですか?」
「ええ。と言っても、
「今のが技と言うのは真か、ベル・クラネル?」
話してる最中、いつのまにかこちらに来た椿さんが割って入ってきた。
彼女が来た事に僕は内心驚き、リーネさんもビクッとしながら驚いた顔をしている。
「椿さん、ガレスさん達と前線で戦っている筈では……?」
「お主がその奇妙な武器でヘルハウンドを倒したのが
偶然って……。僕の思い過ごしでなければ、戦闘中でもチラチラと僕の方を見ていたような気がするんですが。
「それよりもだ、ベル・クラネル。さっきのは本当に魔剣の力でなく、お主の技なのか?」
「え、ええ。仰る通り、僕の技でして――」
「椿! 戦闘中じゃと言うのに、いきなり持ち場を離れるでない! 早く戻らんか!」
言ってる最中に前線で戦ってるガレスさんの怒鳴り声が聞こえた。それは勿論、椿さんに対してだ。
しかし、怒鳴られた対象の椿さんは、邪魔が入ったみたいに少し煩わしそうな表情となってる。
「全くガレスの奴め、大事な所だと言うのに……」
「いやいや椿さん、今は戦闘中ですから戻りましょうね」
気分を害してる椿さんを宥めるように言う僕に、彼女は仕方ないと言った感じで持ち場に戻る。
僕とリーネさんは苦笑しながら見守ってる中、モンスターの戦闘はあと少しと言った感じで終わりとなりそうだ。
それにしても、やはり【ロキ・ファミリア】は相当な実力者揃いばかりだ。ラウルさんが指揮してる中核メンバーの人達は、何度も出現する中層モンスターに慌てる事無く迎撃しつづけている。
僕はもう既に中層へ進出してるけど、仲間と一緒に戦った事はない。この前やった
リーネさんと一緒にラウルさん達の戦いを見守ってる最中、ふと気配を感じた。僕達が進んでいるルートとは別の道から、僕に対する敵意と殺意が込められた気配が。
「少し離れてて下さい、リーネさん」
「え?」
キョトンとしてる彼女に気にせず離れるように言ってると、僕が凝視している暗闇の先から誰かが現れた。
現れたのは……以前に闇討ちをしてきた
「ぐっ!」
「よう。久しぶりだな、
僕が咄嗟に
「あ、貴方が何故、此処に……!?」
「この前の借りを返しに来た、とでも言えば分かるか?」
どうやらこの人は闇討ちで手傷を負われた時の恨みを晴らす為に来たようだ。しかし、何でよりにもよって遠征中の時に……!
「ぼ、僕は今、【ロキ・ファミリア】の遠征に来てるんです!」
「んなもん知った事か」
今はリーネさんと少し離れているけど、ここであの時の戦いを始めてしまったら確実に被害を被ってしまう。今は何とかこの人を別の場所へ誘導させないと。
しかし、誘導させるにしても、
「ベルくん、大丈夫っすか!?」
「加勢するぞ、ベル・クラネル!」
「お主、そこで何をしておるか!?」
すると、此方に気付いたラウルさんと椿さん、そしてガレスさんが向かってくる。三人を見た
「場所を変えるぞ、
そう言って
本当ならこの状況で追ってはいけないけど……あの人がまた不意打ちを仕掛けてくる可能性が充分にあるので、ここは敢えて向こうの誘いに乗る事にした。
「待て!」
「ダメっす、ベルくん! 深追いしちゃ!」
ラウルさんが止めようとするも、僕は彼の制止を振り切って後を追おうとする。
彼を追って数分経つと、少し狭い道から見渡せる程の
「あれ? あの人、急に姿が……」
自分で場所を変えると言った本人が姿を消す……と言う行動に、何か裏があるんじゃないかと僕は考える。
だとしても、あの如何にプライドが高そうな
………取り敢えず、今この場で考える事じゃない。一旦、ガレスさん達の所へ戻って、独断行動してしまった事を謝らないと。
そう思って引き返そうと思った直後――
『――ヴ―――ォ』
何かが聞こえたので、僕は足を止めた。
今のは……何か聞き覚えのある音だ。
「………………………」
ゆっくりとした動きで首を動かす。
音源の方角は
僕が警戒しながら目を凝らす中、何かが此処へ来ようとしていた。
そして――
『……ヴゥゥ』
モンスターが現れた。
ここはダンジョン中層なので、モンスターが出てくる事に何の違和感もない。
けれど、僕は
『オオオオオオオォオオォオオォオオオ……』
ミノタウロス。
以前から何度も倒しているモンスターだが、アイツはそれとは全く違う。
頭部にある二本の角の内、片方が折れている。更には……大剣を手にしている片腕には
「まさか、あの時のミノタウロス……!」
あの傷跡に僕は見覚えがある。僕が前にダンジョン中層へ来た時、不意打ちを仕掛けてきたミノタウロスを迎撃した際に与えた傷だ。そして僕が唯一逃がしてしまったモンスターでもある。
しかし、目の前のミノタウロスは以前と違う。片方の角を失い、片腕に傷跡はあって負傷した姿であっても、明らかに通常のミノタウロスとは比べ物にならない威圧感を発していた。
『ヴヴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!』
驚愕している僕を余所に、向こうは途端に咆哮した。
圧倒的とも言える威圧とド迫力。並みの冒険者の戦意を簡単に挫かせる大音塊。
「ッ! ………こんなデカい雄叫びは、
不意を突かれてしまった僕は思わず気圧されそうになるも、すぐに武器を
あのミノタウロスは僕が倒さないといけない。
どうやってあれ程まで強くなったのかは分からないけど、もし遠征中の【ロキ・ファミリア】と遭遇したら多大な被害を被ってしまう。
僕が逃がしてしまったから、責任を持って倒さないとダメだ。今度は絶対に逃がさず、必ず仕留めて倒す。
もしまた逃がしてしまえば最後、僕は一生取り返しのつかない恥を背負う事になる。
故に、今度は油断なんか一切しないで倒す。
『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!』
構える僕を見た途端、ミノタウロスは弾丸になった。
恐ろしい速度でルームを突っ切り、僕との間合いを喰らいつくす。
眼前に迫った巨牛が、その大剣を袈裟に振り下ろした。
『ヴォッ!?』
その寸前に僕の姿と同時に気配も消した。
戸惑いの声を出すミノタウロスに、僕は背後から出現し、一気に勝負を付けようと首を斬り落とそうとする。
『ヴヴォォオオオオッ!』
「何っ!?」
しかし、突然後ろを振り向いたミノタウロスが大剣を振るった。
僕が咄嗟に刀を盾代わりにすると、ぶつかった大剣の衝撃によって吹っ飛ばされる。
「ぐっ!」
ミノタウロスの攻撃力の高さに僕が顔を歪めながら吹き飛ばされるも、何とか態勢を立て直しながら両足を地面に着地させた。
「アイツ、僕の攻撃を読んでいたのか……?」
予想外の反撃を喰らった僕は驚愕していた。
以前と同じく姿と気配も消した筈なのに、まるでお見通しと言わんばかりに反撃をした。
モンスターが相手の戦い方を学習する。そんなのはギルドの講習でも一切無かった。
この世界にいるダンジョンのモンスターは、
けれど、目の前にいるミノタウロスは違う。さっきのは明らかに学習した反撃だった。僕が背後から仕掛けると分かっていて、反撃に移っていた。
それにアレをよく見てみると、角や傷以外に体毛が赤黒い。何だかまるで進化、もしくは強化したように思えるような変貌だ。
あくまで僕の個人的な考えに過ぎないが、アレは明らかに普通のミノタウロスとは比べ物にならない程に強い。
そう結論した僕は、言葉が通じないのが分かっていながらも言い放つ。
「すまなかった。どうやら僕は心のどこかで甘く見ていたようだ。故に謝罪する」
『ヴ?』
ミノタウロスは不可解そうな声を出しているが、それでも僕は気にせずに続ける。
「ここから先は、僕の闇の力を全て出すと誓おう。冒険者ではなく、一人のアークスとして……全力でお前を倒す!」
『!』
フォルニスレングから呪斬ガエンに切り替え、アイズさんとの手合わせで見せなかった潜在能力――『呪斬怨魂・改』を開放する。
呪斬ガエンから発生する闇の力を見たのか、ミノタウロスは警戒しながら持っている大剣を構える。
「“白き狼”ベル・クラネル。いざ参る!」
『ヴオオオオオオオオオオオッ!』
僕の名乗りに、ミノタウロスが呼応するように再び弾丸となって突撃してきた。
☆
ベルがミノタウロスと戦う少し前に時間を遡る。
襲撃者を追跡するベルを連れ戻そうと、ガレスは二軍メンバーのラウルとクルス、そしてレフィーヤを連れて捜索していた。
因みに二班の部隊はアナキティと椿に任せていた。椿もベルの捜索をしたがっていたが、戦闘中に勝手な事をした為にアナキティと共に待機するようガレスに命じられているので。
本当であれば部隊を纏めているガレスも待機しなければならない。しかし、ベルが【フレイヤ・ファミリア】に所属する『Lv.6』の【
「それにしてもベルの奴、まさか【
「いやいやガレスさん、感心してる場合じゃないっすから!」
「でも、意外だったな。ベル・クラネルがラウルの指示を無視して追跡するなんて」
「全くですよ! 何考えてるんですか、あの
感心するガレスに突っ込むラウル。意外そうに言うクルスに、同調しながらも憤慨するレフィーヤ。
思った事を口にしながらも追跡する四人だったが、
『!』
ガレス達は一斉に足を止めて警戒する。
それもその筈。目の前にいる
オッタルの登場にガレスは勿論、ラウル達もこれ以上ないほどの緊張感が走っていた。
しかし、悠然と佇んでいるオッタルは向こうの反応を気にする事なく、ガレスに話しかけようとする。
「久しぶりに手合わせ願おうか、ガレス」
「何じゃと? それは一体どう言うつもりじゃ」
「敵対する積年の
「……ワシ等四人相手に手合わせとは、随分と思い切った事を言いよるのう」
大剣を構えながら言い放つオッタルに、ガレスは呆れたように言い返す。
「用があるのはお前だけだ、ガレス」
「「「ッ!」」」
オッタルの発言にラウル達は顔を顰める。自分達など眼中にないと言われているも同然だったので。
しかし、それはほんの束の間で、言い返そうとはしなかった。
目の前にいる相手は都市唯一の『Lv.7』の第一級冒険者であり、『Lv.4』のラウルとクルス、『Lv.3』のレフィーヤでは全く歯が立たない相手だと理解しているから。
リヴェリアに匹敵する魔法を撃つ事が出来るレフィーヤであれば何とかなるかもしれないが、あのオッタルが易々と見逃すはずがない。もし魔法を使おうとしたら、真っ先に妨害されているのが目に見えている。
「ほう? それはつまり、ラウル達は見逃すと思っていいのじゃな?」
「……………………」
「ふむ…………。ラウル、クルス、レフィーヤ、お主等は先に行け」
少し考える仕草をするガレスだが、何かを決断したみたいで、ラウル達に行けと命じた。
その指示にラウル達は驚愕しながらもガレスに申し立てようとする。
「ガレスさん、相手は【
「いくらガレスさんでも、お一人で相手するなんて危険過ぎです!」
「わ、私も魔法の援護ぐらいは出来ます!」
「その気持ちだけは受け取っておく。じゃが今はベルを連れ戻す事が先決じゃ」
まだ始まったばかりの遠征に、ここでラウル達にもしもの事があれば先行してるフィン達に申し訳が立たない。故にガレスは被害を最小限に抑えようと、ラウル達をベルの捜索に向かせようとする。
「早く行かんか、ヒヨッコ共! ワシに気を遣っとる暇があったら、さっさとベルを連れ戻してこい!」
ガレスの指示に、ラウル達は行こうと武器を構えているオッタルを横切ろうとする。
念の為にと武器を構えながら警戒していたが、本当に眼中に無かったのか、オッタルは横切るラウル達を気にせずそのまま通していた。
警戒する価値は無いと見なされている事に内心憤るラウル達だが、相手が相手な為に何も言えなかった。自分の無力感を必死に押し殺しながらも、先へと進んでいく。
「行ったか……さて」
ラウル達が行ったのを確認したガレスは、手にしている斧を両手で持ち構える。【
「戦う前に訊いておく。【
「……いや、これは俺達の独断だ」
ガレスの問いにオッタルは少し間がありながらも答える。
それが本当であるかは分からないが、少なくとも全面戦争をするつもりはないとガレスは判断した。
「そうか。ならば粋がっておる小僧共の
斧を構えながら突撃してくるガレスに、オッタルは慌てる事無く武器を構え続ける。
「ぬぅん!」
振り下ろすガレスの斧に、オッタルの剣と衝突した直後、周囲に凄まじい衝撃波が広がった。
『Lv.6』のガレスと『Lv.7』のオッタル。ダンジョン中層で、二つの都市最高派閥の戦いが始まろうとする。
ベルが遠征に加入するだけで、原作路線と全く異なっています。