ベルがアークスなのは間違っているだろうか   作:さすらいの旅人

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今回はいつもより凄く短いです。


ロキ・ファミリアの遠征⑭、5

 ガレスに命じられて先へ進んでいるラウル達だが、三人の表情は暗かった。武器を構えてる【猛者(おうじゃ)】オッタルが、通ろうとする自分達を一切歯牙にもかけないと見なされていたから。

 

「くっ……自分が情けないっす」

 

「言うな、ラウル。俺だって同じ気持ちなんだ……」

 

「……とにかく今は、ベル・クラネルを何としてでも連れ戻しましょう……!」

 

 移動しながらもラウルとクルスが歯軋りしながら言ってると、レフィーヤは悔しく思いながらも目的を果たそうと思考を切り替えていた。

 

 後でベルに文句を言わないと気が済まない。遭遇したオッタルの件は別としても、ベルが隊を乱した事に変わりない。自分達には怒る権利はある。

 

 今のレフィーヤはベルに対する怒りでいっぱいだった。それ以前に、遠征前から元々不機嫌だったと言うべきか。

 

(あのヒューマン、ここ最近調子に乗り過ぎです! 何度も何度も朝からアイズさんと手合わせしてるだけじゃなく、二人っきりでお食事までして……!)

 

 アイズがベルと手合わせをしているのをレフィーヤは知っていた。けれど、アイズから口止めをされているから、その条件として自分も二人っきりで特訓して欲しいと頼んだ。

 

 尊敬するアイズと特訓してる中、遠征が始まる前日に、思いも寄らない情報が突如耳に入った。ベル・クラネルが【ロキ・ファミリア(じぶんたち)】の遠征に参加すると。

 

 最初は一体何の冗談かと思っていたレフィーヤだったが、今朝に集合場所でベルが現れたので、本当に参加するのだと嘆くほどに。更には何日も手合わせした事によってか、アイズがベルに対して親しげに話しかけていた。これによりレフィーヤのベルに対する嫉妬心が更に高まったのだが、本人は未だに気付いていない。

 

 ベルが新人冒険者でありながらも、相当な実力者である事をレフィーヤはそれなりに認めている。たった一人で階層主(ゴライアス)を倒し、戦争遊戯(ウォーゲーム)で【アポロン・ファミリア】に勝利した等、自分には到底出来ない事をやった。

 

 しかし、だからと言ってアイズと仲良くなる事は別だった。ベルは他所の【ファミリア】であり、【ロキ・ファミリア】の幹部である【剣姫(アイズ)】と手合わせする事自体あり得ない。寧ろ烏滸がましい。いくら強いからって、しかるべき手順も踏まずにアイズと親しくなるなんて無礼極まりない事だと。

 

 そう思いながらも遠征が始まって中層まで進んでいる際、ベルが独断行動に走った。ラウルの指示に従わなければならない筈なのに。遠征が始まって早々、完全な命令無視だ。

 

 だからレフィーヤは決断した。ベルを連れ戻した後、絶対に文句を言おうと。これに懲りて勝手な事をせず、アイズとは今後不用意に話しかけないようにと。前者はともかく、後者は明らかにレフィーヤの私怨だが。

 

 そう思いながらルームに辿り着き、ここで戦っていると思われるベルを探そうとする。

 

 しかし――

 

「な、なんすか、この広間(ルーム)は……!」

 

 ラウルが信じられないと言わんばかりに驚愕しながらも口にした。

 

 それは当然とも言える。辿り着いたルームの周囲にある地面や壁、多くある氷柱(つらら)石が食い散らかすように破壊されているから。

 

「ここへ来る途中に凄い音がしてたが……」

 

「ま、まさかこれって、ベル・クラネルがやったんですか……?」

 

 大きな音が聞こえてた事にクルスとレフィーヤが思った事を口にした直後、少し離れた所から再び大きな音がした。

 

 それを聞いたラウル達はすぐに向かい、漸くベルを見付けた。

 

「やっと見つけたっすよベルくん! 一体何が……って」

 

「あれって、ミノタウロスじゃないか!?」

 

「ど、どうして、ベル・クラネルがミノタウロスと……?」

 

 いつの間にか武器を構えているベルの先に、大剣を持っているミノタウロスがいた。ベルが戦争遊戯(ウォーゲーム)で使った剣でなく、それよりも禍々しい形状をした刀である事に、ラウル達は疑問を抱いている。

 

 しかしそれとは別に、あのミノタウロスはラウル達が知っているものとは明らかに違う。体毛が赤黒く染まっており、手にしている物も天然武器(ネイチャーウェポン)でなく、冒険者が使う大剣を装備している。

 

 ラウル達が来た事に気付いていないのか、ベルは目の前にいるミノタウロスに向かって剣を振るった。

 

「はっ!」

 

『ヴ!』

 

 ベルが連続で刀を振るった直後、彼の周囲から黒い玉のような物が出現し、それが真っ直ぐ向かっていく。

 

 それを見たミノタウロスが、持っている大剣を振り回して次々と弾き飛ばす。

 

「え? え? べ、ベルくんって、あんな魔剣も持ってたんすか?」

 

「それに反応して弾き飛ばすミノタウロスって何だよ!」

 

「って言うか、一体何なんですかこの状況は!?」

 

 魔剣らしき武器を振るうベルに、それを弾き飛ばすミノタウロス。

 

 状況を全く呑み込めていないラウル達は混乱する一方だった。

 

『ヴオオオオオッ!』

 

「ッ! ちぃ!」

 

 そんな中、ミノタウロスは反撃しようとベルに向かって素早く突撃して大剣を振り下ろす。

 

 反応に少し遅れてしまったベルが、舌打ちをしながらも刀でいなそうとする。

 

 防御するベルにミノタウロスは何度も大剣を振るうも、途端に両手で持ち構え、力を込めて振り下ろす。

 

 それを見て不味いと思ったベルは回避しようと、ファントムスキルで姿を消した。その直後、ミノタウロスが振り下ろした大剣が地面に当たると、爆発するように弾け飛んだ。

 

「ちょ! み、ミノタウロスって、あんなに強かったっすか!?」

 

「まさか、このルームにある周囲が破壊されてたのは、あれの仕業なのか?」

 

「そ、それにあのミノタウロス、明らかに普通じゃありません。……まるで、強化されてるような……」

 

 思った事を口にするラウル達。その中でレフィーヤの言ったのは正解だった。

 

 ベルと交戦しているミノタウロスは、オッタルによって鍛えられている。大剣を使いこなす特訓の他に、魔石を喰わせて『強化種』となっている。

 

 加えて、アレは以前ベルに負かされて逃げた事もあって、それを雪ごうと限界以上の強さを得ている。その悔しさ故に、ベルと交戦しているミノタウロスは『Lv.4』に匹敵する強さとなった。

 

「まさか、これ程までとは」

 

 すると、いつの間にか攻撃を回避したベルがそう言った。

 

『ヴゥゥゥゥゥ……』

 

 対してミノタウロスは彼の声に反応したように、振り向くも直ぐには攻撃を仕掛けない様子だ。まるで、ベルを警戒しているように。

 

 ベルもベルで、今まで倒してきたミノタウロスとは全く違う別格の存在であると改めて認識していた。同時に凄く厄介なモンスターでもあると。

 

(これ以上は不味いな。ラウルさん達も来てる事だから……)

 

 ベルは戦闘中にラウル達が駆け付けた事に気付いていた。ミノタウロスは未だ自分(ベル)に集中しているのか、ラウル達に気付いている様子は見せていない。

 

 本当なら強敵となってるミノタウロスとジックリ戦いたいベルだが、今は遠征中である為に、そろそろ決着を付けようと決断する。

 

 そう思いながら、ベルは抜剣(カタナ)から長杖(ロッド)――カラベルフォイサラーへと切り替える。同時に以前ゴライアスを倒す時に使ったファントムスキル――ファントムタイムをいつでも発動させる準備をしながら。




いまいちな内容だと思いますが、次回でミノタウロスとの決着がつきます。

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