ベルがアークスなのは間違っているだろうか 作:さすらいの旅人
ベルが『強化種』のミノタウロスを倒した後、第二班はどうにか18階層へ到達。合流した第一班とそのまま『深層』深部へ向かう予定だったが、第二班が途中で
「ンー……まさかオッタルと鉢合わせるどころか、その場で戦闘に突入とはね」
「あのオッタルを相手に、よく無事でいられたものだな」
「まぁの。と言っても、彼奴が何故か急に戦いを止めたから、そこまで大事にはならんかった」
小休止をしてる中、少し離れてる場所でガレスがフィンとリヴェリアに先程までの経緯を話していた。
【
オッタルがガレスと戦闘前に『
【フレイヤ・ファミリア】の行動に疑念を抱く主要幹部二人だが、他にも気になる事があった。
「ベルがリーネを守る為に態とアレンの誘いに乗ったけどミノタウロスと戦闘、ねぇ」
「そして連れ戻そうとしたガレス達の前にオッタルが現れた、か。どう考えても仕組まれたとしか思えんな」
「恐らくそうかもしれんが、ワシ等やロキが何を言ったところで無駄じゃろう」
これをロキに報告してフレイヤを訴えたとしても、当の女神が知らぬ存ぜぬと白を切るのが容易に想像出来るフィン達。
女神フレイヤもロキと同様に上手く立ち回る事が出来る策士な面もある。明確な証拠を突き出さない限り、のらりくらりと躱されるだろう。それどころか、逆に言い掛かりだと反撃してくるかもしれない。
【フレイヤ・ファミリア】と全面戦争したり、主神フレイヤを訴えるにしても、相応の準備と時間が必要になる。現在遠征中の【ロキ・ファミリア】には無理だ。益してや今回は地上でなくダンジョン内で起きた事なので、そう簡単にはいかない。
その結果、フィン達は『オッタル達が主神の神意は一切無く独断で動いて、その目的は一切不明である』と言う事で片付ける事となった。尤も、遠征後はロキに報告するつもりでいるが。
オッタルの件は一先ずこれで終わりだが、他にも気になる事があった。遠征中に独断行動をしたベルについてだ。
「それにしても、遠征開始して早々にベルがラウルの指示を無視とはね」
「まぁ余り責めないでくれ。あの小僧はリーネを守ろうとしたのじゃからな」
「分かっているさ、ガレス。ウチの団員を守ってくれたベルには感謝しているよ。咎める気は一切無い」
「しかし、そのベルがミノタウロス相手に相当苦戦したようだな」
格上殺しの実力を持っているベルが中層のモンスターに苦戦したと聞いたリヴェリアだけでなく、フィンも内心驚いていた。ベルと戦ったミノタウロスは明らかに尋常じゃないと。
「これはベルから聞いたのじゃが、どうやらそのミノタウロスは前に取り逃がしてしまったそうじゃ。そして再び会った時には、比べ物にならないほど強くなっておったらしい」
「つまり……『強化種』となってベルと再戦したのか」
「そうなったのは魔石の味を覚えたか、もしくは……
リヴェリアの推測にフィンとガレスは、その犯人が誰なのかは何となく思い浮かべる。もしかしたら【フレイヤ・ファミリア】の仕業ではないかと。しかし、何の証拠も無いので、真実は闇の中へとなってしまった。
「それは置いておくとしよう。『強化種』となったミノタウロスは、ベルが使う剣の戦い方を学習していたようじゃ。それ故にかなり梃子摺ったらしく、ベルは武器を切り替えて魔法で倒したそうじゃ。魔導士のレフィーヤ曰く、全く非常識かつ強力な魔法を使っておったらしい」
「詳しく聞かせろ、ガレス。ベルは一体どんな魔法を使ったのだ?」
魔法と聞いた瞬間、リヴェリアの目の色が変わってガレスを問い詰める。
リヴェリアとしてはベル本人に直接問い質したいところだが、遠征中にやらないようにとロキやフィンから厳命されているので出来ない。尤も、フィンやガレスの目が届いてない隙を狙ってやるかもしれないが。
「落ち着かんか。全くお主は、魔法と聞いた瞬間すぐに目の色を変えおって」
「まぁまぁ。僕も気になるから、教えてくれないかな?」
相変わらずベルの魔法にご執心である事に呆れるガレスだが、フィンは割って入るようにフォローをした。
「魔法に関してはあくまでレフィーヤから聞いたのじゃが、ベルが今回使った魔法は七つらしい」
ガレスはレフィーヤから聞いた魔法をそのまま二人に伝える。
自身の力を
出した氷塊を敵が触れた瞬間に砕けて攻撃する氷の
ミノタウロス等の体格の大きな相手を簡単に吹き飛ばす強烈な風の攻撃魔法。
敵の攻撃を止めるどころか、吸引して動けなくさせる妨害系の補助魔法。
嵐雨のような雷を発生させて敵に叩きつける雷系の攻撃魔法。
拡散した光の粒が、無数の光弾となって敵に炸裂させた光の攻撃魔法。
降り注いだ大きな光の柱で、敵の肉体を一瞬で消滅させる光の攻撃魔法。
それらの魔法全てが短文詠唱であり、最後の魔法は余りに短すぎて威力と釣り合わないほど強力な魔法であったとレフィーヤの見解らしい。魔導士の常識を簡単に壊すだけでは飽き足らず、物凄く非常識極まりない魔法でもあると。
「ンー………それはまた、随分と凄い魔法だね。僕としては攻撃魔法じゃなく、力を上昇させる魔法が気になるかな」
「そうじゃな。もしその魔法が他の者にも出来るのであれば、ワシのような前衛にとっては大変心強い」
聞いていたフィンは頬を引き攣らせながらも、ベルの魔法の凄さを改めて理解した。
そして――
「……ふ、ふふふふふふ」
一緒に聞いていたリヴェリアが何故か笑っていた。
その行動にフィンとガレスが思わず見ると、彼女はこう言い放つ。
「聞けば聞く程、私の知らない魔法ばかりではないか。力を上げる補助魔法?
「そうすると思っていたよ、リヴェリア」
「今は遠征中じゃろうが」
動き出そうとするリヴェリアに、フィンとガレスが速攻で彼女を止めようとする。
「止めないでくれ、二人とも。ベルが使う未知の魔法に、もう私は居ても立ってもいられないんだ……!」
「気持ちは分からなくもないけど、今の君は副団長として遠征に参加している事を忘れないように。ベルに【ロキ・ファミリア】の印象が悪くなる行為を、団長の僕は見過ごす事なんか出来ないよ」
「そうじゃぞ。そんなに気になるのであれば、直接見ていた弟子のレフィーヤに聞けばよかろう」
早まった行動を取ろうとするリヴェリアを阻止しようと、二人は何とか落ち着かせようと説得する。
一方、話題の中心となっているベルは――
「アルゴノゥト君、今度はあたしと一緒に行こうね!」
「ちょ、ティオナさん、僕は後方支援の
18階層に着いて早々、来るのを待っていたティオナと目が合った途端に引っ付かれていた。
ティオナの行動に奇異な目で見られるベルは居た堪れない気持ちになるも、何とか我慢しながらも対応している。
「地上で見た時から気になってたが、随分とベル・クラネルの事を気に入ってるみたいだな」
そんな中、ベルとティオナの会話に割って入ろうとする者がいた。【ヘファイストス・ファミリア】の団長――椿・コルブランドが、ベルの腕に引っ付いてるティオネを見ながら。
彼女の台詞にティオナが言い放つ。
「あたし、アルゴノゥト君とお付き合いしてるの!」
「ほう。姉の【
「いやいや椿さん、本気にしないで下さいね!? 僕とティオナさんはそう言う関係になってませんから!」
椿が信じてしまいそうになったので、ベルが即座に違うと否定した。そうしなければ、地上にいるヘスティアに何故か怒られてしまうので。
「何でよ~? アルゴノゥト君はあたしの事が嫌いなの~?」
「あ、いや、別に嫌いとかじゃなくてですね!」
悲しそうに言うティオナにベルが慌てながらも、どうやって説得しようかと必死に考えている。
そんな二人を見て椿は何となくだが、アマゾネスのティオナが何か理由があってベルに惚れたのだと察した。姉のティオネとフィンみたいな関係だと思いながら。
「まぁ、手前にとってはどっちでも良い事だ。それよりもだ、ベル・クラネル。ラウル達から聞いたぞ。お主、この前の
「え? 魔剣ですか?」
全く身に覚えがないように問うベルに椿は頷く。
「うむ。禍々しい形状をした刀を振るった際、黒い魔力の塊を放っておったそうではないか」
「………ああ、呪斬ガエンの事ですか」
内容を聞いたベルは、自身がミノタウロスに使っていた
「ふむふむ、呪斬ガエンか。メモメモ……と。何とも興味深い
「って、何でメモを?」
「気にするな。さてベル・クラネル、お主の武器を手前に見せて――」
「ちょっと椿! アルゴノゥト君はあたしのなんだから、勝手に約束しないでよ!」
「って、ティオナさん!?」
自分の惚れている男が他の女と親しげに話すのを見て気に食わなかったのか、ティオナはさせまいと割って入った。
グイッと腕を引っ張られるティオナの行動にベルが困惑していると、椿は呆れた感じで言う。
「別に良いではないか。手前はベル・クラネルの武器について話しているだけなのだから」
「ダメ! どうせ椿の事だから、アルゴノゥト君から色々と訊き出すつもりだよね? そうはいかないから!」
「むぅ……」
ベルに手を出したら許さないみたいな牽制をするティオナ。
今は下手にティオナの機嫌を損ねたら面倒な事になると判断した椿は、一先ず引き下がる事にした。まだ遠征は始まったばかりなので、訊く機会はまだあると思いながら。
「分かった分かった。ここは【
「は、はぁ……」
椿はベルとティオナから離れて、鍛冶師が集まっている場所へ戻っていった。
彼女がいなくなると、ティオナはすぐにベルに向かって言う。
「気を付けてね、アルゴノゥト君。椿って武器の事になると凄くうるさいから」
「み、みたいですね……」
ベルも椿が自分の武器に興味津々だと言うのは分かっていた。もしかしたら、この遠征中に隙あらば聞き出してくるかもしれないと。
自身のテクニックについて非常に興味を持っているリヴェリア、そして武器に興味を抱いている椿。どちらも厄介な相手だとベルは内心戦慄する。
すると、ベルとティオナの会話に加わろうとする者がいる。
「ちょっと良いかな……」
「あれ、アイズ? どうしたの?」
話しかけてきたのはアイズなのか、ティオナは椿と違って普通に話しかけた。
「ティオナ、さっきからティオネが呼んでたよ」
「え~、何でこんな時に~」
相手が姉だからか、ティオネは文句を言いながらもベルから離れようとする。ベルに後でねと言いながら、ティオネがいる所へ向かっていく。
ティオナがいなくなり、今度はベルとアイズの二人となった。先程からチラチラと見ていた団員達が、アイズだからか今度は気になるようにジッとみている。
「えっと、アイズさん。僕に何か御用ですか?」
ベルがそう訊いた直後、アイズは急に不機嫌そうな表情になった途端に顔を近づける。
「ラウルさんから聞いた。ベル、私と手合わせの時で使っていた剣……魔剣と思わしき特殊な力もあったみたいだね」
「あ……」
アイズの台詞にベルは思い出した。
ミノタウロス戦で使った呪斬ガエンの潜在能力――『呪斬怨魂・改』を発動させていた事を。
恐らくアイズは、手合わせの時にそれを使わなかった事について言っているのだろうとベルは推察する。
ベルがどうやってアイズを納得させようかと必死に考えている中――
「何をしてるんですかぁ、ベル・クラネル!?」
顔を近づけながら話しているのを目撃したレフィーヤが断固阻止すると言わんばかりに、二人の間に割って入って来たのであった。
「そ、そうだ! 僕、ラウルさんと確認する事があるんでした!」
アイズからの詰問を逃れる事に成功したベルは、適当な言い訳をしながらすぐにラウルの元へと向かった。
その直後、話を終えたフィン達が遠征を再開しようと、50階層へ向かうと休憩中の団員達に指示を下す。
ベルは未知の領域へ進む事に少しばかり緊張しながらも、知識を得ようとする為の行動に移ろうとしていた。
必要無いと思われる内容かもしれませんが、【ロキ・ファミリア】が予想外の襲撃を受けたので、一旦足を止めさせることにしました。
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