ベルがアークスなのは間違っているだろうか   作:さすらいの旅人

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活動報告で載せたアンケートの結果、ベルを正規ルートへ行かせる事にしました。


ロキ・ファミリアの遠征⑰

 女性団員達に絡まれた翌日。

 

 僕を含めた【ロキ・ファミリア】精鋭パーティは野営地を発つ。

 

 キャンプに残っている団員達と()()()達に見送られながら、一枚岩を下りて灰の大樹林を進んでいる。

 

 戦闘員七人、サポーター五人、()()()一人、治療師(ヒーラー)一人、総勢十四名のパーティ。僕は言うまでもなく治療師(ヒーラー)の枠組みだ。

 

 前衛にはティオナさんとベートさん、中衛にはアイズさんとティオネさんに、そして団長のフィンさん。後衛にはリヴェリアさんとガレスさん。

 

 【ロキ・ファミリア】の第一級冒険者が揃ってる主力メンバーの布陣と言える。各配置(ポジション)に武器とアイテムを所持するサポーター二名ずつ加わっての隊列になる。客人かつ治療師(ヒーラー)の僕は後衛で、整備職扱いのの椿さんは中衛になる。

 

 そんな僕たちパーティ一行は50階層西端にある大穴へ目指していく。

 

「もー! 何でベートと前衛なのー。アルゴノゥト君と一緒が良かったー」

 

「うるせぇ、馬鹿アマゾネス。いちいち兎野郎の名前を出すな」

 

 これから51階層へ向かおうと無言になってる中、肩に大剣を担いだティオナさんが不満を口にすると、双剣以外にもいくつかの武器を装備してるベートさんが言い返す。お互いに視線を合わせる事無く騒ぎ立てようとしている。

 

「はっはっは、いつだって賑やかなことだなぁ、【ロキ・ファミリア】は」

 

「恥ずかしい所を見せる」

 

 呵々と笑う椿さんに対し、苦笑しながら言うフィンさん。

 

「レフィーヤさん、呼吸が浅いので、体から力を抜いて一度深呼吸した方が良いですよ」

 

「は、はいっ! ……って、何で貴方が私に指摘するんですか、ベル・クラネル!?」

 

「すいません、ガチガチに緊張してるレフィーヤさんに僕なりのアドバイスをしようと思いまして。それと、ラウルさんも力を抜いて下さい」

 

「りょ、了解したっす!! ってかベルくん、どうして君はそんなに冷静なんすか!? 確か君、遠征は初めての筈っすよね!?」

 

「まぁ、何と言いますか……。冒険者になる前、色々と危険な目に会った所為で度胸が付いてしまって」

 

 言っておくけど嘘は吐いていない。

 

 僕が再びこの世界へ戻る前、アークスとして活動し、キョクヤ義兄さん達と一緒に数々のクエストを受けてきた。

 

 その中で恐ろしい目に遭ったが、クエストで目的地の惑星へ向かう途中に起きた異常事態(イレギュラー)――ダーカーの巣へ強制転送された時だ。あそこは本当に地獄も同然とも言える場所で、どの道へ進もうともダーカーの群れが襲い掛かって来た。

 

 一緒にいたキョクヤ義兄さんだけは常に冷静で、途中で泣き出した僕に『泣いてる暇があるなら、この凄惨な地獄から帰還する事だけ考えろ!』と厳しく叱咤された。キョクヤ義兄さんがいなかったら、僕はもうとっくに死んでいただろう。今思えばあの地獄の経験をしたからか、多少危険なクエストを受けても大して慌てる事は無くなり、常に冷静でいられるようになった。

 

「レフィーヤ、先達である筈のお前が後進のベルに指摘されるとは情けないぞ」

 

「す、すみません、リヴェリア様っ」

 

「ラウル、お前もじゃ。またベルに指摘されないよう、今度はどっしり構えておれ!」

 

「は、はいっすっ!!」

 

 僕が二人に指摘したのを見たリヴェリアさんとガレスさんが嘆息していた。

 

 そんなこんなで移動してる中、灰の大樹林を抜けると大穴へ辿り着く。

 

 あ、そうだ。効果時間は短いけど、念の為にアレをやっておくとしよう。

 

「皆さん、ちょっと待って下さい」

 

 フィンさん達が急斜面の坂となっている大穴の前で戦闘準備をするのを見た僕が引き止めた。

 

「何だい、ベル? 出来ればここからは無駄口は無しにして欲しいんだが」

 

「すいません。これから皆さんに僕から、ちょっとした保険程度の補助魔法をかけておこうかと」

 

「補助魔法?」

 

 僕が補助魔法と言った瞬間、リヴェリアさんが昨日みたいにまたピクリと反応した。

 

 少しばかり睨んでいたフィンさんも気になったのか、「続けてくれ」と促す。

 

「説明する時間も惜しいので、一先ず僕の周りに集まって下さい」

 

「分かった。総員、ベルの近くに集まるように」

 

 フィンさんの指示に全員がそれに従って集まろうとする。因みにティオナさんはフィンさんが言う前に、いつの間にか僕の隣に立っている。

 

 様々な視線を送られながらも、僕は気にせずにテクニックを発動させようとする。

 

(あか)き炎よ! 我が内に眠りし力を熱く滾らせ! シフタ!」

 

『!?』

 

「え! 何か急に力が沸き上がってる!?」

 

 全員が驚きながらもミノタウロス戦で使った攻撃力活性のシフタを使った後、ティオナさんが思った事を口にしていた。

 

 周囲にいる全員の攻撃力を上昇させた次に――

 

(あお)き氷よ! 我が身を守る不可視の鎧となれ! デバンド!」

 

 フォトン励起を利用して防御力活性フィールドを生みだす初級の氷属性補助テクニック――デバンドで全員の防御力を上昇させた。

 

 シフタとデバンドを使った事により、フィンさん達は信じられないように驚いた表情をしている。

 

「まさかとは思うけどベル、今の魔法は?」

 

「はい。皆さんの攻撃力と防御力を一時的に上昇(ブースト)させる補助魔法です。【ステイタス】で言うのでしたら、僕を含めた皆さんの『力』と『耐久』、そして『魔力』のアビリティが約二割ほど上昇している筈です」

 

『…………はあっ!?』

 

 フィンさんからの問いに僕が簡単に説明すると、全員が一時無言となった後に仰天した声を出す。

 

「あ、さっきも言いましたが、これはあくまで保険程度です。効果時間は短いので余り期待しないで下さい」

 

 シフタとデバンドの効果時間は短い。テクタークラスだと効力だけじゃなく効果時間も伸ばせるけど、ファントムクラスの僕ではそれが出来ない。なので僕の補助魔法は本当に保険程度だ。

 

 僕が大した補助魔法じゃない事を簡単に説明するも、リヴェリアさんだけが頬を引き攣らせていた。

 

「…………ベル、僕達に補助魔法を使ってくれたのは感謝するよ。でも、出来ればそう言う事は事前に行って欲しかったね」

 

 困ったように言うフィンさんに、僕はすぐに謝ろうとする。

 

「すいません。てっきり魔導士のリヴェリアさんが、僕以上の補助魔法を使うかと思ってたんですが」

 

「ッ!」

 

「待てリヴェリア! 落ち着けぃ!」

 

 すると、僕の台詞に反応したリヴェリアさんが動こうとする直前、何故かガレスさんが止めていた。

 

「放せ、放すんだガレス……! 一度ここでベルに魔法についての常識を叩き込まなければ……!」

 

「止めんか! 今はそんな事をしてる場合ではないじゃろうが!」

 

 えっと……リヴェリアさんはどうしたんだろう? 僕、何か変な事を言ったかな?

 

「あの、ベートさん。あれは一体……?」

 

「………知るか」

 

 近くにいるベートさんに尋ねるも、少し間がありながらも一人だけ準備をしようとする。

 

「取り敢えず、あたし達に補助魔法かけてくれてありがとう、アルゴノゥト君♪」

 

「あ、はい。どういたしまして」

 

 ティオナさんは気にしてないのか、僕に引っ付きながら礼を言ってきた。

 

 

 

 

 

 

 何故かリヴェリアさんが暴走しかけるも、フィンさん達がそれを無かったように気を取り直していた。

 

 僕を含めたパーティ一同が静かに武器を構える中、長槍を携えるフィンさんが告げる。

 

「行け、ベート、ティオナ」

 

 発進するベートさんとティオナさんは風となって、急斜面を駆け下りる。

 

 僕達も二人に続き、未到達領域の進攻(アタック)が開始となった。

 

 51階層へ進んで早々にモンスターが出現するが、先行したベートさんとティオナさんが装備している武器で瞬く間に終了させている。

 

「予定通り正規ルートを進む! 新種の接近には警戒を払え!」

 

 フィンさんの指示通りに動く【ロキ・ファミリア】の団員達。

 

 聞いた話だと、51階層から57階層は迷路構造となっているそうだ。しかも途轍もない規模と広さで、道を誤ると二度と戻る事が出来ない程であると。

 

 だからフィンさんは59階層へ目指す為には余計な戦闘をせず、余計な消耗をしないように高速で駆け抜けている。

 

「先の通路から生まれる」

 

「前衛は構わず進路を開け! アイズ、ティオネ、対応しろ!」

 

「はい!」

 

 中衛のアイズさんの発言を聞いたフィンさんがすぐに激を飛ばすと、ティオネさんが力強く返事をする。

 

 その直後、前衛のベートさん達が素通りした通路左右から亀裂が生じ、アイズさんの言う通り壁面を破って犀みたいなモンスターの群れが出現した。だけど、既に予測済みのアイズさんとティオネさんが武器を振るった事で一瞬にして解体されていく。

 

「集団から振り落とされるでないぞ、お主等!」

 

 追い縋るモンスターを斧で粉砕するガレスさんが、後衛の最後尾から叫ぶ。

 

「どうですか、ガレスさん? 僕の補助魔法の効果は」

 

「問題無い。それどころか力が沸き上がってる事で、簡単に倒せてしまうから寧ろ拍子抜けじゃ。恐らく、前で戦ってるアイズ達も似たような事を思っておるじゃろうな」

 

 ガレスさんの台詞に僕が戦っている前方を見てみると、前衛のベートさん達は勿論の事、中衛のアイズさん達も殆ど素早い一撃で斬り伏せていた。

 

「ベル・クラネルの補助魔法とやらは凄いなぁ! 今戦っておるモンスターの皮膚は固い筈なのに、まるで柔らかい物を斬ってる感触だ!」

 

「もう本当にベルくんって何でもありっすね!」

 

 ついでに中衛で戦っている椿さんは、モンスターを紙屑みたいに斬りながらドロップアイテムを獲得している。それを近くで見ているラウルさんは僕に対して何か言ってるけど。

 

 前衛も前衛で、ティオナさんがいつの間にか本来の装備である両剣(ダブルセイバー)らしき武器に交換して、モンスターを斬りつけている。

 

「ガレスさん、僕も戦闘に参加しましょうか? 援護ぐらいでしたら大丈夫ですが」

 

治療師(ヒーラー)のお主が余計な気遣いをしなくていい。ここはワシ等に任せておけ!」

 

 手伝おうとする僕にガレスさんが万一の時に備えておけと言われた。

 

 因みに今の僕は銃剣(ガンスラッシュ)――ブリンガーライフルを展開して銃形態にしている。なのでいつでも援護射撃出来るけど、確かに今のところは必要ないみたいだ。

 

「――来た、新種!」

 

 問題無く進んでいると、何かを察知したティオナさんが叫んだ。

 

 それを聞いた僕は前方へ視線を向けると、今までとは違うモンスターが此方へ向かってきた。

 

 通路を埋め尽くすような黄緑色の塊。

 

 敢えて表現をするとしたら、『平たい腕が生えてる巨大な芋虫』。

 

 どうやらアレが【ロキ・ファミリア】が警戒しているモンスターのようだ。フィンさんから聞いた話によると、あの芋虫型モンスターの体内には何でも溶かす腐食液が溜めこまれている。だから近接武器で攻撃すると、その腐食液によって溶かされ失ってしまうらしい。

 

 遠征中に、ティオナさんが前にあのモンスターと戦って自慢の武器を溶かされたと教えてくれた。それを聞いた僕は内心、もし遭遇したら抜剣(カタナ)で戦うのは絶対に止めておこうとメモ済みだ。

 

「隊列変更! ティオナ、下がれ!」

 

 芋虫型モンスターの出現にフィンさんが即行で指示すると、中衛のアイズさんが飛び出して後退するティオナさんと入れ替わる。

 

 そしてアイズさんは以前僕との手合わせで使った風魔法を展開し、ベートさんと共に芋虫型モンスターを蹴散らしていく。

 

 よく見ると、ベートさんのブーツがアイズさんの風を吸収していた。しかもそれを纏って攻撃している。

 

 まさかこの世界で、魔装脚(ジェットブーツ)と似たような武器があったなんて驚いた。けれど、流石に滞空を維持したり、空中での移動は出来ないみたいだ。

 

 もしも僕がバウンサークラスで魔装脚(ジェットブーツ)を披露したら、ベートさんは一体どんな反応をするんだろうか。何か張り合って勝負しろと言いそうな気がする。

 

「【閉ざされる光、凍てつく大地。吹雪け、三度の厳冬――我が名はアールヴ】!!」

 

「総員退避!」

 

 そう思ってると、僕の近くで移動しながら詠唱をしているリヴェリアさんの魔法が完了しようとしていた。

 

 フィンさんが即座に前衛と中衛が左右に割れ、まるで砲口の如く部隊が展開している。

 

 その直後――

 

「【ウィン・フィンブルヴェトル】!!」

 

 リヴェリアさんが魔法名を告げると、三条の吹雪が通路を突き進んだ。

 

 蒼と白が混ざった砲撃は、前方にいる芋虫型モンスターを凍結させるだけでなく、一直線に伸びる通路の最奥まで氷の世界と化した。

 

 リヴェリアさんの凄い魔法を見て僕は驚くばかりだ。前に講習でエイナさんが、リヴェリアさんの事をオラリオ最強の魔導士と力説していたけど、実際に見て確かにその通りだと改めて認識した。僕の氷属性テクニックなんかとは比べ物にならない威力だと思う程に。

 

「凄い魔法ですね、リヴェリアさん」

 

「……そんな事はない。私から言わせれば、数多の魔法を使いこなすお前の方が凄いさ」

 

 何だろう。リヴェリアさんの台詞が妙に刺々しく感じたのは僕の気のせいだろうか。そう思いながらも、僕はフィンさん達と一緒に先へ進む。

 

 いきなり凍土になった為か、氷で覆われてる壁面からモンスターが出現しなくなっていた。そのお陰であっさりと52階層へ進む連絡路の階段に辿り着く。

 

「いよいよ52階層に降りる。ここからはもう、補給できないと思ってくれ」

 

 そう言ってフィンさんは僕たちパーティ一同に振り返る。

 

 真剣な顔で言う彼の言葉を聞いた僕は再びシフタとデバンドを発動させる。再び攻撃力と防御力が上昇するも、アイズさん達は何の反応もせず、張り詰めた表情のまま先を見ている。

 

(何だ? アイズさん達が今まで以上に警戒してるけど、この階層には一体何が……)

 

 【ロキ・ファミリア】でない僕と椿さんは、彼等の表情を怪訝そうに見ているだけだ。

 

「いくぞ」

 

 フィンさんの短い命令と共に、僕達は52階層へと進出する。

 

 さっきの51階層と全く同じ黒鉛色の迷路だけど、フィンさん達は速まったペースで疾走している。

 

「戦闘は出来るだけ回避しろ! モンスターは弾き返すだけでいい! けして()()されるな!」

 

 絶えないフィンさんの指示の中に不可解なものが混ざっていた。

 

 狙撃って……この52階層のどこかにいるモンスターが既に捕捉しているんだろうか?

 

「ベル、もっと急ぐのじゃ!」

 

「は、はい! でもガレスさん、狙撃って一体どう言う事なんですか?」

 

「今はとにかく走る事だけを考えておれ!」

 

 僕の質問を一蹴するガレスさんは急かしてきた。

 

 よく見ると、ガレスさんの表情がこれまで以上にないほど危機感にあふれている。

 

 言われた通りに走りながら周囲を見渡すも、僕達を狙う不審な影が全く見当たらない。しかし、他のサポーターの人達は死に物狂いで走っている。

 

 誰もが無言で走り続けている中―――急に響いた。まるで地の底から昇ってきたかのような、禍々しい雄叫びが。

 

「フィン」

 

「ああ――捕捉された」

 

 アイズさんが声を掛けると、フィンさんの台詞に全員の緊張感が更に高まっていた。

 

「走れ! 走れぇ!!」

 

 更にペースを速めろと促してくるフィンさんに、僕はいつでも銃剣(ガンスラッシュ)を撃てる準備をしていた。

 

 一体どこからと思いながら警戒してるが、不意にある疑問を抱いた。

 

 僕と椿さんを除く全員が雄叫びを聞いた瞬間、さっき以上にペースを速めている。周囲の事なんか気にせず、ただひたすら必死に走っているだけだ。

 

 と言うよりさっきから聞こえるこの雄叫び、周囲から聞こえるんじゃなく――まさか、下から?

 

 僕がそう思った直後、中衛のアイズさんが呟いた。

 

「ベート、転進しろ!」

 

 アイズさんの呟きを聞いたフィンさんが指示を出し、先頭のベートさん、遅れてティオナさんと僕たちパーティは横道へ飛び込んだ。

 

 次の瞬間――地面が爆砕した。

 

 

『~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ッッ!!』

 

 

 突き上がる巨大な爆炎の柱に、紅蓮の衝撃波。

 

 それにより周囲にある物が全て真っ赤に染まっている。

 

(これが狙撃だったのか!)

 

 余りにも予想外過ぎる狙撃に、僕は目を見開いていた。そして理解した。フィンさんが言っていた狙撃の意味が。

 

「迂回する! 西ルートだ!」

 

 激しいフィンさんの指示に従う僕達は全力で走った。

 

 そしてすぐに、さっきと同じ大爆発が轟く。

 

 移動しながらもフィンさんはリヴェリアさんに防護魔法を使うよう指示し、アイズさんに敵の数を確認している。

 

 まさか、こんな恐ろしい狙撃が待ち受けていたなんて……さっきまで呑気に周囲を警戒していた自分が非常に腹立たしい!

 

 自身の無知と能天気振りを恥じてる最中、僕の瞳はある物を視認した。

 

「ラウルさん、避けて下さい!!」

 

 僕が咄嗟に避けろと言ったが、ラウルさんは通路の横穴から迫りくる太い糸の束に反応出来なかった。

 

「ラウルさんっ!」

 

 すると、僕と同じく気付いていた後方のレフィーヤさんが、咄嗟にラウルさんのバックパックに体当たりをして突き飛ばした。

 

 ラウルさんはつんのめる事で回避したが、代わりにレフィーヤさんが太い糸に腕を絡め取られた。

 

 捕縛されたレフィーヤさんが隊列から引き剥がされる。

 

「レフィーヤさん!?」

 

 僕が叫んでる中、レフィーヤさんを横穴へ引き摺りこんでいるのは巨大蜘蛛のモンスターだった。

 

 捕食しようと顎を大きく開けるのを見た僕は、装填済みの銃剣(ガンスラッシュ)で狙いを定めようとするが……すぐに燃え尽きた。膨れ上がった地面が爆炎を吹き、巨大蜘蛛を消滅させてしまったから。

 

 糸に釣られたレフィーヤさんが助かったかと思いきや、最悪な事に狙撃で空いた大穴へ落下していった。

 

「「レフィーヤッ!!」」

 

「ちっ! あのバカ!」

 

 レフィーヤさんが落下したのを見たティオナさんとティオネさん、そしてベートさんが後を追うように大穴へ飛び込んだ。

 

「【ヴェール・ブレス】!」

 

 そして駆け付けたリヴェリアさんが、大穴に向かって防護魔法らしき魔法名を告げていた。

 

(くっ! 僕がもっと早く動いていればレフィーヤさんは……!)

 

 判断に遅れた僕は責任を取る為に、大穴へ飛び込もうとすると――

 

「アイズ、ベル、行くな!」

 

「「!」」

 

 フィンさんが僕を制止した。しかも僕だけじゃなくアイズさんもだ。

 

「ラウル達が縦穴に落ちれば全員は守りきれない! 僕達は正規ルートで58階層を目指す! それとベル! レフィーヤを助けたい気持ちは分かるが、此処は堪えて僕達と行動してくれ!」

 

「……っ!」

 

「……分かりました」

 

 サポーターのラウルさん達の身を案じるフィンさんの指示に、アイズさんと僕は従った。

 

 僕はともかくとして、アイズさんがいないと芋虫型モンスターの対処が難しい。フィンさんはそれを分かった上でアイズさんを引き留めたんだ。

 

「ガレス、ベート達を頼む!」

 

「おう、任せておけ!」

 

 二振りの斧を装備したガレスさんは、レフィーヤさん達の後を追おうと大穴へ飛び込んだ。

 

「ご、ゴメンっす、ベルくん!」 

 

「え?」

 

 移動を再開してると、ラウルさんが突然僕に謝ってきた。

 

「ベルくんが避けろと言ったのに、自分が反応しなかったせいでレフィーヤが……」

 

「あ、いえ、僕も判断が遅れたから――」

 

「お前が謝る必要はないぞ、ベル。さっきのは明らかにラウルのミスだ」

 

 僕が言ってる最中、リヴェリアさんがそう言ってきた。

 

「ラウル、お前にはこの後で私達が嫌と言うほど罰を与えてやる。今はもう油断しないよう気を引き締めろ」

 

 リヴェリアさんからの誅罰宣言に、さっきまで震えながら僕に謝っていたラウルさんの顔が蒼白となった。聞いていたサポーターのクルスさん達が気の毒そうに彼を見ている。

 

 ラウルさんに同情しながらも、僕はある事をフィンさんに進言しようとする。

 

「フィンさん、僕を前衛に出して下さい!」

 

「何だって?」

 

 僕の進言にフィンさんは訝り、聞いたアイズさん達もこっちに視線を向けてきた。

 

「それは僕としては願ってもないが………本当に良いのかい?」

 

 フィンさんの言いたい事は分かっている。

 

 僕が後方支援の治療師(ヒーラー)として雇って情報を公開しており、更なる情報を自分達に晒してしまっても良いのかと確認しているんだ。

 

「構いません。【ロキ・ファミリア】の遠征で命を預け、こんな状況になってしまった以上、もう一切の出し惜しみはしません」

 

「……分かった。ならばアイズと一緒に前衛で戦ってくれ」

 

 僕の熱意が伝わったのか、フィンさんは隊列変更の指示を出した。

 

 それを聞いた僕はすぐ前に出て、アイズさんの隣に立つ。

 

「アイズさん、よろしくお願いします!」

 

「うん。あ、その武器……」

 

 僕が銃剣(ガンスラッシュ)から抜剣(カタナ)――呪斬ガエンに切り替えたのを見て、アイズさんはジッとそれを見る。

 

「お? それが例の『呪斬ガエン』と言うやつだな」

 

 すると、僕の抜剣(カタナ)を見た椿さんが目を光らせた。

 

「しかしベル・クラネルよ、此処でその魔剣を使ってもよいのか? あと何回か使えば壊れるのであろう?」

 

「壊れる? 何を言ってるのか分かりませんが、この抜剣(カタナ)は刀身が物理的に折れない限り無限に使えますから、そんな心配はありませんよ」

 

「………………は?」

 

 椿さんの疑問を不可解に思いながらも、僕は呪斬ガエンが欠陥品でない事を教えた途端に何故か表情が固まっていた。更には聞いていたフィンさん達も一緒に。

 

 どうしたんだ? 僕、何かおかしなこと言ったかな?

 

 この時の僕は知らなかった。この世界の魔剣というものが、何回か使ったら壊れてしまう消耗品である事を。


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