ベルがアークスなのは間違っているだろうか 作:さすらいの旅人
「アイズさん、行きます!」
「う、うん」
何故か表情が固まっていたアイズさんだったけど、僕の掛け声に反応して前方に現れるモンスターを倒そうとする。
この前の手合わせのお陰とも言うべきか、僕とアイズさんは阿吽の呼吸みたく連係プレーであっと言う間に倒していく。
「ベル、右!」
「はい! アイズさんは左を!」
お互いに声を掛け合って、対象のモンスターを次々と斬り裂いていくアイズさんと僕。、
「何でベルくんはアイズさんとあんなに息ピッタリなんすか!?」
「と言うか、なんであんなに強いの!?」
後ろにいるラウルさんとナルヴィさんが叫んでいる中、僕は気にせず解放済みである呪斬ガエンの潜在能力――『呪斬怨魂・改』で斬撃と追撃の同時攻撃を繰り出している。
「あれが壊れない魔剣の力だと!? 手前が作る魔剣とは比べ物にならないではないか! これは是非ともじっくり見せてもらわなければ!」
「椿、今は58階層へ向かわなければならないから止めようね」
「全く。ベルは魔法だけでなく、武器までも我々の常識を壊すとは……」
椿さんがモンスターと交戦しながらも僕の
僕としては色々と突っ込みどころのある会話だけど、今は早く58階層へ行かないといけない。未だに下からの狙撃に狙われ続けているから、一切の予断は許されない。
アイズさんと一緒にモンスターを倒し続けてるとは言っても、それは最低限の数でしか倒していない。倒されなかったモンスターが追いかけて来ても、階層無視の狙撃によって掃滅されるので。
移動している中、突如僕達の身体が緑色の光に包まれた。恐らくリヴェリアさんがレフィーヤさん達に使った防御魔法だと察した僕は、内心助かったと思った。丁度デバンドの効果が切れていたから、支援をしてくれたリヴェリアさんに感謝だ。
『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!』
僕達の移動を阻もうと、
直接戦って分かったけど、やはり僕がこれまで戦ってきた上層や中層、そして下層のモンスターは桁違いの戦闘能力だった。同時に僕が全力でやらなければ死んでしまうほどの相手でもある。
不謹慎なのは重々承知している。やっと全力で戦えるモンスター達と相手している事に、僕の気持ちがどんどん昂ってくる!
「フィン、敵九!」
「ここは突破する! アイズ、一気に叩け! ベルは下がるんだ!」
指示を出すフィンさんにアイズさんは飛び出し、僕は一旦後退する。
「【
アイズさんが以前に僕との手合わせの時に使った魔法を発動し、身を纏う風が鎧となってモンスターの攻撃を弾く。その間に風を纏ったアイズさんの斬撃が振るった直後、瞬く間に九匹のモンスターを蹂躙した。
これまで何度も見ているが、あの攻防一体と化してる風魔法は本当に厄介だと警戒させられる。手合わせの時に披露した際は手加減してたみたいだけど、もし最大出力できていたら、僕は全力を出して挑まなければならない。勿論、全ての武器を使う意味での全力だ。
モンスターを倒した直後、アイズさんの纏ってる風に若干綻びが生じていた。
「ラウル、
「は、はいっす!」
フィンさんがアイズさんの風を見て、ラウルさんに回復薬を出すよう指示していた。
一旦補給しなければならないなら、今度は僕がアイズさんのカバーをするとしよう。
そう思ってると、新たなモンスターが再び現れて此方へと向かってくる。
「フィンさん! 今度は僕が一気に纏めて蹴散らします!」
「ダメだ! いくらその魔剣が強いからと言って君一人で……って、何だいその武器は!?」
前に出る事に反対するフィンさんだったけど、僕が
「僕の遠距離用武器です! 行きます!」
そう言って僕は下がったアイズさんと交代するように前に出て――
「クーゲルシュトゥルム!」
前方広範囲に扇状の掃射を三連続行う
銃身から連続で撃ち続けた弾丸は、目の前のモンスター達に体中を貫通させ、瞬く間に蹂躙した。
「今度は別の魔剣かよ!」
「むっ! アレは以前、
信じられないように叫ぶクルスさんに続き、椿さんが急に前の
恐らく椿さんは、僕が【アポロン・ファミリア】の
しかし、あの時と違って今回は殺傷全開だ。もしもあの
「な、なぁベル・クラネル。まさかとは思うが……その魔剣も、さっきの刀と同様に壊れたりしない魔剣なのか?」
「………敢えて答えるのでしたら、前の
「ふぁ!?」
『ええっ!?』
質問に一応答えると、椿さんはいきなり変な声を出した。サポーターのラウルさん達も驚いており、フィンさんとリヴェリアさんは頬を引き攣らせている。因みにアイズさんは無表情だけど、それでも驚いている感じがした。
「…………一先ずは移動に専念だ」
何か僕に言いたげなフィンさんだけど、目的を忘れないようにと移動を速める指示を出した。
「フィンさん、下からの狙撃が止んでいますが……もしかしてガレスさん達ですか?」
「だろうね。今の内に急ごう。だけどベル、けして気を抜かないでくれ。狙撃の代わりとなるのが、そろそろ来るから」
「代わり?」
僕の質問にフィンさんは答えながら、警戒は怠るなとも言ってきた。
思わず鸚鵡返しをしていると、狙撃によって出来た縦穴から何かが這い上がってくる。
「な、アレは……!?」
「
「勿論です!」
「あの
「分かった」
すぐに役割分担をしようと提案する僕に、アイズさんは何の反論もする事なく了承した。
頭上から飛び掛かってくる
「先ずは一匹目!」
「……嘘だろ? たった一発で仕留めやがった」
「しかも正確に狙ってましたわ。あんな恐ろしい魔剣があったなんて……」
しかし僕は気にせず、さっきのとは距離が離れてる三匹の
「あんなに離れたところから狙い撃てるのか……!?」
「やれやれ。今は僕たちの味方だから非常に頼もしいけど、これでもしベルが敵に回ったら……そう考えるだけで恐ろしくなるよ」
「あ~、これが遠征でなければ、ベル・クラネルの武器を見ていると言うのに……!」
僕が引き続き押し迫ってくる
と言うかフィンさん。僕は【
僕とアイズさんがそれぞれモンスターを倒しながら移動してると、下部へ続く階段を発見した。
「もう53階層……! ベルくんのお陰でずっと早いっすよ……!」
ラウルさんが予想外みたいに息を吐きだしながら言った。
どうやら僕が
だと言うのに、フィンさんは何か考えるように目を細めながら周囲を見渡している。
僕も倣って周囲を見ると、さっきまで襲い掛かってきたモンスターとの遭遇がバッタリと途絶えていた。しかも凄く静かだ。
「あの、フィンさん。こういう嫌に静寂なのは……
「ンー……出来ればそうなって欲しくないと思いたいね。さて、一体何が来るかな?」
僕からの質問にフィンさんは同じ事を考えていたのか、親指をペロっと舐めながら言ってきた。
癖なのかどうかは分からないけど、この人って親指を舐める癖があるんだな。まぁ、人の癖に僕がああだこうだと言うべきじゃない。
静寂となってる53階層を進んでいると、進路上にドドドっと何か音がした。それの発生源は、51階層で見た芋虫型モンスターの群れだ。
「しっ、新種っす!」
「いや待て、あれは……!」
声を上げるラウルさんに対し、リヴェリアさんが何かを指すように言った。
通路を埋め尽くす芋虫型の群れの中に、一番巨体な大型の上に、紫紺の外套を身に纏ってる何かが乗っていた。
「24階層の……!」
アイズさんは知ってるのか、対象を見た途端に驚愕している。
全身を布で覆い不気味な文様の仮面を被った存在と何があったのかは気になる。だが少なくとも、あの芋虫型モンスターに乗って現れたアレは敵である事は確かだ。
移動している僕らに対し、外套の人物は右手を突き出した。
それに合わせるように芋虫型モンスターが列を作って整っている。
思わず嫌な予感がすると危惧した次の瞬間、芋虫型モンスターの口腔から、夥しい腐食液が放出された。
「転進! 横穴に飛び込め!!」
津波と思わせる大量の腐食液が此方へ押し寄せるが、フィンさんが咄嗟に出した命令に僕たちパーティは横穴へ離脱する。
間一髪と言うべきか、最後尾のラウルさんとリヴェリアさんの背後から、汚泥とも呼べる腐食液が流し込まれる光景が広がった。腐食液によって通路が瞬く間に壁を溶かし、ジュウウッと言う腐食音と共に、嫌な異臭と煙を発生させている。
「ちょっとリヴェリアさん、あの人一体何なんです!?」
「早い話、
「ええ!? あの恐ろしいモンスターを操れるんですか!」
リヴェリアさんからの端的な回答に、僕は驚愕しながら叫ぶ。
確か
けど、あんな恐ろしい芋虫型モンスターを操るって明らかに普通じゃない。それは確信持って言える。
そう思ってると、進路方向から再び芋虫型モンスターの群れが出現する。
「待ち伏せ!?」
「右前方! 二つ目の横道に入れ!」
アリシアさんの悲鳴を気にせずにフィンさんが指示を出す。
「ま、また現れたっす!」
「三時の方角からも来ます!」
「左横穴! 入ってすぐ右斜め、前方を進め!」
何度離脱しても芋虫型モンスターが現れるが、フィンさんは的確な指示で僕達に逃走ルートを示している。
こんな状況でも常に冷静であり、広大と思われる迷宮を知っている記憶力には大変恐れ入る。正に
だけど、それとは別に気になる事がある。
「フィンさん、何か僕たち誘導されてませんか!?」
「勘が良いね、ベル! 僕もそう思っていたところだ!」
モンスターが戦術を使っている事に、フィンさんも気付いていたようだ。
何が目的なのかは分からないけど、外套の人物がこんな事をしてくるのには何か理由があると僕は見ている。
「フィン、このままだと追い詰められるぞ!」
「………」
張り詰める声を出すリヴェリアさんに、フィンさんは何か考え込むように思考している。
その数秒後、突如顔を上げて前方のアイズさんに向かって指示を出す。
「左折しろ、アイズ!」
指示を聞いたアイズさんが言われた通り左に曲がり、僕達も彼女の後を追う。左折した先は長大な通路の一本道だった。
僕達が通路の半場まで移動した直後、フィンさんが大声を上げる。
「迎え撃つ! 反転!」
ラウルさん達が準備してる間、指示を聞いた僕は前衛のアイズさんと共にすぐに迎撃体勢に移る。
「アイズさん、ここは僕に任せて下さい!」
「っ!」
風魔法を使って突進しようとするアイズさんに、僕が待ったを掛けながら
切り替えて早々、カラベルフォイサラーを背中に収めて――
「
僕が詠唱の序盤を口にすると、僕の周囲から大きな魔法陣が出現した。驚いた反応をしてるフィンさん達だけでなく、前方にいる外套の人物も反応するように肩を揺らしている。
「出てこい、闇の幻獣――
しかし、僕は気にせずにヘリクスを出現させようとする。本当なら詠唱をしたいところだけど、今はそんな急いでいるから省略させてもらう。
僕の呼び出しに応じるように、頭上から
「突き進みながら敵を蹂躙しろ! 行けぇ!」
『オォォオオオオオオオオ!!』
『!?』
僕の指示に従うようにヘリクスは雄叫びをあげ、フォトンを纏った大きな角を芋虫型モンスターの群れへと突進していく。
逃げ場のない一本道にから、迫りくるヘリクスの突進に外套の人物が叫び声をあげようとする。
『
迎撃しようと、芋虫型モンスターが腐食液の一斉砲火をする。
けれど、ヘリクスは物怖じしないどころか、それに当たってもダメージを負う事なく更に突進のスピードを上げる。
『―――』
砲撃が全く効いてないヘリクスの姿を見て、外套の人物は緊急回避した。
跳躍した外套の人物の下では、芋虫型モンスターの大群が幻獣の突進により巻き込まれる。
縦一列に並んでいたモンスターが纏めて蹂躙され、そして貫かれて一掃。
『馬鹿ナッ……!?』
「随分と余裕ですね」
『ッッ!!』
外套の人物が驚きの声を出してる最中、僕はカラベルフォイサラーを力強く振るう。いきなり僕が出現した事に、外套の人物が驚愕しながらもメタルグローブでガードする。
因みにヘリクス・プロイで芋虫型モンスターを蹂躙する直前、僕はファントムスキルで姿を消していた。その間に跳躍して相手の目の前に出現し、不意打ちを食らわせたと言う訳である。
「貴方が何者かは知りませんが、僕達の行く手を阻む以上は倒させて頂きます!」
『……ッ!』
壁面を蹴りつけて着地した僕と外套の人物。
『
「なっ!」
すると、近接戦をやろうとする僕に、外套の人物が叫んだ。その瞬間、地面や壁面から、以前
「ベルッ!」
「不味いっ!」
「くっ、助けに行きたいのだが……!」
外套の人物と出現した植物モンスターが一斉に僕に襲い掛かるを見て、アイズさんとフィンさん、そして椿さんがすぐに駆け付けようとする。
けれど、植物モンスターは僕だけじゃなくアイズさん達のいる所にも出現していた。なので交戦中の三人はすぐに駆け付ける事が出来なかった。
しかし――
「舞え! 堕落した光の剣よ!」
『ッ!?』
僕が慌てる事無く詠唱を紡いだ瞬間、自分の中心に回転する光の剣が展開された。現れる光の剣により、仮面の人物がすぐに攻撃を止めるが、襲い掛かる植物モンスターの他に、地面から現れる無数の触手も斬り刻まれていく。
「汝、
「何と! 移動しながら詠唱してるのに、剣が未だに回り続けておるとは!」
まるで解説するように言ってる椿さんに僕は気にせず、後退する外套の人物を追うように移動しながら詠唱してる僕は――
「零式ギ・グランツ!」
光の剣展開状態で移動を可能とし、一定時間後に巨大な光の剣で一閃を見舞う光属性カスタムテクニック――零式ギ・グランツを放った。
そして回っていた複数の光の剣が消えると、今度は巨大な剣が出現した直後にグルンと一回りする。
「クッ!」
突然攻撃範囲が広くなった事で、僕に襲い掛かる無数の触手は全て斬り伏せられ、植物モンスターも真っ二つとなって絶命する。外套の人物にも当たったが、回避に専念した事もあってか、致命傷になるダメージを与えれなかった。
向こうは不利だと悟ったのか、少し離れていながらも僕に背を向けて逃げようとしていた。
「逃がしませんよ!」
『何ッ!?』
敵に素早く接近して武器を振り下ろすファントム用
前は氷漬けにした植物モンスターに止めを刺す為に使ったけど、これは相手が逃亡するのを阻止する為にも使える技でもある。
背を向けてる外套の人物に僕は、カラベルフォイサラーを死神の鎌みたいに、命を奪うよう一気に振り下ろす。
『グッ―――ァアアアアアアアアアアアアアアアアッ!?』
躱せないと判断したのか、外套の人物は咄嗟に右腕で防御しようとする。けれど、僕の刃が右腕ごと切断した為に、敵は悍ましい絶叫をあげる。
外套の人物は舞い上がった右腕をすぐに回収する中、僕は更に追い打ちを仕掛けようとする
『喰ラエッ!!』
だが、叫んだ直後に、いつの間にか呼び寄せた植物モンスターが口を開けたまま外套の人物を確保した。
「しまった!」
外套の人物に意識を集中していた所為で、モンスターの接近に気付かずに逃走を許してしまった事に僕は歯噛みする。
すぐに追いかけようとするが、突然フィンさんが『待つんだベル!』と言ったので僕は思わず足を止めた。思わず後ろを振り向くと、その先には詠唱を終えて魔法を放とうとしているリヴェリアさんの姿が見えたので、僕は巻き添えを喰らわないように避難する。
「――【ウィン・フィンブルヴェトル】!」
リヴェリアさんが魔法名を口にした直後、三条の吹雪が撃ち放たれた。
奥の突きあたりまで凍てつかせる氷結魔法に、逃走中の植物モンスターも一瞬で凍り付かせ、51階層で見た氷の世界が再び出来上がった。
何度見ても凄い魔法だ。本当に僕のテクニックなんかとは桁違いの威力――
「ベルゥゥゥゥゥゥ!!」
「? リヴェリアさん、どうかしましっ!?」
突然大声を出したリヴェリアさんに反応して振り向くと、その人は凄い形相をしながら僕に近付いて両肩を力強く掴んできた。
「さっきの召喚魔法は詠唱しないで使っていたな!? それだけでは飽き足らず、詠唱している間に光の剣で敵を斬り刻む魔法なんて私は見た事も聞いた事もないぞ! 一体お前の魔法は何なんだ!? 完全に未知の魔法ばかりではないか! そこを私に詳しく説明しろぉぉぉ!!」
「ちょ、リ、リヴェリアさん!? と、取り敢えず落ち着いて下さい!!」
「これが落ち着いてなどいられるかぁぁぁ!!」
何か分からないけど、リヴェリアさんが物凄く恐い! 一体何なの!? 何が一体どうなってるの!?
「止めるんだ、リヴェリア!」
「リヴェリア様、どうかお心を鎮めて下さい!」
「放せお前達! 私は、私はぁ……!」
フィンさんとアリシアさんが止めようと、すぐにリヴェリアさんを僕から引き離してくれた。
リヴェリアさんの暴走(?)らしき行動を止める為に、フィンさん達は少しばかり時間を要するのであった。
その間――
「ベル、一人で頑張り過ぎ。私もいるから頼って欲しい」
「す、すいません、アイズさん」
「ベル・クラネルよ、この遠征が終わったら手前と専属契約を結ばぬか?」
「ちょっと椿さん、いきなり何言ってるんですか?」
僕はアイズさんと椿さんに絡まれて、色々と大変な目に遭っていた。
ついでと言うのはなんだけど、逃走していた植物モンスターごと凍らせた筈の外套の人物はいつの間にか姿を消していた。ローブと仮面を残して。
今まで我慢してたリヴェリアがついに暴走してしまいました。