ベルがアークスなのは間違っているだろうか 作:さすらいの旅人
「それにしても……あのモンスター、何だったのかなぁ? あたし初めて見たよ」
「ダンジョンで蠍型のモンスターは見た事あるけど、あれは見たことが無い」
「お二人も知らないんですか……」
ちょっとした騒動は起きた夕食だったけど、少し離れたところで移動用の飛竜が寝ている中、僕達は蠍型モンスターについて話していた。
【ロキ・ファミリア】のティオナさんやアイズさんですら、あのモンスターについて全く分からないようだ。
僕よりも長くダンジョン探索している幹部二人が知らないとなれば、未知のモンスターと言う事になる。恐らくフィンさん達も知らないだろう。
「近くの村を襲っているって言ってたけど」
神様は僕達が助けた母親から聞いた話を思い出しながら言った。
話を聞いた限りでは、つい最近出現した感じだった。そうでなければ、あの母娘があんな風に追われたりしない。
冒険者の僕達や神様が疑問を抱いていると、途端にヘルメス様が木の枝で焚火を突きながら口を開く。
「ことの始まりは、モンスターの異常な増殖が確認されたことだった……。原因を調べる為に多くの【ファミリア】が遣わされたが……全て消息を絶った」
内容を聞いた僕達はヘルメス様の話を静かに聞いていた。僕や神様だけでなく、アイズさん達すらも初めて聞いたと少し目を見開いている。
「場所は彼の地エルソス。そこの遺跡には、ある封印が施されていた」
「封印……? 何をですか?」
僕からの問いにヘルメス様は答えようと話した。
「陸を腐らせ海を蝕み、森を殺し、あらゆる生命から力を奪う」
「古代、大精霊達によって封印されたモンスター……アンタレス」
ヘルメス様の台詞を引き継いで、アルテミス様がそう言った。
初めて聞くモンスター『アンタレス』の名に僕は勿論のこと、【ロキ・ファミリア】の二人も知らない様子だ。
「だが、奴は長い時をかけて深く、静かに力を蓄え……遂に封印を破った」
最後の台詞にアルテミス様が膝の上に置いている両手を静かに強く握った。
「封印を破ったって……」
「それじゃあ……」
アイズさんとティオナさんが何かに気付いたように呟くと、ヘルメス様が頷いた。
「ああ、今回の件をオラリオも重く受け止めていてね……俺の【ファミリア】を派遣したんだ」
僕は【ヘルメス・ファミリア】の事はよく分からないけど、オラリオから信頼されている【ファミリア】の一つなんだろう。
けど、そのヘルメス様が真剣な表情で言ってるって事は、相当危険なモンスターと言う証拠だ。
僕が内心そう思っていると、話はまだ続く。
「そこで同じ目的で赴いていたアルテミスと出会った。そして、援軍を呼ぶ為にオラリオに戻ったというわけさ……」
だから神月祭のイベントを利用して、援軍を求めようとしていたって訳か。
裏があるのは予想していたけど、まさかここまで深刻な事態だったとは……。そう考えると、何だか僕が段々場違いに思えてくる。
「あの……今更ですけど、何故もっと強い【ファミリア】に要請しなかったんですか? 別にあんな回りくどいやり方をしなくても良かったと思うんですが」
例えば【ロキ・ファミリア】に事情を説明し、
「無駄だ。あの槍でなければアンタレスは倒せない。そして、槍に選ばれたのは……貴方だ」
「…………」
アルテミス様は否定しながら、僕が近くの木に置いた槍を見ながら断言した。
あの槍でなければって……。何故そこまで言い切れるんだ? 益々疑念が深まってしまう。
確かに僕が抜いた槍から、今も不思議な力を感じ取れる。それが何なのかは未だに分からないけど、アルテミス様があそこまで言い切れるからには何か理由がある筈。
「――なぁに、大丈夫! 『槍』さえあれば、全て上手く行くさ! ほれ、明日に供えて、もう寝よう」
僕が真実を問おうとする直前、ヘルメス様が途端に立ち上がってそう言った。
何だかこれ以上は不味いから切り上げようみたいな感じに思えたが、この様子では無理だと諦めた僕は寝る準備に取り掛かる事にした。
「………アイズさん、まだ寝てませんか?」
「うん」
いつものようにテントを張って、左からティオナさん、僕、アイズさんが川の字で寝ていた。
因みにティオナさんは僕の片腕に引っ付きながら気持ち良さそうな顔で眠っている。それを見た僕は苦笑しながらも、隣で寝ているアイズさんに小さく声を掛けると反応した。彼女も僕の腕に引っ付いて寝ているが、今回はそうしてなかったのでもしやと思ったら、案の定まだ起きていた。
僕とアイズさんはお互いに見つめ合って数秒後、すぐに上を向いた。普通ならドギマギしてもおかしくない展開だけど、生憎とそんな気分じゃない。
「さっきの話、どう思います?」
「……分からない」
僕の問いにアイズさんはそう答えた。主語は抜けてるけど、彼女は僕の言ってる事は理解している。さっきの話とは、夕食後の時にヘルメス様とアルテミス様が語ってくれた内容の事だ。
「あの神様たち、まだ何か隠しているような気がする」
「そうですね……」
僕だけでなくアイズさんも気付いていたようだ。ヘルメス様とアルテミス様のお二方が、全てを話していないと。
でも例えあの場で問い詰めたところで、もうあれ以上は語ろうとはしないだろう。のらりくらりと躱されて、もう寝ようと言われるのが何となく分かったので。
真実が分からない以上、あれこれ考えても余計に眠れなくなってしまうから、取り敢えず話題を変える事にした。
「ところで、僕が貸した武器の使い心地はどうでしたか?」
「凄く良かった。リヴェリアの気持ちが分かった気がする」
僕が問うと、アイズさんは即座に返答をした。
「それに、私が使った魔法の威力も底上げしていた。あんな凄い剣、一体何処で手に入れたの?」
「あはは……それは内緒です」
アイズさんのスキアブレードに対する評価は物凄く高いようだ。この様子から見て、絶対欲しがっているに違いない。
すると、彼女は僕の方をジッと見てお願いしようとしてくる。
「ベル、この
「ダメです。もしそうしたら、今度はリヴェリアさんからも催促されるのが目に見えてるので」
もし僕がこのままスキアブレードの長期レンタルを了承すれば、リヴェリアさんが絶対に黙ってはいない。あの人も僕の
ついでに、【ヘファイストス・ファミリア】にいる椿さんからも強請られてしまう恐れもある。多分だけど――
『ほう? 「剣姫」やリヴェリアに武器を貸して、手前だけ貸さないと言うのは不公平ではないか?』
と言ってくるかもしれない。
椿さんのしつこさは、この前の遠征で身を以て経験した。なので隙を見せる訳にはいかない。
「………どうしても?」
可愛く上目遣いで見てくるアイズさんに――
「…………ダメです」
「むぅ……」
心の中で必死に戦った僕が何とか拒否を示すと、途端に膨れっ面となった。またしても可愛いと思ったのは内緒だ。
すると、拗ねた表情になってるアイズさんは突然僕の腕にギュッと引っ付いて数秒後、そのまま寝てしまった。意識してやったのか分からないけど、アイズさんの柔らかい胸の感触が前以上に凄く伝わってくる。
「………僕も寝よう」
美少女二人に挟まれてる僕は、何とか心を落ち着かせながらも眠る事にしたのであった。
☆
ベル達一行がオラリオを出て一週間以上経ち、オラリオでは不可思議な事が起きていた。
「なんやて! オラリオから出られへん!? それ、どういうことや!?」
「どうやらギルドの命令らしい。オラリオの中にいるように厳命されてしまったよ」
ロキがフィンに問い詰めるも、執務室の椅子に座っているフィンは報告で聞いた内容を冷静に答えた。
自分の知らない所で勝手にアイズとティオナを連れ出したヘルメスに憤っているに加え、オラリオから出られない事にロキは更に苛立ちを募らせていく。
「うちらは港に用があるっちゅうねん!」
「当然、中止だね……。まぁ、アイズとティオナがいなくなった理由を知った時点で、何となくそうなる気はしてたけどね」
「どういうことや、ギルドの連中! アホかーっ! どいつもこいつも、うちの邪魔をしおってーっ!」
完全に
そんな中、執務室の大きな窓が開いている先のバルコニーではリヴェリアがいた。二人のやり取りを気にせず、彼女はオラリオの外をジッと見ている。
「あの二人は今も大はしゃぎしているであろうな」
ガネーシャから長期の
以前の遠征でベルが愛用していた
そんな中、アイズとティオナが自分達に無断でベルの
「戻ってきたら覚悟しておくんだな……!」
説教する気満々のリヴェリアを余所に、夜空にある三日月が地上に光を照らしていた。しかし、それが本来の月と異なる物である事を、オラリオの住民達の誰もが気付いていない。
それとは別に――
「………アイズさんがいなくなって一週間以上経った。その間にベル・クラネルはアイズさんと寝泊まりをして………ふ、ふふふふふふ……まさかとは思いますがベル・クラネル、アイズさんと一緒に寝ていませんよね? もしそうだったらベル・クラネルをウィン・フィンブルヴェトルで氷漬け、いえヒュゼレイド・ファラーリカで串刺しにして――!」
「ねぇレフィーヤ、いい加減にブツブツ呟くの止めてくれない~?」
恐ろしい事を呟いているレフィーヤに、ルームメイトのエルフィが物凄く鬱陶しそうに指摘していたのであった。
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