ベルがアークスなのは間違っているだろうか   作:さすらいの旅人

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今回はいつもより短いです。並びにまだ決着は付きません。


ロキ・ファミリアの遠征㉑

「アイズ、力を溜めろ! 全力の一撃で君が決めるんだ! 他の者はアイズを守れ!」

 

 【ロキ・ファミリア】と共に一直線に突き進む僕――ベル・クラネルは、フィンさんの指示を聞いた瞬間、全力で支援に徹する事にした。

 

 女体型との距離は約二百(メドル)。僕達が突き進んでいる最中、アレの下半身にある二つの蕾は未だに『魔力』を喰らい続けている。

 

 魔力の補充が完了した直後、あの女体型は即座にさっきの殲滅魔法を使おうと詠唱を紡ぐだろう。

 

「【目覚めよ(テンペスト)】!」

 

 フィンさんの指示に頷いたアイズさんは、魔法を発動させて気流の鎧となった風に身を包ませる。

 

 彼女の魔法を見た僕達は隊列を変えて、フィンさんを先頭にした鏃型となる。

 

「レフィーヤ、『平行詠唱』を始めろ! 『魔法』の選択は君に任せる!」

 

「はい!」

 

「ベル、ここからはあらゆる手段を使っても構わない! 好きに戦ってくれ!」

 

「了解しました!」

 

 レフィーヤさんに魔法の援護、僕に遊撃の指示を出すフィンさん。

 

 59階層へ来るまでの間、僕は【ロキ・ファミリア】に様々な戦い方を見せた。抜剣(カタナ)での近接戦、長銃(アサルトライフル)での遠距離戦、そして長杖(ロッド)での数多くの魔法(テクニック)戦闘と支援戦。

 

 恐らくフィンさんは、状況に合わせた戦い方をさせようと遊撃指示を出したんだろう。限定させるより、多くの手段を用いて戦わせる方が効率が良いと。

 

 僕としても、それは大変好都合だ。なので此処から先はファントムクラスの力を存分に振るわせてもらう。

 

 そう思った僕は先ず最初に、あの鬱陶しいアレを潰そうと――

 

「爆炎の華よ 紅蓮の如く咲き誇れ ラ・フォイエ!」

 

『~~~~~~~~~~~ッ!?』

 

 以前【アポロン・ファミリア】との戦争遊戯(ウォーゲーム)で使った炎属性テクニック――ラ・フォイエを連続で放つと、女体型の下半身にある二つの蕾が爆発した。蕾が無残な物となった事により、女体型は痛覚があるのか悍ましい悲鳴をあげている。

 

 すると、無残な姿となった二つの蕾は吸っていた『魔力』を急に途絶えたどころか、逆に漏れ出し始めた。更には修復しようとする様子が全く見受けられない。

 

 確証は無いけど、怪物姿の下半身は精霊型の上半身と違って再生出来ないようだ。あの蕾は周囲の魔力を吸い取り、上半身に供給させる為の貯水タンクみたいな役割と見ていいだろう。

 

「でかした、ベル! これでアレの供給源は断てた!」

 

 フィンさんも僕と同じ事を考えていたのか、先に一番面倒な物を潰せて良かったと思っているようだ。

 

 とは言え、魔力を断ったとしても、僕達が未だに不利な状況である事に変わりはない。あの女体型がまた広大な殲滅魔法を放ったら終わりなので。

 

『マタオ前カァァァァ!? ヨクモヨクモヨクモォォォオオオオオオオッ!』

 

 あの爆発は僕の仕業だと分かったのか、ついさっきまで余裕の微笑みを見せていた女体型は、再び怒りの表情となって僕を殺すと言わんばかりに睨み付ける。

 

 女体型の叫びに呼応するように、アレの周囲にいるモンスターの群れが一気に進撃してくる。

 

 あの群れ相手にはやはり長銃(アサルトライフル)で――

 

「【()(そう)よ、血を捧げし我が額を穿て】」

 

 倒そうと考えていた矢先に、フィンさんが走りながら詠唱をしていた。魔力と思われる光が集まってる右の親指を、自らの額に当てている。

 

「【ヘル・フィネガス】」

 

 魔法名を告げた瞬間――

 

「――うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!」

 

 常に冷静沈着であったフィンさんが、まるで別人みたく狂戦士の如く雄叫びを放った。

 

 だがそれだけでなく、手にしている二振りの長槍を振るいながら、迫ってくるモンスターの群れを蹂躙、または虐殺していく。

 

 見た感じだと、フィンさんが使った魔法は恐らく能力を大幅に上昇させる魔法だろう。自分よりも何倍も体積のあるモンスターを長槍を振るって簡単に吹っ飛ばしているのが何よりの証拠だ。

 

 しかし、それを今まで使わなかったと言う事は、何かしらの代償(リスク)があると予想する。そうでなかったら、51階層辺りでとっくに使っていた筈だ。

 

 能力上昇の引き換えに関しては、アークスにも似たスキルがある。一時的に打撃威力を爆発的に上昇させ、耐久力を四分の一までに減らすファイタークラスの専用スキル――リミットブレイクと言うスキルだ。

 

 アレは巨大エネミーを相手にここぞと言う時に使うもので、敵に攻撃が当たればかなりのダメージを与えられる。だけど、もしそれが出来ずにエネミーから強烈な攻撃を受けてしまえば、あっと言う間に戦闘不能となってしまう。攻撃さえ当たらなければ大丈夫だけど、殆ど賭けに等しいスキルだ。

 

 そのスキルと似た魔法をフィンさんがこの場で使ったと言う事は即ち、アイズさんに全てを託すために突破しようとしていると言う事だ。ならばそれを無駄にする訳にはいかない!

 

『――ムダダ』

 

 フィンさんの猛攻を見ていた女体型は、怒りの表情から途端に嘲笑を浮かべた。

 

 もう魔力の吸収を諦めたのか、次の行動に移ろうとしている。

 

『【火ヨ、来タレ――】』

 

 女体型は詠唱している際、僕の銃弾を防いでいた花弁で自身の身を包むように守りを固めていた。

 

「守りを固めた上での砲撃(まほう)!?」

 

「さっき兎野郎が放った魔法を警戒してやがる!」

 

 ティオネさんとベートさんが驚くように叫ぶ。

 

 ベートさんの言う通り、僕が下半身にある二つの蕾を破壊した事を警戒して、上半身へ防御を集中させたんだろう。

 

 認めたくはないけど、あの女体型の判断は正解だ。僕が撃ったテクニックは対象を認識しなければ当てる事は出来ない。もしラ・フォイエを撃ったとしても、上半身本体には当たらず花弁で防がれてしまう。

 

 目標まで百(メドル)を切り、未だ女体型に辿り着かないまま、走り続けている僕達は顔を歪めている。

 

 ここでいっそ、あの花弁を潰す為に長杖(ロッド)用のファントムタイムフィニッシュ――《亡霊の柱(ピラァ・オブ・ファントム)》をやるしかない。幸い、既に射程距離内だから当てる事は出来る。

 

 そう思ってファントムタイムを発動させようとするが、モンスターの群れを蹴散らしていたフィンさんが女体型に向かって行動していた。

 

「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッ!!」

 

 片方の槍を使って身体を弩砲のように渾身の投擲をした、フィンさん全力の槍投げ。

 

 獣の如く咆哮と共に撃ちだされた黄金の槍が、一条の閃光となって花弁で守られている女体型へ向かっていく。

 

 豪速の槍は花弁の隙間を縫うように通過すると、女体型に命中したのか、花弁が開いて上半身を背後に反らしていた。同時に展開させていた魔法陣が暴発し、霧散していく。

 

魔力暴発(イグニス・ファトゥス)! 今よ!」

 

 いつもならフィンさんが言う筈だが、ティオネさんが代わりに答えていた。

 

 けれど、僕達は何の疑問も抱かずに疾走する。

 

 ベートさんの双剣、ティオナさんの大剣で芋虫型、植物型を蹴散らした事により、モンスターの大群を抜ける事が出来た。

 

 女体型へ向かう一本道を進んでいる中、レフィーヤさんが僕と同じく移動しながら詠唱をしている。

 

「【どうか力を貸し与えてほしい】――【エルフ・リング】」

 

 詠唱と魔法名を告げると、彼女の足元から小さな魔法陣が展開された。しかも意思があるように、レフィーヤさんの歩調を合わせながら移動している。

 

 それとは別に、魔力暴発した女体型にも動きを見せる。顔に刺さっているフィンさんの槍を触手が掴み、勢いよく引き抜いた後にバキッと折っていた。

 

 槍が地面に落下していく中、顔を破損させている女体型の上半身は魔力を使っての自己修復をし、あっと言う間に穴を塞いで微笑んでいた。

 

「【突キ進メ雷鳴ノ槍代行者タル我ガ名ハ――】」

 

 さっきの詠唱と違って、女体型はあっと言う間に魔法陣を展開させていた。

 

「短文詠唱!?」

 

「不味い!」

 

 女体型の使う魔法が完成した事にティオナさんとティオネさんが驚倒する。

 

 僕がテクニックで阻止しようとするも、向こうの方が早くて間に合わなかった。

 

「そこをどきなさい、ベル・クラネル!」

 

「っ!?」

 

 すると、僕の後ろにいたレフィーヤさんが叫んだ。何かやろうとしたのを分かった僕は、咄嗟にテクニックを解除して道を開けた。

 

 その直後、魔法を放とうと女体型が魔法名を唱えようとする。

 

「【サンダー・レイ】」

 

 雷の大矛。

 

 思わず武器名に例えた強大な砲撃魔法が、轟きと共に僕達を呑み込まんとしていた。

 

「【盾となれ、破邪の聖杯(さかずき)】!」

 

 しかし、やらせまいとレフィーヤさんが先頭に出て詠唱を叫んだ後、魔法陣が変化しながらも魔法名を告げる。

 

「【ディオ・グレイル】!」

 

 突如、僕達の前に出現した純白の円形障壁。

 

 間髪入れず、白の大盾と雷が衝突する。

 

「~~~~~~~~~~~ッ!」

 

 両手を突き出した杖ごと、レフィーヤさんの体が沈み込みながら苦悶の叫びを散らせる。

 

 それもその筈。何とか強大な雷を盾で防いでいるけど、徐々に亀裂が走って甲高い音響を響かせていた。

 

「シフタッ!」 

 

 僕が咄嗟にレフィーヤさんの手助けをしようと、シフタを使った。彼女の魔力を上昇させれば何とかなるかもしれない。

 

「ぐっ……! こ、このままでは……!」

 

 と思っていたが、どうやら焼け石に水みたいで、このまま壊れるのが時間の問題だった。

 

 どうする? 僕が出来る事は、デバンドでフィンさん達の防御力を上げてダメージを僅かに抑えるしか――

 

「アルゴノゥト君! あたしとティオネにあの時の防御魔法をかけて!」

 

「今は何も言わずに早く!」

 

 すると、ティオナさんとティオネさんがいきなりそう言ってきた。

 

「で、デバンドッ!」

 

 僕はすぐにデバンドを発動させ、周囲にいる彼女達の防御力を僅かに上昇させた。

 

「レフィーヤァッ!」

 

「ふんばれぇぇえええッ!」

 

 その瞬間、ティオネさんとティオナさんが飛び出して、円形障壁に体当たりをした。

 

 二人は手にしている武器を交差させ、自分達の全身ごと盾へ押し付けている。

 

「ティオナさんっ、ティオネさんっ!」

 

 僕が叫ぶも姉妹二人は気にせず続けている。

 

 無茶だ! いくらデバンドで防御力が上がったからって、あの雷を防ぐ事なんか出来やしない!

 

 その証拠に、彼女達の肌が焼かれていた。迫ってくる雷の温度は凄まじく、少し離れている僕達からも熱風が届いている。

 

「二人とも、もうこれ以上は!」

 

「ぐぐっ……! ア、アルゴノゥト君に、何から何まで助けてもらってるのに……!」

 

「このままだと【ロキ・ファミリア(わたしたち)】の立つ瀬がないだろうがぁぁぁぁ!」

 

 僕の台詞に二人は叫びながら更に押し続ける。

 

「わ、私……だって……! もう、貴方にこれ以上の借りは作りたくないんですよぉぉぉぉぉぉおおおお!!」

 

「レフィーヤさん!?」

 

 ティオナさん達に反応したのか、さっきまで態勢が沈みかけていたレフィーヤさんが息を吹き返したように咆哮した。

 

 彼女の咆哮と共に純白の障壁が光を放ち、雷の砲撃を押し返し、そして爆散した。

 

 女体型とレフィーヤさんの魔法が消滅し、衝撃波と光の破裂が生じる。障壁に体当たりしていたティオナさんとティオネさんが当然吹っ飛び、防御魔法を使っていたレフィーヤさんも凄まじい勢いで真後ろへ飛ぶ。

 

 本当なら三人をレスタですぐに治療したいところだけど――

 

「足を止めるんじゃねぇ兎野郎! 行くぞ!」

 

 ベートさんの言う通り、今の僕達はやらなければならない事があるので出来なかった。

 

 大地に転がっているであろうティオナさん達に僕は振り返らず、そのまま前へ進んでいく。

 

 女体型との距離は約五十(メドル)を切ろうとする中、後で絶対に治療をしようと固く決意した。




 本当ならまだ続けるつもりでしたが、区切りが良いから、残りは明日以降に更新します。
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