ベルがアークスなのは間違っているだろうか   作:さすらいの旅人

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すいません。

今回で終わらせるつもりでしたが、まだ終わりそうにはありません。


ロキ・ファミリアの遠征㉑.5

 ベル達から遥か後方、女体型から二百(メドル)離れた位置でも、苛烈な戦闘を繰り広げていた。

 

 サポーターのラウル達が、自分達に迫ってくる芋虫型と食人花のモンスターの群れと応戦中だ。

 

 女体型の元へ向かっているベル達を襲わず、モンスターの群れが来る理由をラウル達は知っている。自分達の背後で魔法を完成させる為の詠唱をしているリヴェリアに反応している事を。

 

 芋虫型と食人花は『魔力』に反応するモンスターである情報を既に得ているので、彼等はリヴェリアを必死に守っている。

 

「ラウル! 後ろからモンスターが!」

 

「!?」

 

 ナルヴィの叫びにラウルが振り向くと、またしても芋虫型モンスターの群れが集まってきた。前方には芋虫型や食人花も多く残っており、完全に挟まれてしまったとラウルは内心舌打ちする。

 

「あれは手前が何とかしてやろう。その代わり、こいつを借りるぞ」

 

「椿さん!? いくらなんでも無茶っすよ!」

 

 いつのまにか褐色肌を晒しているハーフドワーフ――椿が持っていた太刀を地に捨てて、ラウル達のバックパックから不壊属性(デュランダル)の斧、更に大双刃(ウルガ)を装備した。

 

 いくら自分達よりレベルが高い椿でも、一人でモンスターの群れと戦うのは無茶だとラウルが言う。加えて、ガレスの大戦斧とティオナの大双刃(ウルガ)は最重量武器なので、力のあるハーフドワーフの椿でも二つの武器を同時に扱いきれないと。

 

 しかし、それを嘲笑うかのように椿は、芋虫型が射出した腐食液を回避し――振るった大戦斧で三体ほど解体した。

 

「戯け! 手前がどれだけの武器を作ってきたと思っておる。あらゆる得物を散々試し切りしてきたわ。それにな!」

 

 そう言いながら左手だけで大双刃(ウルガ)を回転させ、放たれた触手ごと食人花を断った。

 

「手前は地上に戻ったらやる事があるからのう。ベル・クラネルが扱う未知の武器を無断で借り、もとい見せてもらう為の交渉をするつもりだ」

 

「ちょっと椿さん! いま『無断で借りる』って言おうとしたっすよね!?」

 

「細かい事に一々反応するな! それよりお主、ベル・クラネルの為に報いる事はせんのか?」

 

「え?」

 

 いきなり何を言い出すのかとラウルは一瞬戸惑うも、椿は気にせずに言い放つ。

 

「あの小僧は手前達を万全な状態で戦えるようにしてくれたのだ。その恩に報いる為にも、ここは先達としての意地を見せるべきではないのか?」

 

「!」

 

 ラウルは思い出した同時に恥じた。自分がどれだけ年下のベルに甘えていたのかを。

 

 ベルが遠征に同行し、余りにも非常識な行動を何度もしていた事で諦めていた。余りのデタラメ振りに常識的に考えるのはもう止めようと。

 

 しかし、よくよく考えてみると、ベルが第一級冒険者に匹敵する実力を持ち、様々な役割をこなせている。更にはバックパックを持ってない筈なのに、入手した筈のアイテムはどこかに消えたかと思いきや、本人曰く『ちゃんと収納している』と言いながら見せて、サポーターとしての活動もしていた。

 

 治療師(ヒーラー)やサポーター、更には前衛・中衛・後衛に応じた武器や魔法を使ってオールレンジの戦闘が出来るベル。サポーターとして同行してる自分達がいなくても、ベル一人で充分じゃないかと今更ながらもラウルは改めて思った。

 

 更には椿が言った通り、つい先程ベルが自分達を完全回復させる為に、エリクサー以上の性能を持った大変貴重な回復アイテムを使ってくれた。

 

 普通に考えれば、いくら命を預けてるとは言っても、他所の【ファミリア】がそこまでやる義理はない。もしやってしまえば、自分達【ロキ・ファミリア】に有益な情報を得てしまうだけでなく、そのアイテムの入手先や製造元を知ろうと探りを入れる事になる。今後の遠征で必要になるから、自分達も確保しておこうと。

 

 冒険者は他の【ファミリア】に有益な情報を与えてはいけない。それは誰もが知っている冒険者の常識である。

 

 なのに、ベルはそんな事を全く気にしてないのか、今回の遠征で自分達【ロキ・ファミリア】に多くの情報を公開した。戦争遊戯(ウォーゲーム)の時で得た内容よりも、遥かに有益な情報を。

 

 端から見れば、お人好しを通り越した愚者(バカ)だと内心嘲笑うだろう。同時にベルが齎してくれた情報を全て自分の物にしようと、あの手この手を使って更に情報を得る為に。

 

 そんな危険が付き物だと言うのに、ベルは自分達を信用していたのか、多くの情報を齎した。自分達を助けてくれた。そして極めつけは、自身の大事な武器を現在も詠唱している我らが副団長リヴェリアに貸している。魔導士でなくても分かる程に、途轍もない魔力が籠っている神々しい杖を。

 

(ベル君が自分達にここまでしてくれたんだ! もう腹を括るっす!)

 

 ここまで手助けされておいて自分がいつまでも弱腰でいたら、ベルの信用を裏切ってしまう事になる。

 

 故にラウルは決断した。椿の言う通り、ベルに恩に報いる為に、自分が出来る事を最大限にやろうと。

 

「後方は椿さんに! 自分らは前方に集中するっす! これが出来なかったら、自分らを回復してくれたベル君に申し訳が立たないっすからね!」

 

 決断したラウルの指示に、他のサポーター達も力強く頷く。

 

「おう! クラネルばかりいいカッコしてたら、俺達の立つ瀬がないからな!」

 

「分かってます!」

 

「ラウル、なんかちょっと団長みたいね!」

 

 ベルに対抗心を燃やしているクルスとアリシア、少しからかうように言うナルヴィ。

 

 三人共、手にしている武器を改めて持ち構え、前方の敵に集中しようとする。

 

「『魔剣』構え! 狙いは芋虫型! 絶対に外すな! 残りの食人花は――殴ってでも止めるっす!!」

 

 団長(フィン)を彷彿させる声音でラウルは指示を出す。

 

 

 

 

「【終末の前触れよ、白き雪よ。黄昏を前に(うず)を巻け。閉ざされる光、凍てつく大地】」

 

 モンスターの大群を迎撃するラウル達、孤軍奮闘をする椿に囲まれながら、瞑目しているリヴェリアは詠唱を進めている。

 

 詠唱をしながらもリヴェリアはある事に気付いていた。手にしている杖――ゼイネシスクラッチから発せられる神々しい緑色の光が、自身に更なる魔力を与えようとしている事に。

 

(ベルの奴め、いくら私が魔導士だからとは言え、このような杖を平然と貸すとは……)

 

 内心呆れつつも、リヴェリアは感謝していた。自身を信用して大事な武器を貸してくれた事に。

 

 加えて、詠唱が完了しようとしてる極寒の氷結魔法――【ウィン・フィンブルヴェトル】を放てば倒せるのではないかと錯覚してしまう。ゼイネシスクラッチが自身の魔力を爆発的に上昇し、地面に展開している魔法円(マジックサークル)が倍以上の大きさになっているので。

 

「【吹雪け、三度の厳冬――終焉の訪れ】」

 

 完了したかと思いきや――

 

「【間もなく、()は放たれる】」

 

 詠唱は繋がれた。

 

 浮かび上がっていた巨大な翡翠色の魔法円(マジックサークル)の紋様が様変わりし、更なる輝きを増す。

 

 ゼイネシスクラッチを装備していたリヴェリアは詠唱中に舞い上がるも、すぐに考えを改めていた。こんな中途半端ではなく、最大の威力で放とうと。

 

 彼女は約束していたのだ。杖を貸してくれたベルに、自身の魔法を存分に披露しようと決めているから。

 

 それと同時に少し恥じていた。まさか自分より遥かに年若い少年から、武器を借りる事になるのは完全に予想外だったので。

 

 だが、今の彼女は恥を捨てている。同時に己の未熟さを痛感しながらも、ベルに報いる為に自身が放つ最強の魔法を放つ為に、更なる詠唱を紡ぐ。

 

 次の魔法に繋げる為の『詠唱連結』をしていると、ゼイネシスクラッチが突然発している光の輝きが更に増した。

 

(な、何だ!? まだ、まだ更に魔力が上がると言うのか……!?)

 

 リヴェリアは詠唱しながらも、ゼイネシスクラッチが自身に更なる力を与えようと魔力を送り込まれてる事に驚愕する。

 

 因みにゼイネシスクラッチには、こんな説明文がある。『幻創の主より生まれた大樹の長杖(ロッド)。恥を捨て未熟さと対峙した時、真理と何にも勝る叡智を得る』と言う説明文が。

 

 なので、恥を捨て未熟さを痛感するリヴェリアに、ゼイネシスクラッチが反応したのだ。加えて、王族(ハイエルフ)で魔力に特化したリヴェリアだからこそ、力を貸したと言ってもいいだろう。それが持ち主でないベルでなくても。

 

(感謝するぞ、名も知らぬ杖よ。主のベルでなく、こんな私にも力を貸してくれる事を!)

 

 ゼイネシスクラッチが力を貸してくれた事をリヴェリアは何となくだが察した。同時に感謝しながらも、全ての精神力(マインド)を捧げると決める程に。

 

 決心を固めるリヴェリアは、思わず力強く詠唱を紡ごうとする。

 

「【至れ、紅蓮の炎、無慈悲の猛火。汝は劫火の化身なり。ことごとくを一掃し、大いなる戦乱に幕引きを】!」

 

 一つの魔法に全ての精神力(マインド)を注ぎ込んだ『魔法』が凄まじい咆哮を上げる。

 

『!?』

 

 リヴェリアから巨大な魔法円(マジックサークル)が展開され、遠くにいる女体型は思わずベル達からリヴェリアへ視線を向ける。その先には自身に近い、もしくは匹敵する魔法ではないかと女体型は戦慄した。

 

 向こうが反応するも、リヴェリアは気にせずに莫大な『魔力』を解き放つ。

 

「【焼き尽くせ、スルトの剣――我が名はアールヴ】!!」

 

 閉じていた翡翠の瞳を開き、詠唱が完成する。攻撃魔法第二階位、最長最大射程を誇る全方位殲滅魔法が。

 

 遥か前方でレフィーヤが展開した障壁魔法で雷を相殺してる中、足元の巨大な魔法円(マジックサークル)が全戦域に展開される。

 

 冒険者達、モンスターの大群、そして女体型。全ての者達の足場に魔法円(マジックサークル)が広がる。

 

 仲間――特にベルを意識し、陣の中を知覚、照準しながら、リヴェリアは魔法名を告げる。

 

「【レア・ラーヴァテイン】!!」

 

 その瞬間に大地、魔法円(マジックサークル)から巨炎とも呼べる無数の火柱が射出された。

 

(感謝するぞ、ベル! お前のお陰で、私は更なる領域へ踏み入れる事が出来そうだ!)

 

 余りにも予想外で途轍もない魔法の威力を見て、強力な杖を貸してくれたベルに感謝の念を送るリヴェリア。

 

 そして後日にリヴェリア、もとい【ロキ・ファミリア】は驚愕の事実を知る事となる。




今回は必要ないかと思われますが、ラウルとリヴェリアメインの心情話にしました。

次回で何とか終わらせたいです。

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