ベルがアークスなのは間違っているだろうか   作:さすらいの旅人

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今回は戦闘後の話です。

あとフライング投稿ですが、どうぞ!!


ロキ・ファミリアの遠征㉓

 59階層到達、そして女体型撃破により僕達一隊(パーティ)は【ロキ・ファミリア】が野営地としてる50階層へ戻った。

 

 野営地に着いて早々、向こうは僕達が戻って来た事を察知したのか、アキさんや回復薬を持った複数の団員が僕達を治療しようとする。

 

 しかし――

 

「あ~……僕達を治療してくれるのは非常に嬉しいんだけど、ベルが殆どやってくれたから大丈夫だよ」

 

『……へ?』

 

 団長のフィンさんが物凄く申し訳なさそうに必要無い理由を言いながら謝罪すると、アキさん達は途端に目が点になって固まった。

 

 更には回復魔法で皆を完全回復させた事を聞いて、色々と複雑そうな表情でジッと僕を見ていたのは言うまでもない。それと、リーネさんが何故か涙目となっていた事に、僕は一体何でそうなってるのかは全く分からなかった。

 

 しかし、傷が既に癒えてるとはいっても、59階層を達成した疲れが今も身体に残っている。なので帰還した僕達はこの後にやる予定の宴の前に、用意されてる天幕で一旦身体を休めようとする。

 

「ねぇねぇアルゴノゥト君、よかったらあたしと一緒に水浴びしようよ~」

 

「そうだな。治療してもらったとは言え、一先ず身体を洗いたい気分だ。ここは裸の付き合いをしようではないか、ベル・クラネル」

 

「椿はダメ! アルゴノゥト君はあたしと水浴びするんだから!」

 

「あのぅ、僕は眠いので天幕で休もうかと思ってるんですが……」

 

 一休みする前にティオナさんと椿さんが一緒に水浴びしようと誘ってくるが、僕は丁重に断らせてもらった。と言うか、男の僕と一緒に水浴びをする事自体がおかしいんだけど。

 

 それに加えて、今の僕達はアンティで清潔状態になってるから、態々水浴びする必要なんてない。まぁ。それでも女性からすれば身体を洗いたいんだろう。

 

 ティオナさんはともかく、椿さんの事だから、水浴びしてる最中に『武器を貸してくれ』としつこく強請ってくるのが目に見えていた。50階層へ戻るまでの間、何度もしつこく貸してくれと言ってきたので。

 

「ふぅ……疲れたぁ」

 

 彼女達から逃げるように僕は一足早く天幕へ入った瞬間に安堵の息を漏らすしながら、思った事を口にする。

 

 僕は【ヘファイストス・ファミリア】と同様【ロキ・ファミリア】の遠征に参加している客人扱いの為、別々の天幕で休む事になっている。ティオナさんが一緒に寝ようと言ってるけど、フィンさんからダメだと何度も注意しているので、此処へ来てはいけない決まりだ。

 

 フィンさんの気遣いに内心感謝しつつ、一先ず着替えようと電子アイテムボックスから地上用の普段着を出した。流石に戦闘着――『シャルフヴィント・スタイル』のままで寝たくないので。

 

 そしてオラリオ用の普段着に着替えた後、次にある物を出した。アークス用の小型携帯端末を。

 

「どれどれ……よし、全部記録してる……!」

 

 携帯端末を操作すると、ディスプレイから地図上の立体映像が出現する。

 

 その映像には地図が映っていた。ダンジョン51~59階層へ進む為の正規ルートが描かれている。それ以外にも、18~50階層のルートも当然記録済みだ。

 

 今回の遠征で僕はダンジョンに関する知識を現場で得ただけでなく、この端末にもダンジョンのルートを記録させていた。この世界にいる人達は機械関連は全く分からないけど、それでも見られないよう密かに端末を使っていた。

 

 本来の予定では50階層までの記録で充分だった。しかし、フィンさんが僕を51階層以降の進攻メンバーに加えたから、急遽変更となって51~59階層までのルート内容も記録する事となった。流石に鋭いフィンさんでも、僕が端末を使って密かに情報収集をしていたのは予想外だろう。

 

 命懸けの作業で物凄く大変だったが、それでも得る物は多く得られた。正規ルートだけでなく、51階層以降のモンスターの情報は非常に有益だ。もし何も知らずに来ていたら、僕はあっと言う間に死んでいたかもしれない。階層無視の砲撃をするヴォルガングドラゴンの狙撃で。アレは本当に恐ろしかったと、思い出すだけでも身震いするほどだ。

 

 とは言え、僕が深層へ行くにしても当分先の話だ。流石に一人で行こうだなんて微塵も思ってないので。

 

「取り敢えずは情報整理しておくか」

 

 立体映像で表示されてる内容は、ダンジョンのルート以外にもモンスターの情報も載っていてバラバラだった。逐一記録するよう設定していた上に、整理する時間なんか全く無かったから。

 

 本拠地(ホーム)に戻って整理すべきだけど、それでもダンジョン用とモンスター用に分けておきたい。一眠りする前に簡単な整理をした後、電子アイテムボックスに端末を収めた僕は宴が始まるまで眠りについた。

 

 

 

 

 

 

「えへへ~、アルゴノゥトく~ん♪」

 

「てぃ、ティオナさん、ちょっと飲み過ぎでは……?」

 

「……ティオナ、ちょっとベルにくっ付き過ぎ」

 

 一眠りして数時間後。宴に参加してる僕は【ロキ・ファミリア】が用意した食事や飲み物を美味しく頂いていた。

 

 フィンさんが宴を始める音頭を取った後、酒を飲んでいる事もあって、今はもう軽いどんちゃん騒ぎとなっている。

 

 進攻(アタック)に参加していたラウルさんは、51~59階層まで進んだ内容をアキさんやリーネさん達に説明していた。自慢気に語っている中、僕に関しての事も言ってたから、少しばかり恥ずかしい気持ちだった。

 

 本当なら止めて欲しいと言いたかったけど、今の僕はそんな余裕がなかった。何故なら、隣に座っているティオナさんが甘えるように抱き着いているので。更にはもう一人、僕の隣に座ってるアイズさんが何故か不機嫌そうにティオナさんを睨んでいる。

 

「全くティオナったら、あんなだらしない顔をして。団長もそう思いません?」

 

「ティオネ、君が言っても全く説得力が無いんだけど……」

 

 お酒を飲みながらもフィンさんを抱き寄せているティオネさんの姿に、周囲は分かっていながらもスルーしていた。

 

 僕と似たような感じになってるフィンさんと目が合った瞬間、共感するように嘆息した。お互いに苦労してるなぁと思いながら。

 

 何だかんだで皆が宴を楽しんでいる中、僕はふと気付いた。59階層へ進攻(アタック)した一隊(パーティ)の一人――ベートさんが、この宴に参加していない事に。

 

 さり気なくティオナさんにベートさんの事を聞いてみるも、どうやら彼はこう言った宴は余り参加したがらないようだ。今は何処かで一人寂しく酒を飲んでいるだろうと。

 

(この機会に、ちょっとあの人と話してみるか……)

 

 そう思った僕は、ティオナさん達と一通り話し終えた後、適当な理由を言ってこの場を離れる事にした。

 

 

 

 

(あ、見付けた)

 

 宴で騒いでいる野営地から少し離れた場所で、地面に仰向けで身体を横にしているベートさんを発見した。手を枕代わりにして、脚を組んでいると言う、如何にも寝ていますと言うスタイルだ。

 

 僕が気配を消さずに近付くと、突然ベートさんの耳がピクリと反応している。

 

「……何の用だ、兎野郎」

 

「凄いですね。見てもいないのに、よく僕だって分かりましたね」

 

 振り返りもせず、僕だと言い当てたベートさんに思わず驚く。

 

 そう言えばベートさんみたいな獣人は五感が鋭いんだったのを思い出した。恐らくにおいで僕だと分かって言い当てたんだろう。

 

「えっと、ベートさんが宴に出てなかったから少しばかり気になりまして……」

 

「そんな事で態々俺に会いに来たのか? んな下らねぇ理由で来んな」

 

 用が済んだならさっさと失せろと言ってくるベートさん。

 

 けれど、僕は他にも用があるのでまだ戻る気は無い。

 

「ベートさんにお訊きしたいんですが」

 

「あ?」

 

「今も僕を不愉快そうに見てますけど……ひょっとして、あの時の勝負が原因ですか?」

 

「!」

 

 僕が問うと、ベートさんはさっきとは打って変わるように凄い反応をして、ギロッと僕を強く睨んでくる。

 

 今、彼の頭の中では前に僕と戦った時の事を思い出しているだろう。そして、油断した事で僕に敗北した事も含めて。

 

「テメェ……!」

 

「あの勝負に納得してないと言うのでしたら、ここで再戦しても――」

 

「ざけんな。誰がいつ、んなこと言った」

 

 すると、ベートさんは立ち上がって僕に近付き、そのまま僕の胸倉を掴んできた。

 

「アレは俺がテメェを侮って負けた。ただそれだけの事だ。今度また俺に下らねぇ気遣いしてみろ。その時は本気でブッ殺すぞ……!」

 

「………………」

 

 どうやら僕は余計な事を言ってしまったようだ。本当ならすぐに謝りたいけど、そうしたらベートさんは余計に怒ると思い、敢えて何も言わなかった。

 

「兎野郎、勝者(テメェ)敗者(オレ)の事は気にせず、ただ黙って前を歩いていやがれ。だがこれだけは覚えておけ。俺に勝ったと思い上がるのはテメェの自由だが、もし俺より弱い奴に負けたその時は……マジでブッ殺すからな」

 

「………分かりました」

 

 言いたい事が分かった僕は一先ず頷いた。

 

 それを聞いたベートさんは僕の胸倉を掴んでいる手を放し、野営地から更に離れた奥へと向かっていく。

 

「あ、ベートさん。そんなに離れたら……!」

 

「うるせぇ、俺の勝手だ! それと()()、今の俺は機嫌が悪いんだ。今度また声を掛けたら承知しねぇからな!」

 

 そう言って、ベートさんは森林へと向かって姿を消した。

 

 どうやら余計な事をしてしまったと少しばかり後悔している中――

 

「………あれ? ベートさんがさっき僕の事を名前で呼んだような気が」

 

 急に名前で呼ばれた事に気付くも、当の本人がいなくなった為に訊く事が出来なかった。

 

 そして翌日、ベートさんが僕を名前で呼んだ事にやっぱり気の所為じゃなかった改めて認識する。

 

 周囲から不思議そうに見られていると――

 

「ベルくん! いつの間にベートさんと仲良くなったの!?」

 

「リ、リーネさん、取り敢えず落ち着きましょう」

 

 しかし、それと同時にリーネさんが何故か物凄い勢いで僕に問い詰めてきたのは未だに謎だった。




今回はベートとの会話メインとなりました。

取り敢えず一段落しましたから、次回の更新は暫く遅くなります。

感想お待ちしています。

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