ベルがアークスなのは間違っているだろうか   作:さすらいの旅人

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 活動報告でベルが負傷して寝たきり状態の予定と書きましたが……ちょっとばかし内容を変更させて頂きました。最後まで読めばわかります。


異常事態(イレギュラー)

「う、うう……」

 

「アルゴノゥト君……」

 

 50階層から出発して六日後。【ロキ・ファミリア】は未だにダンジョン18階層『迷宮の楽園(アンダーリゾート)』に留まっていた。

 

 本来であればもう既に地上へ帰還している。だが、団員だけでなく【ヘファイストス・ファミリア】の鍛冶師(スミス)達も、毒妖蛆(ポイズン・ウェルミス)が吐いた毒の餌食となってしまった。その為、18階層の『夜』の時間帯に18階層へ到着したフィン達は、負傷者達を看護する野営地を大急ぎで設営した。そしてベートに毒妖蛆(ポイズン・ウェルミス)体液(ドロップアイテム)を原料にした解毒薬――『特効薬』を入手してもらうよう、一足先に地上へ向かわせている。指示されたベートは文句を言いながらも、既に昨夜の内に出発済みである。

 

 今回毒を受けた負傷者の中にはベルも含まれていた。今も【ロキ・ファミリア】が用意した一人用の天幕で休ませている。

 

 ベルが負傷した事により、多くの団員達の誰もが愕然としていた。特に第一級冒険者達が。その中で一番に反応したのがティオナだった。ベルが負傷して倒れたのを見た途端、即座に駆け寄って介抱していたので。

 

 そして彼女は今も天幕にいるベルの看病をし続けている。ずっと寝ずに付きっきりで。

 

 いつも元気で笑顔を振り撒くティオナだが、今回は違う。苦しそうに呻き声をあげているベルを見てる事で、ずっと悲しそうな表情となっている。

 

 つい先程までリヴェリアが解毒系の治療魔法を使っていたが、それでも全快にはならず毒性を緩和させる程度の効果だった。

 

 見ていたティオナはベルの治療魔法は一瞬で治していたと言うも、自分ではここまでが限界だと凄く悔しそうな表情となった。フィンに経過を報告してくると行ってリヴェリアが天幕から出た後、ティオナはずっとここに残っている。

 

 すると、誰かが天幕のカーテンを開けて誰かが入ろうとしているが、ティオナは気にしないでいた。

 

「ティオナ、入るよ」

 

「全くもう、アンタは。さっきから人が呼んでるのに無視してんじゃないわよ」

 

「あ、ごめん……」

 

「「……………」」

 

 天幕に入って来たのはアイズとティオネだった。不機嫌そうに文句を言う姉のティオネに、ティオナが今気付いたみたいに振り向きながら謝る。

 

 いつもと違う反応をするティオナの様子に、二人は何とも言えない表情となる。ずっとベルの看病をしているのを知っているから。

 

 (ティオナ)が戻ってこない事に気付き、(ティオネ)はベルを心配してるアイズを連れて天幕に来た。しかし、ティオナの余りの変わりように、別人じゃないかと一瞬思った。

 

 その気持ちは分からなくもないとティオネは理解している。自分だって、もし愛する団長(フィン)がベルと同じ状況になってたら、今のティオナと同じ事をしているかもしれないと。

 

 しかし、だからと言って放ってはおけない。いつも騒がしい妹が、こんな弱々しい姿になっていたら見ていられないので。

 

「ティオナ、この後ラウルがその子の看病をするわ。だからアンタはその間に少し休みなさい。それと水浴びもした方が良いわ」

 

「……いいよ。アルゴノゥト君が苦しんでいるのに、そんな事する訳にはいかないし」

 

 ティオナは18階層にある森の泉で水浴びをするのが好きだ。けれど、ベルが負傷している事で、とても水浴びをする気分になれなかった。

 

 そんな彼女の返答に――

 

「アンタがそうじゃなくても、私が困るのよ!」

 

「わっ、ちょ! 何するのティオネ!?」

 

 ティオネが急に首根っこを掴んで無理矢理連れて行こうとする。

 

「少しは身嗜みに気を付けなさい! 今のアンタは目の下に隈があって、髪もボサボサな上に臭ってるのよ! もしベル・クラネルが目覚めた途端に『臭い』って言われても大丈夫なの!?」

 

「う……」

 

 ジタバタと暴れるティオナだったが、ティオネの台詞を聞いて大人しくなった。

 

 彼女の言う通り、今のティオナはとても不健康な状態だった。18階層に着いても寝ないで看病したので両目の下に隈が出来ており、髪も手入れせずにボサボサで、身体にも異臭がこびり付いている。これは非常に不味い状態だ。

 

 故に一度水浴びをさせようと、ティオネは無理矢理連れて行こうとする。姉としてではなく、女性として色々と問題があり過ぎる為に。

 

「わ、分かったよぉ。水浴びするから引っ張らないでよぉ……」

 

「全くもう、手間をかけさせないで欲しいわ。アイズ、ラウルが来るまで此処を頼むわね」

 

「うん、分かった」

 

 渋々と行こうとする妹を見た後、ティオネはアイズに一時的な看病をするよう頼んだ。断る理由が一切ないアイズはコクリと頷いた。

 

 アマゾネス姉妹が天幕から出て行くと、アイズとベルだけの二人だけとなる。尤も、今も眠っているベルはアイズと二人っきりだと言う事を知らないが。

 

「ベル……」

 

 アイズはベルの近くで腰を下ろして座り、心配そうな表情をしながら頬を撫でるように手で触れた。

 

 彼女もティオナと同様にベルの心配をしていた。本当だったら自分もティオナと一緒に看病したかったが、フィン達からの指示で色々とやる事があった為に無理だった。

 

 ラウルが来るまでの間だが、それまでは自分が責任を持ってベルの看病をしようとアイズ。

 

「うう………すぅ、すぅ……」

 

 すると、さっきまで苦しそうに呻いていたベルが途端に穏やかな表情となって眠り始める。

 

 それを見たアイズは笑みを浮かべ、今度は頭を撫で始める。

 

「少しの間、辛抱してて……」

 

 ベートが特効薬を持ってくるのは、どんなに急いでも二日は掛かるとフィンが言っていた。

 

 毒を浴びた者達にとって苦しい時間ではあるが、リヴェリア達が解毒作業を続ければ悪化する事はない。

 

 だからそれまでの間、可能な限り自分もティオナと同じく看病しようと決意する。

 

 しかし後ほど、アイズがベルを献身的な看病をしていると知った【ロキ・ファミリア】の団員達は嫉妬と殺意を抱く事となる予定だ。特にアイズを慕っているレフィーヤが筆頭になるのは言うまでもない。尤も、当のアイズはそれに全く気付く事はないが。

 

「………キョクヤ義兄さん……会いたいよ……」

 

「え?」

 

 ベルが突然小さな寝言を呟いた事で、アイズは頭を撫でている手を急に引っ込めた。しかし、この後からは何事も無かったかのように再び寝息を立てて静かに眠っている。

 

「……今のって」

 

 小さく聞き取れない寝言でも、アイズは間違いなく聞こえた。明らかにベルの家族である名前を。

 

 そして――

 

「いつか……オラクル船団が……この惑星を……発見して……」

 

「? オラクル、船団? わくせい?」

 

 再びベルが寝言を呟くも、今度は意味不明な単語だった。それを聞いたアイズは首を傾げている。

 

(船団って……もしかしてベルは船乗りだったのかな? それに『わくせい』って何だろう?)

 

 ラウルがこの天幕に来るまで、アイズは只管ベルが呟いた単語の事を考え続けていた。

 

 そして――

 

 

 

 

 

 場所は変わって本営の天幕。

 

 ベルの治療を一通り終えたリヴェリアが、首領のフィンに報告しようと本営に戻っていた。

 

「リヴェリア、ベルの治療は?」

 

「正直に言って、余り芳しくない。今は何とか毒を緩和するだけで精一杯だ」

 

 フィンからベルの治療を最優先で命じられたリヴェリアだが、毒妖蛆(ポイズン・ウェルミス)の毒が相当厄介である為に治療しきれなかった。時間を置いて治療魔法をかければ、悪化を阻止する事は出来る程度だ。

 

 今のリヴェリアは精神力(マインド)が尽きかけている為、『精癒(アビリティ)』で回復させている。尤も、それは僅かに回復するものだから、精神力(マインド)が全快になるのは相応の時間を要するが。

 

「ベルや毒を受けた全ての者を回復させるには、どうしても専用の特効薬が必要になる」

 

「ンー、やっぱりベートを待つしかないか」

 

 リヴェリアからの報告を聞いたフィンは諦めるように言った。

 

「まさかベルも毒で負傷したとはね。本当だったら、彼に負傷者の治療を頼もうとしたんだが」

 

「あの厄介な毒妖蛆(ポイズン・ウェルミス)の毒までも治療するのを見て、ワシは本当に驚いたぞ」

 

 毒妖蛆(ポイズン・ウェルミス)の毒を治療するのは特効薬が必要なのだが、ベルはそれを無視するように治療魔法であっと言う間に治した。

 

 それを目撃したガレス、後になって急行したフィンやリヴェリアは一瞬目が点になっていた。【ディアンケヒト・ファミリア】の【戦場の聖女(デア・セイント)】――アミッド・テアサナーレ並み、もしくはそれ以上ではないかと。

 

 しかし、その当人までも負傷したのでフィンの予定が狂う事になった。

 

 今回の遠征で一番に活躍していた功労者(ベル・クラネル)の負傷が、【ロキ・ファミリア】にとって最悪な異常事態(イレギュラー)と言っても過言ではない。

 

「リヴェリア。ベートが来るまで、君は引き続きベルのみ治療を続けてくれ。他の団員達には悪いが、最優先で頼む」

 

「ああ、分かっている」

 

 自身の眷族(ファミリア)より余所【ファミリア】を最優先で治療を優先する事に、団員達が聞けば難色を示す者もいるだろう。

 

 例え抗議したところで、フィン達はこう問う。『自分がベルと同じ役割をこなす事が出来るのか?』と。

 

 遠征中にベルが偉業も同然の結果を出している。それを見ていた団員達は自分では到底出来ないと痛感された。だからもし問われたら何も言い返す事が出来なくなってしまう。

 

 そうなる事を考えながら、フィン達はベルを最優先している。あんな貴重な逸材を失わせる訳にはいかないと。

 

「しかし、ベル以外の事でも頭を悩ます事があるのう」

 

 途端にガレスが話題を変えるように言ってきた。彼の言う通り、現在【ロキ・ファミリア】の財政が少しばかり苦しくなっているから。

 

「椿に作らせた不壊属性(デュランダル)に、『魔剣』が三十振り以上、止めに特効薬の買い占め……。【ヘファイストス・ファミリア】に武器素材(ドロップアイテム)を譲らんといかんし。以前の戦争遊戯(ウォーゲーム)で得た予備資金が、もう完全にすっからかんとなってしまったわい」

 

「……確かに手痛い出費だね。まぁ、辛うじて火の車にならずに済んだけど」

 

 以前、ベルが【アポロン・ファミリア】と戦争遊戯(ウォーゲーム)をした際、各酒場で賭博があった。どちらの【ファミリア】が勝つのか、と言う賭けを。

 

 その時にロキが、酒場で賭博していたら【ヘスティア・ファミリア】に賭けろと団員達に指示をした。その結果、殆ど【ロキ・ファミリア】の一人勝ちで多くの配当金を得ている。【ヘスティア・ファミリア】の予想配当(オッズ)が高かったから、本拠地(ホーム)に戻って稼いだ合計額が一億ヴァリスを軽く超えていた。

 

 だから予想外の臨時収入を得た事により、【ロキ・ファミリア】は遠征の予備資金として蓄えておいたのである。ガレスの言った通り、もう既に使い切ってしまっているが。

 

 ベルに何から何まで助けられており、フィンは頭が下がるばかりだった。地上に戻った際、ベルに約束していた報酬額を上乗せする必要があると再度検討し始めている。

 

「今度『遠征』をやる時は資金集めをしなきゃならないね。けど、今はベルを何としてでも治療しなければならないが」

 

 後の事よりも、目の前の事を優先しなければならない。ベルの治療と言う重大な案件を。ベートが特効薬を持ってこない限り、ベルの安全は確保できないので。

 

 リヴェリアとガレスもフィンと同様の事を考えている。特にリヴェリアとしては、あの杖(・・・)に対して色々と思うところがある。もし機会があれば、再び貸して欲しいほどに。

 

「ああ、そう言えばリーネはどうしているんだい?」

 

 ふと団員の事を問うフィンに、リヴェリアが思い出しながら答えようとする。

 

「どうやら相当の責任を感じているようだ。今もアキ達が必死に擁護しているみたいだが……様子を見た限りだと、暫くは掛かりそうだ」

 

 リーネがそうなっている理由は当然ある。

 

 毒で負傷した団員を運んでいる最中、別の道から毒妖蛆(ポイズン・ウェルミス)が現れてリーネに当たる寸前、ベルが咄嗟に突き飛ばして無事だった。しかし、その代償としてベルが毒を受けてしまった。

 

 自身が気付かなかった所為でベルを負傷させてしまった事に、彼女は酷く落ち込んでいた。もし気付いていれば、彼は今頃無事で毒の治療に専念する事が出来たと。

 

「確認するがフィン、お前はリーネをどうするつもりだ?」

 

「んー、団長として(ペナルティ)を与えなければいけないけど……僕がそうしたところで、何の解決にもならないだろうね」

 

「確かにのう。リーネの性格を考えれば、元に戻るには相当の時間が――」

 

 フィン達がリーネの今後をどうするかを話している中、突如誰かが本営に無断で入って来た。

 

「だ、団長、大変っす!」

 

 入って来たのはラウルだった。しかもかなり慌てた様子で。

 

「どうしたんだい、ラウル? いきなり入ってくるなんて、君らしくないね」

 

 不作法に入ってくる次期団長候補(ラウル)を不思議に思いながらも、フィンが用件を尋ねた。リヴェリアとガレスも何か遭ったと見て、敢えて何も言わないでいる。

 

「ベ、ベル君が、意識を取り戻して……!」

 

「何だって?」

 

 思いがけない朗報にフィンは声が弾んだ。

 

 まだ予断を許さない状態とは言え、ベルが目覚めた事は不幸中の幸いだった。リヴェリアが治療をしても、ずっと意識が無いままだったので。それは当然、治療していた彼女としても嬉しい情報だ。

 

「今、ベルと話す事は出来るかい?」

 

「え? あ、いや、それが……」

 

 フィンの問いにラウルが急に落ち着いて、どう言おうか迷っている状態となった。

 

「どうした? 話せる状態じゃないのか?」

 

「もしやまた眠り始めたのか?」

 

 今度はリヴェリアとガレスが問うも、ラウルの態度は未だに変わらない。

 

「ラウル、早く言ってくれ。ベルは一体どんな状態なんだい?」

 

 流石のフィンも少しばかり業を煮やして、不機嫌そうに再度問い直した。

 

 これは不味いと思ったラウルは、一度咳払いをして、緊張しながらも答えようとする。

 

「えっと、その……多分言ってもすぐに信じられないと思うんすが、ベル君………起きてすぐに自分で治療魔法を使って解毒した後、今は他の負傷者達に治療魔法を使って治してるっす」

 

『……………………………………………………は?』

 

 余りにも順序を吹っ飛ばし過ぎている内容に、流石のフィン達も思考を停止して、再起動するのに少しばかり時間が掛かった。

 

 もうついでに本営の外からは――

 

 

『アルゴノゥトくぅぅぅぅぅぅぅんっ!!!!!!!!』

 

 

 ティオナの叫び声が野営地全体に響いていた。




今回は活動報告内容を変更して、ベルをあっと言う間に復活させる事にしました。

理由は次回で分かります。
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