ベルがアークスなのは間違っているだろうか 作:さすらいの旅人
『リヴィラの街』へ行った結果、リューさんやフィンさんの言う通り、本当に僕一人で行くのは不味い所だったと心底理解した。
出入り口前に建てられてる看板には
この街は本来ギルドが拠点として設けようとしていたみたいだけど、色々な理由があって計画が頓挫し、そこを冒険者達が勝手に引き継ぎ造り上げたらしい。自由、と言うより好き勝手な商売を営んでいると。
直接見て知れば知るほどゲンナリするも、それでも補給地点として重要なのはある程度理解した。前にリューさんが言ってたように、限界以上の魔石やドロップアイテムを所持していても邪魔だから、先へ進む為には売らざるを得ないのは確かなので。
その際、とある疑問を抱いた。いくら魔石やドロップアイテムを安く買い取られるとは言え、大量に売れば相当なお金を得る。だから探索中に大量のお金があっても却って邪魔になるだけだ。そこをアキさんに訊いてみると、親切に教えてくれた。どうやらリヴィラの街では、買物は全て物々交換、もしくは証書で行われているそうだ。
迷宮探索の際、荷物がかさ張る金貨を持ち運ぶのは先ずあり得ないので、相手の名に加え、【ファミリア】のエンブレムから印影を取っておくのだと。そして後日、ダンジョンから帰還した店の人が証文を持って所属派閥へ料金請求に向かうらしい。逆に買取り所は、店側が証文を発行し、自派閥へ請求させると。だからリヴィラの街では、身元がはっきりしない、もしくは怪しい人間は取引が出来ない仕組みになっているようだ。
僕がいる【ヘスティア・ファミリア】は団員が自分しかいなく、結成されて間もない零細ファミリアだ。当然、エンブレムなんて物は作っていない。後々の事を考えて、神様に作って貰うよう頼む必要がありそうだ。
アキさんに案内されている途中、とある冒険者に絡まれた。その人は以前酒場で会った、額や頬に傷跡のある強面の人だ。リューさんに叩き伏せられた後、ミアさんの剣幕と怒号で店から追い出されたのは今も鮮明に憶えている。モルドさんと言う人で、他の二人もいたけど名前は分からない。
そんな彼が僕を見て以前の事を根に持ってるのか、早々に掴みかかろうとするも、【ロキ・ファミリア】のアキさんが側にいた事もあって事無きを得た。もし戦いを挑まれたら、キョクヤ義兄さん流の撃退方法でやるつもりでいた。ファントムスキルで姿を消しながら、相手の不意を突く戦い方を。
撃退や戦いで思い出した。18階層に留まって二日以上経ち、身体を休めて正常な状態に戻っている。と言ってもダンジョンだから、地上と違って精神的な疲れは完全に取れてはいないけど。主にティオナさん達との絡みで。
身体を休めながら待機するようフィンさんから言われてるけど、ダンジョンにいる以上そう簡単に気を抜く事は出来ない。モンスターの襲撃が絶対にないとは限らないが、何かしらのトラブルが起きたら、いつでも動ける状態にしないといけないので。
そう考えると、少しばかり身体を動かす必要がある。流石にこんな場所でアイズさんと手合わせなんて出来ないから、どこか人のいないところで素振りでもしようと考えている。『ミノタウロスの大剣』を使えば良い運動になるし。
街で一通りの情報をメモしながらアキさんに感謝した後に野営地へ戻ると、何故か分からないけど、ティオナさんとアイズさんが不満そうに待ち構えていた。
「やぁっ!」
「ふっ!」
一撃、二撃、三撃。その度にティオナさんの大剣と僕の
いきなりの展開に、何でどうしてこうなっているのかと疑問を抱かれると思うだろう。
先ず僕は現在、野営地から少し離れた場所でティオナさんと手合わせしている。勿論、身体を動かす運動程度の手合わせだ。
リヴィラから戻った後、ティオナさんとアイズさんが不機嫌だった。『何で自分を誘ってくれなかったか』と。
二人も街に行きたかったのかと内心思いながら、僕は理由を説明しながら謝った。アイズさんは許してくれたけど、ティオナさんだけは膨れっ面のままだった。
何となくだけど、このまま謝ってもティオナさんの機嫌は直りそうにないと思った僕は、ある事を提案した。『この後、身体を動かしたいので手合わせしてくれませんか?』と。
それを聞いた彼女は、すぐに満面の笑顔を見せながら速攻で了承。けれど、【ロキ・ファミリア】の幹部相手に無断で手合わせする訳にはいかないから、前以てフィンさんには話を通している。なるべく周囲に迷惑を掛けない場所でやるよう言われたので、野営地から少し離れた場所で、こうしてティオナさんと手合わせしている訳だ。今はもう三十分近くも続けている。
因みにティオナさんが使っている武器は、50階層で使った時の大剣だ。てっきり
「なんのぉ!」
「まだまだっ!」
お互いに大きな得物を振るいながらも、未だに闘志を燃やす僕達。
ティオナさんと手合わせして分かった事はある。この人の武器を通して、裏表が一切無い純粋な思いが伝わる。まるで僕との手合わせを心の底から楽しんでいる感じだ。
ファントムクラスとなってる僕は相手の隙を突いて攻撃するタイプだけど、そんなのは全くやらないで彼女に合わせて己の得物を振り続けていた。こんなに楽しい手合わせは新鮮なので。
「でやぁっ!」
「! くっ!」
僕が渾身の一撃を振るうと、ティオナさんが初めて防御の姿勢を取った。その直後に僕の
「はぁっ、はぁっ、はぁっ……やるね、アルゴノゥト君!」
「はぁ……はぁ……そう言ってもらえると嬉しいです」
息が上がりながらも笑みを見せるティオナさんに対し、一旦距離を取ろうと後退してる僕は称賛を受け取る。
柄にもなく手合わせがこんなに楽しいなんて久々だ。アイズさんの時は、自分の糧にしようと観察しながら手合わせをしていたが、今はそんなの微塵も考えていない。ただ単にティオナさんに勝ちたい、と言う事しか頭になかった。
とは言え、彼女は純粋なパワータイプで『LV.5』だから、力勝負で挑んだところで勝てないのは明白だった。それを分かっていながらも、僕は勝ちたいと思っている。
そう考えてると――
「ティオナ、交代。今度は私の番」
「え~~~!?」
手合わせを見守っていたアイズさんが割って入り、ティオナさんに交代と宣告した。
この人が此処にいる理由は当然ある。僕がティオナさんと手合わせをすると聞いて、自分もやりたいと同行したから。一応フィンさんからの許可も貰っている。
しかし、流石に僕が幹部二人と手合わせすると、【ロキ・ファミリア】の団員達に知られれば色々と問題になる。その為になるべく周囲に知られないよう、野営地から少し離れた場所にいる。
それに加えて、手合わせするのは一時間以内だと厳命されている。余りにも長引くと、他の団員達に知られてしまう恐れがあるので。
時間制限の為に、三十分ずつと言う事で決めた。だからアイズさんが交代と割って入って来た訳である。
我ながら本当に贅沢な事をしていると思う。遠征に参加してるとは言え、『Lv.5』のティオナさん、『Lv.6』のアイズさんと手合わせなんて、他の【ファミリア】から知られれば驚愕ものだ。今更だけど、フィンさんは何であんなアッサリと手合わせする事を承諾したのかと些か疑問を抱いてしまう。あの人曰く、『今回の遠征で色々と助けられたお礼』と言ってたが……何か他にも理由があるんじゃないかと疑ってしまう。
「も、もうちょっと! もうちょっとだけやらせて、アイズ!」
「ダメ。時間は時間」
「うぅ~~~~~………。はぁっ、わかったよぉ」
相手がアイズさんだからか、しょんぼりとした顔でティオナさんは引き下がった。
さて、ここからは頭を切り替えないといけないダメだ。
アイズさんはティオナさんと違って、何も考えずに力のみで挑んではいけない。隙を突いた戦いをしなければ、あっと言う間にやられてしまう。
だから
「……ベル、『呪斬ガエン』は使わないの?」
「えっと、これは真剣勝負じゃなくて、単に身体を動かす程度の手合わせなので」
「………………」
僕が理由を告げるも、如何にも不満と言う無言の視線で訴えてくるアイズさん。
「そんな顔をしても全力は出しませんからね。と言うか、もしやったらフィンさんが絶対に黙ってないと思いますし」
不謹慎ながらも可愛いなぁと思いながら、絶対にやらないと僕はキッパリと言う。
それが伝わったのか、アイズさんは剣を構えようとする。
「分かった。今回は諦める」
「
どうやら彼女は未だに僕と全力で戦いたがっているようだ。
もし仮にそんな事態になるとしたら……【ロキ・ファミリア】と
そんな未来が訪れないで欲しいと願うも、僕はファントムスキルで姿を消す。
「!」
「アルゴノゥト君が消えた!」
姿を消した僕に、少し離れて見ているティオナさんが声を出すも、アイズさんは慌てずに構えを解かないでいる。
そして――
「そこ!」
「ぐっ!」
真横から仕掛ける僕の奇襲に、いち早く気付いた彼女は反応して剣を振るった。咄嗟の攻撃に防御すると、違いの武器が激突する。
「よく、分かりましたね。僕が横から攻めてくるのを」
「仕掛けるのは背後からとは限らない。それに、僅かにだけど君の気配を感じた」
「そうですか」
完全に気配を消したつもりだったけど、どうやらお見通しだったようだ。流石はアイズさん。
これは気を引き締めないといけないな。やはりこの人相手に絶対気を抜ける相手じゃないと改めて認識したので。
此処から先は、戦い方を徹底的に観察させてもらう。尤も、それは向こうにも言える事だけど。
ティオナさんとは違う手合わせを開始する僕に、アイズさんもそれに応えるように攻撃を仕掛けようとする。
「うわっ、すごっ! アルゴノゥト君、アイズの動きに付いて行ってる!」
ティオナさんは目をキラキラしながらも、僕とアイズさんの手合わせを観戦していた。
それとは全く別に――
(な、何でベル・クラネルが、アイズさんとまたお手合わせをしてるんですか!? 他所の【ファミリア】のくせにぃぃぃぃ!!)
偶然にもベルとアイズの手合わせを目撃したレフィーヤが、遠くから物凄く悔しそうに見ていたのであった。
次回はベルが再びラッキースケベな展開と同時に、とある人物と再会します。もう予想はついているかもしれませんが。