ベルがアークスなのは間違っているだろうか   作:さすらいの旅人

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異常事態(イレギュラー)

「………よし」

 

 ファントムスキルで姿を消しながら我武者羅になって逃走してると、後ろからレフィーヤさん達が追ってくる気配がしなくなった。一先ず安堵した僕はスキルを切って再び姿を現わす。勿論全裸のままだ。

 

 周囲を見渡すと、見覚えのない折れた大木に水晶の畑があり、野営地近くの森と違って木々の屋根は薄く、白い光が差し込む一帯は明るい。

 

 食糧調達の時に18階層を探索したけど、全てを把握していない。僕が探索したのは北部と東部だ。そう考えると、ここはそれ以外の所と見ていいだろう。

 

 携帯端末が再び自動記録していると思うから、後で確認しておくとしよう。っと、その前にいい加減服を着ないとダメだ。モンスターはともかくとして、こんな格好を冒険者の誰かに見られたら変態と思われてしまう。

 

(あれ、誰かいる?)

 

 どこか着替えれそうな所はないか探していると、さっきとは違う泉を発見した。同時に、どこか見覚えのある妖精も。

 

 今の僕と同じく一糸纏わない姿で、雪のような白い素肌を――ほっそりとした背中を此方に向けて水浴をしている。両手で水を掬っては、こぼさずにゆっくりと、自分の髪へ塗り込むように洗っていた。

 

 凄く不謹慎だけど、『妖精の水浴び』と言う小さい頃に読んだ御伽噺を思い出した。森の中を彷徨った先で偶然に巡り会う、泉水の美しい乙女の内容を。

 

 えっと、確か美しい妖精の水浴びを目撃したその人物は、この後に問答無用で矢を射られ――

 

「――何者だ!」

 

「ッ!」

 

 向こうがこちらに気付いたのか、鶴の一声と共に何かを投擲した。迎撃されたと思った僕は、咄嗟にファントムスキルで再び姿を消す。

 

 直後、投擲された小太刀は僕の近くにあった木に刺さるも、ズドンッと凄い音がして抉れている。

 

「……いない? 確かに気配がした筈なのに……」

 

 妖精は左腕で胸を隠しながら、こちらを振り向くも不可思議そうな表情で周囲を見渡していた。

 

 あれ? あの人はまさか……!

 

「リューさん!?」

 

「え? クラネルさん……って、きゃあっ!」

 

 水浴びをしていた妖精がリューさんだと分かった僕は、スキルを解除して姿を現した。突然目の前に僕が出現した事に驚いた顔をしていたリューさんだが、途端に何故か顔を赤らめて再び後ろを振り向く。

 

「な、何で裸なのですか!? 服を着て下さい!」

 

「え? 服? ………わぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 彼女の台詞に僕は全裸になってる事を思い出して、すぐに両手で股間を隠した。

 

 そうだった! 僕、レフィーヤさん達から逃げる事に集中して服を着なかったんだ!

 

「ご、ごめんなさいリューさん! これには色々と理由(わけ)がありまして……!」

 

「あ、後で聞きますから、とにかく服を!」

 

 お互いに慌てている僕とリューさんだったが、それぞれ別の場所に向かって漸く服を着る事となった。

 

 

 

 

 

「――と、言う訳でして……」

 

「成程、そう言うことでしたか」

 

 着替え終えて数分後、『シャルフヴィント・スタイル』を纏っている僕は正座しながら、リューさんに経緯を説明していた。水浴びをしてる最中、知らずに来た女性団員達に見付かって逃走した事を。

 

 それと僕が【ロキ・ファミリア】の遠征に参加してるのは知っているので、現在は遠征帰還中にトラブルが起きて18階層に留まってる事も簡単に話している。

 

 因みにリューさんは、以前の戦争遊戯(ウォーゲーム)で纏っていた時の戦闘衣(バトル・クロス)だ。更に緑の外套(マント)も纏ってるが、顔の下半分を覆う覆面(マスク)はしていない。

 

「だから決して貴女を覗きに来た訳では――」

 

「事情は分かりました。ですが金輪際、いきなり……は、裸で現れるのは止めて下さい。私としても心臓に悪いので」

 

「い、以後気を付けます……」

 

 一通りの説明を聞き終えたリューさんは、咎めずに軽い注意だけをしてきた。途中で顔を赤らめているが、僕は敢えて気にせず反省の意を示している。

 

 彼女がもうこの話はお終いですと言ってきたので、僕はある事を問おうとする。

 

「ところで、リューさんがどうして18階層に? 地上で何か遭ったんですか?」

 

 リューさんは訳ありの冒険者としか知らないけど、普段『豊穣の女主人』のウェイトレスとして働いている。だからダンジョンに来たと言う事は、僕が戦争遊戯(ウォーゲーム)で急遽助っ人として参加してくれたみたいに、余程の事情があってダンジョンに来たのではないかと。

 

「いえ、今回は私の個人的な野暮用で休みを貰ってダンジョンに来たのです」

 

「野暮用、ですか」

 

 どうやら僕の早とちりだったようだ。

 

 しかし、野暮用とは言えダンジョンに来るのは相当込み入った事情ではないかと勘繰ってしまう。

 

 思わず聞いてみたい衝動に駆られるも、それは余計な詮索だとすぐに振り払う。僕も色々と聞かれて欲しくない事もあるので。

 

 本当ならもう少しリューさんと話したいけど、野暮用で来ている以上は此処で別れた方が良い。話ならお店でいくらでも出来るし。

 

「クラネルさん、よろしければ少し付き合って頂けますか?」

 

 一通りの話を終えた僕は別れを告げようとするも、突然リューさんがそう言ってきた。

 

 いきなりの誘いに戸惑いつつも、特に断る理由はないので付いて行く事にした。このまま野営地に戻った直後、恐ろしい顔をしているであろうレフィーヤさんが待ち構えていると思うし。

 

 リューさんは脱装していた、刀を始めとした武器を回収した後、森の奥へと進む。当然僕の後を追って付いて行く。

 

 この森の地理を知り尽くしているのか、確固とした足取りで木々と水晶の間を進んでいった。そして約ニ十分ほど進んだところで、リューさんの目的地へと辿り着いた。

 

「リューさん、ここは……?」

 

「私の仲間達の墓です」

 

 辿り着いた場所の先には、少し盛られた土の上に幾つもの武器が突き刺さっていた。

 

 僕の問いにリューさんが答えた後、進んでいる途中で摘んだ花を一つの武器の前に供えている。

 

「クラネルさん、これから私が話す事は独り言だと思って聞いてもらえますか……」

 

 その後に自分から色々と話し始めた。

 

 彼女はギルドの要注意人物一覧(ブラックリスト)に乗ってる犯罪者で、冒険者の地位も既に剥奪されていること。

 

 既に存在してないが、嘗て所属していた【アストレア・ファミリア】で、正義と秩序を司る女神アストレア様の眷族であったこと。

 

 フルネームはリュー・リオンで、二つ名は【疾風】であること。

 

 敵対していた【ファミリア】にダンジョンで罠に嵌められ、リューさん以外の団員を失ったこと。

 

 生き残ったリューさんが、自身の主神をオラリオから去らせた後、仇である【ファミリア】に一人で仇討ちして壊滅させたこと。

 

 彼の組織に与する者、関係を持った者、更に疑わしき者全てに報復行為を行ったが故に、ギルドに要注意人物一覧(ブラックリスト)に乗って、多くの者から恨まれるようになったこと。

 

 復讐をやり遂げて力尽きるところを、シルさんが彼女の手を取って助け、『豊穣の女主人』の一員として迎え、今もウェイトレスとして働いていること。

 

 正体がばれないよう、本来地毛だった金髪を強引に染められて薄緑色になったこと。

 

 僕が話を一通り聞いた僕は一切口を挟まずに黙って聞き続けてると、リューさんは現在の自分に至るまでの話を締めくくった。

 

「……耳を汚す話を聞かせてしまって、すいません」

 

「何故、僕にそのような話を……?」

 

「知ってもらいたかったんです。貴方は前に戦争遊戯(ウォーゲーム)に参加してくれたお礼としてアクセサリーを渡そうとした際、私の事を綺麗だと言ってましたが……本当の私は恥知らずで、横暴なエルフなのです。だから本来、私にあのようなアクセサリーを付けるなど以ての外で――」

 

「そんな事はありません!」

 

 冷静な表情のまま自嘲気味に言うリューさんに、思わず声を荒げながら否定した。

 

 その台詞に向こうは驚いた顔をするも、僕は気にせずに彼女の手を握る。

 

「く、クラネルさん!?」

 

「リューさん、自分を貶めるのは止めて下さい。貴女の過去を知ったからって、僕は軽蔑なんかしません」

 

「え……」

 

 手を握られた事に戸惑いの表情を見せるリューさんだったが、僕の台詞を聞いた途端に唖然とした。

 

「その気持ちは分かる……なんて図々しい事は言えません。僕だって、もし自分の大事な人が誰かに殺されたと知ったら、簡単に許す事なんか出来ません」

 

 リューさんと似た境遇の人を僕は知っている。それはオラクル船団にいるニューマンのラヴェールさんだ。

 

 その人とは余り話した事はないけど、聞いた話では仇敵――ダーカーに家族を皆殺しにされた過去がある為、ダーカーに対する敵愾心が相当強い。戦ってる姿を見て、あれは復讐も同然だった。

 

 当時のリューさんは恐らく、相当な敵愾心を燃やしていたと思う。ラヴェールさんみたいにダーカーを容赦なく殺すほどの怒りと殺意に染まった状態で。

 

 だけど、シルさんが手を差し伸べてくれたお陰で、彼女は本来の自分を取り戻し、今は一人のウェイトレスとして生きている。

 

 リューさんのやった事は決して許される事じゃないけど、その覚悟を背負って生きている彼女に僕は尊敬する。

 

「僕は否定しません。だけどもし、誰かが糾弾するのでしたら、僕がリューさんを守ります。一人の男として」

 

「へ?」

 

「だから、リューさんも僕を頼って下さい。こんな年下の僕でも、貴女を守る盾にはなれますので」

 

「~~~~~~~~ッ!」

 

 僕が言い切った後、リューさんが突然顔を真っ赤となった。熟れたトマトみたいに。

 

 一体どうしたんだろう? 僕は別に、誰かがリューさんを狙ったら迎撃する意味で言ったんだけど。

 

「ク、クラネルさん! その台詞は私にではなく、シルに言うべきです!」

 

「どうしてですか? 僕はリューさんだからこそ言ったんですが」

 

「で、ですから……!」

 

 しどろもどろになり、完全に混乱しているリューさん。

 

 

 

『うわっ、リオンが私達の前で年下の男の子にプロポーズされてる!』

 

『ほほ~う、あの堅物エルフを落とすとはやるではありませんか、あの少年』

 

『ったくリオンの奴、眠ってる私達の前で見せ付けんじゃねぇよ』

 

 

 

「ん?」

 

 あれ、僕の気のせいかな? 何か墓から、赤髪の女性と黒髪の女性、そして桃髪の女性小人族(パルゥム)が見えるような……。三人が共通しているのは、意味深な笑みをしながらリューさんを凝視している。

 

 気になった僕は視線を向けるも、三人の女性は急に姿を消した。どうやら本当に僕の気のせいだ。ここにいるのは僕とリューさんしかいないので。

 

 そしてリューさんとやり取りを終えた後、【ロキ・ファミリア】の野営地に戻ったのは、18階層が『夜』の時間帯に切り替わる頃だった。




とある人物の再会はリューでした。

そして原作と違って、ベルのプロポーズ(?)に困惑しています。

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