ベルがアークスなのは間違っているだろうか 作:さすらいの旅人
怒り状態となったレフィーヤさんにずっと全力疾走で追われたが、漸く向こうの息が上がった事で足を止める事が出来た。
僕も僕で予想外の追いかけっこで心身共に疲労が溜まるも、少しばかり安堵した。さっきまで彼女から発していた暗黒の瘴気が消えていたので。
しかし、それとは別の問題が起きていた。
「完全に道に迷ってしまいましたね……」
「わ、私のせいだって言うんですか!?」
僕とレフィーヤさんが森に迷い込んでしまっているから。
それに気付いたのは数分前で、周囲を見た時は自分の知らない位置だ。しかも夜の森となっている為、完全に遭難状態だ。
18階層の『
住み着く場所に一番適しているのが、この大森林だった。ここは広大であり、隠れるのにも絶好の場所だ。他にも食料も豊富だから、冒険者だけでなくモンスターにとっても
モンスターが潜んでいる大森林に、こんな夜中に迷うのは大変危険だ。もし夜目の利くモンスターに襲われたら堪ったもんじゃない。
フィンさんやラウルさんからも、『夜』の時間帯には決して森に近付くなと警告されていた。だけど、怒り状態となったレフィーヤさんが問答無用で襲い掛かってくるから、森へ逃げざるを得なかった。
「も、元はと言えば、貴方が逃げ出したのが悪いんじゃないですか! よりにもよって、こんな森の奥まで!」
「殺す気で襲い掛かって来たんですから、逃げるのは当然かと……」
「そんなわけないじゃないですか! ちょっと酷いことするつもりだっただけです!」
「どの道酷いことするつもりだったんですね……」
あんな恐ろしい形相で『ちょっと酷いことをする』と言われても、全くと言っていいほど信用出来ない。
それに加え、魔導士なのに地面を陥没させるほどの一撃を振るってたから、とてもちょっとで済まないと僕は思う。
「そもそも貴方は図々しいんです! どうしてまたアイズさんとお手合わせしてもらってるんですか!? 今日もしてましたよね!? 貴方は他の【ファミリア】なんですよ!? いくら団長が決めたと言っても、貴方は本来
「いや、あの時はティオナさんと手合わせするつもりだったんですが、アイズさんも参加したいと言ってましたので……」
「だとしても、【ロキ・ファミリア】の幹部にそんなお願いすること自体間違ってます! 特にアイズさんは第一級冒険者、あの【剣姫】なんです! ちょっと強くて有名になったからと言って、上級冒険者になったばかりの貴方がお手合わせしてもらえる人じゃないんです! 非常識極まりありません!」
「非常識も何も、僕はちゃんと相手方の了承を貰った上で手合わせしたんですが……」
レフィーヤさんの言う通り、僕みたいな一年も満たしてない冒険者が、経験豊富な冒険者のアイズさんやティオナさんと手合わせをする事は大変烏滸がましい事だと理解している。けれど、向こうが了承してくれたので、これに乗らない訳にはいかない。自分としても経験を積んでおきたいので。
僕が反論しても、彼女は顔を真っ赤にしながら詰め寄ってくる。
「お手合わせするだけでなく、この二日の間はアイズさんと一緒にいて、何て羨ましいっ、じゃなくて厚かましい!」
「何かそれ、もう完全にレフィーヤさんの個人的な嫉妬のようにしか聞こえないんですが……」
さり気なく突っ込んでみるも、彼女は無視するように続ける。
「挙句の果てにアイズさんの、は、はっ、裸まで覗いてぇぇぇぇ……! 人として恥ずかしくないんですか!? 姿を消して隠れていたなんて、もう最低です! 貴方はっ、最っ低なヒューマンです!」
「えっと、裸を覗いた事は事実なので認めますが……」
もしもあの時、ティオナさん達があの泉に来るのを知ってたら覗いたりしない。僕はてっきり誰も使ってないと思って水浴びをしただけに過ぎないので。
何もかも全部僕に非があるような言い方だったので、僕が思わずムキになって反論しようとするが……突如ぐぎゅるるると、僕の腹部が音を鳴らした。
余りの不意打ちで居た堪れない気持ちになっている中、空腹の音を聞いたレフィーヤさんがきょとんとしている。
「あ、貴方、お腹空いているんですか?」
「それは、まぁ、夕飯前だったので……」
レフィーヤさんがあんな事をしなければ、野営地で夕飯を食べている予定だった。
しかし、今は遭難しているので夕飯を気にしている場合じゃない。
とは言え、こんな空腹の状態でいるのは色々とよろしくなかった。だから少しでも腹の足しになる物を食べないと……仕方ない、アレを出すか。
思い出した僕は、電子アイテムボックスに入っているある物を出した。
「し、仕方ありませんね。余りお腹は膨れないかもしれ……って、それは一体何処から出したんですか! さっきまで持ってなかった筈ですよね!?」
レフィーヤさんが胸ポケットから何かを出して渡そうとしてたが、僕が大き目の保存用タッパーを出した事に突っ込みを入れた。
「企業秘密です」
もうお決まりの台詞になっていると思いながらも、タッパーの蓋を開けた。その中には……残り数個のジャガ丸くんが入っている。
遠征へ行く前、神様から『非常食用で持って行くと良い』とジャガ丸くんを多めに貰った。アイズさんが知ったら絶対に欲しがるかもしれないから、【ロキ・ファミリア】に知られないようコッソリと食べていた。
普通に考えれば、既にジャガ丸くんの賞味期限はとっくに過ぎていた。けど、僕が使ってる電子アイテムボックスは食べ物も長期保存出来る優れ物の為、遠征が始まって半月過ぎても問題無く食べる事が出来る。
「こんな状況ですから、レフィーヤさんも一緒にどうですか?」
「なっ! け、結構です! 貴方と違ってお腹は空いてなんか――」
僕がもう一つのジャガ丸くんを渡そうとするが、レフィーヤさんはいらないと突っ撥ねた。しかし、途端に彼女のお腹からくぅっと可愛い音が聞こえた。
「…………………」
「……………うぅ」
無言になってる僕に、恥ずかしそうに耳まで赤くなりながらそっぽを向くレフィーヤさん。
内心やっぱりお腹空いていたんだと思いながらも、もう一度ジャガ丸くんを渡そうとする。
「あの……決して誰にも言いませんから、どうぞ」
「…………はい」
今度は渋々と言った感じで受け取るレフィーヤさん。
その後、僕達は身体を休める為に木の根元に座り込み、ジャガ丸くんを食べ始める。因みに保存用のタッパーは既に電子アイテムボックスに収納済みだ。
お互いに無言のままである所為で、何とも居た堪れない空気だ。と言っても、そこまで険悪と言う訳じゃない。
『――オオオオォォ』
「「!」」
不意に、どこからかモンスターと思われる雄叫びが響いた。それを聞いた僕達は一気に緊張感が走り始める。
丁度ジャガ丸くんを食べ終え、体もある程度休めることが出来たから、いつでも迎撃出来る状態だ。
それに今いる所は安全ではない。もしずっと留まっていたら、間違いなくモンスターに襲われるだろう。
「ベル・クラネル。私達は何とかしてキャンプに戻るか、安全な場所を見付けなければいけません」
「はい、分かっています」
レフィーヤさんの言葉に僕は頷いた。
とは言え、僕達は遭難している状況だ。野営地の位置は分からないし、安全な場所がどこにあるかなんて分からない。
僕達が大きな音を放つ魔法を撃てば、野営地にいるフィンさん達が気付いてくれるだろう。
「レフィーヤさん、ここはいっそ魔法を使ってみませんか? そうすれば向こうが気付いて探してくれるかもしれませんし」
「そ、そうですね。だったら私が……っ! だ、ダメです! それは最終手段にしましょう!」
「え? 何でですか?」
「た、確かに私が魔法を使えばアイズさん達は気付くかもしれませんが、そうすると目覚めたモンスター達が襲い掛かって来るので、余りにもリスクが高過ぎます」
「ああ、成程……」
言われてみればそうだった。『夜』の時間帯で眠っているモンスターがいるから、もし魔法などの大きな音を出せば一斉に目覚めるのは確実だ。そうすれば森中がパニックとなってしまう恐れがある。
彼女の言う通り、魔法で知らせるのは最終手段にしておこう。となれば、ここは自力で何とかするしかない。
だけど、何かレフィーヤさんの様子が変だったな。まるで色々と不味い感じで焦っていたような……僕の思い過ごしと言う事にしておくか。
となると、自力で戻るにしても手段は物凄く限られて、かなり時間を使う事になるだろう。
出来る事なら使いたくなかったけど……ここは確実に戻る為として
「レフィーヤさん、急なお願いですいませんが、今から僕がキャンプに戻る方法をフィンさん達に言わないで貰えますか?」
「え? ……ま、まぁ、戻る方法があるのでしたら」
一先ず了承を貰ったのを確認したので、僕は電子アイテムボックスから携帯端末機を取り出す。その直後に片手でキーボードをピピピッと打つと、ディスプレイから地図の立体映像が出現する。言うまでもなく18階層の地図だ。
流石に18階層全体までは表示できないが、僕が辿って来た道を記録しているので、野営地の位置は確実に分かる。
「ふぇ!? ベ、ベル・クラネル、な、何ですかコレは!? もしや魔法ですか!?」
「違います。そんな事よりも………っと、どうやら僕達がいる位置は此処みたいですね」
地図の立体映像で表示されている赤い点が僕達がいる位置だ。そして【ロキ・ファミリア】がある野営地は……此処から結構離れているな。それだけレフィーヤさんとの追いかけっこで、相当走ったと言う証拠だが。
レフィーヤさんに位置を教えるも、彼女はポカンとしていて聞いているのかが怪しい状態だ。
しかし、そこを突っ込むと端末機に関する追究をされてしまう恐れがあるので、僕は敢えて無視させてもらう。
「取り敢えず、ここから向こうへ進めばキャンプに戻れるでしょう。それじゃあ行きましょうか、レフィーヤさん」
「え、あ、は、はい……」
レフィーヤさんは未だに混乱しているが、取り敢えずと言った感じで僕の後について来ようとする。
さて、野営地に戻るルートは分かったけど、必ずしも安全に戻れる訳じゃない。モンスターの襲撃に備えて、いつでも武器を出せるようにしておかないと。
地図の立体映像を一旦消した僕はレフィーヤさんを連れて、最短で戻るルートを進むのであった。
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