ベルがアークスなのは間違っているだろうか 作:さすらいの旅人
「ベル・クラネル、その
「すいませんが、内緒です。それに僕はレフィーヤさん曰く『他の【ファミリア】』なので」
「うっ……」
先頭を歩いている僕は、魔石灯を手にしながら、もう片方の手では端末機を持っている。それに表示されてる
当然答える気が無ければ、教える気も毛頭無い。遠征に連れて行ってくれたとは言え、他の【ファミリア】にアークスの機密情報を教えるほどお人好しじゃない。
僕の返答にレフィーヤさんは何も言えなくなっていた。少し前に彼女が僕を他の【ファミリア】とキッパリ言った事を思い出しているから。
すると、端末機からエネミーと思わしき表示がされたのを視認する。僕は咄嗟に灯りを消し、端末機も一旦懐に仕舞い、すぐにレフィーヤさんの腕を掴んで木の陰に隠れようとする。
「ちょっ!? い、いきなり何をするんですか!?」
「静かに。ここから百
「え?」
腕を引っ張られた事に文句を言うレフィーヤさんだけど、僕が理由を告げた途端静かになった。
「百
「もう少し待てば分かります」
隠れながらこっそりと前方を見てもモンスターが現れない事にレフィーヤさんが疑問を抱いていた。
彼女が胡散臭そうに見ていた一~二分後、僕の言った通りバグベアーと思われるモンスター二匹がノソノソと歩きながら現れる。
僕が見事的中した事により、レフィーヤさんは信じられないと言わんばかりに驚いているが、声は一切出していない。そのお陰でモンスター二匹は隠れている僕達に気付かず、戦闘を避ける事が出来た。
本当だったら僕が
「それじゃあ、行きましょうか」
「え、ええ……」
モンスター二匹が僕達に気付いていない内に移動しようとする僕に、レフィーヤさんが驚いた顔をしたまま頷いていた。
「あ、あの、モンスターの接近が分かったのは、やはりさっきのアレを使ったからですか?」
「ですから内緒です。……まぁ、いきなり腕を引っ張ったお詫びとして、『そうです』とだけ答えておきます」
「嘘……。地図だけでなく、モンスターの索敵まで出来るなんて……そんな
でしょうね。と言うより、僕が使っているのは異世界にあるオラクル船団で作られた最新の機械だ。けして
僕も初めて機械に触れた時は
まぁ今はそんな事より、野営地に戻る事が先決だ。今のところモンスターの反応は無くても、いつまた現れるか分からないので。
「………………」
「どうかしましたか?」
移動を再開すると、レフィーヤさんがさっきと違って急に大人しくなっているので不意に尋ねた。
僕からの問いに俯いている彼女は口を開こうとする。
「……どうして、貴方は……私には無い物をたくさん持っているんですか?」
「え?」
「貴方は私よりレベルが低いのに強くて、多くの魔法を使えて、剣も使えて、見知らぬ魔剣も持って、更にさっきの
「…………………」
「どうせ貴方はこう思ってるんでしょう? 私みたいな役立たずな魔導士は邪魔だって……。そうはっきり言ってくれた方が気が楽だと言うのに……!」
声が小さくても充分に聞き取れた。けれど、自身を卑下する内容の為に僕は思わず無言となってしまう。
持っている杖を握りしめ、わなわなと身を震わせているレフィーヤさん。
何と言うか、以前の僕を思い出すな。
嘗て僕がアークス訓練生だった頃、いつも完璧にこなしているキョクヤ義兄さんを見て、自分は無理なんじゃないかと諦めかけていた事があった。
それを思わず言ってしまい、バッチリ聞こえていたキョクヤ義兄さんから――
『下らん。他者と比較する時点で、自ら堕落の道へ進んでいるのも同然だ。そうやって僻む余裕があるのなら、少しは己を見直して腕を磨き続けろ』
遠回しな言い方だったけど、『相手の事を気にせずに自分の道を進め』と激励を頂いた。
そのお陰で僕は晴れてアークスとなり、キョクヤ義兄さんからも正式に血の盟約を結ぶ事が出来た。
だから僕もそれに倣って、今のレフィーヤさんに敢えてこう言わせてもらう。
「レフィーヤさん、貴女は――ッ!」
言おうとしてる最中、突然端末機からピピピッとレーダー反応を示していた。
思わずソレのディスプレイへ目を向けると、二つの生命反応を探知している。エネミーやモンスターとは違う表示だ。
もしかしたら冒険者かもしれない。なので僕は一旦話を止めて、この二人に接触しようと考える。
「取り敢えず話は後です。この先に人らしき反応があります。急ぎましょう」
「え? ちょ、ちょっと……!」
人と聞いたレフィーヤさんは俯いていた顔を上げ、先へ進む僕の後を追いかけてくる。
端末機に映っている生命反応を頼りに進んで数分後、思った通りモンスターじゃなくて人がいた。ローブや頭巾で全身を身に纏っている二人組が。
「ッ! 灯りを消して下さい!」
「え? あ、はい……」
レフィーヤさんが二人組を見た瞬間、緊張感が走ったように眉を顰めながら、突然僕に指示してきた。
何か危険な感じがすると察した僕は言われたまま灯りを消す。ついでに端末機も懐にしまって。
次にモンスターと遭遇したように隠れながら、レフィーヤさんが二人組を観察し始める。
彼女の様子から察して、あの二人組は冒険者の僕達と友好的に接してくれる相手じゃないと見ていいだろう。そうでなければ、こんな焦ったように隠れる真似はしない筈だ。
「すみません、ベル・クラネル……勝手なお願いですが、このまま私に付いてきてください」
さっきまでとは打って変わるように、何かを決断したレフィーヤさんが同行を求めてきた。
僕にお願いをしてくると言う事は、あの二人組は【ロキ・ファミリア】からすれば相当逃がしたくない相手なんだろう。
そんな彼女に僕は文句を言わずに頷いた後、すぐ二人組の尾行を始める。
「念の為に聞きますが、レフィーヤさんはあの人達が誰なのかご存知なんですか?」
「……簡単に言ってしまうと、私達と敵対している組織です」
「【ロキ・ファミリア】と?」
二人組に気付かれないよう尾行しながら訊くと、思いがけない内容だった。
まさか僕の端末機で捉えた二人組が【ロキ・ファミリア】と敵対している人達だったとは。これは全くの予想外だ。
もう少し詳しく訊きたいところだけど、余計な詮索はしないでおこう。他所の【ファミリア】事情を僕が訊くわけにはいかないので。
「こ、これ以上の詮索はしないで下さいねっ」
「分かっています」
小声で警告してくるレフィーヤさんに、僕は即座に返事をした。
付かず離れずの尾行をしてる事で野営地へ戻る道からどんどん離れるも、僕達は気にせず後をつけている。
二人組は周囲を気にしながらも東の端まで移動し、水晶の林となっている一本道へ何の躊躇なく進んでいた。
一応レフィーヤさんの方を見ると、彼女はこのまま追跡を続けると言う意思表示を見せる。
ここまで分かったなら一旦野営地に戻って、フィンさんに報告した方が良いと僕は思う。これ以上深追いをすると、却って取り返しが付かない事になる可能性だってある。
「レフィーヤさん。場所もある程度分かったんですから、ここは一度戻ってフィンさん達に報告すべきじゃありませんか?」
「そうしたいのは山々ですが、ここで一度見失ったら、もう一度彼等を見付けるのは無理です。せめて目的地を明確にしてからでないと」
確かに必要な情報を入手すべきかもしれない。でもだからと言って、こんな戦力が整ってない状態で追跡を続けるのは自殺行為だ。
レフィーヤさんも重々分かっている筈だと思うんだけど……それだけ【ロキ・ファミリア】にとって、あの二人組が所属してる組織の情報を欲しているって事か。
だったらこの際、僕も出来るだけ協力しよう。尤も、危険だと判明した瞬間、レフィーヤさんを強制的に連れて撤退させてもらうが。
「追いますよ」
レフィーヤさんがそう言った後、僕はいつでも武器を出せるようにしながら二人組の後を追う。
その途中、僕はある事に気付く。
(あれ? 何であそこだけに草地が……?)
水晶の林を通っている際、地面にある草地が急に途切れていた。けど少し先には何故か円形の草地がある。
僕が草地に違和感を覚えている最中、先に進んでいるレフィーヤさんがそこへ足を踏み込んだ瞬間――
がぱっ、と地面が割れた。
「なっ―――!?」
(や、やっぱり落とし穴!)
罠だと今更気付いても既に遅かった。
僕とレフィーヤさんは突然の浮遊感に襲われるも――
「「――ぅああああああああああああああああああああっ!?」」
そのまま落下して叫喚するのであった。
次回は久々の戦闘です。