ベルがアークスなのは間違っているだろうか   作:さすらいの旅人

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異常事態(イレギュラー)

 落とし穴に嵌って落下していく僕とレフィーヤさん。

 

 急な落下をしていく中、僕が咄嗟に頭上を振り仰ぐと、開口していた筈の穴が、再び音を立てて閉じようとしていた。

 

 やっぱり(トラップ)だったかと思いながら、地下の夜空が完全に遮断された瞬間、穴の終点に到着する。

 

「「――ぐっ!?」」

 

 僕とレフィーヤさんが何とか両足で着地する事に成功すると、薄い紫色の液体に浸かると同時に飛沫が舞い上がる。

 

 脛ほどまである液体溜まりを見て、泉にあった綺麗な水とは全く違う事は確かだった。

 

「熱っ……!」

 

 すると、レフィーヤさんがいきなり声をあげた。

 

 それを聞いて咄嗟に彼女を見ると、僕と同じく液体に浸かっている彼女の服の上から、ジュウウッと足の肌が焼けていた。

 

 いや、違う。焼かれているんじゃない。溶かされているんだ。

 

 よく見ると液体の底には人の骨だけでなく、剣や防具、更には冒険者達の遺骸や、怪物の骨(ドロップアイテム)と思われるモノが多数ある。

 

「まさかこれ、溶解液ですか……!?」

 

 そう、レフィーヤさんの言う通り、僕達が浸かっている液体は溶解液だった。この底にある無数の骸骨は、溶解液によって溶かされた末路と言う事である。あった筈の皮や肉、そして臓器を失って骨だけを残している嫌な末路が。

 

 因みに僕の両足は溶解液に溶かされていない。纏っている服には酸の耐性がある他、ステルス化している防具がフォトンの膜を張っている事で、僕の両足は酸による被害を免れている。ダーカーの巣にあった毒の侵食液に比べれば全然大した事は無い。

 

 とは言え、この溶解液にずっと浸かり続けていれば、いずれ服や防具が溶かされる事になるだろう。

 

 その為には何としてでも戻らなければいけないと考えながら見上げると、僕は思わず目を見開いてしまう。

 

「一体ここは……!?」

 

「レフィーヤさん、今はそんな事より上を」

 

「えっ?」

 

 僕に言われた通りレフィーヤさんが振り仰いだ。

 

 その先には、張り付いていた肉壁からゆっくりと身を引き剥がし、上体を持ち上げる巨大なモンスターがいた。

 

『――――――』

 

 閉ざされた穴の根元に、人型の上半身を象るモンスターが、上下逆様の態勢で僕達を見下ろしている。

 

 両腕部分は長く太い触手……と言うより触腕があり、垂れ下がりながら揺らめいている。下半身以降は肉壁と一体化してるのか、上半身だけしかない。

 

 あと頭部には、巨大な目玉と冠みたいな器官がある。あの単眼は首と繋がっているのか、冠の器官で囲われていた。

 

 加えて身体が黄緑色という、毒々しい極彩色だった。

 

 あのモンスターの色には見覚えがある。先日ダンジョン51階層以降で見た、芋虫型と植物型モンスターの色と全く同じだった。

 

 それはつまり、あの悍ましいモンスターもアレと同様の新種と言う事になる。

 

「極彩色の、モンスター……!」

 

 隣でレフィーヤさんが全てを悟ったかのように言った。

 

 液体に浸かっている冒険者の遺骸が多数あり、その天井に触腕型モンスター。恐らく彼等は落とし穴に嵌った後、あのモンスターによって殺されたに違いない。

 

『――』

 

 ギョロギョロと蠢く巨大な単眼が僕達を捉えたのか、向こうは動き出そうとする。

 

 次の瞬間、触腕型モンスターは己の触腕を僕達目掛けて振り下ろした。

 

「「っっ!?」」

 

 僕とレフィーヤさんは同時に地を蹴って分散した。

 

 直後、鞭となった触腕が溶解液ごと底の中央に炸裂する。同時に衝撃によって、溜まっていた溶解液が周囲に飛散する。

 

「レフィーヤさん!」

 

「私のことはいいから、あのモンスターに集中して下さい!」

 

 腕を使って飛散する溶解液が目に当たらないようにしてるレフィーヤさんが叫ぶ。

 

 彼女を見て分かった事がある。この溶解液は以前戦った芋虫型モンスターが放つ腐食液より弱い。服はともかくとして、魔導士の彼女でも暫く耐えられる筈だ。

 

 一先ず僕のやる事は決まった。あの触腕型モンスターを一刻も早く片付けるという目的が。

 

 とは言え、あのモンスターに関する情報が全くない。迂闊に接近して攻撃するのは自殺行為だ。

 

 そう考えて、アレに対抗するのは長銃(アサルトライフル)の射撃、もしくは長杖(ロッド)のテクニックの遠距離攻撃となる。

 

 どちらも最適な武器だけど、なるべく一番有効な方を選びたい。あのモンスターの事だから、触腕を鞭みたいに振るって相手の攻撃を妨害するのが目に見えてる。射撃で狙いを定めたり、テクニックでチャージしてるのを見たから必ず動く筈だ。

 

(ん? このモンスター、まさか……)

 

 敵の攻撃を躱しながら観察している最中、僕はある事に気付いた。

 

 触腕型モンスターの得物は鞭のように振るっている触腕は、恐ろしい威力と速度があっても攻撃自体は単調だった。

 

 あの巨大な単眼は、相手を捉えた瞬間に攻撃へと移る。だけど、それは必ず一人だけ狙っている。レフィーヤさんに攻撃して躱された後、ギョロッと単眼を動かし、僕を捉えた瞬間に鞭を振るう。

 

 恐らくだけど、あのモンスターは一度に複数の対象を同時攻撃出来ないかもしれない。僕とレフィーヤさんが分散して距離がある為、あの単眼は一人ずつしか狙う事が出来ないんだろう。もしも目が二つあれば、同時攻撃していたかもしれないが。

 

「ベル・クラネル、目を狙って下さい! あのモンスターの視線の先に、必ず攻撃が来ます!」

 

 レフィーヤさんの叫びを聞いて、僕の推測は間違っていなかったと確信した。

 

 魔導士の彼女が確信を突いたように言ったので、僕はそれに応えようと長銃(アサルトライフル)――セレイヴァトス・ザラを展開する。

 

 銃口で狙いを定めるのは……あの巨大な単眼だ!

 

 触腕型モンスターは現在レフィーヤさんを狙っているから、僕はその隙にフォトンの銃弾を装填し、そして撃った。

 

『ッッ!』

 

 銃弾は対象に命中するも、単眼には当たらなかった。その理由は、あの単眼が当たる寸前に覆われている膜みたいな物がある為、それで防がれてしまった。

 

 流石に衝撃までは防げれなかったのか、触腕型モンスターの動きが止まって怯んでいた。レフィーヤさんを狙っている鞭も同時に止まっている。

 

「やっぱりそう簡単には倒せないか……!」

 

 弱点と言うべきものを晒しておいて、何の対策も施していないとは思っていなかったが、それでも貫いて欲しかった。

 

 僕が使うファントム用の長銃(アサルトライフル)から放たれる銃弾は、ある程度の障害があった所でも貫通する威力がある。だけど、それを防ぐと言う事は、あの膜の防御力は相当高いと言う証明になる。異世界で戦ったダーカーやエネミー並みに厄介な相手だ。

 

『~~~~~~!』

 

「うわっ!」

 

 単眼を当てられた事で怒り状態となったのか、触腕型モンスターの単眼が僕に狙いを定めて、二つの鞭を一斉に振るう。

 

 凄まじい速度と威力を持った二つの鞭が僕に襲い掛かり、溶解液ごと撒き散らす。

 

「ベル・クラネル!」

 

 レフィーヤさんが心配そうに叫ぶも――

 

「何処を狙ってる!」

 

『ッ!?』

 

 別の位置から突然現れ、長銃(アサルトライフル)を構えている僕を見た触腕型モンスターが反応した。

 

 僕が再び単眼を狙い撃ちするも、またしても膜によって防がれた。

 

『ッ!』

 

「おっと!」

 

 向こうも同様に鞭を振るって攻撃するも、今度は溶解液が当たる瞬間にファントムスキルで姿を消して回避する。

 

『!!』

 

 僕が姿を消したのが予想外だったみたいで、触腕型モンスターは単眼をギョロギョロと忙しなく動かして探している様子だ。

 

 この場にレフィーヤさんだけしかいないと判断したのか、再び彼女に狙いを定めようとするも――

 

「行け、我が闇の分身! シュトラーフェ!」

 

 僕は触腕型モンスターの死角から姿を現わし、標的を攻撃し続けるビットを放つ長銃(アサルトライフル)ファントム用フォトンアーツ――シュトラーフェを放った。

 

 両肩、腹部、そして巨大な単眼にマルチロックオンしたビットは所定の位置に設置され、それから一斉に青白いレーザーが発射される。

 

『~~~~~~~~!!!』

 

 四発同時発射によるレーザー攻撃が効いているのか、触腕型モンスターから痛々しい悲鳴をあげていた。

 

 触腕の鞭でビットを叩き落そうとするも、四つのビットは意思を持っているように躱し、そのままレーザーを発射し続けている。

 

 このまま倒してくれると思うだろうが、レーザー程度で触腕型モンスターは倒せない。あのレーザーは命中率が高くても、放たれる一発の威力は低くて、時間が経てば消えてしまう。それまでは撃ち続けてくれる便利なフォトンアーツだが、確実に仕留めるには威力不足だ。

 

 現に各ビットが攻撃してる箇所はダメージを与え続けても、それを不能にするまでの威力じゃない。おまけに単眼を守ってる膜の方も、当たってはいても貫通出来ていないので。

 

 この大型モンスターを僕一人で倒すのには時間が掛かるけど、ここにはレフィーヤさんと言う魔導士がいる。彼女から放たれる強力な魔法を放てば、一気に仕留める事が出来る筈だ。

 

「レフィーヤさん、今の内に呪文を!」

 

「………………」

 

「?」

 

 僕が魔法を使うように叫ぶも、レフィーヤさんは何故か無反応だった。

 

「本当に、貴方は私と違って一人で何でもやれて……」

 

「レフィーヤさん?」

 

「私なんかいなくても、充分に戦えるじゃないですか……!」

 

「なっ、何を言ってるんですか!? 早くしないとモンスターが!」

 

 こんな時に彼女がどうしてあんな事を言っているのかは分からないが、出来れば後回しにして欲しかった。

 

『―――』

 

 そんな中、触腕型モンスターはビットを叩き落す事を諦めたのか、巨大な単眼をギョロギョロと鳴りながら僕だけでなく、レフィーヤさんも交互に捕捉していた。

 

 直後、冠型の器官が青く発光させる。

 

「? 一体何を……っ、まさか!」

 

 触腕型モンスターの行動を不審に思っていた僕だったが、直後に気付いた。さっきのあれは何らかの攻撃の『兆し』だと言う事に。

 

 僕がそれを阻止しようと長銃(アサルトライフル)を構えるが一足遅かった。

 

『アァァァァ―――――――――――――――――――――――――――――――!!』

 

 文字通り耳をつんざく音の蹂躙と呼べる絶叫を周囲に響かせた。

 

「「~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!?」」

 

 この世の音とは思えない怪音波に、僕だけでなくレフィーヤさんも耳を塞いでいた。だけど、そうしたところで意味は無く、平衡感覚を失いかけて、思わず膝を折ってしまう。

 

『!!』

 

 僕達が動けなくなった事に、触腕型モンスターは見逃さなかった。

 

 好機と見なして、二つの触腕を振るおうとしている。

 

 因みにビットは時間が経って既に消えていた。だから攻撃に移ろうとしている。

 

「! くそっ!」

 

 触腕型モンスターの狙いはレフィーヤさんだった。てっきりさっきから攻撃していた僕を狙うかと思っていたが、完全に予想外だ。

 

 二つの鞭は一斉に動き出し、彼女へと向かっていく。僕も即座に動き、何とか辿り着いて守る為に抱き付く勢いで覆った瞬間――

 

「がはっ!」

 

「きゃあっ!」

 

 鞭が僕の背中に当たり、そのままレフィーヤさんと一緒に吹っ飛ばされて肉壁に激突した。




 見ての通りですが、この作品のレフィーヤはベルに対する嫉妬が原作以上に強くて足手纏いとなっています。

 次回以降で何とか挽回させます。
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