ベルがアークスなのは間違っているだろうか   作:さすらいの旅人

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異常事態(イレギュラー)

 レフィーヤさんが暴れるも、何とか穴から脱出する事が出来た。

 

 彼女が使った魔法の影響を受けていたようで、水晶の柱は罅割れては横に傾き、倒壊している。更に真上では森の天蓋が巨大かつ綺麗な丸穴を開けていて、そこから天井水晶の無数の破片がパラパラと降り注いでいた。

 

「全くもう、危うく落ちるかと思って焦りましたよ」

 

「あ、貴方がいきなり抱きかかえるからじゃないですか……!」

 

 粉雪と思わせる水晶片を浴びながらも、僕が少しばかり文句を言うも、お姫様抱っこされているレフィーヤさんは反論してきた。

 

 だって仕方ないでしょう。魔力全開で撃ち終わった途端にガクンと膝を折って倒れそうだったんだから。どう考えても僕が抱えて脱出するしかない。

 

 まぁ、脱出できたからもう良いとしてだ。本当にレフィーヤさんの魔法には恐れ入る。流石はリヴェリアさんの直弟子であって、触腕型モンスターを倒すだけでなく、地形や周囲の物を崩壊させる威力を出すのは僕でも無理だった。

 

 恐らく野営地にいる【ロキ・ファミリア】も聞きつけた筈だ。極大な光柱によって盛大な破壊音がした筈だから、何れ誰かがここへ駆け付けてくれるだろう。

 

 取り敢えず、この場から一旦離れる事にしよう。レフィーヤさんは未だに少し暴れて元気そうに見えても、魔力を使い果たしてる事で相当疲弊しているのが分かっているので。

 

「何だ、これは!?」

 

 その時、叫び声が響いた。

 

 振り向くと、森の奥へ進んで姿を消したローブを纏った二人組が戻って来た。あれだけの騒音で気付かない訳がなかったから、早く退散しようと思っていたが、向こうが一足早かったようだ。

 

 僕達を見付けた事に、二人が頭巾や覆面を纏っても、目を見るだけで驚愕してるのが分かる。

 

「【千の妖精(サウザンド・エルフ)】……【ロキ・ファミリア】だけでなく、噂の【亡霊兎(ファントム・ラビット)】まで!?」

 

巨靫蔓(ヴェネンテス)を倒したのか!?」

 

 ………………え? 今なんて?

 

 僕の聞き違いかなぁ? 何かさっき、僕の事を【亡霊兎(ファントム・ラビット)】って呼んだ?

 

 亡霊(ファントム)はともかくとして、(ラビット)って何? もしそれが異名だったら嫌なんですけど。

 

 ……あ、そう言えば遠征に行く前日、神様が――

 

 

『ベル君、君が遠征に言ってる間、三ヵ月に一度開かれる「神会(デナトゥス)」が行われる。暇な神達の会合だけど、それで【ランクアップ】した者の称号(ふたつな)を決める。「Lv.2」になった君も当然決まる予定だ』

 

 

 ――って言う事を僕に言ってたな。

 

 その時に僕が「是非とも【白き狼】で!」と推したけど、神様から生暖かい目で見られた。その時は無難な二つ名を勝ち取ると言って話は終わったが。

 

 恐らく、あの二人組が言った【亡霊兎(ファントム・ラビット)】とは、僕の二つ名と見て間違いないだろう。

 

 神様ぁ……せめて【亡霊(ファントム)】だけにして欲しかったです。周囲から兎と呼ばれているのは自覚してますが、それでも二つ名には入れて欲しくなかったです。

 

「おのれっ……!? 食人花(ヴィオラス)!」

 

 僕が自身の二つ名で不満を抱いている中、二人組の一人の男が叫んだ。その直後、奥から植物型モンスターがずるずると這い寄って来た。

 

 数は……十体か。

 

「ベル・クラネル! ここは私が抑えますから、貴方は一刻も早くアイズさん達に……!」

 

「そんなこと出来ませんよ!」

 

 自分を置いて逃げろと言ってくるレフィーヤさんに僕は即座に却下した。

 

 不味いな。僕一人だけならまだしも、彼女を守りながら戦うのは正直難しい。

 

 すぐに離脱すべきだけど、あのモンスターがこちらに狙いを定めた以上は無理だ。かく乱させる為に逃げたところで、あれだけの数を解き放ったら不味い。今後の為に倒さなければならなかった。

 

「今ここで死んでおけ! 冒険者ども!」

 

 二人組がいつの間にか離脱している中、植物型モンスターの群れの一体が襲い掛かろうとする。

 

『―――オオオオオオオオオオオオオオオオッ!』

 

 くっ、やるしかないか!

 

 守りながら戦うしかないと決めた僕は彼女をすぐに下ろし、破鐘(われがね)みたいな雄叫びをしながら向かってくるモンスターを相手にカラベルフォイサラーを構える。

 

『ガッッ!?』

 

「え?」

 

 その直後、誰かが割って入って来た。

 

 襲い掛かって来た一体のモンスターが薙ぎ飛ばされ、周囲の植物型モンスターを巻き込んで横転していた。

 

 余りの出来事に僕だけでなくレフィーヤさんも呆けており、強烈な一撃を見舞った強襲者は草地に着地する。

 

「不穏な騒ぎを聞きつけてくれば……新種のモンスター、ですか」

 

 右手に長い木刀、薄手の戦闘衣(バトル・クロス)、そして深く被ったフードに覆面をした女性――リューさんだった。

 

「あれ? あの人、確か前に……」

 

 僕の近くにいるレフィーヤさんが思い出しながら言っていた。

 

 以前僕が【アポロン・ファミリア】と戦争遊戯(ウォーゲーム)した時、助っ人の冒険者を思い出しているんだろう。目の前にいる覆面の冒険者が全く一緒なので。

 

「クラネルさん、後は私がやります」

 

「え、良いんですか? 僕も戦えますが」

 

「貴方はそこの同胞(エルフ)を守って下さい。それに……私一人でも充分なところをお見せします」

 

 リューさんがそう言った直後、空かさず姿を消し、植物型モンスターの群れに向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結論から言わせてもらうと……あっと言う間に終わった。

 

 最初は通常の攻撃が通じない事に少し梃子摺っていたけど、レフィーヤさんからのアドバイスを聞いてすぐに状況が一変。

 

 詠唱をしながらもモンスターの攻撃を躱し続け、それが完了して魔法名を告げた瞬間……強力な風の攻撃魔法が解き放たれた。十体いた植物型モンスターは魔石と一緒に爆砕し、全て灰と化したのは言うまでもない。

 

 余りの無双っぷりにレフィーヤさんは顔を痙攣させていた。同胞が自分とは全く違う戦闘スタイルである事に色々とビックリした、みたいな感じだ。

 

 僕も僕で改めてリューさんの実力を知った事に、あんな凄い人がよく戦争遊戯(ウォーゲーム)で助っ人をやってくれたなぁってつくづく思う。

 

 因みに二人組は既に逃げだしている為、もう何かしてくる気配はないので戦闘は終了している。

 

 取り敢えずは此処に向かってくるであろう【ロキ・ファミリア】の救援を待ちながら、僕はレフィーヤさんの治療をする事にした。溶解液によって火傷状態となった彼女にアンティで治し、更にレスタで体力を回復させた。

 

 一応リューさんにも回復させようとしたけど、怪我はしてないので必要無いと言われた。

 

「さて、クラネルさん……これは一体どういう事ですか? 事情は分かりませんが、今回ばかりは流石に私も失望しかけています」

 

「あ~……」

 

 非難の眼差しを向けるリューさんに、僕はどう言おうかと悩んだ。

 

「私の記憶が正しければ、森で迷子になっていた貴方を野営地に送り届けたばかりなのですが……」

 

「えっと、それはですね……」

 

「いくら貴方が強いと言っても、夜の森は危険だと伝えた筈です」

 

 怒り状態となったレフィーヤさんに追いかけられました、なんて流石に言えなかった。それを口にした瞬間、リューさんは次に彼女を責めるだろう。

 

「まっ、待って下さい!」

 

 すると、レフィーヤさんが割って入るように言ってきた。

 

「私のせいなんです。全部、私のせいで……この人を巻き込みました」

 

「……」

 

「この人は何も悪くない……。だから、誤解しないで下さい、同胞の人。……私を助けてくれました」

 

 ………一瞬、この人は本当にレフィーヤさんなのかと失礼な事を考えた。

 

 僕の心情を余所に、リューさんは微笑んでいる。

 

「貴方のような同胞に会えて私は嬉しい」

 

 喜びの文句にレフィーヤさんが頬を赤らめていた。

 

 リューさんは僕の方へと向き直り、軽く頭を下げた。

 

「申し訳ありません、クラネルさん。早まった真似をしてしまいました」

 

「い、いえ……お気になさらず」

 

 僕は色々と突っ込みたい衝動を我慢しながらも、一先ずはこの話はここまでにしようと終わらせる事にした。

 

「レフィーヤ! ベル!」

 

 すると、自分達から離れている場所から僕達を呼ぶ声が聞こえた。

 

「アイズさん!?」

 

 その声に振り向くと、僕とレフィーヤさんが安堵していると――

 

「アルゴノゥトく~~~ん!!」

 

「どわっ! ティ、ティオナさん!?」

 

 突然、アイズさんの横を凄い勢いで通り過ぎたティオナさんが僕を見てすぐに突進してきた。

 

 予想外の不意打ちだった為、僕は態勢を崩してそのまま押し倒されてしまう。

 

「大丈夫!? ケガはない!?」

 

「あ、は、はい……。見ての通り、大丈夫です……」

 

 一番のダメージはティオナさんの突進ですと言いたかったけど、心配して駆け付けた彼女にソレは不味いと思って濁す事にした。

 

 アイズさんとレフィーヤさんはいつもの光景だと思って見ていたが――

 

「クラネルさん、これはどういう事ですか?」

 

「え゛?」

 

 事情を知らないリューさんが、さっきまでとは違う目をして見下ろしていた。何か殺気も感じる。

 

 しかし、それは一瞬だった。

 

「あ、いや、リューさん、これは……!」

 

「………色々と訊きたい事はありますが、地上に戻ってからにしましょう。私は気になる事もあるので、これで失礼します」

 

 考えを切り替えたのか、リューさんは僕にそう言って、すぐに二人組が逃げたと思われる方向へ去って行く。

 

 ティオナさんとアイズさんが来た後、ティオネさんとリヴェリアさんも到着した。

 

 因みにレフィーヤさんが経緯について話している際――

 

「レフィーヤ、お前には後で話があるから覚悟しておけ」

 

「は、はいぃ……」

 

「すまなかったな、ベル。私の弟子がお前に多大な迷惑を被ってしまって。この馬鹿者には私から厳しく言っておく」

 

「あ、いや、僕は別に……」

 

 鬼の形相となったリヴェリアさんがレフィーヤさんに死刑宣告も同然の判決を言い渡した事に、僕は内心気の毒に思ったが何も言えなかった。

 

 その後、ティオナさんとティオネさん、そしてリヴェリアさんが二人組やこの周辺を調査する事になる。アイズさんが僕とレフィーヤさんと一緒に戻る事にティオナさんが不満そうな顔をしていたけど。

 

 武器を持ってきている彼女達を見て、僕はある事に気付く。

 

「あれ、リヴェリアさん。その杖……」

 

「ん? ああ、コレか。見ての通り壊れかけだが、使うには問題無い」

 

 リヴェリアさんが持っている杖の先端部分に付けられている石に罅が入っていた。

 

 …………あのモンスターの事も考慮して、ここは貸しておいたほうがいいかもしれないな。

 

 そう思った僕は、カラベルフォイサラーとは違う別の長杖(ロッド)――ゼイネシスクラッチを展開する。

 

「! ベル、その杖は……!」

 

「万が一の事もありますので、この杖をもう一度お貸しします。但し、後でちゃんと返して下さいね」

 

 リヴェリアさんの目の色が思いっきり変わることにスルーしながらも、警告をしながら貸す事にした。

 

 その光景に――

 

「リヴェリアだけズル~い! ねぇねぇアルゴノゥト君、あたしも君の武器使いた~い!」

 

「アンタは自分の武器が問題無く使えるから必要無いでしょう」

 

 ティオナさんが僕に強請ってきたが、即座にティオネさんが窘めてくれた。

 

「……私も使ってみたい」

 

 ついでに、アイズさんが羨ましそうにリヴェリアさんを見ていたけど、そこも敢えてスルーしておくことにする。




今回の話で、ベルの二つ名を出しました。
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