ベルがアークスなのは間違っているだろうか 作:さすらいの旅人
「リューさんこそ、どうしてここに?」
「厄介な
僕が問うと、
真ん中にいる水色髪の女性は顔を伏せてるけど、凄く怒った雰囲気を纏っているのが分かった。
「【ヘルメス・ファミリア】……」
知り合いがいたのか、アイズさんが一団を見て派閥名を言った。【ヘルメス・ファミリア】って、この人達は僕達の後ろにいるヘルメス様の眷族か。
直後、水色髪の女性が顔を上げながら此方を睨んでくる。と言うより、主にヘルメス様を。
「ヘルメス様ぁぁぁ……!」
「っ! や、やぁ、アスフィ……!」
名指しをされたヘルメス様はビクッと震えながらも気兼ねに声を掛けるが、近づいてくる水色髪の女性――アスフィさんの剣幕に圧されていた。
「このスットコドッコイ! 遺跡の監視を私達に押し付けて一人で帰るなんて!」
「お、落ち着けアスフィ。だから槍の持ち主を捜しに行くためだって……」
「それでも勝手にいなくならないで下さい!」
この会話から察して、【ヘルメス・ファミリア】の眷族達は自由奔放な主神に相当振り回されているようだ。
僕が内心気の毒そうに思っていると、アルテミス様が会話に加わろうとする。
「アスフィ、ヘルメスを許してやってくれ」
「アルテミス様……っ!」
振り向いたアスフィさんがアルテミス様を見た途端に先程の剣幕から一変し、ヘルメス様は助かったと息を吐く。
すると、今度は僕の方を見て少々驚いたような表情となり、僕の背中にある槍を見て何かを察した。
「……【
「な、なんかすいません……」
「まぁ、【ロキ・ファミリア】の【剣姫】と【
アスフィさんは僕が槍を抜いた事に不服でも、アイズさんとティオナさんと言う強力な助っ人が来てくれた事に安堵していた。
因みに彼女の台詞に神様とティオナさんが、揃ってムッとした表情になっている。アイズさんも何か言おうとしていたが、それは遮られる事となった。
「で、アスフィ。状況は?」
「悪化する一方です」
気を取り直したヘルメス様が問うと、アスフィさんは簡単に説明した。
此処と同じく、別の森でも侵食が広まっており、モンスターも増殖中だと。更には近隣の村も、既に壊滅しているらしい。
「遺跡への
「門に阻まれ、全て失敗に終わっています」
「……そうか……」
一通りの報告を聞いたヘルメス様は残念そうに呟く。まるでこうなる事が分かっていたような感じがするのは、僕の思い過ごしだろうか?
しかし、会話の中に気になる事があった。
「あの、『門』に阻まれているってどう言う事ですか?」
僕が恐る恐ると気になる内容を聞くと、リューさんが代わりに答えてくれた。
「その門の所為で、アンタレスの元へ辿り着けないのです」
「開けられないんですか?」
「我々の力では……」
僕とリューさんの会話に、何故か分からないけどアルテミス様が俯いていた。
あと、これは決してどうでもいい事じゃないが、あの時の光はアンタレスと言うモンスターが本当に放ったモノなんだろうか?
森を浸食させる恐ろしいモンスターが、あんな強力かつ凄まじい光弾の雨を放ったとは想像しにくい。と言うかあの光、モンスターが使ったにしては凄く澄んで神聖な力を感じた。
何だかまるで神様達が使う……いや、これ以上は止めておこう。これは何の確信も確証もない、僕の勝手な想像だ。モンスターが
☆
話を終えて、アスフィさんを先導に【ヘルメス・ファミリア】が拠点としている
案内される前に、僕は三匹の飛竜を纏めて治療しようと、回復テクニック用のレスタを使った。と言っても、怪我をしていたのは僕が見た時の飛竜だけで、他の二匹は体力を回復した。
治療してくれたと分かったのか、翼を負傷していた飛竜が感謝の意味を込めるように、人懐っこい笑みをしながら僕の頬をペロペロと舐めていた。ちょっとくすぐったかったけど。
因みに僕が一度の回復魔法で複数治療が出来ると知った【ヘルメス・ファミリア】の人達が物凄く驚いていた。僕が以前
まぁそれよりも、案内されている最中に神様がアルテミス様と話しているのを見かけた。少し離れていた為に話の内容は聞こえなかったが、問い詰めている神様に僕は只事じゃないと分かった僕が近づこうとするも、ヘルメス様によって阻止されてしまった。女神同士の会話に割り込むのは野暮だと。
そして辿り着いた先に、【ヘルメス・ファミリア】の
「ここはまだ正常ですが、じきに浸食されるでしょう。我々は、ここを拠点にして遺跡への
三匹の飛竜を簡易的に作られた待機所へ預けた後、アスフィさんはそう言いながら、僕達をテントの一つへ案内する。
「お二人とも、長旅で疲れていませんか? この先に、水浴びが出来る泉がありますよ」
「本当!? 助かる~! アタシ水浴びしたかったんだ~!」
二人は水浴びしなくても、僕の方でアンティを使って常に清潔な状態になっている。けど、いくらそうであっても身体を洗いたいのは当然だろう。特にティオナさんは水浴びが大好きなので、はしゃぐ気持ちも分かる。
「ねぇねぇ、良かったらアルゴノゥト君も一緒に水浴びしにいかない?」
「そ、それはダメですよ!」
いきなりとんでもない事を言いだしたティオナさんに、
僕は何も聞かなかったかのようにスルーして離れていると――
「ベ~ル君」
「え? ……あの、何してるんですか?」
何故か茂みに隠れて顔だけ出しているヘルメス様がおかしな行動をしていた。
向こうは気にしてないどころか、妙に嫌らしい笑みを浮かべている。
「聖戦の始まりだよぉ~?」
「?」
言っている意味が全く分からなかった。
不可解に首を傾げる僕を余所に、ヘルメス様は僕を何処かへ連れて行こうとする。
「今日、君達は伝説になる!」
ヘルメス様が無理矢理連れて来た僕だけでなく、【ヘルメス・ファミリア】の男性団員達に向かって演説をしていた。
「いいか、よく聞け! この奥に広がるのは乙女の楽園! アスフィ達だけでなく、【ロキ・ファミリア】の有名な【剣姫】や【
凄くカッコいい事を言っているけど、これはぶっちゃけ覗きをする為の演説だった。
そう言えばオラクル船団に来る前、朧気だけど小さい頃にお爺ちゃんが言ってたなぁ。確か、『覗きは男の浪漫』……だったかな?
因みにそれをキョクヤ義兄さんに教えた時、『下らん』の一言でバッサリ斬り捨てていた。もしもストラトスさんにも教えたら、『は、ハレンチです!』と真っ赤な顔をしながら説教してると思う。
『うぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおッ!!!』
昔の事を思い出している僕を余所に、男性冒険者達は凄く盛り上がっていた。
突っ込みどころが満載過ぎて、もう言葉も出ない状態だ。
これ以上は付き合いきれないので、僕はヘルメス様達に気付かれないようファントムスキルを使って姿を消す事にした。
「天よ、御照覧あれ!! 誇り高き勇者たちに必勝の加護を!! 続けえーーー!!!」
ヘルメス様を先頭に、覗き集団は一斉に女性陣が水浴びをしている場所へと向かっていた。
僕はこう思った。覗きは絶対に失敗すると。
アスフィさん達の実力は分からないけど、『Lv.4』のリューさん以外にも、第一級冒険者で『Lv.6』のアイズさんとティオナさんもいる。見た目は可憐でも相当な実力者揃いなので、気配を感じ取られた瞬間にぶっ飛ばされるだろう。
☆
ヘルメス達が覗きしに行って数分後――
「こんなことだろうと思いました」
「男ってバカだよな~」
「みなさんのエッチ」
「……………」
ベルの予想通り、男性陣は全員ぶっ飛ばされた挙句、バカな事を仕出かさないよう縄で捕縛状態となっていた。
女性陣のアスフィ、ルルネ、メリルが思った事をそのまま口にしており、リューは無言でありながらも汚物を見るような目で見下ろしている。
「アタシとしては一緒に水浴びをしたアルゴノゥト君なら良かったんだけどな~。アイズもそう思わない?」
「ティオナ、それは流石に……」
「ッ! 待ちなさい、【
ティオナとアイズの会話に、無言だったリューが聞き捨てならないと言わんばかりに尋ねた。
「どういうことって、そのまんまの意味だよ。この前の遠征でアタシ達、変わったスキルを使って姿を消していたアルゴノゥト君が入ってるのを知らないで水浴びしちゃったんだ~。ああ言うのを、裸の付き合いっていうのかな?」
「なっ!」
『なにぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃッ!!!』
驚愕するリューに加え、一緒に聞いていた男性陣が目覚めて絶叫した。
あの【
しかし、それとは別に――
(ベ、ベル・クラネルが【ロキ・ファミリア】の遠征に!? まさか、噂は本当だったのですか!)
アスフィだけは違った反応をしていた。
「ベルく~~~~~ん! 便利なスキルを持ってる君が超羨ましいけど、それでも俺達の屍を越えて勝利を掴め~~!」
覗きの主犯であるヘルメスは他の男性陣達と違って縄でグルグル巻きのミノムシ状態にされ、更には滝の前で逆さまに吊るされながらも必死に叫んでいたのであった。
感想お待ちしています。